ぼくは、今、新しい境地に達しようとしているニャ。マンチカンダンスを、横にスライドしながらできるようになりそうなんだニャ。あと、もう1歩のところニャ。ぼくが広場で練習を重ねていると、広場の真ん中で噴水が勢いよく噴き上がった。そのてっぺんに、よおく見ると猫のようなものがいる。ただし、よおく見ないといけない。なぜなら、その猫は透明な体をしているから、ほぼ水に同化しているのニャ。ぼくは、その猫をよく知っていた。名前は、すい。1度ギャザリングしたことがあるし、他のギャザリングの時には重要な手がかりをくれた。すいが挨拶をする。ぼくにではニャい。噴水に近づくペルシャ猫にだった。「にゃー、そこへゆくのは、ななしろにゃ?」ペルシャ猫は、ぼんやりとすいを見上げる。月明かりに照らされた瞳は、左右で色が違っていて、たしかにななしろだった。ななしろは、ペルシャ猫のようであって、どこかペルシャ猫ではない。おそらく迷い猫だと思うんだけど、本人は自覚はないみたいニャ。ななしろは、ゆっくりと首を傾げる。「はて、誰じゃったかの?」「ぼくにゃ。すいにゃ。」「はあ、すいさん。こんばんにゃ。」「こんばんにゃにゃ。あ、後ろにいる白猫は、たしかはんぺんだったにゃ。」すいが言うと、ななしろはこれまたゆっくりと振り向いた。ななしろの後ろには、ふっくらとした体つきの白猫が歩いていた。ぼくも見覚えのある猫だけど、はんぺんって名前じゃニャかったような気がするニャ。白猫は怒って答えた。「はんぺんじゃないにゃ。おもちにゃ。」おもちはずんずんと進んで、噴水に入っていく。ななしろが驚いた。「おぬしら、猫のくせに水を嫌がらないなんて、珍しいのぅ。」おもちは、バシャバシャと水浴びをしながら叫ぶ。「にゃー!ぼくは飼い猫にゃー!飼い猫は、飼い主からいつもシャワーを浴びせられるにゃー!水を怖がって、飼い猫なんかやってられないにゃー!」それはそうニャ。ぼくもスライドマンチカンダンスの練習をやめて、噴水に向かって駆け出した。
バッシャーン!ぼくが噴水に飛び込むと大きな水飛沫があがり、キャッと短い悲鳴が聞こえた。ぼくはずぶ濡れの顔を、悲鳴のあがった方に向けた。灰色の虎柄をしたメス猫が、ぼくを睨んでいた。「ちょっと、気をつけてちょーだい。水がかかったわよ。」「あ、オリヒメ。ご、ごめんニャ。」ぼくは、素直に謝った。オリヒメは、ぼくよりずっと年上のメス猫で、怒らせると怖いのニャ。たしか、スコなんとかのミックスなんとかで、今は野良猫だったはずニャ。バシャバシャバシャ。大きな水音を立てて、すいがぼくの横にやってくる。「オリヒメ。水の中は、気持ちいいにゃ。ほら、入るにゃ。」「いやよ。絶対いや。ああん、もう。毛並が台無しになるから、近づかないで。ねぇ、今日のギャザリングのメンバーは、これで全部かしら?なら、早く始めましょ。お願いしたいことがあるの。」ぼくはモカが来るようなことを話していたのを思い出し、「まだ、モカが来てないニャ。」と言った。すると、すいが「モカはさっき来て、今日は気分が乗らないからサボるって言ってたにゃ。」「ニャ?サボりニャ?」「サボりかぁ。」「サボりのぅ。」みんな、モカを知ってる口ぶりだった。気分で来ないなんて、モカは実に猫らしい猫ニャ。「じゃあ、行きましょ。目的地は、団地よ。」有無を言わせない感じで、オリヒメがぼくらをギャザーさせた。団地に移動すると、ぼくは夜の気配が濃くなっていくのを感じてルンルンになった。おもちは、団地の住人に撫でられてゴロゴロと鳴いている。しかし、すいとななしろは散々だった。すいはゴミ置き場に侵入したら、途端に鍵をかけられて閉じ込められてしまった。ななしろは別の猫に間違えられて、因縁をつけられている。すいはゴミ置き場の中で土管を見つけて、入ってみることにしたらしい。ななしろは回り道をしてくるのじゃと言って、1度団地から遠ざかった。ぼくは2匹が戻ってくるまで、団地の高い所にのぼって、みんニャを見下ろすことにした。夜風が気持ちいいニャ。
