「ご苦労であった」
セルウィンが椅子を勧めてくれるが、タクトはすぐには座れない。まだ心拍数が速すぎて、体が落ち着かないからだ。それはカイトも同じらしく、壁に寄りかかったまま立っている。
「20ありますね」
ハルの小さな声が耳に入った。簡素な長机が複数揃えて置かれた上に、大きな樹脂ケースが置かれている。グローブを二重にはめて、タクトが息を整える間にカゴからそこに移していたらしい。横で文子が興味深げにケースの中を眺めている。
「よう見ると、おもろい顔しとんなあ」
文子は勝負そのものには関心のない様子で、初めて見る大量のカミキリムシに喜んでいる。タクトは負けを確信してため息をついた。
「オレのも、よろしくお願いします」
タクトはそっとデスクにカゴを置き、大きく息を吐いて椅子に腰かけた。目の前に並べられたティーカップを持ち上げ、一口すする。
「カイトさん」
タクトは、少し離れて座ったカイトに話しかける。
「ヒナタさんの転び方、わざとらしくなかったですか?」
「さあな」
カイトはそう言いながら、砂糖の小袋を開いてどっさりと紅茶に注ぎ込んだ。
ゆっくりと、ドアが開く音がする。
「あ、ヒナタさん」
タクトは今の会話を聞かれた気がして少し焦った。ヒナタと目が合ったが、特に表情は変わらない。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、ちょっと足が滑っただけ。ごめんなさいね、驚かせて」
先程の般若の相が別人かと思われるほど、ヒナタの表情は落ち着いていた。
「それで、20匹見つかったの?ガクはどこ?」
「見つかりましたよ。ガクは走りたくないらしくて、ゆっくり来てます。ま、兄弟で争っても仕方ないですからね、考えてみれば」
「やっぱりね」
ヒナタの言葉に首を傾げているうちに、ドアノブをガチャガチャと回す音が響いた。
「やっほー」
ガクの声だ。振り向くと、後ろにレイラの姿もある。
「もうみんないるのか。早いな」
「あなたが遅いのよ。時間ギリギリ」
ヒナタが苦笑いする。
「ま、遅刻してないだけマシだろ?」
レイラはこともなげに笑い、椅子を引き寄せて座った。
「で、どうだった?20匹見つかったのかしら」
「うん、大丈夫だよ。20匹、ちゃんと数えたし」
「あたいは21匹だ」
「え?」
ヒナタが怪訝な顔をしてレイラを見る。
「誰かが20集められないかもしれないだろ。だから予備だよ」
〈おまけ〉
小さい頃はよく昆虫採集をしたものです。虫取り網も虫かごも当たり前に持っていました。チョウとかセミとかよくとっていましたね。
ハンミョウだけを大量にとったこともありますし、バッタをつかまえて草と一緒に放り込んでいたこともあります。結局逃がしましたけどね。ハンミョウなんて食べるものがアリですから、簡単には飼えないです。
虫かごは緑っぽいものが当時多かった印象。今でもそうなのでしょうか。CANVAに素材を探させたら、シンプルなのも見つかりました。これにひもをつけたようなのだと、仕事にも使えそうです。
ちなみに、虫取り網だけは最近まで実家にありました。セミをとるためです。飼っていた猫が狩りが下手すぎてなかなかとれないため、代わりにとって遊ばせてあげたんだそうな。過保護すぎです。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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あらすじ
