化粧品犬です。
今回は資生堂の2018年度の新製品である、アネッサ パーフェクトUV スキンケアジェルの解析の2回目です。
処方解析編をお届けします。
前回の製品概要編はこちら。
いわゆる「金のアネッサ」は、日焼け止めミルクなんですが、これは同じアネッサブランドだけど、日焼け止めめジェルです。
一応同じ「アクアブースター技術搭載」と言うことで処方内容に、キー成分であるPEG/PPG-14/7ジメチルエーテル(通称アクアインプール)と、ステアリン酸が組み込まれています。
しかしこの製品はO/W製剤と言って、水の中に油滴が浮いている構造なので、ウォータープルーフ性は金のアネッサほどの効果は、ありません。
むしろ、花王のビオレUVエッセンス等に近い製品です。
しかしブランドにおんぶしただけの製品というわけでは無く、乳化物を作る技術的に面白い試みをしている点もあり、使用感は高い物となっています。
しかも、普通は日焼け止めのリニューアルサイクルは2年が常識なのに、今回は1年でのリニューアルなんですよ。当然処方はほぼ同じと思いましたが、調べてみるとフルモデルチェンジに近い。
予想外に、力が入ってました。
なんと紫外線吸収剤の組み合わせまで改良されていたのですが(これやると、SPFデータを取り直しさせられる)、、、、そこに落とし穴がありました。
詳細は後ほど書きますが、資生堂のお得意の「光スタミナ技術」(紫外線吸収剤の分解を防いで効果を長持ちさせる技術)のキー成分である、UVB吸収剤のオクトクリレンをあえて排除して、かわりに分解したり皮膚感作性(アレルギー性)があることで有名な紫外線吸収剤である、オキシベンゾン(化粧品表示名称オキシベンゾン-3)を新たに配合してしまったのです。
なんで光スタミナ技術を捨ててまでオキシベンゾンを使ったのか、理由は不明ですが・・・。
これは2重の意味で衝撃ですね。一つ目は、評判の悪いオキシベンゾンを平気で使うんですか?、と言うこと。二つ目は、光スタミナ技術って簡単に捨てて良い程度の効果だったの?と言う事です
今回の解析では上記の
1)乳化技術
2)オキシベンゾン配合
の2点を、メインに見て行きます。
では早速解析にいきましょう。
まずいつものように裏面を整理します。
今回は、リニューアル前の旧製品である、パーフェクトフェイシャルUVアクアブースター(2017年)の裏面表示も整理し、新製品であるパーフェクトUV スキンケアジェル(2018年)と併記してみます。
原料の機能毎にパート分けし、パート内の表記順番は裏面のまま変えずに記入しています。また共通の成分についてはできる限り近づけて書いていますが、場合によって近くに書けない場合もあります。
こんな感じになりました。
1年でリニューアルしたとは思えないぐらい変更点が多い。
おそらく2017年に旧製品が出来た時点で、新製品も検討開始していたのでしょう。
ここからは特に今回の製品のポイントとなる、乳化剤と紫外線吸収剤から解析して行きましょう。
(新製品については、個々の原料については簡単なコメントをつけましたので参考にしてください。
まとめて後半に書いてあります。)
まず乳化剤について。
新製品の訴求点のひとつが、前エントリにも書いた、新素材「コアコロナ型乳化剤」というものです。
これだけで乳化できます_と言うのが今回の売りなのですが。
コアコロナ乳化剤については、前エントリか、以下のリンクを参照です。
上の表の乳化剤パートを見れば、このコアコロナ型乳化剤(表示名(アクリレーツ/メタクリル酸メトキシPEG-90)クロスポリマー)は、実は新製品から配合された新原料では無く、旧製品から配合されていたと言うことが、分かります。
旧製品ではこの(アクリレーツ/メタクリル酸メトキシPEG-90)クロスポリマー単独では自信が無かったのか、さらに追加で4種類もの乳化剤((メタクリル酸メチル/メタクリル酸PEG/PPG-4/3))クロスポリマー、PEG-60水添ヒマシ油、セスキイソステアリン酸ソルビタン、PEG-12ジメチコン)を併用しています。それを(アクリレーツ/メタクリル酸メトキシPEG-90)クロスポリマー単独で乳化できる事が分かりました、と言うのが今回の新製品なのでしょう。
(ちなみにPEG/PPG-14/7ジメチルエーテルはHLBが高すぎて乳化能力自体は低いのでノーカウントとあいます。また、ジステアリルジモニウムクロリドも、おそらくシリカの被覆材用なので、おまけして乳化剤としてはノーカウントとしました)。
相変わらず資生堂的な、酷いマーケティング戦略だな、と思いますが(^_^;)
しかし一般的に、乳化剤というのは、少ない方がべたつきが少なくなり良い使用感になるんですよ。
なのでモノ作りの方向性は間違ってないです。マーケティングが、ちょっとインチキ臭いだけ(^_^;)
