プロピルパラベンの安全性についての文献を紹介 | 化粧品犬が化粧品開発を模索するブログ

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大手会社の開発に勤務していましたが、好きな化粧品を好きなだけ追求するため円満退職。
ノラ犬となった化粧品犬が、面白いと思った情報を発信していくブログです。
化粧品コンサルタントとして仕事も受けています。
パームアミノ・ラボ合同会社 imori@palmamino-labo.jp

化粧品犬です。

カウブランドのボディソープとか新ジュレームとか、準備している解析ネタはあるのですが。
それらは次回以降にして、今回は硬い話です。

実は過去に書いたエントリー
コーセー ジュレーム アミノシャンプー モイスト&スムースの解析 後編(処方内容について)
http://ameblo.jp/kesyouhinken/entry-12023448900.html

中で、こんな事を書きました。

「防腐剤は、フェノキシエタノールと安息香酸Naだけでも防腐できそうなものですが、パラベンを2種も併用しています。
これがよくないですね。
特にパラベンは、アルキル基が長くなると確実に刺激が上がるので。
メチルパラベンだけならまだましですが、プロピルパラベンとかブチルパラベンとかを使ってはいけません。」


これに対して「。」さんという方からコメントいただきまして。
抜粋になりますが、以下に転載します。

>教えてあげるけどフェノキシ(エタノール)と安息香酸ソーダはプロピルパラベンより刺激強いからね。

この「。」さんへの反論は、ジュレームのエントリ-のコメント欄に上げたので興味のある方は見ていただくとして。
プロピルパラベンの安全性については、文献捜索中で、決定的な話が出来ませんでした。

まだ本命の文献は見つからないのですが(申し訳ない)
しかし、フェノキシエタノールとプロピルパラベンの比較については、ネット上でもいくつか見つかってきたので、それらをこの紹介しようというのが、今回のエントリーです。

まず、この「。」さんの短い、若干上から目線の(^_^;)コメントですが。

いくつか不明瞭な点があります。
まずは「刺激」という言葉です。
実は化粧品分野や皮膚科学では、「痛いと言うこと」と「刺激があること」事は、イコールではなく区別されています。
ヒトパッチ試験や動物パッチ試験の結果、肌が赤くなれば「刺激有り」で、痛みは関係ないのです。
痛くなくても赤くなる物はたくさんありますが、全て「刺激有り」です。
逆に痛いけど赤くならない場合、判定は「刺激無し」です。

痛いことを示す用語としては、スティング性という言葉が使われますが、これは痛みだけを表していて赤くなる(肌が損傷すること)とは、関係がありません。つまり、スティング性ががあっても肌が赤くならない(=刺激が無い、肌が損傷しない)製品もあり得ると言うことです。

でフェノキシエタノールですが。化粧品犬の印象で申し訳ありませんが、結構スティング性は高い成分です。なので、「。」さんのコメントの「刺激が高い」がスティング性を指しているなら、うなずける所もあります。
しかし、フェノキシエタノールは「刺激は低い」です(肌は赤くなりにくい=損傷しにくい)
しかし、プロピルパラベンは「刺激が高い」です。フェノキシエタノールに比べると、肌が赤くなる(肌が損傷する)成分です。

化粧品はたいていの場合、開発の最終段階で人パッチ試験をやるので、「刺激が高い」成分は使用頻度も減るし、高い使用濃度の製品も出来ないはずです。
これをネット上の文献で確かめて見ました。

まずこれです。
>市販化粧水中のフェノキシエタノールおよび パラベン類の分析法に関する研究
http://www.nihs.go.jp/library/eikenhoukoku/2003/2003_notes_25.pdf
P.28に市販品を分析し、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンなどの配合量を「測定した表が載っています(^_^;)
結果を抜粋すると、以下の通り。
フェノキシエタノールの使用例 42品中31品 配合濃度範囲 0.009 ~ 1.04 %(平均値0.266 %)
メチルパラベンの使用例 42品中42品 配合濃度範囲0.012 ~ 0.204 %(平均値0.097 %)
プロピルパラベンの使用例 42品22品 配合濃度範囲 0.002 ~ 0.04 %(平均値0.015 %)


プロピルパラベンはフェノキシエタノールに比べ、使用例数も負けているし、配合濃度でもずっと低い濃度でしか使われていません。平均値で見ると、フェノキシエタノールの5.6%の量でしか使われていない。
まあ、「「。」さんは「教えてあげるけどフェノキシ(エタノール)と安息香酸ソーダはプロピルパラベンより刺激強いからね。」と言われるわけですが、結果を見れば、化粧品業界はプロピルパラベンよりフェノキシエタノールを、正直に選んでるという事でしょう。

類似の文献として、パラベン類に絞った物ならば以下の文献も参考になります。

化粧品から検出されたホルマリン,防腐剤及び紫外線吸収剤の検査結果(平成 20~23 年度)
http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/archive/issue/kenkyunenpo/nenpo64/suzukiatuko.pdf

また、これも類似の文献ですが、欧州関係で気になる記載があります。
化粧品中の防腐剤であるパラオキシ安息香酸エステル(パラベン)の濃度
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2011/pdf/01-14.pdf

引用すると、
化粧品基準としてパラベンの合計配合制限量を1.0 g/100 g(=1.0%)としている我が国と異なり,欧州委員会は, より詳細にその配合量を規定しており,メチル及びエチル パラベン個々で0.4%以下,または,その合計量で0.8%以 下などとしている。

という事です。日本は少し荒っぽいですね。
ここからが核心部分です。

さらに,2011年3月欧州委員会の消費者安全科学委員会は,最近の知見に基づきパラベンの規制について見直し,プロピル及びブチルパラベンについて 規制を強化して,単体または合計で0.19%を超えないこと と提唱した

というわけで、欧州ではプロピルパラベンの配合量は、更に厳しく規制される流れのようです(^_^;)
これは化粧品犬の「プロピルパラベンは刺激が強い」という印象とも一致します。
やけにパラベン類分析の文献が、政府系研究施設からアップされていると思いましたが。これを見越して現状把握・・という事なんでしょうかね。

何はともあれ、「教えてあげるけどフェノキシ(エタノール)と安息香酸ソーダはプロピルパラベンより刺激強いからね。」とか言ってる場合ではなさそうですね(しつこい)。

以上です。