からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -61ページ目

肉と魚のためのエチュード

久しぶりに膝がはじけた。いてえ。

例のあれの最終回をちょっと書いた。

天才だなおれは。

天災だな読む人は。

なんとなく再投稿。微笑シリーズ。歯医者さんみがき。

「おれやっぱダメだなあ、歯医者ってどうしても苦手。ここ初めてだしなあ、不安だわ」
『次の方どうぞ』
「あ、呼ばれた。ふぅ」
『どうしました?』
「うわ、顔真っ赤じゃねえか、酔ってんじゃねえの?」
『何か?』
「あ、いや、なにも……………ちらっ」
『…私の顔に何か?』
「はあ、あの…お酒でも飲んでいらっ」
『はっはっはっ』
「え?」
『はっはっはっはっはっ』
「あの………」
『で、どうされました?』
「で、じゃないでしょよ!解決されないの!?酔っ払い疑惑解決されないの!?」
『ああ、さっきちょっと一杯』
「飲んだのかよ!あっさり認めやがって!」
『認めたくないことなら聞くのはどうかな』
「うるせえ!なんだあんた!ただでさえ歯医者苦手なのに!おれ帰る!」
『大丈夫ですよ?』
「大丈夫じゃねえよ!ダメだろ!細かい手先の作業に支障出ることうけあいだろ!いやだよ!」
『大丈夫ですって』
「だから大丈夫じゃねえだろ!酔っ払いなんだろあんた!」
『はっはっはっ、先生は酔っ払いじゃありませんよ』
「ええ!?」
『先生、酒は一滴も飲んじゃいません。大体先生は典型的な下戸ですからね。一滴でも飲んだら倒れちゃう』
「んなこと言われてもあんたいましがた、さっきちょっと一杯っつったろ!」
『ああ、さっきちょっと一杯ね』
「だろ!?」
『いやいや、ほらね、さっきの患者さんちょっと歯医者が苦手な方でしてね、はっはっはっ』
「笑うなよ!歯医者って怖いもんなんだよ!」
『いやいや、あまりにその患者さんが怖がるもんで。そのくせそいつ永久歯全部虫歯で、はっはっはっ』
「そこまで治療しないってすごい歯医者嫌いだったんだなそいつ。って笑うなって!」
『いやいや、どうも。その治療中ですね。ちょっとガスを使ったんですよ』
「ガス?…ガスってあの笑気ガスのこと?さくらももこのエッセイでおなじみの笑気ガスのこと?」
『そうそうそれですよ。はっはっはっ』
「でもそれ患者さんに使ったんだろ?」
『それがですね、ちょっとこちらの手違いで漏れちゃいまして、先生一杯、いっぱい吸っちゃったんですねぇはっはっはっ』
「だからさっきからそんなに笑うのあんた!?つうかいっぱい吸っちゃったの!?」
『もういっぱい、いっぱい、いぃっぱい吸っちゃって。はっはっはっ』
「酒で酔ってんじゃないのは結構だけど、つうかそれしらふの状態でちょっとした医療ミスしてるよね!?」
『あなたお名前は?』
「あ、田な」
『田中さんですけど』
「ですけどってどういうことだよ!知ってんなら聞くな!」
『はっはっはっ』
「笑ってんじゃねえよ!」
『すいませんわざとじゃないんですけど、無性に楽しくて』
「ハッピーか!笑気ガスいっぱい吸っちゃったもんな!おれ帰る!」
『ちょっと田中さん、あなたね。えっ田中さん?田中?田中ってあんた!?はっはっはっ』
「なんなんだよ!笑うっつうか馬鹿にしてんだろ!」