次は新製品の、もう一つのポイントである、紫外線吸収剤について。
冒頭でも書いたオキシベンゾン問題ですね。
冒頭で詳しく句書いてしまったのですが、上記の表中の紫外線吸収剤のパートを見ると分かる通り、旧製品のオクトクリレンを、あえて皮膚感作性があり分解もする起こしベンソンに置き換えてます。
オクトクリレンは紫外線吸収剤としての効果は低いけど、他の紫外線吸収剤の分解を抑える効果がある(これを光スタミナ技術という)と宣伝していたのは資生堂自身なのに、です。
光スタミナ技術については、以下の資生堂の公式をどうぞ。
オクトクリレンは他の紫外線旧主剤の分解を抑えると書きましたが、旧製品も新製品も、分解する紫外線吸収剤吸収剤は、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルしかありません(新製品で追加されたオキシベンゾンは除く)。むかしなら、色々な分解されてしまう紫外線吸収剤が配合されていたので、このオクトクリレンの配合は意味があったかもしれませんが、分解しない紫外線吸収剤が主流になった現在、光スタミナ技術は、あまり意味の無い技術になったので無いか?と思っていましたが、資生堂さんが自発的に新製品からこの技術を排したことで、それが裏付けられた格好です。
旧製品の商品説明ペ−ジを見ても光スタミナ技術は強調されているのですが、それを新製品では、しれっと無かったことにしている。
資生堂のマーケティングは本当に信用で混ません(^_^;)
そしてオクトクリレンの代わりに配合されたオキシベンゾンについては、前エントリでも散々書きましたが、分解する上に感作性あるという代物です。
まだ使われておいたんだ、」という驚きすらありますし、ブログを始めてから使われている製品を初めて見た(^_^;)それがアネッサだったとは・・・とても残念です。
他の3種の紫外線吸収剤については、定石通り。巣通です。
他のパートについても簡単に触れておきます。
まず油性成分のパート。
セバシン酸ジイソプロピルと言う軽い油は残しているものの、イソドデカンという石油系の油を排し、より軽い使用感のジメチコン(一般的なシリコン油)主剤に大きく変更。シリコン油と普通のオイルは混ざりにくいのですが、両者のつなぎとなる、カプリリルメチコンもしっかり配合してあります。
また日焼け止めジェルにおいてはウォータープルーフ性の向上のため油ゲル化剤を配合する事があり、旧製品でも2種配合されていたのですが(酢酸ステアリン酸スクロース、パルミチン酸デキストリン)、新製品でも少し変わって2種配合されており((パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、パルミチン酸デキストリン)、この辺りに、開発が進んだた結果の最適化を感じさせます。
あとこの油性成分パートでは、アクアブースター技術の一角であるステアリン酸の配合が特徴的です。
次は粉体のパート。
ここも大きく変わっています。
ただ旧製品では酸化亜鉛配合だったものを酸化チタンに変えるなど、意図がよくわからない変更も多いです。
メインとなっている粉体は(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマーと言うファンデーション用の粉なので、この粉体組成は何かのファンデーション製品から持ってきたものなのかもしれません。
次は防腐剤のパート。
新製品のみ、防腐剤が配合されています。
これも、これだけでは意図が分かりません。
可能性としては新規に追加されたエキスの中に、これらの防腐剤が含まれていたため、記載せざるを得なかったとかですね。
最後、保湿剤類のパート。
このパートは、一般的な日焼け止めジェル製剤と同様に、水とエタノールが多いです。
これは外相が水のO/W乳化物ならではです。
また色々なエキスが新製品で置き換わっていますが、どちらの方尾が良いとも言い難く、マーケティング上リニューアルした感を出すためだと思われます。
処方上目に付くのはまず増粘剤で、旧製品が(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマーというアルコール存在下でも粘度が出しやすいものであいたが、新製品では4種のポリマーの組み合わせ(キサンタンガム、カルボマー、カンテン、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマー)になっています。
これは乳化剤を減らした影響を、ここで何とか帳尻をあわせた、ということでしょう。
やはり乳化剤としてコアコロナ型乳化剤((アクリレーツ/メタクリル酸メトキシPEG-90)クロスポリマー)1種だけというのは、相当無理があったと言うことです。
