良質な生糸を大量に製造して輸出し、外貨を得て、国富に寄与すべく、明治五年に政府が群馬県富岡につくった富岡製糸場。
翌年、軌道に乗りつつあった製糸場を皇太后と皇后が、視察に来る直前、製糸場ないで奇妙な事件が起こる。
工女の一人が蒸気ボイラーの燃料となる石炭の貯蔵所内で、喉を刺殺されて死んでいるのが見つかる。しかし、出入り口には内部から閂がかけられて密室状態だった。では自殺かと思えば、凶器は見つからず、血まみれの床には何者かの靴あとが残っている。
発見者は夜中にトイレから帰った第一工女の尾高勇だった。設立当初、付近の住民からお雇いの外国人フランス人が飲むワインを血液だと勘違いして、工女の生き血を飲むと思われ、募集はすれど工女が当間らなかったとき、工場長の尾高は、我が娘に頭をさげて、工女にした。今では三百人もいる工女だが、その素性は明治維新により落ちぶれた下級藩士たちの子女が大多数だった。
仲良しの工女、たえのトイレからの帰りが遅いのを不審におもい、探しに出て、石炭小屋からみえる明かりに気がつき、なかを覗いて、悲惨な状況から悲鳴をあげ、駆けつけたものにより扉を壊して開けて、事件が発見される。
最初は今で言う所轄の富岡屯所の警官により捜査が始まるが、自殺か他殺かはっきりしない。
折しも反政府グループが何事かを画策していると言われているときだし、皇太后皇后視察前ということで、司法省警保寮より捜査官が派遣された。桐野警部。
最初はなかなか捜査は進まないが、その最中にも製糸場内では様々な動きが。
工場長たる父親を陥れるような手紙が見つかったり、死んだたえの最近の奇妙な様子や、同室していた二人の工女の気になる態度などを考えつつ、勇は独自に調べ始める。
そして、ついに事件の真相にたどり着いたのは視察前夜、富岡の工女が刺殺された死体が見つかり、騒動を起こした住民らが製糸場を取り巻いた頃だった。
父親が住民をなんとか説得して、暴動を止める。
父親の後がまを狙った大臣の親戚の見習いの陰謀と、反政府グループが仕掛けようとした爆弾襲撃を見事に防いだ勇の名推理。
時代といい、場所といい、ミステリーなんかになるかと想いながら読んだが、意外と楽しめた。さすが翔田さんと言うべきか。