彼の西山に登り

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公務員試験講師があれこれ綴るブログ。


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【本文】

 

報道によると、皇室典範の改正案は明日7/17に参議院を可決成立の見通しとのことで、大詰めを迎えています。

今回は、この皇室典範の改正案についての私見を垂れ流すのですが、奇特にも閲覧してくださる方に予め当方の偏見を明示しておきますと、この問題に関しては、私は前回の記事にいう「超人格主義(文化主義)」を基に、皇室の伝統を優先する立場を採ります。

長期間の努力により維持されてきた伝統を、現在の国民のみの料簡で不可逆的に変更することは、慎重でなければならないと解するからです。

 

ともあれ、今次改正案の骨子は、

①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにすること(配偶者や子は非皇族)

②1947年以前の旧宮家(旧皇族)の男系男子を養子として迎えることを可能にすること(養子自身は皇位継承資格なし)

の2点を主な柱としています。

 

この改正の目的は、減少する皇族数を確保するためと説明されていますが、より本質的な狙いは、「皇位継承資格者の確保」にあることは明らかです。

②において、旧皇族の男系女子を養子として迎えることを想定していないからです(単なる皇族数の確保が目的なら、認めてもよいでしょう)。

皇位継承資格者の確保を目的として明示せず、(公務を分担する)皇族数の確保(=現皇族の負担軽減)を正面に据えたのは、(男系)女性天皇を認めたいと考える論者も取り敢えず賛同できる案とすることにより、「立法府の総意」を確保したいとの思惑があったのだろうと推察されます。

その結果、養子に男児が生まれた場合は皇位継承資格を持つという当然の解釈(これは皇室典範1条により明らかであり、新たに規定を設けたわけではありません)に対し、「立法府の総意には含まれない」などという言い掛かりを生むことになりました。

換言すれば、「総意」に過度にこだわったことが、議論を歪めたと言っていいでしょう。

というわけで、国会・政府の立場に関わらず、以下は「皇位継承資格者の確保」という観点からの議論とします。

 

 

今次改正案の個別内容を検討する前に、この皇位継承資格者問題に余計な混乱を生んでいる用語法の問題について整理します。

皇室典範1条は、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」と規定しています。

ここに「男系」とは、大雑把に言えば、男性であれ女性であれその方の父親→その父親→そのまた父親……と系図で父親を遡ると、共通の祖先として最終的に初代の天皇にたどり着くことを意味することはよく知られています。

皇位継承資格が認められるのは、この皇統の男系に属する者であって、それ以外の者―女系であろうが太陽系であろうが大脳辺縁系であろうが―には認められません。

つまり、皇位継承資格の基準となるのは、皇統に属する男系か、それ以外かであって、男系か、女系か(さらには皇統に属しないそれ以外か)ではないはずです。

ところが、男・女という対は、いかにフェミニストが否定したがろうと人類の発想の根底に根差しているらしく、「男系」といったら反射的に「女系」という言葉が圧倒的な勢いをもって想起されてしまい、その結果、男系(天皇)・女系(天皇)という対が生じてしまいました。

そもそもこれが議論の混乱の元になりました(男系・女系を父系・母系と言い換えても混乱は根本的には変わりません)。

しかも、この男系・女系という対が、男性・女性という対と連動すると、混乱はさらに極まり、世に「女性天皇と女系天皇の区別もついていない」混乱した議論を生み出してしまいました。

少し落ち着いて考えれば整理できるように、男系男子、女系女子だけでなく、男系女子、女系男子という組み合わせも存在し、男系継承論者の中でも、男系女子の皇位継承を肯定するか否かは別の問題であるはずです。

しかし、男系・女系と男性・女性の混乱が、「男系女子」という存在を気づきにくくした結果、男系継承のみを主張すると、論理必然的に男系女子皇族(例えば敬宮愛子内親王殿下)の皇位継承を否定することになるかのように勘違いされている懸念があります。

また、この男系・女系と男性・女性の混乱が、男系継承論者が10代8人の女帝の先例(全て男系女子です)を無視しており、自己の主張のために事実を曲げるないし単なる男尊女卑を敢えてすると勘違いされている懸念もあります。

私見ではこの2つの勘違いは、今次改正案に対する最大の感情的反発の元になっていると思われます。

 

 

さて、私は本記事の冒頭で、自らを伝統主義者であると措定して論を進めると明示しました。

私見では、ここで優先すべき皇室の伝統とは、「皇統に属する男系の者による継承」であると考えられます。

男性であれ女性であれ男系による以外の皇位継承は例がなく、したがって男系以外の継承を認めることは従来の伝統の変更を意味し、これを変更すること自体、肯定派と否定派の深刻な争いが生じることにより、皇位の正当性(血縁カリスマ性)を不可逆的に深刻な程度に毀損すると解されるからです。

この皇室の伝統(憲法慣習といってよいと思います)を考慮に入れて憲法の条文を解釈するなら(条文が抽象的な憲法の解釈というのはそういうものです)、憲法2条「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」にいう「世襲」は国語辞典的な「血縁による継承」よりも限定された、「皇統の男系継承」と縮小解釈すべきことになります。

この「世襲」は、条文の規定から分かるように立法裁量を制限する憲法上の制約であり、この解釈を前提とすれば、皇統に属する男系以外の者(男子だろうと女子だろうと)による皇位継承は憲法2条に違反すると解されます。

 

 

