青い空を黒い影が横切った。
羽は漆黒で胴は光沢のある緑色。ハグロトンボだ。
少し遠くから、何やらガラガラと音がする。
ガラガラガラガラガラガラ……。
トロッコだ。
1人の少年が乗っていた。
黒くつややかな髪を眉毛のあたりで一直線に切っている。いわゆるマッシュルームカットというやつか。
黒縁の丸メガネの奥で大きな瞳を見開き、「ひゃっほう!」と叫んでいる。
トロッコは、坂がないところに来るとやがて止まった。
そこからトコトコと歩き、今度は1本のロープを手にした。
目の前には小川が流れている。
少年はロープの先を折ってそれを両手に握った。
数歩あとずさり、ロープの輪になった部分に片足を引っかけると勢いをつけてもう片方の足で地面を蹴る。
昭和のアニメにあるターザンのごとく、ぶらさがったまま一気に小川を飛び越えた。
反対岸に着くと、小さな杭にロープの端を巻きつけている。
よく見ると、ロープは小川の上に張り出した巨木の枝にしっかりと巻きつけられていて、手作りらしい様子ながらなかなか本格的だ。
「やっぱりここにいたか」
長身の男の影が、背後から少年に声をかけた。
「兄ちゃん」
少年は笑顔で振り向く。
話しかけた男は、背が高いものの顔立ちに若さがあふれ、十代後半と見てとれた。
「お前なあ、ちゃんと橋渡れよ。そんな遠くないだろ」
50メートルくらい先の、小さな橋を指さす。
「イヤだよ。遠回りになるもん」
「それ使ったってたいして近道にならないだろ?そんなこと言うなら、走って川飛び越えればいいじゃないか」
川幅はせいぜい2メートルちょっと。子どもでも助走をつければ飛び越えられなくもない。
「ケガしたらどうすんの?」
「女の子に心配されるな」
「本当?じゃ、やろうかな」
少年の兄は、話もそこそこに歩き出した。
「早く帰るぞ。母さんから連絡があった」
「本当?なんて?」
「今日急いで病院来いってさ。家に帰ったらすぐ支度して出発だ」
〈おまけ〉
ハグロトンボは、カワトンボの仲間で水のきれいな川のそばにいることが多いです。
メスは体全体が黒っぽく、オスは羽が黒くて胴体は光沢のある緑色をしています。
ヒラヒラと飛ぶ様子は優雅で「神様トンボ」の異名も。
夏休みに母の実家の福岡に行ったとき、偶然見つけて写真を撮ろうと試みましたが失敗しました。
この近くをヒラヒラしてたのです。写真撮りたかった…。
一部地域では絶滅危惧種になっているとか。絶滅しないでほしいです。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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