からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -160ページ目

これがボツシリーズだった

ごめんごめん。こっちがボツシリーズだった。あれも一応ボツシリーズなんだけど。



「今日も今日とてファミレスで暇つぶし。仕事を辞めて、恋人もなく、大した趣味があるわけじゃなし、やりたいこともなく、貯金も底を尽きそうで、かといって働く意欲も湧かず、ただただ時計の針とにらめっこしてる日々、なんかもう疲れたな。うん。疲れちまった。人は何の為に生きているかなんて小学生みたいなこと考えちまう。このアイスコーヒー飲んだら、そうだな、スイッチ切っちまおうかなぁ。アハハ」
ドンガラガッシャーン。暗転
「あー、なんだ?停電か?雷かな。はぁーあ」
照明オン。変な人がいる。
「うん?なんだあれ。まあこんな時間のファミレスには変な奴多いからな。おれも含めて」
『私はファミレスの神である』
「ああ、あっち系の人か。まあよくいるよね。この時間のファミレスにはさ。この前なんか警察沙汰になってたからなぁ」
『君の願いを叶えてあげないこともない』
「うわ、近付いてきたよ。面倒だなぁ。ちょっと店員なんとかしてくれよ。お前等全員顔馴染みだろ?こいつともおれとも。どうせこの腐れニートが!なんて思って接客してんだろ?今日も来たよこの穀潰し、とかさ、ははは」
『私はファミレスの神である。名前はあるけど好きな神にしか教えない』
「なんだそのマイルール!?マイルーラーか?まあこういう人は細かく設定決まってる場合あるからなって、まあいいや、店員呼ぼ。すいませーん!」
『バイトは来やせん』
「はあ?すいませーん!ちょっと!」
『来やせん。よく周りを見てご覧なさい』
「ああ?きょろきょろ。うわ!周りの客みんな突っ伏してる!というか店員に至っては床に倒れてる!あっパンツ見放題じゃね?ってそんなことどうでもいい!ババアばかりだしってもう!なんだこれは!ちょっと!大丈夫ですか!?ちょっと!」
『しなびたニンジンみたいじゃろ』
「知らねえよ!ちょっと!ちょっと!うわ!死んでる?死んでる!」
『だから死んでるともう声に出したことを含めると15回は言っておろうに』
「何回声に出さずに言ったんだよ!伝わらねえよ!とにかく救急車…いや警察か?」
『ねえねえ馬場さん、もとい、聞いてくれる?』
「なんだよ!今お前につきあってる暇はねえ!」
『いやいや、ちょっと聞いて欲しいのだけれど』
「あーもうなんだよ!」
『殺したのわしじゃからね』
「ああ!?………殺したの?あんたが?」
『そうじゃ』
「まあ生き残っているのがおれとこいつで、おれが犯人じゃないとなるとってまさかな、そんな時間もなかったし………………なんで殺したの?って聞いちゃったよおれ」
『いや、神様じゃし格好よく登場しようかなって思って』
「はあ?はいはい」
『いや、神様じゃからわし。さっき暗くなったじゃろ?その隙に、こう、一人一人魂の緒をこの神様バサミでちょっきりちょっきりちょっきんなって具合に』
「おい!なんてことすんだよ!神様失格だろそんな奴!ってどうでもいいわ!つられちゃったよ!警察に電話だ。いや、その前にこいつを押さえつけるか」
『とりあえず警察に電話してみたらどうじゃろか』
「そうだな、なかなかいい提案だ。じゃあしよう。ポチっと…………あ、もしもし」
『もしもし』
「もしもし」
『もしもし』
「ちょっとうるさいよ!ったく、もしもし警察ですか?って警察ですよね」
『いえ違います。神様です』
「うるさい!少しでいいから黙ってろ!警察ですか?もしもーし」
『神様です。ファミレス担当しています。ちなみにこの番号はコンビニの神様しか知りません』
「……………あれ?おかしいな…ええ!?電話口からこいつの声が聞こえる…そんなバカな!警察は110番だよな。うん。消防は119番でって間違えるわけないんだ!なんだこれは!」
『まあわし神様じゃし。この空間、このファミレスは支配させてもらった。いちいち他人に見られるのも神様失格じゃし』
「だから周りの客とか店員殺したのか!?」
『いや、それはわしが格好よく登場する為に、まあ趣味じゃね』
「悪趣味な神様だな!………………神様なんですか?」
『どちらかというとサドルじゃな』
「サドル!?サドルってチャリンコの!?」
『はあ?何を言っておるんじゃ?サドル?さっきからサドルだの疲れただの神様格好いいだの神様最高だのコンビニの神様はうんこだのサチコストーカーしてごめんだの』
「八割方言ってねえ!サドルと疲れたしか言ってねえ!…え?疲れた?おれ疲れたなって声に出して言ったか?」
『まあ心の声ってやつじゃな。神様ぐらいになるとテレパシーぐらい標準装備じゃ。産まれた瞬間から聞こえたもんな。産まれた瞬間母親から全力で“キモっ!”って心の声が聞こえたから。ほらわし産まれた時からジジイじゃから』
