風がそよぎ、低木の葉をゆらめかす。見晴らしのよい尾根づたいに、何軒かの民家が見えた。そのうちの一軒が目の前にある。広い庭があり、秋の花が思い思いに咲いていた。

「普通の民家じゃないですか」

タクトは信じられず、家の外観を凝視した。トロットから降りると、門を念入りに確認する。正方形の銀色のプレートがくぼみに据えてあった。「株式会社 デネボラ」の文字がうっすら見える。

 

「小さっ!」

タクトは思わずそう呟いた。騎乗用昆虫の手綱を柵に結び付けると、乗り手達もこちらにやって来る。運転手と話していたらしく、レイラと文子は少し遅れて来た。トラックの走り去る音が聞こえる。

 

「どうすればいいんですか、これ。とりあえず、インターフォン押せばいいんですかね…?」

タクトがプレートの横にあるボタンを指さしながら迷っているうちに、レイラの指がすっと割り込んできた。「ピンポーン」と昔ながらの間の抜けた音が、静かな山里に響き渡る。

「問題ない。星瞬の子会社の多くは、昔からあった建物をリフォームして造られてる。中はもっと会社らしいはずだぞ」

レイラがそう話した直後、インターフォンの向こう側から人の声がした。

「はい」

「ターコイズ・プラネットの者だ。約束通り、中に入らせてもらいたい」

レイラがそう言うと「分かりました」と応答がある。ややあって、門の向こうにある民家のドアが開いた。

 

出て来たのは、上下とも白い服を着た、白髪の男性だった。歳は、70をとうに過ぎているだろうか。襟足部分は刈り上げて、それ以外の髪は少し伸ばして編んである。

「お話は聞いておりました。どうぞこちらへ」

そう言って小さく手招きする。こんな老人に手間をかけさせるのは忍びないので、全員やや急ぎ足で玄関に向かった。

玄関の三和土には、ざらついたマットが一面に敷き詰められていた。

「そこで土をよく落としてください。土足で結構ですので」

言われた通りに家に上がる。薄暗く長い廊下がしばらく続く構造になっていた。思い出したように、文子が口を開く。

 

「せや、うちはスピカの人間やねんけど、少し前にスピカの社員来んかったか?」

「ああ、連絡ならありましたよ」

「連絡?」

「『恐ろしいものを見てしまい、そちらに行けなくなった』と。何を見たのか、教えてもらえませんでしたが。例のものは、適当なところで野に放つことにしたそうです」

 

 

 

 

〈おまけ〉

このごろ夜にベランダに出ると、すごく星が綺麗です。東の空にオリオン座がはっきり見えますね。

星瞬株式会社の子会社には、星の名前がつけられています。

「青春」をかけた会社名なので、春の星座の星を選びました。

デネボラはしし座の2等星、スピカはおとめ座の1等星です。

 

 

分かりやすいように、我が家の星座早見盤の一部を。

アルクトゥルスと一緒に春の大三角を形成していますね。

ちなみに、私は塾講師として理科を教えていたことがあるので、星は全て無理やりな語呂合わせで覚えさせていました。

アルクトゥルスは「歩くと留守」、スピカは「スッと歩きピカッと光る」、デネボラは「出ねえなボラ」です。

今、デネボラをひらがなで売って変換したら「出ねボラ」と出てきて、パソコンの思考回路も同じなんかいと思わず突っ込んでしまいましたね。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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