あと普段乳化物では使われない、洗浄愛のラウリルベタインも配合されていますが、これもこっそりと乳化補助をしてるのではと個人的に疑っています(^_^;)
これで解析終了。
長かった(^_^;)
お疲れ様でした。
あとは原料ごとのコメントを、書いておきます。
油性成分
・ジメチコン :いわゆるシリコン油のことです。
・セバシン酸ジイソプロピル:エステル油という種類の油で、軽い感触が特徴です。
・カプリリルメチコン:改質されたシリコン油の一種で、普通のオイルっぽさも兼ね備えているいるシリコン油です。他のオイルの混ざりやすい特徴があります。
・パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン:オイルを透明にソフトにゲル化する油ゲル化剤です。またチキソトロピー性を有するので、生成したゲルを破壊しても室温で復元します。オイルゲル化機能のほか、オイルの増粘、乳化の安定化、顔料分散効果、ワックスの感触改良(油性感の軽減、結晶抑制)効果などがあります。
・パルミチン酸デキストリン :油の中に少量溶解させることで、油の粘度を上げるkとこが出来る原料です。日焼け止めの製剤の安定性を高める効果があります。
・トリエトキシカプリリルシラン :粉体の表面処理剤(粉体の表面をコートして、粉体を油と馴染みやすくする原料)です。
・ステアリン酸:中和すると洗浄剤となるが、そのまま使うと固形の油としての効果でエモリエント剤になる。また、粉体の表面処理剤(粉体の表面にコーティングされ、油と馴染みやすくする試薬)として、使われることがある。アクアブースター技術の中では重要成分。
紫外線吸収剤
・メトキシケイヒ酸エチルヘキシル:UVB吸収剤。1960年代から使用されている。
・エチルヘキシルトリアゾン:1990年代から使われている、比較的新しいUVB吸収剤で、光安定性が高いこと(日光で分解しにくい)、肌刺激が少ないことを特徴としています。
・ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン
・ジエチルアミノ ヒ ドロキシペンゾイル安息香酸へキシル :UVA吸収剤。日本では、2005年から使用許可されています。
・オキシベンゾン-3:医薬部外品での名称はオキシベンゾン。光で分解される事が知られている、古い世代の紫外線吸収剤(主にUVB吸収)。
厚労省が出しているSDS(安全性データシート)では、皮膚感作性ありと記載されており、光分解しない多様な紫外線吸収剤がある現在では、使用すべきでは無い原料。実際にほとんど使われていないが、大きなメーカーでも使っているところがある。例えば2018年発売の資生堂のアネッサ パーフェクトUV スキンケアジェルなど。
安全データシート(2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシフェニル)(フェニル)メタノン
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/131-57-7.html
また下記まとめサイトが詳しい
オキシベンゾン-3とは…成分効果と毒性を解説
https://cosmetic-ingredients.org/uv-protect/オキシベンゾン-3の成分効果と毒性/
そのほか、ややひヒステリックではあるが221年からハワイで使用禁止となる可能性がある。
ハワイ、日焼け止め禁止 サンゴ礁保護で2021年から
https://www.sankei.com/world/news/180704/wor1807040015-n1.html
乳化剤
(アクリレーツ/メタクリル酸メトキシPEG-90)クロスポリマー
・PEG/PPG-14/7ジメチルエーテル:プルロニック型とも言われる、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールが結合された原料で、可溶化力の高い。水溶性なので乳化剤というか保湿剤というか微妙な成分。しかし資生堂さんではこの原料に「アクアインプール」という商標をとり、特許も申請しています。
角層状態の評価方法、及び化粧料の角層改善効果についての評価方法(公告番号 WO2014112643 A1)
http://www.google.com/patents/WO2014112643A1?cl=ja
またステアリン酸とともに、アクアブースター技術のキー成分にもなっています。
資生堂アネッサ パーフェクトUV アクアブースターの解析 番外編 FJの資生堂の報文を読む2017.6.10追加
http://ameblo.jp/kesyouhinken/entry-12282367924.html
・ジステアリルジモニウムクロリド:カチオン界面活性剤。乳化安定機能は高い。今回の配合目的は含水シリカの表面処理剤だと思われる。
