リトアニアと対立激化…中国が激怒した理由は何か、リトアニアの得失は? | 如月隼人のブログ

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リトアニアの首都、ビリニュスの光景

 

リトアニアが自国内に「台湾の窓口機関」の開設を決定。中国が抗議したがリトアニアははねのけた。最大の問題は、「台湾代表処」の名称だ。

 

例えば台湾が日本に設置している窓口機関の名称は「台北駐日経済文化代表処」。設立から現在に至るまでの概略は以下の通り。

 

1972年9月、日本は中華人民共和国と国交を樹立。それに伴い中華民国と断交。

1972年12月、中華民国は日本関係の実務手続きなどの維持のために「亜東関係協会」を設立。

「亜東関係協会」は事実上、対日関係に特化した外務省の一部と考えてよい。

「亜東関係協会」の駐日出先機関が「亜東関係協会東京弁事処」で、事実上は大使館や領事館に相当する機関。

「亜東関係協会東京弁事処」は1992年に「台北駐日経済文化代表処」と改称。

 

ここで注意したいのは「中華民国」の名称も「台湾」の名称も使っていないことだ。改称については台湾側が一方的に行ったのではなく、日本側と協議したはず。日本側はまず間違いなく中国(中華人民共和国)とも協議して了解を取ったはず。そして、台湾の「代表」が「台北」の名称を使うことは、五輪などの「チャイニーズ・タイペイ」の前例もある。

 

なお、台湾はWTOに加盟しているが、その正式名称は「台湾・澎湖・金門・馬祖単独関税区」であり、台湾を「中国と対等な関係」ではなく、「中国国内の一部の諸地域」であるような表現にしている。

 

中国として、自らと国交を持つリトアニアが、「中華民国」の名称を容認することは許せないが、「台湾」の名称を使えば、中国の立場からすれば「なお悪質」ということになる。

 

「中華民国」の名称ならば「中華人民共和国としては絶対に認められない国名」ではあるが、「一つの中国」という概念からは離脱していないとも解釈できる。しかし、「台湾」の名称を使ったのでは「台湾は中国とは別の国」の主張を内包しているとも理解できる。中国にとっては「中華民国」以上に容認できないことになる。

 

リトアニアで「台湾代表処」の名称が使われれば、中国外交が「これまで貫いていた原則」が崩されることになる。

 

今のところリトアニアに、「台湾代表処」の名称を撤回する様子はない。中国は抗議を示すためにリトアニアから大使を召還した。これは極めて強い措置だ。

 

日本も慰安婦問題に関連して韓国から大使を「一時帰国」させたことがある。ただし、あくまでも「一時帰国」だった。大使の召還とは、期限を設けないで大使を帰国させること。つまり「外交関係が断絶してもやむを得ない」との意思表明だ。

 

中国側のこの措置いついて、EUのナビラ・マストラリ外務報道官は「中国が台湾の代表事務所の開設をめぐって正式な外交関係のある国から大使を召還したのは初めて」「必然的にEUと中国との関係全体に影響を与えるだろう」と述べた。

 

中国は米国との対立が激化していることもあり「できるならば、EUとは関係を悪化させたくない」と思っているはず(EUとの対立が激化したのでは、国内向けにもいろいろと言い訳が立たなくなる)。

 

さりとて、リトアニアにおける「台湾代表処」の名称が通ってしまったらEUや米国にある台湾の機関が、「台湾」の名称を使うようになる事態も念頭に置かねばならない。そうなれば中国と西側諸国の関係はさらに悪化する。というか、中国は「さらに厳しい措置」と取らざるをえなくなる(国内向け対策の上でも、そうせざるをえない)。

 

では、リトアニアで「台湾代表処」が発足することによる、リトアニアの得失はどうなるか。当然ながらリトアニアにとって、中国関係で「得」をすることはない(台湾から「恩恵」を得られる可能性は大いにある)。

 

ただ、リトアニアが中国関連で直接の「損」をすることも、あまりないのではないか。リトアニアの主要産業は食品加工業、木材加工・家具製造業、販売小売業、物流・倉庫業ということだが、中国がよくやる手法の「貿易関連で圧力をかける」もあまり通用しなさそうだ。リトアニアが貿易分野で「中国に頼り切っている」という構図は存在しないからだ。

 

中国としては「ロシアに圧力をかけてもらう」ことが考えられるが、リトアニアは2014年のウクライナ問題についてロシアに対して強い姿勢で臨んでいる。つまり、ロシアとの関係はすでに十分に悪い。むしろ米国あたりがリトアニアに対して「優遇措置」を打ち出すかもしれない(小さな国が大きな国の力を利用することは、長期的に見ればたいていの場合、良からぬ結末をもたらすのだけど)。

 

いずれにしろ、リトアニアと中国が厳しく対立しても、リトアニアが失うものは少なく、中国にとっての打撃の方がずっと大きいはずだ。

 

中国の方法としては、短期的に状況を変えることは断念して、時間をかけて状況を「ひっくり返す」ために、リトアニア国内の「親中政治家」を育成することも考えられる。しかしそんなことをしたら、EUが「超猛反発」することは目に見ていている。中国がEU加盟国に対して、そんなことを次々にしたら、EU全体の政策が「中国の影響下」に置かれかねないからだ。

 

今のところ、中国が打てる有効な対抗手段は見えてこない。(編集担当:如月隼人)