「もし、今も大人たちが本気で祟りを恐れちょるんなら、もっと抜かりのない、万全の策を講じると思うぞ。例えば、いっそ登り口を柵で覆ってしまう、とかしての。俺たちみたいな、飽くなき探求心を抱く子供は、少々の脅しじゃ効かんけぇ」
織田村はきつく眉を寄せ、黙って聞いていた。が、納得はしていない様子だ。なにやら難しい顔で聞き返して来る。
「じゃあ、未遠の人は祟りなんて信じていない、と?」
「そりゃあ、聞いてみんとわからん。現地の聞き取り調査は大前提だ。ただ――」
中途半端に石段を登ったままの矢儀は、二人より高い位置から、自分なりの見解を伝える。
「見る限り、この石段には崇拝の形跡すらない。それどころか、もう長いこと、存在自体を忘れられちょる有様だ。つまり、今現在、この石段は、未遠の人の意識の外。もしくは、嫌悪感に近い感情があって、無視を決め込んでいるか。少なくとも、畏怖や畏敬の念は、ここにはない。よって――」
矢儀は軽く肩を竦め、きっぱりと言い切る。
「余所者の俺たちが、この曰く付きの石段に足を掛けたところで、何の問題もないわけだ。さ、これで心置きなく上る気になったじゃろ」
「なるか、ボケ!」と、すぐさま兼行が全否定する。
「問題そのものを、すり替えんなよ。上りたきゃ、おまえ一人で上れ。俺らは、命が惜しいけぇ」
階下から、苛立たしげな兼行の声が飛んで来る。が、矢儀は馬耳東風で、用水路の向こうに目が釘づけになる。
小学生に続き、今度は、犬の散歩をしている中年の男性の姿が見えた。
「やった! ようやく話が聴けそうだ」
喜びのあまり、矢儀は、胸の前でガッツポーズをする。
「先に聞き取り調査だ。行くぞ!」
喜々とした足取りで、石段を駆け下りる。途中からは一段飛び、最後は三段跳びで、難なく着地。
目の端に、兼行と織田村の呆れ果てた顔が映る。
二人が寄越す唖然とした眼差しには、揃ってトゲがあった。が、今の矢儀には、痛くも、痒くも、こそばゆくもない。
肩越しに「ほら、早く早く!」と二人を促し、自転車に飛びつく。
用水路の向こうを行く男性を捕まえるべく、矢儀は全力で駆け出した。
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▲小説記事、ずいぶんお久しぶりだこと……
(スミマセン(-_-;))
はじかれ者中学生3人が『禁忌の石段』の謎を解くミステリー小説
その石段、通るべからず