「望むところだよ!カイ兄はすごいけど、ボクだって虫見つけるの得意だもん。負ける気はしないね」
ガクは嬉しそうに胸を張る。タクトはやれやれと肩を落とした。
「じゃあ決まりね。範囲は工事予定地の未開拓エリアのみよ。20匹集めたらあの小屋に行って、セルウィンとハルに確認してもらって。セルウィン、ハル、待機よろしく」
ヒナタが言う。
「承知いたした」
セルウィンが言い、ハルは軽く頷いた。
「今から1時間半がタイムリミットよ。集めきれなかったらそれでも構わないから戻って来て。何かあったら必ず連絡すること」
林の中は蒸し暑い。額ににじむ汗を腕でぬぐいながら、タクトは薄暗い林を必死で探している。かすかな木漏れ日が、林の下草に反射した。
―いた!―
タクトは手を伸ばすが、薄闇の中のシロスジカミキリとばっちり目が合って気まずくなる。躊躇しているうちに方向転換し、上体を持ち上げ威嚇してきた。顎がカクカクと動くのが見える。手をそっと近付けると体を反らせ、思い切り咬んできた。指先のグローブの繊維がちぎれて小さな穴が空く。
「うわっ!どうすりゃいいんだ」
「どうしたの、兄ちゃん?」
数メートル先を探していたガクが引き返し、タクトの足元をまじまじと見つめる。
「かまれた?」
「グローブだけな」
タクトは指先をガクに見せた後、布をたぐって穴を隠した。
「できるだけ後ろからそうっと近付いたほうがいいよ。胸の下っていうか、腹の一番上あたりをねらってみて」
言われた通り、できるだけ気配を殺して近付く。少し落ち着いて大人しくなっていたカミキリは、背後から伸びた気配に驚き触角と脚を懸命に動かした。すでにタクトの手の中である。
「なんかキイキイ言ってるな」
「威嚇音だよ」
せわしなく何かを擦るような響きを続けるシロスジカミキリを、タクトは迅速にカゴに押しこんだ。中が狭くて暗いからなのか、隙間から見える姿は先程より格段に大人しい。
「よし、コツがつかめてきたぞ」
タクトは腕を軽く持ち上げて、ぐるぐると振った。
「ボクも頑張ろっと!」
タクトの後ろで、ガクは身をかがめ探索の姿勢をとった。
少しずつ、2人のカゴにシロスジカミキリが増えていく。1時間があっという間に過ぎた。
〈おまけ〉
カミキリムシって、顎が立派ですよね。なので「髪切虫」と書けることは以前にも書きました。実は「天牛」とも書けます。これは、触角の長さから。牛の角よりずっと長いですけどね。私は、竜のひげのようにも見えるなあとか思っています。
つかまえると、キイキイときしむような音を出すのも特徴。威嚇音らしいのですが、つかまった後に鳴いて意味あるのかなあと思います。耳をつんざくくらいの大きい音なら思わず手を離すかもなのですが、そうでもないんですよね。なんか音がするなあくらいなので。
カミキリムシを素手でつかまえたことは何度かありますが、やはり顎が怖くてスリリングなので、軍手つけてつかまえるほうがいいかもしれません。我が家では、鬱蒼とした林や森の中で遊ぶ時は基本的に軍手をさせています。子どもは特に、何を触るか分からないですからね。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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