「そう……なんですか?」
『うむ。それはそれとして、駄目じゃよ、若い奴が疲れただの死にたいだのウェルテル効果だのスイスのレマン湖だの』
「まあ後半は置いといて、お前一瞬の間に何人殺したんだよ!説得力無いよ!」
『ああ、そのこと?ははは、大丈夫、どうせ生き返らないし』
「って駄目じゃねえか!生き返らないの!?すげー怖ぇ!おれ今お前と出会って初めて凄い恐怖感に襲われた!」
『まあ生き返らすってそういうことは、足の短いデブ男に買われて切られたジーパンの裾の神様じゃないと』
「範囲狭いよ!でも力凄っ!」
『半分ぐらい切られちゃうからね』
「関係あんのそのことと神様の力と」
『表面積的な』
「意味わからないんですけど」
『まあ八百万の神様がいるわけで、ニッチを狙う神様もいるんじゃねぇ』
「ああ、そうですか。まあそりゃあ八百万の神様がいるんじゃあなぁ。でも能力的に切られたジーパンの裾の神様にしておくにはもったいない神様だ」
『足の短いデブ男に買われたを忘れるな。足の短い女に買われて切られた裾の神様もいるわけじゃし』
「細かいなぁ」
『切られたジーパンの裾だけでも他に、オサレの為に切られたジーパンの裾の神様もいるし、あとあれ、不倫された女が男のジーパンをズタズタに切り裂いた時の裾の神様なんて大人気でな、順番待ちじゃもんな』
「順番待ちするようなポジションか!?もうなんなんだよ!」
『ナンなんです』
「はあ?」
『カレーにはナンなんです』
「うるせえ!誰が今ナンの話してたよ!」
『いや、ナンの話じゃなくてカレーの話じゃろ』
「どっちでもいいよ!どっちにしろカレーの話もナンの話もしてない!」
『いや、お主の深層心理の声が言っておったじゃろ』
「深層心理までいかれたら否定出来ねえよ!表層だけ読み取れ!ったく、お前のテレパシー能力には不具合が多すぎる!」
『まあ一ナン去ってまた一ナン』
「意味わかんないよ!ただの食いしん坊じゃねえか!」
『ちなみにこいつに一難の難がナンだと理解出来たのはわしがテレパシーで』
「いちいちただの都合を説明しなくていいよ!」
『まあまあ、カリカリせずに。カレーだけに』
「カレーから離れろ!」
『チョゲロッポ!』
「…………はあ?」
『あ、いや、今隣のファミレスでバイトがコップを割りおってな。本社に代わってバイトを殺したんじゃよ』
「ああ!?なんで殺すんだよそんな単純な悪気の無いケアレスミスで!簡単に人殺しすぎだろ!人の命なんだと思ってるんだ!」
『なんだと思ってるんだって、そりゃあナンだと』
「言ったおれが悪かったよ!」
『ちなみに今のナンもわしのテレパシーで』
「それはいいから!」
『まあまあ、そんな怒らんと。若い奴がいじいじしているのはよくないぞ。何を悩んでいるのか知らないが』
「知らねえのかよ。読め読め」
『そんな気持ちはナンをパでもして』
「ナンから離れろ!なんだよナンをパでもするってよ!」
『ウッチャンナンなんです』
「いつかウッチャンナンチャン言うと思ってたよ!」
『ナンナンナン♪カレーとナンで♪フランス人♪』
「古いしそこはインド人だろ!」
『まあ命なんてナンより軽いんじゃから粗末にしとるとあっちゅう間に飛んでいってしまうぞい』
「今までのナン押しを引いても微妙に納得出来ねえよ!どういう説教だよ……………どうせならさっき店員とか客じゃなくておれを殺してくれればよかったのに」
『なんじゃって!あ、今のなんはナンのなんじゃないから』
「面倒くせえよ!」
『幾億のレースに勝ち抜きせっかく生まれ出たというに、お主命をなんだと思っとるんじゃ!』
「その言葉ノシつけてお前に返すよ!」
『だからナンだと』
「律儀に返答すんな!」
『(・ω・)ノシ』
「そのノシじゃねえ!なんでバイバイなんだよ!」
『顔文字一から作るの面倒なんじゃよね』
「知ったこっちゃねえよ!ああもうなんなんだよ!殺してくれよ!もう生きてるのに疲れたんだよ!お前の能力なら楽に殺してくれるんだろ!いつでもいいぜ!殺してくれ!」
『ふむ、まあわしその為に来たんじゃし、いいじゃろ』
「随分遠回りしたな」
『じゃあ行くぞい。最期にナンは食べたくないか?』
「いらねえから早くしてくれ」
『ナンもいらないってわけじゃな』
「そういうことじゃ…」
『ちょっきりちょっきりちょっきんなっと』
暗転 証明オン
「……………は、きょろきょろ、………普通だ…………な、なんだったんだ一体、いつものファミレス……夢か?ああそうか…嫌な夢だったなぁ。ははは、さて、そろそろ帰るか。………バイトでも探すかな。…カレー屋とか…」
『ぬふふ。こいつが生きてるか死んでるかなど意味を持たない。奴はこのまま一生ナンでもない生涯をナンとなく過ごして行くのじゃ。そしてナンてことはない死を迎え、その棺には次々とナンが入れられ、炎と共に自身もナンとなる。その時、煙になって初めて気付くのじゃ…ぬふふ…』


