「違憲状態」は合憲 | 彼の西山に登り

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公務員試験講師があれこれ綴るブログ。

議員定数不均衡問題は、複雑な問題である上、憲法と行政法の双方にまたがる内容があるため、かなり直前期になっても、「違憲状態というのは違憲なのか合憲なのか」といった質問が来るところです。


周知のように、最高裁は、①投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているときで、かつ、②人口の変動の状態を考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合、に違憲となるとしています。

したがって、①と②の両方で引っかからないと違憲とはならないことになります。国会議員の選挙について①・②の両方とも引っかかって、選挙が違憲とされたのは、最大判昭51・4・14と、最大判昭60・7・17の2件だけです(いずれも衆議院議員選挙)。


しばしば生じるのが、①について投票価値の不平等が不合理な状態であっても、②について合理的期間を経過していないとして違憲ではない、とされるケースです。この場合、選挙は合憲になります。

ところが、①で最大較差が不合理とされた点を捉えて、この場合を「違憲状態」と表現することがあります。これは政治的な、ためにする表現の気味があると思いますが、受験生(のみならず学生始め一般)の混乱の基になっています。


さらに、選挙が違憲となった場合(上記の①・②とも×)に、公職選挙法の定数表は一枚ですし、最大較差は他の選挙区と比較しての話ですから、原告の所属選挙区だけ切り離すのではなく、選挙全体が違憲となると判例はしています。


そうすると、違憲の国家行為は無効の筈ですが(憲法98条1項参照)、当該選挙全体を無効とすると、法改正にすら差し支えることになりますから、選挙を有効にする方策が模索されます

その際、事情判決(行政事件訴訟法31条)が使えると具合がいいのですが、公職選挙法は、国会議員の選挙の効力に関する訴訟(同法204条)には、行政事件訴訟法31条は準用しないことにしています(公職選挙法219条1項)。これを認めると、すべて事情判決になりかねないため、と説明されます。

特定の選挙区のみの選挙の効力を争う場合はそれでもいいのですが、選挙全体ということになると、さすがに不都合です。かといって、この場合を公選法219条1項の適用除外とするのは、選挙訴訟が客観訴訟である民衆訴訟である以上、「法律に定める場合」(行政事件訴訟法42条)のみ認められるからには、望ましくありません。


そこで、行政事件訴訟法31条の趣旨は法の一般原則であり、この一般原則〈事情判決の法理〉を適用するのだ、という理屈で、結果的に同じ結論(判決主文において、原告の請求を棄却する(選挙は有効とする)が違法宣言は付ける)を導くことにした訳です。



この処理は、選挙の効力に影響がない以上、違憲判決も意味がないのではないか、という批判があります。多くの受験生にとって、「事情判決」が最初に登場するのがこの問題のため、この疑問を事情判決全体に及ぼして、事情判決の違法宣言一般に大した意味がないようにイメージしている場合がありますが、それはさすがに「過度の一般化」というやつです。

判決の主文には既判力がありますから、事情判決が出た処分と同一処分を理由として国家賠償請求訴訟を提起した場合には、違法性の立証が極めて容易になると説明されます。

ただし、選挙訴訟の場合は客観訴訟ですから、もともと原告には損害はなく、このメリットは使えません。これが違法宣言が単なる気休めに過ぎないような感覚を醸成している訳ですが、取消訴訟のような主観訴訟であれば、活かし様はあります。

もっとも、平成23年の国家Ⅱ種の問題(№20)にも出題されたように、国家賠償請求訴訟における違法と取消訴訟における違法が異なるという判例の立場では、残念ながら上記のメリットも額面通りには通用しないことになるでしょう。


なお、上記①の要件につき、最大判平23・3・23は、選挙時において選挙区間の投票価値の格差が最大2.304倍に達していた平成21年8月30日施行の総選挙について、区割り基準の内、一人別枠方式(小選挙区の作成方針として、都道府県を単位にまず47都道府県に各1議席ずつ配分し、残りの議席を人口比例で配分して都道府県の議席数を決め、次いで都道府県内部で議席数分の小選挙区を作る方法)と、同基準にしたがって改定された選挙区割りを、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていた(ただし合理的期間内の是正がなかったとはいえないとして合憲としてます)としています。


私見ですが、これを衆議院議員選挙については従来1:3を基準としていたとされている判例の基準を変更したものといえるかはもう少し判例の積み重ねが必要と思います。もともと1:3を判断基準とすると明示した判決はなく、多くの判例を比較検討して出てきた線ですから、明示的に判例変更という言い方ができるものではありませんので。

ただ、試験との関係では、事例そのものは出題されるかもしれませんから、押さえておいて下さい。



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