ぼくが見下ろしていると、横に設置されていたパイプから水がゴポッと出てきた。と思ったら、すいだった。「あ、ムクにゃ。ゴミ置き場の土管が、こんなところにつながっていたにゃ。」すいはゴミ置き場から抜け出せたことがよほど嬉しかったのか、ぼくの顔に水っぽい肉球をペチャペチャと押し付けた。ぼくが一緒になって喜び合っていると、下では回り道から戻ってきたななしろがオリヒメに直接尋ねていた。「オリヒメさんや、あんたどこに行きたいのかね?」さすが、ななしろニャ。みんニャがなんとなく避けていた質問を、ド直球で聞いたニャ。オリヒメは、うふふと笑いながら答える。「えー、そうねー。じゃあ、秘密だよー。実は、ごにょごにょ。ごにょごにょ。ごにゃごにゃ。」「ほうほう。ほうほう。にゃるほどのぅ。」ぼくとすいはじゃれ合うのをやめて、急いで下に降りた。おもちも団地の住人に可愛がられるのをやめて、集まってきた。待っていましたとばかりに、ななしろがニャラティブを始める。「オリヒメはのぅ、あるヒトの青年に会いたいらしいのじゃ。その青年はのぅ、1年に1度、この町を訪れるらしいにゃ。そのたびに、オリヒメは青年からエサをもらっていたにゃ。今日は、どうやらその日らしいにゃ。なんと言ったかのぅ。あの昔のナワバリに来ると、懐かしくなるのぅ。そんな感覚を、青年はもってるらしいのぅ。」オリヒメが、もう秘密だって言ったのにーと鳴いている脇で、ぼくらは考えた。オリヒメの言葉はななしろを責めてはいたが、感情はなぜかウキウキしていた。3匹は、同時にわかった。共有させることができたので、ななしろが猫語を作る。「母をたずねるが良いでしょうにゃ。」ここで急に、昂る気持ちを抑え切れなくなったオリヒメが、ニャラティブを始めた。どうも、自分の感情を彼女自身もわかっておらず、コントロールできていないようニャ。「なんだろう?あのヒトに会えると思うと、胸がドキドキするの。今までは、こんなことなかったの。だから今夜は、みんなに一緒に来てもらったのよ。ねぇ、この気持ち、なんだかわかる?」珍しい質問系のニャラティブニャ。
これは、もうみんニャわかったニャ。ニャラティブをするまでもなく、オリヒメのソワソワを見ていればわかるニャ。おもちがズバリ言った。「ヘンにゃ。オリヒメは、そのヒトの青年にヘンしてるにゃ。」「え?そうなの?この変になりそうな気持ちは、ヘンって言うのね。私、あのヒトにヘンしてるのね。ありがとう。やっと、わかったわ。」オリヒメもみんニャもすっきりしたところで、その青年の家に行くことにニャった。みんなで、にゃあにゃあ鳴きながら、窓から家の中を覗く。中では4人の人間が、テーブルを囲んで食事をしていた。オリヒメが言っていた青年らしきヒトと、青年のお父さんとお母さんらしきヒト。そして、青年の隣に若そうな女性のヒトが座っている。その女性は、ことあるごとに青年に腕を組んだりして、明らかに甘えている様子だった。ぼくらは、そーっとオリヒメの方を窺った。オリヒメの表情は強張っていて、顔色も青ざめていた。「にゃ、にゃによ!あの女!」オリヒメはショックでこれ以上見ていられないという感じで、どこかに去っていってしまった。ぼくとななしろは途中まで後を追いかけたが、見失ってしまう。ぼくらが戻ってくると、おもちが何やら慌てふためいていた。「た、大変にゃ。君達がオリヒメを追いかけている間に、すいに手伝ってもらって家の中をよく嗅いでみたにゃ。