終わり。なに?新参もなにも読者なんかいないだろって?うるせえ!黙れボケナスが!三十三回回ってのたうちまわれ!…おれ!

ボツシリーズとは

最近ボツシリーズを投稿してないのでボツシリーズボツシリーズ言われても新しい読者にはわからないだろう。特にモバイルユーザー、君のことだ(若くてエロくて腕相撲が強い女の人希望。美醜は君じゃなくておれが決める!男は三回回ってふさぎ込め)。見よ。これがボツシリーズだ!



「みんな死んじゃえよ」
一緒に散歩をしていたヤマカガシのムネミツ君が突然言った。
僕はハラハラドキドキした。
「みんな死んじゃえよ」
「みんなって、それは僕もかい?」
「みんなさ、でも君は最後までとっておくよ」
ムネミツ君は優しい奴だ。僕は嬉しくなって華麗なステップを踏んだ。昔フラミンゴのキャシーに教えてもらった一本足のフラメンコだ。
「何をそう嬉しがっているのだい?」
「君が僕をそんなにまで想っていてくれたなんて知らなかったんだ、君にとっての僕は、道に落ちている渋柿、みたいなものだと僕は思っていたからね」
「じゃあ僕もとても気分がよいから踊ろうかな、」
ヤマカガシのムネミツ君は足の無い蛇腹でステップを刻んだ。
「くねくねしているだけじゃないか」
「君には見えないのかい?僕のこの足捌きが」
「見えるわけないだろう?だって君には足がないじゃないか」
「ふん、これがほんとの蛇そ」
ムネミツ君のくねくね動きはいつも僕を不快にさせた。花粉症を発症する花粉の摂取量の器みたく、つもりつもった不快感が僕の中でちょうどこぼれた。この日僕の不快指数は101パーセントを記録したので、何か言いかけたムネミツ君を僕は踏み殺した。
とても静かになった。
一人では寂しくなったので僕は散歩を続けることにした。
「やあ、君か」
カエルのマグネム君と出会った。
やりきれない思いを抱え、「もう一度誰かを踏み殺したいな」、と思っていた僕にとって、カエルのマグネム君の登場は渡りに舟だった。
「マグネム君、君は運命って信じているかい?」
「運命?運命ってあの運命かい?それとも左曲がりの運命のことかい?」
詩人でヒモのマグネム君の言うことはいつも難しくて、僕にはおよそ三割方しか言っている内容がわからない。
僕が手で遊び始めたので、マグネム君は、
「そういう君は運命を信じているのかい?」
と、またわけのわからないことを言った。
「僕は今日を楽しく生きるだけで精一杯で、君にかまってる暇はないんだ」
「なるほど、刹那主義ってわけかい。ま、聞きなさい」
「はい」
僕は諭されそうな雰囲気が苦手だ。苦手、ということは、弱い、ということで、マグネム君の口を塞ぎ生コンの海に沈めるなんてことは出来なかった。
「運命なんてバカらしいや。結果さ、ただの偶然の結果さ。偶然なんて起こるか起こらないか、それをするかしないか、その二択が無限に広がっている選択肢の結果に過ぎないのさ。たとえば僕は今からここにいるもぞもぞ動いている虫を喰わずにいられないけど」
そう言ってマグネム君は老ダンゴムシのヨーゼフを喰べた。
「この虫は今僕に食べられることが運命だったのかい?それが運命だったとでも言うのかい?違うね。たとえば僕の運命が十秒後に僕の体内に溜まった屁が爆発するというのなら、僕は爆発しなきゃいけないのかい?」
「そんなことはないね」
「だろう?君はそれをすれば」