『いやすいません。田中って名字のやつクラスにいたななんて思い出しちゃって』
「いるよ!田中ならいるよ!クラスにひとりは大体いるよ!普通にいるわ!いちいち笑うもんじゃねえだろ!」
『田中さん、帰るってあなたね、酒を一杯ひっかけた歯医者と、笑気ガスを目一杯吸い込んだ歯医者、信用に値するのはどっちかね?』
「どっちも信用に値しねえよ!」
『そりゃそうだ!はっはっはっ』
「ダメだこいつ」
『まあまあ、田中さん、今田中さんの歯を私が診ないと、あんたもっと苦しむことになるよ?歯ぁ痛いんでしょ?』
「痛いよ!痛いから来てんだよ!」
『先生なら治してあげられるよ?』
「だろうけど!普通そうだろうけど!そこにでっかい疑問符ついちゃったから今の事態なんだろが!」
『まあまあ、田中さんもあれだ、さっきの患者さんと同じく、歯医者嫌いな口だ』
「そうだよ」
『歯を削られるのがいやな口だ』
「そうだよ」
『口の中に鋭利なもの突っ込まれるの嫌いな口だ』
「だからそうだよ。おれ帰るから」
『どの口で言ってんだ!歯医者だけに!?はっはっはっ』
「別のとこで診てもらうわ」
『まあまあ、歯を診てみるぐらいいいでしょ?歯を見せるぐらいいいんじゃないかな?あれよ?別のとこに行くとしても先生の診断があるとなしじゃ大違いよ?』
「…………」
『見るぐらいあんた、いいでしょ。まあちょっと君の歯の具合を見せてご覧なさいな』
「……まあ見るぐらいなら」
『でしょ?じゃあほら、そこに座って』
「…はい」
『どこが痛いのかな?』
「ええ、奥歯が、虫歯だと思うんですけど」
『それをあんた、それを決めるのはあんたじゃないからねー、それを決めるのは先生ですからねー、素人が口出しすることじゃないですよー、素人が口を挟む余地ないですよー、患者はおとなしくガムでも噛んでりゃいいんですよー、それをあんたに決められたら先生商売あがったりですよー』
「…すいません」
『全く、それをあんたに決められたら先生商売あがったりですよー、商売あがったりさがったりで願ったり叶ったりですよー』
「もう!うるせえよ耳元で!わけわかんねえし!」
『あらあら』
「あらあらじゃねえよ!」
『じゃあちょっと口あけてね』
「…はい」
『どれどれ、くっさ!』
「おい!」
『どれ、くっさ!』
「おい!やめろ!そんなこと患者に言うな!」
『いやしかしこれは、くっさ!』
「やめて!傷つくからやめて!」
『くっさ!くっさ!はっはっはっ』
「…診るんなら早くしてくれる?」
『はいはいどうも、もっと口あけて』
「ふぁい」
『もっともっと』
「ふぁい」
『ダメだよもっともっと口あけて、奥歯なんだから』
「かゃい」
『もっとだよ。もう口裂け女ぐらいの勢いであけて、つうか口裂いて』
「おい!できるか!変な声出したところがマックスだよ!」
『そう?じゃあちょっとはさみで切っちゃいましょうね』
「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
『冗談!はっはっはっ』
「…早くして」
『今の心境はまさしく、まな板の上の鯛ってところですか』
「早くしろよ!」
『はいはい、…ああこりゃまあ、こりゃちょっとひどいな。よくもまあこんなんなるまでほっぽとけたもんだ。疑うね。先生田中さんの精神疑うってますよ。今疑ってますよ。あんたの精神疑いながら口の中見てますよ』
