コアコンピタンス分析とSWOT分析②
今回は、SWOT分析について。
SWOT分析は、自社の持っているものから「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」を、自社会社をとりまく状況から「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」を抽出し、状況を把握して、そこから戦略を導くための分析のフレームワークです。
しかしながら、私はこのSWOT分析を「戦略のフレームワーク」として有効だとは思っていません。
その理由にはいくつかあります。
①MECEでない
戦略のフレームワークというのは、それに事象をあてはめていくことで、状況がMECEに整理されてすっきりし、それを見ながら考えるとクリアに見落としなく考えられるというのがよいところなはずです。
しかし、SWOT分析のフォーマットに状況をあてはめていってもちっともMECEにならないので、できたものを見ても、頭がスッキリところか、ますますごちゃごちゃになって、ちっとも整理されてこないのです。
たとえば、前回 の証券会社の例でいうと、「支店の数が多い」「営業マンが多い」は、当然「強み」に分類しますよね?
しかし、個人の証券取引の9割以上がネット取引になってしまっている現状でも、これが「強み」と言えるでしょうか?
支店が多く、営業の数が多いということは、それだけ莫大なコストがかかっているということです。しかも、そのことが、ネット取引に本格的に進出する足かせになって、スピードを遅らせてしまったりもします。
こうなると、営業マンの数の多さは、現在の市場環境下においてはむしろ「弱み」ともいえますよね。
前回述べたように、あらゆる経営資源における「違い」は、時と場合、その使い方によって、「強み」にも「弱み」にもなりうるのです。
「機会」と「脅威」もそうです。
既存の証券会社にとってインターネットは「脅威」と思われる存在でしたがでしたが、それを「機会」として利用したのがM証券でした。
「こういう場合は強み」「こういう場合は弱み」と書き入れていくと、同じものが両方にどんどんダブってしまうしまってMECEにならず、状況がちっとも整理されてこないのです。
②網羅性がない
戦力分析をするのであれば、「戦闘機の数と性能と配置は?」「戦車の数と性能と配置は?」など、戦力をひとつひとつ比較していきますが、会社を比べる場合もそれと同じ。「営業所の数は?」「配置は?」「それぞれの人数は?」「能力は?」と網羅的に比較していかなくてはなりません。
しかし、このフォーマットには、そういう網羅性がないので、何と何が分析されていて、何が分析されていないのかがわからないので、見落としが起きます。
さらに致命的なのが、「引き分け」を書き込めないこと。
同じ業界のライバル社であれば、多くの経営資源について「引き分け」であることが多くなりますが、SWOTのフォーマット上には「互角」と書き込む場所がありません。
しかし、今は「互角」でも、それを「強化する」のかそのまま置いておくのか、はたまたそこは削って他に振り向けるのかは必要な判断ですから、互角は互角として、ちゃんと分析して記入しなければなりません。
③戦略的でない
SWOT分析は「戦略」を作るための基盤となる状況分析のはず。それを「戦略的でない」と言ってしまうと「元も子もない」のですが、その通りなのです。
証券会社の例に戻ると、M証券は「営業マンの少なさ」という内部資源を「インターネットの普及」という外部環境の変化と組み合わせて、優れた戦略を生み出しました。
「内部資源の違い」や「外部環境の変化」を見るときには、「違いは違い」「変化は変化」として素直に見なければならず、最初から「これはうちの強みだ」とか「ここは弱みだ」とか「これは脅威だ」とか、色を付けてみてしまうと、その時点ですでに「戦略的な考え方」から遠ざかってしまうのです。
「機会」の顔をしてやってくる変化はライバルのだれもが飛びつきますし、「脅威」の顔をしてやってくる変化は誰もが「回避」しようとします。「強み」に見える違いは誰もが「生かそう」とし、「弱み」と見える違いは誰もが「克服」しようとします。
となるとライバル間において結局そこには有効打となる戦略は生まれにくいのですが、「弱み」に見える違いを「生かし」て、「脅威」の顔をしてやってくる変化を「機会」とすれば、そこには、きわめて有効な戦略が生まれるのです。
なので、分析の最初から「これは強みでこれは弱み」とか「これは機会でこれは脅威」などと、色を付けて分類してしまうフレームワークはそもそも「戦略的」とはとても言えません。
私も20年以上前には、これを戦略のプレゼンに取り入れようとしたこともありましたが、作ってみて眺めて見ても、そこから面白い商品戦略・マーケティング戦略は、生まれてきませんでした。
その代わりに今は、「違い」を真ん中に置いて、両側に「それがメリットになる場合」と「それがデメリットになる場合」を書き入れる、オリジナルフォーマットを使っています。
みなさんももし、SWOT分析がどうもしっくりこないと思ったら、少しやり方を変えてみてはいかがでしょうか?