カエルのマグネム君は笑顔になってそう言うと、体内に溜まった屁が爆発して粉微塵に吹き飛んだ。
「やあ、見事だなあ」
そうつぶやいたものの、やることもないので散歩を続けることにした。しばらく歩き、陽も暮れようとしている頃、ゆるい坂の途中で雀のハミン君に話しかけられた。
「やあ、君か」
「やあ、今日はいい日だったね」
雀のハミン君は飛ぶことが出来ない。いつも地面をびっこを引きながら歩いている。小さい頃両親がヤマカガシのムネミツ君に食べられてしまった時に巣から落ちて傷ついたのだ。そして両親から飛ぶことを教わってないので飛ぶことが出来ない。
僕とハミン君はヤマカガシのムネミツ君の死でとても盛り上がった。
「あいつはほんとに、こねくり坊主のむひょてんげ、だったね」
「その通りさ」
ふたりでカラカラと笑いあっていると、
「じゃあ僕も明日飛ぼうかな」
と、ハミン君が言った。
「え?君は飛べないじゃないか」
「ふふん、僕だって本気を出せば飛べるんだよ」
「本当かい?やあ、それは知らなかった。どうだい?一つ僕に飛んでいるとこを見せてくれないかい?」
「明日ならばね」
「今は飛べないのかい?」
「今でもいつでも本気を出せば飛べるさ。僕は雀だからね。飛べば飛べるさ。それをすればね」
確かにその通りだと思ったけど、僕はどうしても今見たかったので、
「今見せてもらえるわけにはいかないのかい?」
と、訊ねた。
「明日さ。本気を出すのはいつだって明日さ。考えてもみなよ。今日本気を出してしまったら明日出す本気はどこにいってしまうのだい?」
ハミン君は小さな胸をこれでもかと張って言った。
さもありなん、僕がポンと膝を打つと、
「傷を舐めあいやがって、そんなだからお前は飛べないんだよ」
という声が坂の上から聞こえてきた。大将気取りのロジャーだ。負け熊のくせして大将気取りの嫌な奴だ。額からねとねとしていそうな赤い血をダラダラと流している。
「ロジャー、また大将に負けたのかい?」
「ふん」
「君も懲りないねえ」
「ま、今日は手を抜いたのさ。あんなヘボ熊、本気を出せばいつだって勝てるのだがね」
お前も舐めあうのじゃないか、と僕は思った。
僕達はヤマカガシのムネミツ君の死を一通り笑うと、陽も落ちたのでそれぞれ帰ることにした。
「おい君、さっきは随分じゃないか」
帰り道、踏み殺したと思っていたムネミツ君が話しかけてきて僕は驚いた。
「見てくれよこの蛇腹を。大地と腹が、腹と大地が、踏み潰されてひっついて動けやしない。虫の息さ」
「ひどい状態じゃないか?どうしたんだい?」
「君に踏まれたのさ、華麗なステップでね」
腹が大地にひっついて動けないムネミツ君はテケテケみたくもがき動く。
ムネミツ君の言葉で僕は思い出した。そうだ。僕はなんだかやりきれないから誰かを踏み殺したかったんじゃないか。
僕はムネミツ君を、今度は確実に踏み殺すよう、しっかと頭を高速のステップで踏み、殺すと、
「ああ、二度も僕に踏み殺されてくれるなんて、ムネミツ君、君は案外いい奴なんだな」
と、思って、ねぐらに帰り寝た。


終わり。うーむ。違うかな。

アラクネ(13)

カズタカの失墜を前に、タケハルは巻き添えを食いたくないわいとばかりトイレに立った。男一女四、ただでさえカズタカにとって危機的な状況であるが、これではまるで正論をかさに女子達から帰りのホームルームで吊し上げられた男子の呈である。