「うるさい!うるさいよ!いちいち言わなくていいから!……で、どうなんですか?」
『え?』
「え?じゃねえだろ!おれの虫歯はどんな具合なんですか!」
『…………』
「…先生?」
『あのね田中さん』
「は、はい」
『先生いつ虫歯って言った?いつ虫歯って言ったかな?いつ虫歯って診断したかな?勝手にあなた、勝手にあなたに決められちゃったら先生商売あがったり』
「すいませんでした!びくついて損した気分だけが残ったよ!じゃあ先生、おれの歯はどうなってるんですか?」
『これは虫歯ですね』
「…………」
『田中さん、こりゃちょっとひどいよ。痛かったでしょ?』
「ええ、痛いです」
『うんうん、そうでしょうそうでしょう。こりゃあんた言うなれば口の中で虫歯菌が大戦争してるようなもんですよ』
「ああ、明日誕生日だというのに虫歯が痛い子供の歌ありましたね。だけど僕は虫歯が痛い明日になったら治るかな♪鏡の前で口をあけたら♪虫歯の虫が大戦争♪」
『あなたは♪もう駄目だ♪』
「おい!落ち込んじゃうだろ!」
『僕はもう駄目だってすごい歌詞ですよね』
「え?ええそうですね」
『でも、先生はそんなこの世の終わりみたいな精神の持ち主を救うことができる歯医者さんです』
「はあ、まあそうですからね」
『田中さん、この虫歯、今治しちゃいましょう』
「えっ、いや駄目だ!それは駄目だ!今治したいけどあんたじゃ駄目だ!」
『いいからいいから』
「よくないよ!見るだけって約束だろ!」
『何?先生のこと疑ってんの?』
「その通りだよ!」
『言わせてもらうけど先生は君の精神を疑ってますからね』
「聞いたよ!ちょっとやめて!」
『今治さないと田中さん!明日の誕生日ケーキ食べれませんよ!』
「おれ明日誕生日じゃねえよ!」
『今治さないと大変ですよこれは!今田中さんの口の中では虫歯菌がセックスしてるんですよ!』
「増殖中とかの言葉を用いてくんねえかな!気持ち悪いよ!とにかくやめて!」
『ああ、怖いんだ』
「当たり前だろ!」
『ほらほら、そんなこと言うと、笑気しちゃいましょうね』
「え!?うわっやめろ!吸わすな!やめろ!ぐわあ」
『笑気しちゃいましょうね。不安な子は笑気笑気しちゃいましょうね。ランラランラン♪笑気笑気♪愉快な笑気♪笑気で正気♪保ってられたらあなたはニョッキ♪』
「ニョッキっておま…………でへへ」
『田中さーん、聞こえますか?』
「…先生、先生の名前はなんて言いますか?」
『先生?先生は高は』
「高橋ですけど!なはははは」
『…よし、じゃあ田中さん。治しちゃいましょうね。お口痛い痛いをきれいきれいしましょうね』
「なはははは」
『もう抜いちゃいましょうね。麻酔なしで抜いちゃいましょうね』
「麻酔いらねえってあんた!まあいっか!!なはははは」
『さてと』
ぷしゅー
『げっ、しまった!また漏れてる!しまったあぁ…………はっはっはっ』
「なはははは」
『はっはっはっ』
「なはははは」
『はっはっはっ、もうね、もういっそのこと健康な歯も全部抜いちゃいましょうね!そしたらもう二度と歯を削られることなくなりますから!』
「そりゃそうだ!なはははは。ぎゃあああああ!!」


