
このひと月、いろいろなことが起こり、少し書くことから遠ざかっていました。
その間に進んでいた稲の苗のための仕事。
苗の田んぼで、昨日、稲のとても小さな芽がそろって発芽してきました。まだその長さは1ミリほど。
そんな姿は、これからの田の事に向かう力になってくれます。
遡ると、3月中旬。
お米の種の用意にかかります。
昨年の田んぼで一番充実した実りを別にわけてあります。
その中から、さらに重い籾(もみ)だけに選抜します。
その方法は先人の知恵。塩水を使ったものです。
1kgもの塩を入れた濃度の高い塩水の中に籾を入れて、
それでも沈む重いものだけを選んでいきます。
ざっくり3割ほどが残ります。
さらに、残った籾を雑菌から守ります。
植物は発芽する時が一番無防備なため、まわりに雑菌がいると浸食されやすくなります。
これを防ぐ方法が、低温殺菌。
よく低温殺菌牛乳とか目にしますね。
あれと同じで、60℃の温水に10分間浸けて殺菌します。
ところが、この温度をキープするのがとても難しくって。
高すぎると籾にダメージを与えるし、低すぎれば効果が無いし。
容器の大きさと、浸ける籾の予温を工夫しながら。
それにしても、60℃は人間は手を浸けれないほどの温度。籾はよく耐えてくれます。
そしてこの日から、まだ冷たい水に浸し始め、ゆっくりとお米の種が目を覚まし始めます。
毎日、水を替えて酸素を補給して三週間。
やがてもみは胚芽を膨らませてぷっくりしてきます。
発芽まであとわずか。このタイミングを見極めて水から上げます。
目で見てわかるほど発芽させてしまうと、このあとの作業でその大事な芽を傷つけてしまうので、この時期を見逃せません。

どうしてこんなに3週間もの時間をかけて発芽させるかと思われるかもしれませんね。
もちろん25℃以上の室温ほどであれば数日もかかりません。
でも、このあと苗たんぼで育てるときの朝はまだ、氷も張る日もあるほどの寒冷地。
ゆっくりと外の環境に近いリズムで目覚めさせることが必要だと考えています。
そんな寒い朝も耐えて丈夫に育つ稲になってもらいます。

先週からいよいよ種まき。
こんな直径2センチの専用のケースに種もみが収まっていきます。
このひとつずつの円柱の底には小さな穴が開いていて、
発芽して数日も経つとそこから田んぼに直接根を伸ばしていきます。

これを苗田んぼに並べて水を張ります。
田んぼの土はゆるゆる。でもまだ、体は春の仕事が始まったばかり。人間もこの春の仕事で体も目覚めていきます。
運ぶときはまるで障害物競争の気分で、田のあぜ道を登り、下り、そろりそろり。
コケてひっくり返さないように慎重に。

これから約40日。朝晩水を切らさないように見守っていきます。