「最低」

「ろくでなしのごくつぶし」

「ガキ以下」

「誰のでもいいから爪の先を煎じて飲め」

「人間じゃねえよ」

「よかった。手袋着けてきて」

「あ、それかわいいね。それで殴られるなら本望だね!」

「いや、ホノカ、ちょっと違うよ。喪服の手袋だし」

やいのやいのと、いつの間にか復活したホノカも交え、罵声が飛び交う。カズタカは思考停止をきたした。

一通りの罵声を言い終えると、タケハルが帰ってきたこともあり、カズタカを糾弾する会は解散した。

「科学的見地から解決、着眼点はいいけど、じゃあなんでみんな遺書を失くしたのよ。結果だけみてそれも偶然だとでも言うの?」

あまりに馬鹿らしくなったからか、ランチェスターの法則に於ける数の優位性の故か、こちらも少し落ち着きを取り戻したアヤが、動かざること上野の山のハシビロコウの如し、状態のカズタカに訊いた。

「おい、お前に訊いてるんですけども」マユミは放心状態のカズタカに向けてストローを弾いた。ぴっ、とほとばしるアイスティの飛沫は見事カズタカの顔面を捉える。

「えっ、なに?」

「ふうぅ、みんなが遺書を失くしたのはどういうこと?説明しなさいよ」残された力を振り絞るように溜め息をつきながら早口で再度アヤは訊く。

「あ、野崎、大丈夫なのか?」

「早く答えろバカ!」またしてもアヤは精神メーターの針を振り切った。

貶めて怒られ、気遣っても怒鳴られ、この瞬間カズタカの魂は確実に窓の向こうの景色を飛び越え、名古屋辺りで一段落したのち、体を忘れたことに気付きえっちらおっちら戻ってきた。

「そ、それは、そうだな、…サブリミナル効果って知ってるか?サブリミナル効果で説明出来るだぎゃ、…う、うん、説明出来る」もとよりそんなことを解決する気などなかったカズタカ。説明しなさいよ、と言われても、そんなの知らねえよと言ってしまいたかったが、それを言ってしまえばどうなるか目に見えている。この場は口八丁手八丁でやりきるしかない。そう思ったカズタカの冴えない脳みそがボキャブラリーの中から探しあてた言葉がサブリミナル効果だった。

「それ知ってるぅ。写真とか映画とかに目で見えないくらいのメッセージを織り込んで見た人に暗示をかけるってやつでしょ?」

「ま、端的に言ってしまえばその通り。良くできました」

「でっへへ」と、わざとらしく笑ったあと、ホノカは表情を一変させて冷たく「こいつ何様だよ」と吐き捨てた。

「…」相手が無邪気な小天使みたいなホノカだということで油断していたカズタカの魂はこの瞬間以下略。女という生き物はおぞましいな、ぴょこんぴょこんと鼓動を打つカズタカの心臓が言う。

「ちょっと待ってよ、なにそれ!ていうことは私達が自殺するように暗示をかけたとでも言うの!?ヒロフミが!?」

「あ?、いや、野崎、そこまでは言ってない。あいつらの死と勝手に結びつけるな」

「なに!あんたなんなの!わからない!理解出来ない!」

「ろ、論理的に語り合おうぜ」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!」アヤは頭を腕で守り固め、つむじをカズタカに向けテーブルに突っ伏した。

「俺はただ遺書を失くした理由の可能性を推察しただけで、超能力者のしてみせた現象を手品でも出来るとやってみせた手品師みたいなもんだ。それだけじゃインチキを証明したことにはならない。結果に帳尻を合わせたに過ぎないからだ。算数の虫食い問題みたいに、x+y=5の時のxとyに入る数字は何個もパターンがあるだろ?遺書を失くした理由はサブリミナル効果で説明出来る、それはそのパターンのひとつ、それだけなんだ。野崎」この事態に参ってるのはお前だけじゃないんだぞ。喉元まででかかった言葉をぐっと飲み込む。それを言っちゃおしまいだ。そんなことは皆わかりきっているのだから。