終わり。なんか違う。前の微笑シリーズがあまりに気に食わないから連投したが、なんか違う。

以上


いやあ、平和ですね!。今となってはこの程度の微笑シリーズも書けやしないよ。感覚がインポになっちゃってるね!!。インポコンテンツだね!!。人間、インポになってようやく一人前だろ。勃起してるうちはまだまだだよ。………イヤだけどな。

ま、最近ちょっといろいろと生活がバタバタと慌ただしいってこともあんだけどさ。

しかし、やる気がでねえってのはまったく、冬だねえ。これは冬の醍醐味だとおれは思うよ。じゃあさようなら。みんなの笑顔が僕のバイアグラ。よってみんなはエネマグラ。僕の大事なエネマグラ。前立腺からやってくる使者。さようなら。

ふと思い出したこと

小さい頃、餃子の王将に命救われたことあるわ。夏の暑い日に迷子になってね。友達とさ、チャリンコで行けるとこまで行ってやろうぜ、なんて出かけたらまんまと迷子になってね。
パニクっちゃってさ。もう友達とプリズンブレイク並みの仲違いなんかしちゃったり、プリズンブレイク並みの電撃的和解をしたりさ。迷子の不安と恐怖に追い討ちをかけて、おれたち、お金なんか持っちゃいなかったんだよね。迷子になる予定なかったからさ。夏の暑い日に、なんも飲めない。知らない土地で、公園もデパートも見つからなくてさ、疲労も重なり、頭がガンガン痛み出した。工業地帯に入っちゃって真横をトラックが走り抜けてくし、ペダルをこげどもこげども似たような町並みの見知らぬ風景が続き、時間もどんどん過ぎていった。おれたちの不安はやがて限界に達した。もうなりふり構っていられない。おれたちは“飲食店”に入ることにした。それは今回の冒険が親にバレて怒られる可能性を秘めているのもさることながら、気分は無銭飲食のそれだった。事情を話し、帰り道を訊くついでにあわよくばタダでジュース類を頂いてさよならしようと計画した。今考えれば相当おかしいが、道行く人に道を訊いたり交番の場所訊いたりすりゃいいものを、おれたちはパニクっていたんだ。とにかく帰りたい。帰る為には水分がいる。疲れてる体を休めたい。そのふたつ
が結びついて、おれたちはそうするしか考えが及ばなかった。
何軒か飲食店の前をあーだこーだ言いながら通り過ぎた。やってやろうと決めてもいざとなると無銭飲食する勇気がなかったからだ。まるで銀行強盗に手を染める前の犯人の心理だ。今のおれなら確実にコンビニでトリスを買ってラッパ飲みする心理状態だった。
次の店で必ず実行する。体力までも限界にさしかかり、おれたちは砂漠でオアシスを探すキャラバンのようにペダルをこいだ。
そして、おれたちは餃子の王将に救われたんだ。物珍しさそうにおれたちの話を聞くバイトの兄ちゃんは、親切に帰り道を教えてくれて、しょうがねえなと、図々しくもリクエストしたお冷やとコーラを出してくれた。コーラはもちろんおごりだ。大袈裟かもしれないが、おれたちの事実として、おれたちは餃子の王将に命を救われたんだ。
厚く厚く礼を述べ、店をあとにしたおれたちはまたチャリンコに乗った。エネルギーと十分な水分の補給、休憩、なにより迷子からの解放、おれたちはとてつもない幸福に包まれ、ナチュラルハイのままにチャリンコをこぐこと一時間、地元に帰ることができた。バイバイも言わず、その友達とは勝手知ったる道の途中で別れた。また仲違いしたわけじゃない。ふたりして、今のおれたちに言葉はいらねえ、後ろ手で二、三度手を振るような、そんなハードボイルドなバイバイだった。
我が家が見えると少しだけいつもより頼もしく見えた。自転車からおりると膝がガクガク震えた。疲れと興奮、そして安心からきた脚の震えだった。
家に入ると母親が夕飯の準備をしていた。おれはその匂いを嗅いだ時、我が鼻を疑ったことを強く覚えている。
そう、忘れもしないその日のおかずは、

トンカツ

だった。

ふとそんなことを思い出した今日、おれは思い出のトンカツを作って食べたって話。王将?、ああ、食後にコーラ飲んだよ。コカ・コーラゼロ飲んだよゼロ。黒いやつ。うん、雪積もってるねー。おやすみ。

雪は想いを積もらせる

降ったね。降ってる降ってる。春のパン祭りが始まった日だってのにさ。うれしいよ。
おれの好きな人は雪国出身で、きっと今日の雪にいろんな想いを馳せているだろうからさ。きっと積もれば積もるほど、いろんな想いにかられて嬉しくなっちゃったりするんだろうなあ。おれのことなんか1ミクロンもその胸に去来する隙間もねえんだろうなあ。ああ、雨になったり雪になったりしてるよ。そうやって揺さぶりかけてきやがるんだ天気ってやつは。おれの気持ちみてえなやつだ。

そんなことを思ってると、自分の影にさえ怯えるような首振り人生がいったん真っ白にリセットされる、そんな気がするよ。

ていうか、パン祭りって三ヶ月もやんの!?、一年の4分の1パン祭りじゃん。4分の1パン祭りじゃん!!、フィーバーし過ぎだろパン祭り。

おっとろしいな松たか子は………

アノマニスからの脱却(9)

子供という奴らはいつから嘘を覚えるのだろうね。やあ、おれだよ。久しぶりだねえ。気分を害したらごめんよ。そんなことよりも、子供という奴らはいつから嘘を覚えるのだろうねえ。ちょっとわかったことがあるんだよ。