というわけで、女系天皇(男性だろうが女性だろうが)は論外としても、男系女子の皇位継承についてどう考えるべきでしょうか。

上記のように皇室の伝統=男系継承と解すれば、男系女子の皇位継承は、この皇室の伝統の範囲内ではあります(上記のように10代8人の先例があります)。

したがって、現在の皇室典範1条は、皇位継承者を皇統に属する男系の「男子」に限定していますが、これを改正して男系女子の皇位継承を認めても、立法裁量の範囲内で憲法上は許容されると解されます。

(戦前の皇室典範を継受した)現行の皇室典範が皇位継承資格を男子に限ったのは、明治維新以降、天皇は軍の大元帥になる前提があった(なお、明治天皇のご意向で戦前は皇族男子は全て軍人になることになっていました)という歴史的経緯が付随するものの、基本的には「従来原則としてそうだった」という伝統が大きいでしょう。

そして、(祭祀の面は別として)世俗面でその伝統の最大の根拠は、女帝(男系女子)の配偶者(人臣男子)とお二人の子の位置付け、特にお二人の子(男子であろうと女子であろうと皇統に属する男系ではない)の皇位継承資格をめぐる紛争が生じると我が国全体が大混乱になる(今上帝の子ではあるので周囲を巻き込んで大騒動になる危険性大)、という政策的判断であったと推察されます。

(おそらく)そういった紛争を未然に防止するため、実際の男系女子の女帝は、天皇を含む男系男子皇族の配偶者が未亡人となったケースでなければ生涯未婚であることを余儀なくされています。

しかし、前者は偶然の結果ですし、後者は現代では人道的にとても要求できない上、皇位継承資格者の増加に何の影響もないことになります。

したがって、現在、男系女子の皇位継承は、原理的には許容されるとしても、避けた方が政策的に適切でしょうし、皇位継承者を男子に限定している現行の皇室典範1条も、憲法上許容されると解されます。

 

 

そこで、今次改正の骨子①・②についてですが、その目的が(公務を分担すべき)皇族数の確保にとどまるのであれば、各々1つの無難な方法に過ぎません。

したがって、政府・与党にとどまらず、これらの案に否定的な論者も、実は事の本質は皇位継承者の確保であることは分かっているはずです(「立法府の総意に反する」と政府を攻撃する(だけ)のために、分からないふりをしている者はいますが)。

そこでその皇位継承者の確保の観点から今次改正案を検討しますと、
 

➀は配偶者・子に皇族資格を認めない限り1代限りのことであり、したがって、皇位継承者確保という観点からは、敢えて言うならば末節のことです。

ただ、今後も配偶者・子の地位・待遇が問題になりそうなほか、もし子に皇族資格を認めた場合、男系でないので皇位継承資格がないのは明白ですが、これを変えようとする紛争が生じかねず(特に子が優秀な場合)、男系継承が危険に瀕する可能性があります。

とはいっても、配偶者の一方が皇族で他方の配偶者と子が皇族でない、というのは異形な家族です。

双方勘案すると、①は規定しないのが一番適切な印象ですが、当面の皇族人員確保のためどうしても必要であれば、配偶者・子を皇族としない現行改正法案の方向が無難でしょう。

 

一方、皇位継承資格者の確保の観点からは、今次改正案では②が本質であることは、旧皇族からの養子の要件を男子に限っていることから伺われます(皇族数の確保であれば男系女子の養子を認めた方が数を確保できるでしょう)。

養子案に批判的な立場からは、現皇室との親等の遠さを云々する向きもありますが、「天皇」という伝統の存立基盤としては男系継承が本、親しみは末とみるべきで、大きな問題ではありません。

そもそも、「現在の」国民の親しみを過大視するのは、過去・現在・未来を通じて一貫する制度を論じる際には、敢えて言うならば近視眼に過ぎるでしょう。

ただ、今次改正案が養子の要件を15歳以上としているのには疑問があります。

公務を分担する皇族数の確保という観点からはある程度の年齢に達していた方が適切なのかもしれませんが、皇位継承資格者の確保の観点からは、むしろ幼児期から養子に迎えて教育した方が適切でしょうから、年齢に下限を設けない方が優れた制度設計でしょう。

ただ、その場合、今次改正案では養子自身の皇位継承資格を否定しているので、幼時から迎えられた養子が成長後この点に不満を抱くことなどがないか気にかかるところです。

 

 

最後に私見からの結論をまとめます。

1 皇統に属する男系の男女以外の者の皇位継承は皇室の伝統に反し、認めるべきでない。

2 1を前提とすると憲法2条「世襲」は皇統に属する男系継承と縮小解釈されるべきであって、それ以外の者の皇位継承は違憲。

3 皇統に属する男系女子の皇位継承は、伝統的にも憲法上も許容はされると解されるが、安定的な男系継承の維持の観点からは適切でない。

4 今次改正点のうち、①女性宮家の件は、伝統的に可能であろうが、配偶者及び子を巡って(特に皇族とした場合)紛争が多発する恐れがあり、適切でない。女性宮家を設ける前提なら現行改正案は相対的に無難。

5 今次改正点のうち、②旧皇族養子の件は、皇位継承資格者の確保の観点からは適切な策と思われるが、養子の年齢制限の下限(15歳以上)は撤廃した方が適切。

  なお、養子の男児が皇位継承資格を有することは当然の帰結である(養子自身の皇位継承資格の否定は例外扱い)。

 

結論的には、公党の主張の中では日本保守党のそれに近く、党幹部にいい印象がない私としてはいささか鼻白む思いなのですが、どうせ一布衣の私議ですから背負うのはやめましょう(笑)。

相当長くなってしまいましたが、国会で明日採決の見込みとのことで、強行してしまいました。

奇特にも最後までお付き合いいただいた方はありがとうございました。