「推測も仮説も、余分なものを削ぎ落として出来るだけシンプルにしないといけないものよ」

砂漠に降った豪雨があっという間に砂の中に吸い込まれていったかのような、一旦さらっぴんになった雰囲気の中、マユミが静かに語り出した。

「シャーロック・ホームズだって言ってるわ。全ての不可能を消去して最後に残ったものは、如何に奇妙なものであろうと、それが真実だ。ってね」

「どういうことだ?」とタケハル。

「まず、私達はこの件について何が可能で何が不可能なのかを見極めなきゃならない」

「意味不明なことばかりでそれが出来ないから問題なんでしょ」

「そう、ミシモの言う通り。だけどシンプルに考えるの。まず、私達にとって一番の問題はなに?それだけをみれば事件のあらましさえ余分なものに過ぎない。あんまり言いたくないけど」

と言って、マユミは軽く息を吐いた。

「思い出して。私達が問題を抱えているのなら、それはこれから私達が死ぬかどうかでしょ」

マユミが出来るだけ棒読みでそう言うと、アヤの両肩がぴくりと震えた。

「確かにそう。考えてみれば、何こいつこんな時にヒスってんだって思ってたけど、アヤだけがまっすぐ私達の問題を見つめていたのかもね」

ミシモは今も、ヒスってんじゃねえよ、と思っている。しかし、こういうアヤみたいなタイプは自分の行動、所為をお世辞とはいえ肯定されると、その世界の秩序にでもなったかのような優越感に浸り、自分のしていることや、そこから得られた経験、知識は絶対的に正しく、それらを人に自慢したくなり且つ押し付けたいと思い込む、簡単に言ってしまえば自己顕示欲の強い「いい気になる」奴であると判別しており、この場合多少元気づけてこれ以上無益にアヤに騒がれてはたまらないとの意志からの肯定発言であった。

「そ、そんなことないけど」案の定、アヤは調子に乗る気配をみせた。

これ以上お調子づけても意味がないので、ミシモはアヤを無視し、

「で、マユミはどう思う?」

と、話を戻した。



振り込め詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺

ある意味うらやましくもある。いえね、振り込め詐欺に振り込んじゃう母親があなたにいるということが。おれの母親では、完全に電話口の役者に騙されていたとしてもおれの為に大金を払うとは思えない。「金で解決出来るなら大したことじゃない。自分で何とかしろ」とかステレオタイプなこと言われそう。おれが言われるわけではないが。だってさ。逆に考えれば、子息が渾身の土下座ぐらいのことすればそこそこの金くれるわけでしょ?試しにやってみてよ。うちの親類ひっかかりそうだなって思っている人よ。どうせならチンピラに持ってかれる前にあらかじめ貰っとくべきだ。それなら安心。手前の懐も潤う。振り込め詐欺ひっかかるまえに詐欺だね。詐欺なのかよ。あ、これ本当の詐欺でいけるかも?振り込め詐欺対策に新しく口座作っといたからそっちに金移しといて詐欺。もうあるんだろうな。
振り込め詐欺がこれだけ有名になり警察やら自治体やら金融機関やらがなりふり構わず注意を喚起しているにもかかわらず被害は増える一方だという。ざまあみろ。とはなかなか言えないおれがいる。おれの家の場合、父母は保険関係に強いこともありひっかかりそうにない、が、認知症の婆さんはひっかかるだろう。必ずひっかかる。うちの婆さんひっかけられないようじゃ誰も騙せまい。婆さんはもうボケボケ。おれを目の前にして話しているのにおれのことを兄だと思って話しているんだからそりゃひっかかるだろう。ちょろいもんだ。飼い猫の名前も昔飼ってた猫の名前で呼ぶし、ニュースなんかいちいち覚えちゃいない。もう新しいことなんて記憶出来ないのかもしれない。振り込め詐欺のことなんて多分知らない。知ってるかもしれないけど、かかってきた電話と結びつかないだろう。電話持ってないがな。金も手元に持ってないからひっかかりようもあるまい。あ、仮に婆さんの元に振り込め詐欺の電話がかかってきても役者側が参っちゃうかもな。コントみたいに何も伝わらなくて。身近にひっかかりそうな人物がいると、ひっかかった人を見てもざまあみろとか馬鹿じゃな
いのとは思いたくても思えないものだ。詐欺の中にも貴賤というものがある。
振り込め詐欺もさらなるアウフヘーベンを遂げるだろう。ある馬鹿な野郎が俺が人を騙せないのは自分の怪我人の演技にリアルさが足りないからだってんで実際に腕の骨を折りましてね(そう、この話のオチは骨折り損のくたびれもうけだ)。よしっこれなら大丈夫、って全然大丈夫じゃないんですが、とにかくここまでしたのならと息子役の仲間が電話をかけました。「はい、もしもし」「あ、お母さん、おれだけど」「おれ?あなたおれなの!?そんな、おれ!あんた一体何してたの!母さんどれほど心配したか。みんなにも心配かけて!」「…おれだけど」「わかってるわよおれでしょおれ!」「…おれだけど」「なによおれ!どうしたのよ!もう父さんも怒ってないから顔見せなよおれ!」「おれおれなんだ…」「なによおれおれおれ詐欺みたいなこと言っ…はっまさかあんたおれじゃないのね!?おれになりすましたおれおれ詐欺ねこれ!なによ!」「…おれ、おれなんだけど」「嘘おっしゃい!じゃあ私達の名字言ってみなさいよ」「…カフェ」「ばか!」ガシャつーつーつー。電話がきられたその刹那、振り込め詐欺グループは突然現れたガシャドクロに踏みつぶされて皆死ん
だ。これが本当のガシャドクロ詐欺。なにそれ!骨折り損は!?