子供って基本的に何も知らないだろ?、なんせ春夏秋冬をそれぞれ片手で数えられるぐらいしか経験してないものでね。色んなものを知らない。どうして子供が生まれるかなんてもちろん知らないから、弟妹がほしいよーなんて言えちまう。

そんな奴らに、大人は答えのない質問をよくしやがる。例えば、親戚が集まっているなか勇気を振り絞ったひきこもりがトイレに入ってたら、「あの人だーれ?」なんて周りの大人がガキに訊きやがる。何も知らない子供は、だけど自分が何か答えたら周りの大人がどうしようもなく愛に満ちた笑顔を浮かべて喜ぶってことを知ってやがるんだからたまったもんじゃない。答えやがる。必死で小さなボキャブラリーの中から答えを探しやがる。「彼はいわゆる落伍者、人間のクズですよ母上」、そう言ってくれりゃあひきこもりイントイレも軽やかに死ねようものを、「隣に住んでるおじさん」なんて答えやがった暁には、周りの大人は爆笑だよ。そんでもって子供ははにかんだ笑顔浮かべて、小首を可愛らしげに傾けては、「よくできました」だよ。よくできてねえだろって。不正解じゃん。その答え不正解じゃん。「彼はひきこもりです」が「よくできました」だろ?。

よく、子供が母胎にいた頃の記憶を喋るなんて聞くけどさ。これもそういうことだよ。親が喜ぶ方向で、ガキなりに空気読んで喋ってんだよ。親がすべてだからな子供は。見捨てられた日にゃたまったもんじゃないぜ。それをうちの子はあーだこーだ、うるせえばかやろうが。………まあ、きっと親を喜ばすための即興劇が、コミュニケーション能力の高まりに応じ、それを自分のために使うようになるんだろってことだよ。ま、いちいち、あれは何だ、と変な質問するから子供の思考能力が発達していくのだろうけどさ。

では、一度も親から変な質問をされないで育った子供はどのような子供になるんだろう、ってことをこれからおれが書き記すなんて思ってたら痛い目みるぞこのやろー。



「しんでないよ。夢をみてるんだよ」

子供はその純真無垢な瞳でそう言った。

「腐ってるじゃないか、動いてないし、喋らないし」
「動くよ。喋るよ」
「そんなこと………」

レイは改めてじっくりとオヤジのなれの果てを見た。もともと小さなオヤジだったが、その亡骸は生前より一回りも二回りも小さく見えた。それがあぐらを崩した格好で頭を垂れ、安置されている。頭皮の半分はずり落ち、頭蓋骨が露出している。服を着ているのは幸いだ。ウジが這い回る服の中でぐちゃぐちゃになっているであろう臓腑を見る勇気などレイにはない。

「そうか、じいじは夢を見ているのか」

オヤジの死を受け入れたレイは、討つべき敵を失いひどく落胆したようだった。

「じいじ、言ってるよ」

子供はなにやらじいじと会話したあと、そうレイに言った。

「おれに?」
「うん」
「なんて?」
「ゴメンナサイゴメンナサイって言ってるよ」
「はあ?」
「ゴメンナサイって言ってる」
「………ふざけるな」

大人気なくレイは吐き捨てた。

「何にゴメンナサイしてるんだよ。そいつは何にゴメンナサイしてるっつうんだよ!?」

声を荒げたレイに、子供は不思議そうな目をして静かに、

「いらなくなったものだよ」

と、答えた。

レイの脳みそは子供の言葉に、否応なく邪魔者という言葉をリンクさせた。レイは驚愕し、次々と思いつくままに独り言に似た質問を年端の行かぬ子供にぶつけた。

「いらなくなったものってのはなんのことだよ!?」
「おじさんの好きな人」
「誰のことだ!?」
「パパとママだよ」
「どうして君が知ってる!?、どうして君がそのことを知ってるんだ!?」
「じいじからきいた。じいじは知ってるんだよ。みんな、みんな知ってる。今日おじさんが来ることも知ってる」
「なんだと!?、そんなわけあるか」
「じいじは知ってるんだよ。だからゴメンナサイって」
「嘘をつくな!」
「うそお?」
「君は嘘つきだな!。どうせママから聞いたんだろ!」
「ううん。会えないもん。ママは神様のとこにいるんだよ」
「神様のとこだ!?、でもここにいるんだろ!?」
「しらない」
「知らない!?、だったらそいつに、じいじに訊いてみりゃいいだろ!?」
「じいじの夢に、ママはでてこないんだよ。似てるひとはいるけど、ママじゃない」
「なんでだよ!?」