そしたら、あの女性はヒトではなくて、ヒトのふりをしているヨナだということがわかったにゃ。あのヨナは、ヒトの、その、にゃにかを取っているにゃ。」ぼくもななしろもすいも、同じ方向に首を傾ける。「にゃー。もどかしいにゃ。にゃにかがないと、ヒトは困るにゃ。それがないと、ヒトは動けないにゃ。」ぼくは首を真っ直ぐに戻したが、残りの2匹は傾けたままだ。ぼくは、そのままニャラティブを引き取ることにした。ぼくは地面に爪を立てて、あるマークを描いた。「ヒトは、このニャにかをこんなマークで表すことがあるニャ。こんなふうに、上に山が2つあって、下がとんがってるマークにゃ。」
けれども、この作戦は完全に失敗したニャ。ななしろもすいも、首の傾きがより大きくニャったニャ。おもちが、もう1度ニャラティブをがんばる。「ヒトは、それがないと死ぬにゃ。もう、ダメにゃ。死ぬにゃ。」すいの首が真っ直ぐになり、ニャラティブを引き取った。「これがないと、もう倒れちゃうにゃ。ふにゃ〜ってなるにゃ。」これでも、ななしろの首は戻らない。ニャラティブドツボに、はまってしまったようだ。ぼくはもう1度だけ、挑戦した。「これがないと死んじゃうニャ。死んじゃうニャ。死んじゃうニャ。もう、これに賭けるニャ。」この賭けは、完全に裏目に出た。ななしろは、首を傾けたまま眠っていた。退屈になったのもあるかもしれないが、自分で真実を見ようとしたのだ。猫の夢は、時に真実を見抜くニャ。ななしろはしばらくすると、ゆっくりと目を開けた。「わかったのぅ。これは、ネコパワーじゃのぅ。あのヨナは、ネコパワーを奪い取ってしまうんじゃのぅ。」堂々巡りのニャラティブは、ここでニャんとか共有に漕ぎ着けた。そこに、ちょうどオリヒメが帰ってきたので、ぼくらは調べたことを伝えた。全てを聞き終えると、オリヒメは毛を逆立たせた。「ゆ、許せないわ!私の大切なヒトに!そうだ!ヨナのことなら、オバニャにゃ。オバニャに聞きに行きましょう。オバニャは、広場にいるはずよ。」甲高い鳴き声をあげて、オリヒメは一目散に広場へと走っていた。ぼくらは、慌てて追いかける。もう、オリヒメには、振り回されてばかりニャ。広場では、ななしろとすいが、たまたまいた人間にエサをもらって喜んだ。ぼくは、くきという猫に絡まれて往生した。どうやらあっちは、ぼくのことを知ってるみたいで、とても親しげに話しかけてくるんだけど、ぼくはどうしても思い出せニャい。「う〜ん、ごめんニャ。君は、もう思い出になってるニャ。」我ながら冷たいと思ったけど、思い出せないものは仕方ないニャ。オリヒメを見つけると、彼女は早くもオバニャに相談していた。
オバニャはオリヒメの話を聞きながら、ぼくらに声をかけた。「おうおう、ムクかね。それに、おもちもおるにゃ。おうおう、すいもいるとな。これは、面白いギャザリングにゃの。おやまぁ、ななしろもおったか。お主、まだギャザリングする元気があるのかえ?羨ましいものじゃて。」オバニャとななしろは、ほっほっほと笑い合った。年が近い猫同士、通じ合うものがあるのだろう。オリヒメが尖った声を出す。「ねぇ、オバニャ。ちゃんと聞いてた!」「おうおう、オリヒメや。そんなにカリカリせんでも、ええ。ちゃんと聞いておったでな。それはな、ネコナデというヨナじゃろうて。ネコナデというのは、ヒトを甘い言葉で籠絡するのじゃよ。そうして、自分の夜界に連れて行くのよな。ネコナデに対抗するには、そうさな。こちらも、言葉を届けるしかないの。」「で、でも、私は猫だもの。猫の言葉は、ヒトには届かないわ。」「ふむぅ。そうよな〜。だが、この時期にオトギモノという良い存在に頼めば、きっと助けてくれるはずじゃ。」「どうやって頼むの?」「ふむ、それじゃ。オトギモノはたしか、あそこに訪れるんじゃったかの。