しかし、最近の子は名前が変な当て字で大変だね!穴瑠とか。じゃあまた!

アラクネ(12)

「書き初めはこうだ。“カズタカ君。この手紙を君が読んでいるということは、既に僕はもうこの世にいないのだろう。なんて、ありきたりなことを書いてみたけど今から大事なことを書き残すから、あきれずに最後まで読んで欲しい。たとえ僕がどんな死に方をして、世間からどんな判断を下されようとも、僕が今から書くことだけは信じて欲しい”だ」カズタカはまるでシェイクスピアの一節を吟じるように朗々と語った。

「そうだった。私達のも」

「うん」

マユミとホノカが反応する。

「そんなことはどうでもいいんだけど、あの遺書の内容に問題があるとすれば、あの遊びの部分ね」

どうでもいい、そうか、そうかそうか、どうでもいいか、俺が言ったことはどうでもいいんだな。結構長いこと言ったのに。そらで暗記してたのに。カズタカはもはや虚ろと化した。そんなカズタカに気付く者は居らず、当然ミシモは話を続ける。

「どう思う?悪いけど普通に考えればヒロフミの遺志と反して典型的な精神に異常をきたした人物の夢物語の押し売り、という印象ね」

「あの…蜘蛛遊びのくだりか」

タケハルが応える。

「普通、遺書に、あんなこと、書かない」ホノカが鼻声でつまりながら言う。

「そう、普通あんなこと書かない。だから問題なのよ。全体的におかしいっていう、異常者が書くような支離滅裂な、いかにもお花畑の中にいます的な文章ではなかった。だけど、なぜあの遊びのことをわざわざ私達に言い遺したのか。自分が死ぬことを意識してる人間が。大した思い出でもないのにさ。その後のカズタカの行動、蜘蛛遊びをした神社の前であんなことしたことを考えれば、私は」

ミシモが言い切る前に、
「あいつが異常者だ、とは俺は考えられない」

と、タケハルが釘をさした。少し間を置くと、

「俺とヒロフミと、それとカズタカは一ヶ月前、クリスマス前に一緒に飲んだ。その時は普通だった。その前だって、俺とヒロフミ、それにカズタカとでちょくちょく飲んでたが、ちっともそんな気はなかった。人間ってのはそんな短い間に壊れちまうもんなのか?」

と言い、カズタカはタケハルの言い種に怒るべきかどうか悩んだ。

「やっぱり、呪いなんだ」

「野崎、そんなものあるわけないじゃないか」

「何よ!あんたの言ってることは矛盾してるじゃない!」

突然、ドン、とテーブルを叩きつけ、語気を荒げたアヤ。聞き耳を立てていた店員はびくりとして、テーブルを緑色の雑巾で拭いていた手を止めた。カズタカもびっくりして、タケハルの言い種のことはどうでもよくなった。

「あいつは狂ったのよ!カナコも狂ったの!狂い死んだのよ!そう言ってよ!そう断言してよ!してみせなさいよ!」店内にアヤのひび割れた声が響く。

「…してみせてよ…どこを探しても見つからないのよ…狂ったって言ってよ…」

そしてアヤはしおれた。ミシモがそう導き出そうとしたように、アヤの言葉はそうであって欲しいという皆の心の奥底にある願望を代弁したものであった。ヒロフミの精神異常を否定したタケハルも、である。