コアコンピタンス分析とSWOT分析①
思いっきりご無沙汰してしまいましたが、今回は話を戻して「コアコンピタンス」についてです。
コアコンピタンスは利益の源泉。
では一体、自分の「コアコンピタンス」って何なのでしょうか?
人のことはよく見えても、意外と自分自身のことって客観的にはとらえられていないもの。
自分のことを客観的にとらえるには「人と比べてみる」ことが必要です。
自分と同じ業界のライバルたちと比べて見ると、自分たちはどう違うのか?
・会社の規模
・支店の数と配置
・営業員の数
・ITシステム
などの外形的な経営リソースのだけでなく、社長のポリシーや人事制度・上司への報告の仕方などのコミュニケーションの取り方といったソフト的な部分も含めて、できるだけの情報を集めてみましょう。
そしてそれぞれついて、他社と自社がどう「違う」のか、分析してみましょう。
敵を知り、己をしれば、百戦危うからず (孫子)
2500年前から、戦いの法則は全く変わっていないということ。
この言葉は、実は「己を知れば」のところに重きがあるということなんですね。
さて、他社と自社の違いがわかったところで、次に何をするか。
それぞれの「違い」について、その「違い」が「メリット」になる場合と「デメリット」になる「時と場合」を考えてみて、自分たちの持っているもののメリットが最大限に発揮され、持っていないもののデメリットが最小になる「時と場合」を考えてみます。
「そんなこと言ったって、支店の数や営業マンの数は多いほうが強いに決まっているし、優秀なITシステムを持っているほうがいいに決まってるじゃん!」
はたしてそうでしょうか?
たとえば。
ここに、N社とM社という2つの会社があります。
N社は業界最大手、全国主要都市に支店を構え、優秀な営業マンを多数擁しています。
一方のM社は業界では中堅どころ。支店の数でも営業マンの数でも、N社には遠く及びません。
しかし数年後、M社は利益率ナンバーワンの超優良企業になりました。
M社は何をしたのか?
M社が支店を全部閉鎖して、営業マンもなくしてしまい、戦いの場を「自分のメリットを最大にできる場」に移したから。
もうお判りですよね?