レイは思わず子供の胸倉を掴んだが、すぐに離して頭を抱えた。地団太さえ踏んでいる。それにしてもこの子供、大人に凄まれているというのにあっけらかんとして、涙のひと粒もその瞳に浮かべない。子供にあるまじき態度。まるで、泣くことにより注目と助けを親に求めるという子供の仕事を知らないかのようだ。まさしく、この子供はそれを知らない。教団内で子供は、迷い込んだ野良猫のような生活をしていた。神見は完全に育児を放棄しており、とてもじゃないが育児をするまともさを持っていないのだが、放棄をしているどころか死んでしまえとさえ思っているのではなかろうかという節さえ、信者達は感じていた。信者の中には教団内をふらふらしている子供が神見の子であるということすら知らない者も多い。知っている者は知っている者で、教祖である神見の逆鱗に触れぬよう、“神見の”腫れ物に触るよう子供と接している。これでは情操教育もクソもない。ちなみに、信者達は現在のオヤジのことを知っている。ただし、オヤジは望んでそうすることになったのだと。望んで即身仏になったのだと。

「だって、ママがじいじに夢を見させてるんだもん」

そんなことも知らないのとばかりに、子供は言った。

「神見が、こいつ…を?」

そうレイが結びつけるのは致し方ないことだった。

「………いつまで、君はいつまでここにいるつもりなの?」

しばらく茫然自失していたレイは、狭い暗がりの中、一心不乱にひとり遊びをする子供にそう言った。もう陽は完全に落ちている。

「ずっとだよ」

子供は答えた。

レイは色々と想った、鑑みた。そして、

「ここにいたら駄目だよ。一緒にママに会いに行こう」

と言った。

暗がりの中レイは、子供がはじめて渋った顔を見せたような気がした。



「神延べ様、こちらへ」

ふらふらと幽鬼みたく血のように赤い絨毯の敷かれた廊下を神見は信者に付き添われ歩いていた。全裸ではなく、薄いシルクのローブを身にまとっている。

神見は導かれるままに、目の前の扉を開けた。

その瞬間、ごうごうと建物に地鳴りが響いた。

「うん?」
「目が!、目がああ!!」

その異変を、レイはひっ捕らえた信者の目にキンカンを近づけながら聴いた。神見の居場所を尋問していたのだ。レイはなぜだか量販店で売ってる馬のかぶり物を頭につけている。ああ、内部に来るここまでに色々とあったよそりゃ。めくるめく冒険活劇とも呼べるような戦いがあったり、子供との邂逅だったり、馬のかぶり物拾ったりさ、だけどばっさりとカットさせてもらうよ。だって、格闘技経験どころか喧嘩もしたことない徒手空拳の侵入者対ひきこもりの対決なんて、バナナの皮で滑って後頭部を痛打するような間抜けなものにしかならないよ。踏んだり蹴ったりどころか、もみあいへしあいだよ。だったよ。それでいいよ、うん。だってめんどく………、いいんじゃないかな、これで。いや、こうする方がベターな選択だったんじゃないかな!。

「なんだこの地響きは………お前に訊いてるんだよ」

レイはキンカンをマウントポジションで制している信者の頬にあてた。

「ぎゃあ、立ち上るアンモニアが目にいいいい!」
「うるせえな、わかってるよ。そうしてんだから」
「ひいいい、カナミ様助けてえ」

どうやら、この信者はそこそこ高位の信者らしい。ああ、“女”だよこの人。ひどいことするよね、レイ。あ、そうだ…ゴホン……まあ、この信者は少し前に神見に潰された人だよ。ふらふらしてるとこレイにとっ捕まっちゃってこの様だよ。今思いついたわけじゃないよ。今思いついたわけじゃないよ。そんなことあるわけないよ。