「なるほど、確かに」

「てめえ!何言ってんだ!」

タイミング悪く二つの意味でイカンな発言をしてアヤ以外全員からシンクロした罵声を浴びせられたカズタカ。心の奥底でそうであって欲しいと望んではいるものの、揺れ動く精神の振り子は自然に揺れが収まるまで時間をかけて待たなくてはならないもので、途中、楔を打ちこむことは許されない。しかし、カズタカは必死に顔の前で手を振ると、

「いや、いやいや、違う。そんなんじゃない。今回ばかりはちゃんと聞いてくれ、違うんだ。聞いてくれ」

と、哀願した。

「なんだよ」と、少し意外な顔をしてタケハルが言う。

「聞いてくれ、いいか野崎、この世に呪いなんてものは無い」

そう言われても、アヤは全く聞いている素振りを見せていない。

「くっ、いいか、呪いなんてそんな摩訶不思議なパワーなんてありゃしないんだ。ありゃしない」
カズタカは視線をテーブル対面のアヤから対面全体に変えた。

「あるのは人間の意志だけだ。意志が悪意であった場合、その悪意を感じたり物的証拠を見たりして気分を害すということが、いわゆる呪いだ。さっき土師が言ったプラシーボ効果みたいなもんだよ。単なる人間の思い込みの成せる力だ。呪いなんて不思議パワーはありゃしない。ま、単なるっつっても厄介なやつだが、所詮は心のもちようさ。確かにヒロフミの遺書には、呪われた、みたいなことが書かれてた、筈だよ。でもそんなものは無いよ。ありゃしない。この点に関して、ヒロフミは確かにとち狂っていた。ありゃしないんだからな。ありゃしないんだ」

カズタカはわざと「ありゃしない」と連呼している。それでアヤが救われるのならと本気で思っている。ちらりとアヤを見やるが、南無三。

「…一見して不可思議な事件だが、この件は菱山のことも含め科学的見地から解決出来る。まずヒロフミは何か思うところあって自殺した。えぐい死に方だが。そしてやっぱり菱山も何か思うところがあって自殺した。以上だ」

「全然科学的でもなんでもないし解決もしてないじゃん。そもそも自殺する理由が見当たらないから困ってるわけで」

ツッコミ、というよりも好奇心からくるホノカの指摘。

実のところカズタカはこの一連の件についてあまり深く考えがまとまっていない。アヤやホノカのように態度にこそ出していないものの同じような混乱の渦中にいる。今話していた話も、アヤを元気づけようととにかく喋り出した、以上のものはなく、そのアヤに無視されている為引くに引けず、否、この話の引き方がわからずにペラペラと詭弁妄弁にもならぬ愚弁を弄してしまっただけである。従って、解決してないだろ、と、言われても困る。こういう場合は相手の核心をえぐって相手がひるんだ隙にささっと逃げるに限る。

「起こったことだけを見ればそれ以上のものは無いんだ。それに鈴木、お前はそう言うが、何故に理由が無いと言える?俺達はとてもじゃないがヒロフミの全てを知ってるとは言えないぞ。俺達は俺達以外のあいつの人間関係さえ知らない、なあタケハル?」

「俺は結構知ってるけど」

「…うん、鈴木お前はどうだ?」カズタカはタケハルの返事を無かったことにした。

「菱山の全てを知っていてそれで、無い、と言っているのか?」

「それは、そうだけど」

えっ、その「そうだけど」はどっちの「そうだけど」?知ってるの?知ってないの?あやふや、あやふやだよ鈴木ぃ。カズタカの背中に冷たい汗が滴り落ちる。

「…だろ?」カズタカはすました顔でそう言ってみた。

「でも、全てを、知らなくたって、生きるか死ぬかぐらい、わかるよ」

よし。ついに泣き出してしまいそうなホノカを前に、カズタカは心の中でガッツポーズを決めた。それは見覚えはあるが誰だか思い出せない人物から親しげに挨拶された時に、うまく相手の個人情報を引き出した時のような達成感に似ている。さあ、今だ、逃げよう。しかし、

「あんたの言ってることは“悪魔の証明”ってやつ。この宇宙に人類の他に知的生命体がいることもいないことも証明出来ないのと一緒。知ってるとか知らないとか、全てを知っているかって訊かれたら、そりゃ全てを知っているとは理性的な人なら答えないでしょ。何言ってんの?何言わせてんの?最悪。人として最低。ホノカ、あんな奴の言ったことは気にすることないんだよ。あとでみんなで変な声だすまで殴ろう。ね?」

ミシモに怒られ呆れられあまつさえの殴打予告、男武者カズタカ二十三にして立つ瀬無し。