これは、証券業界で実際に起こったことです。
ITシステムについても、同じような逆転現象があちこちで起こっています。
そう、SaaSの登場が、「持っていないもの勝ち」の状況を生み出しているのですね。
下手にITシステムを所有していると、レガシーとのインターフェイスを作らなければならないのでSaaSのメリットが生かせません。しかし何も持っていなければ、SaaSの標準サービスを導入することで、一気にIT先進企業を抜き去ることができます。
ITシステム以外でも、生産にしても、物流にしても、今ではほとんどのリソースは外部化が可能です。なので、自分たちは、利益の源泉である、研ぎ澄まされた違いである「コアコンピタンス」のみを所有し、ほかはベストな外注を使う。あるいは、一番優秀な会社とアライアンスを組む。
これが、現代における「もっとも強い会社」と言えます。
なので、「誰にも負けないあなたの強み=コアコンピタンス」のつくり方 の回に書いたように、会社が「大きいこと」や経営リソースが「多いこと」が良いこととは限りません。「小さいこと」「少ないこと」あるいは、「他社は持っているけど、自社は持っていないもの」ですらも、メリットとになりえるのです。
次回は、自社と他社の違いを分析する、もうひとつの代表的なフレームワークである「SWOT分析」についてお話しようと思います。
「ストーリーとしての競争戦略」
素晴らしい本に出会いました。
私がこのブログで繰り返し述べてきた「儲けの法則」、「強いビジネス=未満足ニーズxコアコンピタンス」
について、その法則を直接書いてある本にはこれまで遭遇しませんでした。が、今回ご紹介する「ストーリーとしての競争戦略」(楠木健著 東洋経済新報社)には、私の思う「儲かるビジネスの法則」が余すところなく述べられているとともに、その上で「戦略構成要素のつながり」が大切であると、さらに高次元な議論が展開されています。
500ページの大作ですが、内容を思いっきり凝縮してまとめると、
長期利益を得る=長期的な競争優位を確保するためには、
1.SP(Strategic Positioning)=他社と違うところに自社を位置付けること=他社と違ったことをする
2.OC(Organizational Capacity)=組織能力として他社と違ったモノを持つ=独自の強み
3.戦略の構成要素につながりがあること
4.クリティカルコア=要素の中に「一見して不合理だが戦略のつながりのなかでは合理」という要素を持つこと
が大切である、というのがこの本の主旨です。
言い方としては「強いビジネス=未満足ニーズxコアコンピタンス」とは少し違いますが、
未満足ニーズを狙うべし=他社と違ったポジションを時取れ
コアコンピタンス=独自の強みを活かせ
ということなので、言っている内容は同じ。
「クリティカルコア=一見して不合理な要素」についても、私の考える「コアコンピタンス」の構成要件そのものです。
「誰の目にも合理的」なことは、競合もみんな同時に努力していますから、そこで生まれてくる「違い」はあったとしても微差にしかなりえません。
コアコンピタンス=他社との圧倒的な能力の違いは、他社が合理性を感じずに手を出さないことをあえてやることから生まれて来る。それができないから、世の中のほとんどの会社は「必死で努力しているのに微差しか生まれない」というところで苦しんでいるのです。
たとえば、あなたが小売店を経営していてディスカウントショップの脅威にさらされているとします。ディスカウントショップが、在庫の回転を優先して売れ筋に特化した品揃えを取るならば、あえて回転は悪化しても特殊な用途のものまで品そろえることで、「専門店」としてのポジションを獲得する。
一般的にいえば、小売店にとっては在庫の回転は速いほうがいいに決まっていますが、あえてここを「不合理」にすることによって、「ディスカウントストアにはできない強み」を築くということですね。
そう考えると、会社と言うのは、すべての経営数値の指標が良いから最終利益も最高、というものではないのだなあ、と思いました。
売り上げを極限まで伸ばしつつ、在庫の回転も速く滞留在庫もゼロで、そのうえ粗利益率も最大化し、研究開発費率も少なく。。。だから総合力でNIBTも最高です、ということにはならない。
あえて「不合理・非能率」を持つことで、それをレバレッジにしてどこかを突出して強くする。逆にすべての側面を追い求めると、どれも「そこそこ」にしかならず「凡庸な会社」になる。管理的には、すべての数値を見栄え良く揃えたくなってしまうものですが、それでは「本当に強いビジネス」にはならない、というよく考えてみれば当たり前のことを改めて気付かされました。
この本の帯には「各メディアで絶賛! 本格的経営書として異例のベストセラー」とあります。 奥付を見ると、2010年5月6日 第1刷発行、2011年1月31日 第13刷発行 となっていましたから3週間ごとに増刷したということで、500ページもある硬派な内容のビジネス書としては、めちゃくちゃ売れているということなんでしょう。
500ページあるとは言え、とても読みやすい文体で書かれていますのでご心配なく。私も通勤の行き帰り4日で読めました。
経営学の歴史に残る名著になるかもしれません。
ビジネスにかかわるすべてに人に、強くお勧めできる本です。
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