粉体
・(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー:トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートを反応させて得られたポリマーを粉末にしたもの。なめらかで、滑りのよい感触であることから、ファンデーションなどメークアップ化粧品の基剤として多く用いられています。
・酸化チタ ン:紫外線散乱剤。白浮きするが、単独でも高い効果がある。使用感としては、きしむ感触となる。
・含水シリカ:シリカの水和物。用途としてはシリカと変わらず、研磨・スクラブ剤、吸着剤、不透明化剤、増粘剤などの用途に用いられる。
・シリカ:別名を無水ケイ酸とも呼ばれる親水性性の粉体。微粉末で、ふんわりした感触と不透明さを併せ持つ。各種メイク品の他、クリーム、乳液や歯磨き粉など幅広く使われる。
防腐剤
・フェノキシエタノール:比較的低刺激な防腐剤。ナチュラル系の化粧品に使用される事も多い。
当ブログでは、安全性については以下のエントリーで詳しく書いてます。
プロピルパラベンの安全性についての文献を紹介
http://ameblo.jp/kesyouhinken/entry-12119450565.html
・安息香酸Na:広く使われている、比較的低刺激な防腐剤。食品にも使われる。
・水:精製水のこと。化粧品では通常、イオン交換水が用いられている事が多い。
・エタノ−ル:日焼け止めの原料として、ジェル系日焼け止めや、ウォーター系の日焼け止めでは汎用されている。乾燥速度を高めるために配合されている場合が多い。
・グリセリン:安全性に優れた、汎用的な保湿剤。
・キサンタンガム:糖類をキサントモナス属の菌に与えて作らせる、微生物由来のポリマー。構造としては酸性多糖類の一種で、増粘剤として化粧品に広く使用される。
・ラウリルベタイン:ヘアシャンプーによく使われるコカミドプロピルベタインを単純化したような構造の洗浄剤。コカミドプロピルベタインに比べて、刺激性は若干高いが、泡立ちは若干良好。日焼け止めに配合されるのは珍しいが、コアコロナ型乳化剤の乳化の右直が低いため、その補助で配合され他のでは無いかと思われる(両性洗浄剤やアニオン洗浄剤は乳化剤とは見なされないことが多い)
・チャエキス:緑茶のエキスで効能成分としてタンニン、アミノ酸、ビタミンCカロチン等が含まれ、酸化防止剤、皮膚コンディショニング剤等に使用される。
・サクラ葉エキス:サクラの葉から得られるエキス。抗アレルギー効果や抗炎症効果、また刺激緩和効果が認められている。そのほかアンチエイジング効果や美白効果、育毛効果も研究されており、マルチな効果をもつエキスとして知られている。
・力二ナバラ果実エキス:ノバラ(ローズヒップ)より抽出されたエキス。。保湿性が高い。
・・アセチルヒアルロン酸Na:天然|l1来のヒア ルロン雌にアセチル基を導入することにより、皮膚への親ホl1性が高め、使用感と角質柔軟効果を向上させた素材です。スーパーヒアルロン酸と呼ばれることおあります。
・トルメンチラ根エキス:ヨーロッパで古くから民間薬として使われている、トルメンチラの根から抽出されたエキス。抗炎症、抗炎症作用のほか、タンニンを多く含む含むため収斂作用や抗菌作用を示す。
・アロエベラ葉エキス:アロエベラの葉のエキスで、粘液質に多糖類を多く含も保湿性が高いエキスである。アロエは火傷や傷などの皮膚損傷の治療薬として昔から使われてきたが、化粧品として使用しても、荒れ肌改善効果や、日焼けによる炎症の改善などに効果がある。最近の研究では、①加水分解ヒアルロン酸の皮膚浸透を高める作用、②角質層の奥深くまで成分を届ける作用
等が報告されており、その効果が深く解明されている。
・水溶性コラーゲン:動物や魚から得られる、、水可溶性の天然タンパク。
・PPG-17::ポリプロピレングリコールの1種。水を改質し若干の油性感を与える成分。
・カルボマー:アクリル酸系のポリマーで化粧品では最も良く使われているポリマーの一つ。
・カンテン:食品の寒天のこと。これを使う事で、乳化物のべたつきを抑えられるという花王さんの特許有り(現在未査定)。
水中油型乳化組成物
http://astamuse.com/ja/published/JP/No/2014031328
水酸化K:アルカリ剤。
・(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー:アクリル酸基を持つ増粘剤で、化粧品でよく使われるものの一つ。乳化物を安定化させ、分離しにくくする機能を持っている。
・BG:汎用的な保湿剤。可溶可能も高い。
・BHT:特に紫外線吸収剤の安定性を保ち、日光による着臭や着色など製剤の劣化を防ぐ。