えーと、あそこはなんじゃったか〜。」おもちが、首についている鈴をリーンと鳴らした。オバニャがびっくりする。「にゃんと。それは、魔鈴かえ?にゃるほど。それがあれば、思い出せそうな気がするの。うーむ、ダメじゃ。その魔鈴、ちょっと錆びておるの。鳴り響かないようじゃにゃ。今度、飼い主によく磨いておいてもらうことじゃ。」おもちが、しょんぼりとする。ぼくはオバニャに鼻を近づけて、くんくんと嗅いだ。ぼくはハッとして、顔を上げた。「ふむ。どうやらムクはわかったようじゃにゃ。わしは、まだ思い出せんが。では、後はムクに任せるとするか。それではの、わしは退散するだて。オリヒメや。お前の気持ちが、届くことを願っておるがの。あまりにヒトにヘンし過ぎては、いかんぞよ。ヘンし過ぎると、お主もヨナになってしまうからな。」「わかったわ。オバニャ、ありがとう。」
オバニャが去ると、みんニャの視線がぼくに集まった。では、改めてニャラティブをするニャ。「オトギモノは、たくさんの紙に集まるニャ。たくさんの紙がぶら下がっているところに、集まるニャ。ヒトはなぜか、その紙に何かを書くニャ。そして、その紙の前でたまに手を合わせているヒトもいるニャ。」「わかったにゃ。その紙は、色とりどりにゃ。」とすいが答えるのを聞いて、ぼくは紙を強調し過ぎたことを後悔した。おもちとななしろには伝わったみたいで、ななしろが引き取ってくれた。「白とのぅ黒ののぅ、愛されるやつらがのぅ好んで食べるものじゃ。まぁ、そやつらもわしら猫ほどは、愛されてはいにゃいと思うがのぅ。」すいにも伝わって共有されたので、ななしろが猫語名付けをする。「そうじゃのぅ。願い事の草はいかがかな?」ぼくらは頷いて、広場に願い事の草がないかを探し回った。昼間にヒトの子どもがたくさん集まる遊具だらけの場所に、願い事の草を見つけた。色とりどりの紙がぶら下がっている。紙を1枚1枚見ていくと、風もないのに揺れる紙があった。じっと見つめていると、紙の裏からぴょこんと顔を覗かせるものがいた。小さい小さいヒトだった。「あれれ。見つかちゃったね。さすが、猫ちゃんたちは、感覚が鋭いんだね。おーい、みんな出てきなよー。」すると、紙の後ろからわらわらと、小さい小さいヒトがいっぱい出てきた。「ぼくらは、オトギモノだよ。ぼくらに何か用かな?」猫たちは、オリヒメを見た。オリヒメが1歩前に出て、もじもじしながらお願いをする。「あのね。あるヒトに、私の言葉を届けたいの。あなたたちなら、できるって聞いたから。いい?」オトギモノが1か所に集まって、会議のようなものを始める。やがて結論が出たようで、代表の1人がぼくらに向き直った。「いいけどさ。でも、相手のことがよくわかっていないと、言葉を届けても意味はないからね。それだけは、忠告しておくよ。」ぼくらは代表のオトギモノを連れて、団地に移動した。
団地に着くと、青年の家に青年とネコナデの化けた女性はいなかった。落ち込むオリヒメ。ななしろが、オリヒメをなぐさめる。ぼくらはその間に、青年のお父さんとお母さんの会話に耳をそばだてた。ヒトの言葉なので今1つ要領を得なかったが、総合すると、1人と1体は河原に出かけたらしいニャ。河原で、願い事の草で作った何かを浮かべるみたいニャ。立ち直ったオリヒメが、ななしろにお礼を言う。「ありがとう、ななしろ。あなた、いい猫ね。」河原に移動したギャザリングを待っていたのは、カッパだった。カッパがななしろに強引に詰め寄る。「おめ。おらと相撲をとっぺ?」ななしろが受けてたつ。ななしろは、あっけなく投げ飛ばされてしまった。ななしろが宙を舞う。宙を、、、、、、宙を、、、ちょっ、、、ちょっと待つニャ!こっちに飛んでくるニャ。