初対面同士が初期衝動から生み出すワークショップ――「ハモりやろうぜ」 | KEN筆.txt

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BGM:QUEEN『We Will Rock You』

 

「新しい企画です。ぜひご覧いただきたく予定が空いていたらご参加ください♪要するに中高生のときの『バンドやろうぜ!』みたいな初期衝動をどれだけ今でも発動できるかの真剣遊びです」

 

縁あって、過去に3度インタビュー取材をさせていただいているアカペラグループ・INSPiのリーダーである杉田篤史さんからフェイスブックのメッセージを通じ、そんなお誘いを受けた。杉田さんはグループとしての活動と並行し、2017年よりアカペラハーモニーによってチームビルディングを学ぶワークショップ「ハモニケーション」をスタートさせ、地域活動だけでなく企業の新人研修や学校教育の場にも招かれている。今年2月には「株式会社hamo-labo」を起ち上げ、自ら代表取締役CHOを務める。

 

INSPiにおける活動を続ける中で、現代社会における人間同士の調和と、それを体験する上でハモることの重要性を実感している杉田さんは、型を決めずに即興性によって一つのものを集団で作る試みを考えた。11月24日、DDT後楽園ホール大会終了後、北区にある聖学院小学校へと急いだ。校内にあるチャペルが今回の会場でこの日、初対面となる皆さんが17人ほど集まっていた。

 

本当ならば自分もアカペラに参加したかったが、取材後の途中参加とあり今回は遠慮させていただき見学する。ちょうど杉田さんによるレクチャーを終えたところだったようで、2つのグループに分かれて課題曲の『Let It Be』を40分間で形にするのだという。Aグループは別室へ移動。Bグループはそのままチャペルへ残り、別々に課題へと向かった。

 

同じ講義を聞いた上で、同じ曲に取り組みながら、メンバーが違えば別々の『Let It Be』になる。加えて、シチュエーションの違いも影響を及ぼすのが今回の試みでわかった。私はチャペル組の過程を追うことに。その場にいる全員で普通に歌うところからスタートしたが、一人から「和音やってみたくない?」との案が出され、パートが分かれる。

 

チャペルにはピアノがあったのでそれで音を出しつつ合わせたり、スマホで動画を撮って確認しながら進めたりと、その場で思いついたことを他者が否定することなく受け入れてやってみる。アカペラであるため、楽器による伴奏はない。だから、歌いながら自分でリズムをとるようになるうち「胸を叩くと痛いから足踏みに変えてみた」。

 

そのリズムが自然とQUEENの『We Will Rock You』になっていったので全員、それが病みつきになる。「だったらそのままWe Will Rock Youに流れていった方が面白いじゃないの」ということで、Let It Beを歌いながら最後は「We Will Rock You!」で締まるという流れが完成。しかも、一人だけLet It Beを歌い続ける男性がみんなに迫られ、最後はつられて「We Will Rock You!」と加わるというパフォーマンスまで編み出された。

 

これを初対面同士で作ってしまうところに即興性の楽しさがある。まさかポール・マッカートニーとフレディ・マーキュリーのセッションが小学校のチャペルで生まれるとは、誰一人として予想していなかったはず。

 

対する別室組は、楽器も何もないテーブルが並んだ部屋での制作となった。最初はみんな座りながら歌っていたそうだが、10分ほど経ってから「立って歌ってみよう」となったという。そうした環境の中だと湧いてくるインスピレーションも変わってくる。だからこちらは、スタンダードなスタイルとなった。

 

 

どちらが優れているとかではなく、場によって形が変わってくるあたりに音楽の妙がうかがえる。たった40分で両グループとも、コミュニケーションを図りつつ調和をつかんだ上でそれを作品としたのだ。じつはやってみてうまくいかないケースを想定し、杉田さんはコーラス表を用意していたのだがそれも必要なく、ゼロから築き上げた予想以上の成果に顔をほころばせた。
 

「自分のやるべきことが見つかる大切さ」が味わえ「ハモった瞬間、グッと来て一段上がったという気持ちになれた」という参加者も。どちらのグループも「否定しないこと」の心地よさが実感できた。これこそが、ハーモニーによるコミュニケーション…ハモニケーションの持つ可能性なのだ。
 

「音楽でハモるということは、音楽だけじゃなく人間同士が調和して生きていくこと。僕自身が人生の学びをハーモニーから与えられてきて、ハーモニーを文化として伝えなきゃいけないと思うようになったし、その役割が回ってきたのかなと。ロックやジャズは、文化として伝えようとしているじゃないですか。アカペラはまだまだそこが弱いなと思っていて、楽しいと同時にハモるということは本質的な面白さがあるんだと伝えたいです」


杉田さんは、今後もこの即興性による調和のぬくもりをさまざまな形で広めていきたいと思っており、2度目「ハモりやろうