新華社発表、中国メディアの「報道タブー表現集」<その5>もっとも神経質な「台湾絡み」の文言 | 如月隼人のブログ

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<49>から<86>にかけては台湾絡みの「タブー表現」で、新華社の指示の中でも特に詳細に記述されている部分だ。また、分量が多いだけでなく、「指示の仕方の記述」中にある“ ”の使い方に、読むものを混乱させかねない部分がある。報道文の作成に長く携わってきた者なら、この種の混乱を防止するための書き方を工夫しそうなものだが……。

 

今回は「香港・マカオ・台湾と領土・主権類」の中でも、台湾に関連する部分の前半をご紹介する。

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<49>

1949年10月1日以降の台湾政権は「台湾当局」または「台湾方面」と称し、「中華民国」は使用しない。また、中華民国の紀年、旗、徽、歌は一律に使用しない。「中華民国総統/副総統」は厳禁する。台湾地区正/副指導者と称する。「台湾当局指導者/副指導者」、「台湾地区指導者/副指導者」と称してもよい。台湾「総統選挙」については、「台湾地区指導者選挙」を使う。「台湾大選」と略称してもよい。

 

★訳者追記:

<大選>は、対象となる国などの特に重要な選挙に対して使われる用語。米国の場合には大統領選に、日本の場合には衆院選や自民党の総裁選挙に用いられる。

 

「報道タブー表現集」の中でも、台湾絡みの指示は分量が多いだけでなく記述の方式に混乱を感じさせる部分でもある。中国の報道文には、扱う用語に「本来は認められない」の意味を込める場合に“ ”の中に入れる習慣がある。<台湾当局将再丢两个“邦交国”?(台湾当局はさらに2カ国の“国交を持つ国”を失うのか?)>のような用法だ。この場合、中国は台湾を国として認めていないので、台湾の「国交」も認めていない。したがって「国交を持つ国」という用語そのものが本来は認められないとの意味が込められている。

 

一方で、“ ”は、通常の引用符などとしても用いられる。新華社のこの「タブー集」では、通常の引用符としても“ ”が用いられているので、台湾関連の指示については特に「本来は認められないとの意を込めての“ ”なのか、通常の引用符としての“ ”なのか、分かりにくい部分がみられる。“ ”を必要とするかしないかを指定している場合もあるが、前後に“ ”が多様されているのでまぎらわしい。報道文の作成に長く携わってきた者なら、この種の混乱を防止するための書き方を工夫しそうなものだが……。

 

<50>

「台湾政府」の語は使用しない。台湾当局がいわゆる「国家」、「中央」、「全国」の名義で設立した公的機関の名称は直接使用しない。台湾方面の「一府(総統府)」、「五院(「行政院」、「立法院」、「司法院」、「考試院」、「監察院」)」およびその下属機構、例えば「内政部」、「文化部」については、臨機応変に処理する。

 

たとえば、「総統府」は「台湾徳局指導者の幕僚機構」、「台湾当局指導者の事務室」とする。「立法院」は「台湾地区立法機関」、「行政院」は「台湾地区行政管理機関」、「台湾当局行政院各部会」は「台湾××作業主管部門」または「台湾××作業主管部門」、「文化部」は「台湾文化作業主管部門」、「中央銀行」は「台湾地区通貨政策主管機関」、「金管会(金融監督管理委員会)」は「台湾地区金融監督管理機関」などとする。特殊な状況において、前述の機関について直接の呼称を用いざるをえない場合には、必ず“ ”を加える。ラジオやテレビ媒体がアナウンスする場合には、「所謂(いわゆる)」の語を加えねばならない。「陸委会(大陸委員会)」は直接使用してよい。一般には「台湾方面陸委会」、「台湾陸委会」と表現する。

 

★訳者追記:

台湾の公的機関の呼称を、かなり詳細に指示した部分だ。「陸委会(大陸委員会)」は台湾側の、香港・マカオを含む中国大陸についての業務全般を担当する政府機関。大陸側のカウンターパートナーは、国務院台湾事務弁公室。

 

<51>

台湾当局が、いわゆる「国家」、「中央」、「全国」の名義で設立した公的機関の官員の職名は直接使用しない。「台湾著名人士」、「台湾政界人士」あるいは「××先生/女士」と称する。「総統府秘書長(=総統府事務局長)」は「台湾当局指導者事務室責任者」、「行政院長(=首相)」は「台湾地区行政管理機構責任者」、「台湾各部部会首長(=台湾政府各部門トップ、閣僚に相当)」は「台湾当局××作業主管部門責任者」、「立法委員(=議員)」は「台湾地区民意代表」と称する。台湾省、市、それ以下(台北市、高雄市などの“行政院直轄市”を含む)の政府機関の名称及び官員の職務は省長、市長、県長、議長、議員、郷鎮長、局長、処長などのように、直接用いてよい。

 

<52>

「総統府」、「行政院」、「国父紀念館」などの場所の名を文章作成中に使用する場合には、臨機応変に処理する。(前記3カ所については)「台湾当局指導者作業場所」、「台湾地区行政管理機構作業場所」、「台北中山紀念館」のように変更する。

 

<53>

「政府」の語は、省、市、県以下の行政機構については使用してよい。例えば「台湾省政府」、「台北市政府」のように。“ ”は加えない。ただし、台湾当局が設けた「福建省」、「連江県」は除外する。台湾地区の省、市、県の行政および立法機関については、「地方政府」、「地方議会」の言い方を避ける。

 

★訳者追記:

中華民国は現在、台湾省以外にも若干の実効支配地域を有している。金門県(金門島、アモイ市沖合いの島々からなる。面積約152平方キロ)と烏坵郷(莆田氏沖合の島々からなる。面積1.2平方キロ)は「中華民国福建省」に属するとされる。さらに福建省連江県に属する島である馬祖島(面積計29平方キロの島々)は、大陸側(中華人民共和国)と台湾側(中華民国)の両方に「福建省連江県」という行政組織が存在するという、やや複雑な状況だ。新華社は、中華人民国側と名称が重複する省や県については台湾側の名称をそのまま使わないよう指定したことになる。

 

また、中華民国は南シナ海上の東沙島(1.7平方キロ)、同南沙諸島(スプラトリー諸島)最大の島である太平島(イツアバ島、0.51平方メートル)、さらに中洲島(0.2ヘクタール)も実効支配している。台湾(中華民国)これらの島々を、いずれも高雄市の一部と定めている。

 

<54>

“台独(台湾独立を主張する)”政党である「台湾団結聯盟」に言及する際に、「台聯」の略称を使ってはならない。「台聯党」の略称は使ってよい。「時代力量」は“台独”を主張しているので、“ ”をつけねばならない。「福摩薩(フォルモサ」、「福爾摩莎(同)」は植民地の色彩を持つ語なので、使ってはならない。どうしても使わねばならない場合には“ ”をつける

 

★訳者追記:

「台湾団結聯盟」は、2001年に国民党台湾本土派(国民党として、台湾こそが本土と認識する)の立法委員(国会議員)などが離党して結成した政党。李登輝元総統を精神的指導者とした。2021年7月22日現在、定員113人の立法院に議席は持っていない。「時代力量」は2015年1月に結成された政党。独立志向を持つが、民進党などの既存政党に満足しない若者中心に支持を集めた。2021年7月22日現在の立法院の議席数は3。

 

<54>についても指示が混乱している。「時代力量」は「台湾独立」を主張していることを理由に“ ”を使うことを指示しているが、「台湾団結聯盟」については指定がない。

 

<55>

国民党、民進党、親民党の党機関の人員の職務に、一般には“ ”を用いない。中国国民党と中国共産党を並列する際には、「国共両党」としてよい。国共両党の交流について、「国共合作」、「第三次国共合作」などの言い方をしない。「親民党」、「新党」については、「台湾」の文字の冠を使わない。

 

★訳者追記:

「親民党」は、中国国民党秘書長、台湾省長などを務めた宋楚瑜が2000年に結成した政党。いわゆる親中派に属するが、国民党とは一線を引いている。設立されてからしばらくは影響力がかなり大きかったが、現在は立法院に議席を持っていない。「新党」は1993年に設立された政党で、中国との統一を強く主張している。2008年の立法委員選挙以来、議席は持っていない。

 

<56>

台湾の民間団体には一般に、“ ”を使わない。ただし、民間の名義で作られた官の背景がある団体、例えば台湾当局が領土外に設置したいわゆる「経済文化代表処(弁事処)などには“ ”を加える。反共的な性質を持つ機構や組織(例えば「反共愛国同盟」、「三民主義統一中国大同盟」)や、「中華民国」の文字を関する名称は回避するか、または臨機応変に処理せねばならない。

 

<57>

台湾にある「中国」「中華」の文字を持つ民間団体及び事業団体、例えば台湾「中華航空」、「中華電子」、「中国美術学界」、「中華同郷文化団体聯合会」、「中華両岸婚姻協調促進会」などは、直前に「台湾」の文字をつけて直接書く。“ ”は必要ない。

 

<58>

民間の身分で訪れた台湾の公職関係者は、一律に民間の身分を用いる。両岸関連の交渉のために訪問した台湾の公職関係者は、「両岸××協議台湾方面招集人」、「台湾××作業主管部門責任者」と称する。

 

<59>

台湾と我が方で名称が同じ大学や文化事業機構、例えば「清華大学」、「故宮博物院」などは、前面に台湾や台北、または所在地を加える。例えば「台湾精華大学」、「台湾交通大学」、「台北故宮博物院」など。一般に「台北故宮」の言い方は使用しない。

 

<60>

「国立」の文字を冠する台湾の学校や機構について、使用時にはすべて「国立」の二文字を削除する。例えば「国立台湾大学」は「台湾大学」とする。「××国小」は「××小学」、「××国中」は「××初中」とする。

 

★訳者追記:

台湾側は「国立」の部分を含めて正式名称だと強く主張することがある。2014年に東京都内で「国立故宮博物院」の特別展が開催された際には、日本側がポスターなどから「国立」の文字を削除したところ、台湾側は訂正されなければ展覧会を中止すると抗議した(日本側が急遽、すべてのポスターを台湾側の要求に沿ったものに交換したことで、特別展は予定通り開催された)。

 

台湾の小学校の正式名称は「国民小学」なので、「国小」と略される。中国大陸部でも台湾でも、「中学」は日本の中学校と高等学校に相当する教育機関を指す。台湾で日本の中学校に相当する教育機関は「国民中学」で、略称は「国中」。大陸では「初級中学」で、略称は「初中」。台湾でも大陸でも日本の高等学校に相当するのは「高級中学」で、略称は「高中」。

 

<61>

金門と馬祖の行政区は福建省の管理に属している。従って「台湾金門県」、「台湾連江県(馬祖地区)と称してはならない。直接「金門」、「馬祖」と書く。地理的に言えば、「金門」、「馬祖」は福建省の離島であるので「台湾の離島」とはしない。「外島」の言い方をする。

 

<62>

台湾当局及びその所属機関の法律性文書や各種の公文書などは、“ ”を用いて臨機応変に処理する。台湾当局またはその所属機構の「白書」は、「小冊子」、「文件(=文書)」の類の用語で称する。

 

<63>

中華人民共和国の法律を自ら「大陸の法律」と称してはならない。台湾のいわゆる“憲法”は、「台湾地区憲制性規定(台湾地区の憲章的規則)」とする。「修憲(=憲法修正)」、「憲改(=憲法改定)」、「新憲(=新憲法)」などは一律に“ ”を用いる。台湾地区で施行される「法律」は「台湾地区の関連規則」と改称する。台湾当局が公布する法律を引用する場合には必ず、“ ”を用いて、直前に「所謂(=いわゆる)」の2文字を追加する。「両岸法律(両岸の法律)」といった対等の意味を含む語句を使ってはならない。関連する内容にかかわる問題を具体的に記述する際には「海峡両岸の弁護士業務」、「両岸の婚姻・相続問題」、「両岸の投資保護の問題」などのようにする。

 

★訳者追記:

「自ら××と称してはならない」とは、台湾側の発表や報道に該当する語句があった場合には使用してもよいが、大陸側メディアが自ら記述する部分では使用不可と指示したことになる。

 

<64>

両岸関係の事柄は中国内部の事柄だ。台湾の法律に関連する報道では、国際法の専用用語を一律に使用しない。例えば「護照(パスポート)」ではなく「旅行証件(旅行証明書)」を、「文書認証、験証(文書による認証、験証)」ではなく「両岸公証書使用(両岸公証書の使用)」を、「司法協助(司法協力)」ではなく「司法合作(司法協力)」、「引渡」でなく「遣返(送還)」、「偷渡(密出入国)」ではなく「私渡(私的不法移動)」などの用語を使う。台湾海峡海域について触れる場合には「海峡中線(海峡中間線)の言葉を使わない。使用する必要がある場合には“ ”を用いる。

 

★訳者追記:

<62>~<64>の部分では、言葉について細かい使い方の指示をしており、とりわけ分かりにくい部分だ。例えば、「文書認証」とは大使館や領事館が、別の国の内部に関連するある事実について行う認証で、日本では「領事認証」などと呼ばれている。これを、国内問題について行われる「公証」の語を使うよう求めた。「司法協助」と「司法合作」については、「協助」は「援助する」のイメージがやや強く、「合作」は「力を合わせて行う」だが、日本語にすればどちらも「協力」だ。言葉のニュアンスに注目したというよりも「司法協助」の言葉が国を越えての協力について使われる習慣になっていることを考慮して、「合作(協力)」を使えと指示したと考えられる。

 

※次回は台湾に関連する部分の後半を中心にご紹介いたします。

 

(編集担当:如月隼人)