春から、水を切らさないように毎日気を使っていた田んぼなのに、
秋を前に今度は水を抜く頃がやってきました。

田んぼは一枚一枚、場所によって日当たりや水はけなどの条件が違います。
ここは山際のなかなか乾きにくい田んぼ。

10月に入って稲刈りをする段になっても、
地面がぬかるんでいて、稲刈機のタイヤがはまってしまいます。

人が歩いても沈むようでは、刈り取った稲穂に泥をつけてしまったり、なかなか大変な作業になります。


そんな田んぼは、こうして周囲に掘りを作ります。
すると、大雨が降っても堀を伝って早めに雨水が抜けてくれるので
乾きやすくなってくれます。

最初のころは、そんなに深く掘らないのだからと、ほぼ水がなくなった状態で鍬を振っていました。
ところが、湿った土。

 

想像以上に鍬に張り付いて重くって!
一周するころにはヘロヘロになったのを覚えています。

なので、今は水がある内にサクッっと作業しています。





おもしろい出会いもあります。
土の中にしっかり潜っていたドジョウを起こしてしまいました。
彼らはこの中で、春にまた水を張るまで生きていけると思うと不思議です。
じっと見ていると、頭からまた泥の中に潜っていきました。

 





山際の栗もすっかり大きくなってきています。
もう一か月もすると落ちてきてくれるでしょう。

少しづつ、すこしづつ、田んぼの稲が秋色に近づいていきます。





 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッと、
それまでストローに押し込められていた粒。
見えない力で昇っていきます。

種まきから4ヶ月。田んぼでは出穂が始まっています。

今年も酷暑となった8月でしたが、
稲にとっては恵みの暑さ。水が連日暖められて成長の進んだ、田の奥の方から順番に穂を出していきます。



稲穂は数時間もすると、小さな白い花をつけ始めます。
朝にはその姿で見かけるので、
逆算すると、茎を破って昇っていくのは、きっと夜。

雨風が強ければ受粉がうまくいかないように思うので、
「今日は、晴れる!」と感じたら
生まれてくるんだろうな。



 

 

 

花をつけるのは稲ばかりではありません。
茎もとを見ればご覧の通り。









手強い雑草「コナギ」が蕾をつけようとしています。

これが増えたらお米の収穫量が減ってしまう大敵とされていて、
一般的には除草剤を使って決して生やさないようにします。


でも、自然栽培。
1本も生やさない覚悟で、6月、7月に除草作業をガンバるのには
体力の限界もあります。


今年は少し考えてみました。


そもそも広い田んぼ。
稲だけが育つなんて、何か違和感を感じます。

草も生えて当たり前。

その中で、栽培種の稲が少し優勢に育つには
どんな草の生え方なら稲に影響が出ないんだろう。
人が最低限度で手を貸す方法をみつけたいと。

そんなことを考えて、6月の末、少し大きくなってきた草を見ながら
あえて取らずに残す場所をつくりました。


それから2ヶ月。稲の株もとはこんな状態。

 

 

稲と稲の間の通路はキレイなままで、

 

 

一方の稲の株元には小ぶりな「コナギ」が生えています。

が、稲は健康で、元気に穂を出してくれています。
もう少し、時が進んで、一穂の重さを見ないと結果はわかりませんが今のところはこの方法で大丈夫そう。

草を残しすぎれば、稲の成長が鈍化してしまう両刃の方法ですが
何年か掛けて経験を積んでいけば、「草」を怖がらないでゆったり見れるかもしれません。


 

稲とコナギも同じ植物。

動くことのできない植物は、お互いに生存競争に必死になります。
根から、相手の根が自分の陣地に伸びないように植物ホルモンを出して守ったり。

稲にとっての健全なストレスであれば、やっかいな「コナギ」は、逆に、稲の健全な成長を促してくれる存在なんだと考えています。




 



 

 

 

 

 

 

 

 

まもなく穂を出す、背の高くなった稲。
その葉先には、頼もしい味方が陣取っています。

器用に葉を曲げて、袋状の住居をつくり、昼はその中で一休み。
夜、一面に網を張って仕事をしてくれます。

見渡すと隣の株にも、またその隣にも。よっぽどエサが来るのかな。



自然界はバランスです。 
稲に害を与える虫だけが増えることはありません。

葉を食べられたり、吸われた穂が少しだけ色着いたりすることもありますが、バランスのおかげで大きな害にならない範囲で済んでいます。


この農業をやってみなければ、分からなかったことは多いです。

例えば、一般的に畑の野菜へのアブラムシの被害はよく聞くものですが、
無肥料で育てるとその被害をほとんど見たことがありません。

虫は茎葉に含まれる余分な窒素成分が大好き。
ところが、そもそも肥料を与えていないので余分にありません。
食べ過ぎてメタボになってないから虫も大量に寄り付かない!