「助けてえ」
「いや」

子供はにべもなく拒否した。しかし、助けに応じたところで子供に何ができるというのか。助けを呼ばせに行かせるとしても、全ての信者は今、自分の叫び声すら届かぬ最上階の集会場に集まっていることを知っているはずなのに。

「助けてえ」
「いや」
「助けてえ」
「いーや」
「助けてえ」
「いーや、いーや」
「使えない奴だな!。悪魔め!。だからお前は神延べ様に嫌われぎゃああああ」
「無駄口をたたくな」

レイはキンカンを慈悲もなく女信者の目に押し当てた。悪魔め。

「ふと気がついたんだが」

レイは目を熱い熱いと目を押さえる女に語りかけた。

「その上着、明らかに市販のものじゃないよな?」

女は一瞬身じろぎをとめた。

「うむ、ここはひとつ、サイズがあうかどうか知らねえが」

レイは、胸にアノマロカリスがプリントされた女のポンチョ状の上着をひっぺがしにかかった。

「きゃあああ」
「ああもう、動くな。腕を伸ばせ。つうか邪魔だなこの馬。特に鼻」

ゴムでできた馬の鼻が女の抵抗に遭いくにゃりと曲がる度に、けらけらと子供は笑った。

レイは上着と言ったが、女はその下に、なにも身につけてはいなかった。

「なんだよお前、変態かよ。安心しろ。どうというこたないぜ」

女の裸を見ても、触れても、相変わらずレイの身にはなにも起こりやしないのだった。

「子供はあっち行ってなさい。………うん?」

レイは女の下腹部に目がいった。それは完全に、純度100パーセント、エロ目的で見やったものだが、女の下腹部が薄く血にまみれていることに気づくきっかけになった。言うまでもなく、無惨にも陰核を引きちぎられた痕だ。さすがに女の下腹部に血がついていたからってすぐさま月経を結びつけることはない。生理用品ってものがこの世に存在することぐらいレイは知ってるからだ。

「なんだよこれお前」

そう言いながらレイは、女から剥ぎ取った服の股間部を見た。股間部の内側は赤赤と染まっており、レイはイヤだなと思った。

「け、怪我を」

息も絶え絶えに弱々しく女は言った。ヒステリックに叫ばなかったのは、怪我した理由が神見にあることをレイと自分に気づかせないため、神見と自分を庇うための理性からだった。

「怪我?。処女喪失じゃなくて?」

レイはそっちをイメージしていた。

「ちがう、怪我、怪我しただけ!」

教団に対し空振りを続ける復讐心と晴らすことできぬ鬱積した性欲を持て余しているレイはセクハラ親父と化し、調子に乗った。

「へえ、怪我ねえ。毛のあるところに怪我ねえ、なんつって」

「………」

「………ちょっと見せてみなさい」

たぶん、たぶんだけど、勃起できない代わりにレイの大脳新皮質のどっかが勃ってるんだろうね。女が抵抗する間もなく、がばっと女の両の脚をレイは開いた。そして、陰惨なことになってるそれを見た。

「これは、大変じゃないか。どうしたんだ一体」
「…………」

女は黙った。黙られると、レイはなんだかすごく興奮した。

「うむ、これはひどい。応急処置ってやつが必要なんじゃないか?。どれどれもっと私に見せてみなさい。うむ、うむうむ、こりゃあひどい。こりゃあひどいぞ。ぷらんぷらんしておる。ぷらんぷらんしておるぞ。大変だ。何か手当てを……今のおれにできることと言えば」

そう言って馬の面をかぶったレイはキンカンを握りしめた。片目でそれを見た女は青ざめ、息をのんだ。

「今のおれにはキンカンを塗ってやることぐらいしか」
「やめろおおお」

鈍牛のような女の叫び声がフロアに響いた。悪魔め。




続。今回で無理矢理にでも終わらせてやろうと思ったのに。必ず次で終わらせてやる。