ぼくは避ける間もなく、ななしろにぶつかられた。ななしろはぶつかった衝撃で爆発して、毛がふわふわにニャった。ぼくは、ぶつかった衝撃で、ケガを負ってしまった。実は、ケガを負ったまま今夜のギャザリングに参加していたから、これでケガが2個目ニャ。河川敷でそんな騒ぎを起こしていると、川の上流から願い事の草で作られた船が流れてきた。予想していたものよりも大きく、青年とネコナデが乗っていた。すいがニヤリとして前に出る。「オリヒメ。見てるにゃ。実は、ぼくはヒトの言葉を少しなら話せるにゃ。今、呼びかけるにゃ。」「え、ちょっと待って。オトギモノは、相手のことがよくわかってからって。」オリヒメがこう言いかけた時には、すでにすいは呼びかけていた。「待てにゃ。ぼくも行くにゃ。」呼びかけると同時に、すいは川に飛び込んだ。船が川の真ん中で止まる。青年とネコナデの会話が聞こえてくる。「ねぇ、猫が何か言ってたよね。」「あら、そうかしら。」「なんか、待てって言ってたような。それに、あの猫、なんか溺れてない?」「そうかな?そんなことより、ダーリン。早く楽しい世界に行きましょ。私の住んでる、それはそれは楽しい世界に。」
「すーいー!ねー、そのまま聞いてー。あなたが叫んだことでー、船がー、止まってー、いるみたいなのー。あなたのことをー、溺れているとー、思ってるみたいだからー。そのまま話を聞いてみてー。そしたら、何かわかるかもしれにゃいのー。」オリヒメのアドバイスをもとに、すいが溺れているふりをして水遊びをする。しばらくすると、すいがわかったにゃーと叫んで、水中からニャラティブを始めた。「ネコナデは、川向こうにある夜界に青年を連れて行こうとしているにゃー。青年は、あることがうまくいってないらしく、ネコナデはそこにつけ込んでいるようにゃー。あることというのは、青年が今やっていることにゃー。それがうまくいかないと、青年はエサが手に入らないにゃー。」そこまで聞いてぼくは、わかった気がした。エサのためにヒトは動くニャ。狩りじゃない動きをして、エサを手に入れるニャ。その動きを誰かにもらうことが、うまくいってないと思ったニャ。けれども、続くすいの言葉で考えを変えた。「あることは、ガリガリするにゃー。」ガリガリするニャ?エサを手に入れるためのガリガリと言ったら、もうアレしかニャいニャ。ななしろとおもちは、「刀で木を彫ることかにゃ。」とか「ガリガリと何かを書く紙のことかにゃ。」とか呟いていて、しっくりきてないようニャ。ぼくは、今夜3回目のニャラティブ連鎖に挑戦することを決意した。「アレは、ぼくらニャ。ぼくらはギャザリングで、色々な冒険をするニャ。冒険は過酷だけど、ハラハラドキドキ、ワクワクするニャ。あの青年は、それを記録するニャ。」ななしろとおもちは、今度は「あ〜、思うがままに絵を描くことにゃ。」とか「絵で、冒険を記録する仕事にゃ。」とか呟く。ウニャー。今日のぼくのニャラティブは、まったく冴えないニャ!やれやれとばかりに、すいが再ニャラティブをする。「絵は関係にゃいにゃ。」これで、2匹は腑に落ちた。すいが猫語を叫ぶ!「冒険ガリガリにゃ。」ぼくが喋った冒険という言葉を猫語に入れてくれたことに、ぼくはすいの優しさを感じた。