田んぼの稲も同じことが起きているのだと思います。

多くの収穫のためにと、肥料を使えば、
殺虫剤が必要になって。

薬剤に耐性をつけた虫が現れた時には、
守ってくれる捕食者はもうそこにいません。



90年代後半から新たに使われ始めた種類の農薬は負の側面が大きいです。
まだ被害も受けない田植えの時から、
苗に粒を振りかけるだけ。たったそれだけの作業で、
収穫までの数か月の間、茎葉を食べた昆虫の神経伝達をできなくさせます。

いつのまにそんな最強の薬剤が一般的になってしまったのだろう。

トンボやミツバチも数を減らしています。
害虫だけでなく、エサとなる昆虫全体が減ることで、
食物連鎖の爬虫類や野鳥にも影響を与えてしまいます。


使い終わって、環境に出ていった化学物質が、回りまわって、
私たちや将来の私たちにどんな影響を与えるのか。
警告する声も多く出ています。
ヨーロッパを始めとして規制をかける国も多くなっています。

薬剤を売る側も、使う側も、そして食べる側も考えなくてならないことだと思います。




 



 

 

 

 

 

 

 

 

長い梅雨で水温の上がらなかった7月。
稲の成長は例年よりも遅くなっています。

 

もともと自然界の営みで栄養を分けてもらっている栽培なので、
気象も含めてその年のありのままを受け入れて、
例年と比べて憂うこと自体が意味のないことかもしれません。

 

でも、心配してしまうのも人間。
 

そんな時にホッとさせてくれる風景に出会えるのも7月でした。

朝早く、畔を歩くと、羽化したばかりの、まだ、飛び慣れないトンボたちが

あちこちの草むらにつかまっています。

足音に驚いて精一杯の羽ばたきを見せます。

 

アキアカネや、イトトンボ、ゲンゴロウにミズカマキリ。

多様な生態系ともつながっているのが稲。

 

 

梅雨も空けて、日に日に太くしていく茎を伝って、
今年もアキアカネたちは無事に育っていきました!




 



 

 

 

 

 

 

 




 

田んぼの水際が賑やかになってきました。5月に水を引き入れてすぐにカエルたちは卵を産みます。
人間が土を柔らかくしても、田植機が踏んでも平気。
生まれたばかりのチビたちは畔のまわりに潜みます。畔のすぐ脇を歩くと驚いて飛び出てきて!
上陸して草むらに移動するまでの、今だけ見かける光景です。

 

 

今月、ようやく、水草を抑える仕事に目処がつきました。

発芽したか、しないかの一瞬のタイミング。その日を狙って、鎖の輪が繋がったチェーンを引き歩くことから始めます。
上手く発芽のリズムに合わせれば、かなりの発芽を抑えることができます。

それでも、水草の種は多いです。こちらの思うようにはいきません。



これはオモダカの葉。発芽のリズムが一定ではなくて、
後から後からダラダラと生えます。
そのため初期除草に失敗すれば、こんな大きな茎が、1本の稲の周りに数十本も成長してしまいます。

さらに直径1センチの球根で毎年発芽して、地下茎でどんどん数を増やすクアイも潜んでいます。
これは多年草のため、こちらが一息つく7月に入ってから水の中から顔を出してきます。
数を増やしてしまったら大変。
深く、深く埋まる球根を探し、腰をかがめて手で抜いていきます。



年々、種類ごとに、草の抑え方もわかってきたといえ、
まだまだ試行錯誤の途中。生える草の種類ごとに経験していくしかありません。

それでも、一般的には除草剤を使うことが常識のように思われている中で、使わなくても、大きく生やさずに済んでいるここ数年。

 

やっと少しずつ自信になってきました。


使わなければ、良いこともあります。

一つは土の微生物は元気でいること。
除草剤は、土の1センチにその膜ができます。そこは、稲と共生する微生物が住む大事な場所。確実に彼らは減ります。
いなくなれば自然栽培で稲は育ちません。


もう一つ大事に思うのは環境への影響です。
投入した除草剤。役目を終えた成分の化学物質は水とともに地下に浸透していきます。そしていつしか河川に溶け込んでいきます。
1枚の田んぼに使う量は数キログラムであっても、全国で、この時期に使われる量はとても大きな量となるでしょう。


稲が大きくなってから生えた草はそれほどの影響を与えません。
安易に頼らずに、初期に抑える技術の習得は必要なことだと思います。





共生で育った稲は必ず見返りをもたらしてくれます。

人間が与えることのできない、自然の栄養がたくさんつまった実りです。


 

海にも川にも、すべての生き物に優しい。生まれてきたばかりの、まだしっぽの残るカエルたちの姿に、草取りの疲れが少し癒されました。