2024年日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

主人公は黒猫。猫は九回、その生があるという。その最後の生に、田舎の神社の床下で生まれた。兄弟と母親が人間の家にいってしまってからも、かたくなに残った。前世での苦しい生を思いだし、人間に近づくのを拒んでいたが、やがて一人でいることにあき、町へ出掛ける。そこで出会ったのが古本屋北斗堂。常時数匹の猫がいる店。客はあまり来ないのに、閉店にもならない。

店主は魔女と呼ばれる独り身の女性。

最初はその店にいくのも拒んでいたが、常連である小学生女子と知り合ったり。店の猫に説得されて、ついには店にいつくことになる。

魔女と呼ばれる店主は実は本の神様だった。天界で物語をつむぎ、人気を博していたのに、人間界に刺激され、一度だけ挫折し、物語を拒否してしまった。その罰として、彼女は北斗堂に縛り付けられ、自身では物語を紡ぐことを禁じられ、人間が作り出す物語を守っていくことになった。店には、前世で文豪に愛された猫たちがやってきて、彼らと話す能力を与えられた店主は、文豪の話を聞くようにされた。生活に困らぬだけの売り上げがされるようにされ、売れた本の補充はいつの間にかなされている。

前世の一つ一つを思い出しながら、店に馴染み、いつしか店猫にまでなった黒猫。実は夏目漱石に飼われたことを誇りに思う黒猫は、勝手に金之助と名乗っていたが、結局誰にも打ち明けることなく、死んでいく。

常連の本好きな小学生円ちゃん、やがて小説を書き始め、作家になることを夢見る。しかし、父親がなくなり、生活が苦しくなったことから、将来が不安な作家になることを母親から禁止され、中学生になると、悪友によりぐれて、古本屋にも姿を見せなくなった。

心配したクロは、店主に自らが口述した物語を小説として書かせて、円に読ませることで、作家になることを思い出させる。

生が終わるとき夢を見るという。楽しい夢を。クロが見た夢では、神様から極楽へいく切符を渡されるも拒否して、円を立ち直らせたことで、店主の罰はもう済んでるはずだと、神様の介入を拒否する。誰でも自由に物語を紡いでいいはずだと。

富岡製糸場ができた明治五年に、東京で大火が起きて、銀座辺りが焼きつくされた。その火は築地にあった日本で最初の西洋式ホテルにも飛び火して燃やした。

その焼け跡から火事以前に刺殺されたと思われる死体が見つかる。

主人公はイギリス人のカメラマン、ベアト。十九世紀の後半各地の戦争などを取材して有名になった。そのベアトは今は横浜で写真館をやりながら、取材もしている。そんな彼には英語を教えている生徒、東次郎が通っている。もとは旗本の子だったという彼をつれて、姉の小絵が頼みに来たのを断れなかった。商人に囲われていた彼女は、弟に一人立ちさせる手段として、英語を学ばせようとした。

ある日、東次郎が、築地ホテル炎上の新聞を見せたことがきっかけで、ベアトは取材にいくことに。

現地につくと、警察官になかにはいるのを止められてしまう。何かがあるのか?

そこに通りかけた司法省の高官米倉警視により、取引を申し込まれる。取材を許可する代わりに、取材内容をすべて報告し、さらに殺害犯の捜査もしてもらいたいと。こうして、ベアトは宿泊していた西洋人たちや従業員の日本人たちに聞き取り捜査を行い、容疑者を特定しようとするもうまくいかない。ヒントらしきものは聞いても、事件全体と結びつけない。

被害者のもとに訪れていた幕臣の妻女。その夫が、切腹して第一部は終わるが、第二部では新たな証言を得て、捜査は進展する。

第一部と第二部では時代背景が違う。

明治四年に、日本の不平等条約を改善すべく、政府の要人たちは岩倉卿を全権大使とする米欧巡遊使節として日本を離れていた。彼らが帰国するまで新たなことをするなと言われていたにも関わらず、薩摩や長州出の要人に頭を押さえられていた佐賀藩出のえとうしんぺいが司法卿として、新たな施策を行う。米倉は江藤の手下だった。

数年は帰国しないはずだった岩倉卿が、アメリカの手厚いもてなしにより、条約改正も早くなるかもと誤解して、急遽帰国したことで、江藤のもくろみは潰える。西郷隆盛らの征韓論が敗れ、彼らが政府から下野して、新たに内務卿となった大久保から粛清されようになる第二部。

小絵が米倉に呼び出され、徳川家にゆかりが深い増上寺に呼び出され、刺し違えて死ぬ。ベアト宛の遺書が残されていて、ホテルでの殺害犯が小絵だったとわかる。それによって、ベアトは事件の全貌を推理することができた。


良質な生糸を大量に製造して輸出し、外貨を得て、国富に寄与すべく、明治五年に政府が群馬県富岡につくった富岡製糸場。

翌年、軌道に乗りつつあった製糸場を皇太后と皇后が、視察に来る直前、製糸場ないで奇妙な事件が起こる。

工女の一人が蒸気ボイラーの燃料となる石炭の貯蔵所内で、喉を刺殺されて死んでいるのが見つかる。しかし、出入り口には内部から閂がかけられて密室状態だった。では自殺かと思えば、凶器は見つからず、血まみれの床には何者かの靴あとが残っている。

発見者は夜中にトイレから帰った第一工女の尾高勇だった。設立当初、付近の住民からお雇いの外国人フランス人が飲むワインを血液だと勘違いして、工女の生き血を飲むと思われ、募集はすれど工女が当間らなかったとき、工場長の尾高は、我が娘に頭をさげて、工女にした。今では三百人もいる工女だが、その素性は明治維新により落ちぶれた下級藩士たちの子女が大多数だった。

仲良しの工女、たえのトイレからの帰りが遅いのを不審におもい、探しに出て、石炭小屋からみえる明かりに気がつき、なかを覗いて、悲惨な状況から悲鳴をあげ、駆けつけたものにより扉を壊して開けて、事件が発見される。

最初は今で言う所轄の富岡屯所の警官により捜査が始まるが、自殺か他殺かはっきりしない。

折しも反政府グループが何事かを画策していると言われているときだし、皇太后皇后視察前ということで、司法省警保寮より捜査官が派遣された。桐野警部。

最初はなかなか捜査は進まないが、その最中にも製糸場内では様々な動きが。

工場長たる父親を陥れるような手紙が見つかったり、死んだたえの最近の奇妙な様子や、同室していた二人の工女の気になる態度などを考えつつ、勇は独自に調べ始める。

そして、ついに事件の真相にたどり着いたのは視察前夜、富岡の工女が刺殺された死体が見つかり、騒動を起こした住民らが製糸場を取り巻いた頃だった。

父親が住民をなんとか説得して、暴動を止める。

父親の後がまを狙った大臣の親戚の見習いの陰謀と、反政府グループが仕掛けようとした爆弾襲撃を見事に防いだ勇の名推理。

時代といい、場所といい、ミステリーなんかになるかと想いながら読んだが、意外と楽しめた。さすが翔田さんと言うべきか。