いきなり突風のような衝撃波が、ぼくらを襲った。ネコナデは、猫の言葉を理解できるのかもしれない。ぼくらが、彼女の目的を阻止しにやってきたことに気づいたようだ。明らかに敵意を剥き出しにした目つきで、ぼくらを睨んでいた。ぼくとすいは、衝撃波でダメージを受けた。1番近くにいたすいは、まともに食らってケガをしてしまった。ななしろはさっきの爆発でふわふわになった体が功を奏して、ダメージを負わなかった。おもちは、飼い主が日除け用にと持たせてくれている猫用のサンバイザーで咄嗟に防いだ。戦闘が始まったことを察知したぼくは、川沿いの木に登って戦況を見下ろした。すいが改めて以心伝心を試みたが、ネコナデが青年の気を逸らしていて、うまくいかなかった。すいはうまくいかない状況に飽き飽きしてしまったのか、大きなあくびをした。そのあくびがおもちにもうつって、おもちも大きなあくびをした。さらに、あくびは青年にもうつった。青年は、特に戦う気はないように見える。ネコナデが容赦なく、第2波を放ってきた。ななしろがまたふわふわで防ごうとしたが、今度はそのまま吹き飛ばされてしまった。おもちが吹き飛んできたななしろを止めようと手を出したが、止めきれずに一緒に吹き飛んだ。おもちもケガを負った。ななしろは地面に転がって、起き上がれずにいる。ぼくはピンチを察して、子分のねっこを呼んだ。ぼくの鳴き声を聞きつけて、ねっこが張り切ってやってきた。「ぼくの出番にゃー。何をすればいいにゃー。」そこで、すいが、またまた以心伝心を試みる。ここまできたら、もう意地を張ってるように見えるニャ。おもちがすいの声を届けるために、できるだけすいを舟に近づけようと、果敢にも川に飛び込んだ。それを見たねっこが、「にゃるほど。あれをやればいいんだにゃ。」と言って、後を追って飛び込んだ。しかし、おもちもねっこも泳ぎが上手ではなく、なんと2匹とも溺れてしまった。おもちは必死で陸に上がって、上がる時にもう1つケガをしてしまった。ねっこはゲホゲホ言いながら陸に上がってくると、「じゃ、ぼくは帰るにゃ。」と言って帰っていってしまった。アイツ、ニャにしにきたニャ?
やっと起き上がったななしろは、おもちとぼくに目配せをしてきた。もうすでに、すいは限界にきていた。みんニャも、だいふやる気がない。また、東の空が白み始めていて、時間もニャい。ここまで頑張って以心伝心を試みてきたすいには申し訳ないが、もう次の手を打つしかニャかった。ななしろとおもちは協力して、オトギモノに頼んだ。オトギモノは頼みを聞き入れて、叫んだ。「自分を信じるにゃー!」河原中に響くその言葉で、青年は我に返った。舟の中で不意に立ち上がったかと思うと、川に飛び込んで岸まで泳いできた。ネコナデがギリギリと歯を噛み、悔しそうにしている。舟はそんなネコナデを乗せたまま、川向こうへと消えていった。朝日がちょっとずつ顔を出して、河原一帯を赤く染め上げる。水をぽたぽたと滴らせている青年が、膝に手をつき、呼吸を整えている。その足元に、オリヒメがにゃーんと絡みついた。あれほど濡れるのを嫌がっていたのに、ヘンの力はすごいニャ。「おや、君は!ぼくが帰省すると、いつも顔を出してくれる猫ちゃんじゃないか。ぼくは小説家の仕事がうまくいかなくて気力を失っていたんだけど、君の友達の猫ちゃんの言葉で目が覚めた気がしたんだ。ありがとう。」青年は、オリヒメを抱き上げた。オリヒメは、青年の顔を舐める。「あはははは。くすぐったいよ。そうだ。君、よかったら、ぼくと一緒に暮らさないかい?君さえ良かったら、なんだけど。」オリヒメは、ぼくらの方を見た。ぼくもおもちも飼い猫ニャ。飼い猫になるのを止める理由はニャい。すいは、すいすい泳いでいる。ななしろは、珍しく大声を張り上げた。「第3戒。猫はヒトにヘンをしてはならぬとある。しかしのぅ、オリヒメや!第6戒。自由に生きろともあるのじゃ。細かいことは、気にせんでええ。ヘンを貫きなされや!」ななしろの励ましを、ぼく、おもち、すいが眼差しだけで同意した。オリヒメは、にゃんと鳴くと、また青年の顔を舐めた。「そうかい?一緒に来てくれるかい?」青年は喜んで、オリヒメを抱いたまま団地の方へと歩いていった。太陽はもう、その姿を完全に見せ切っていた。(完)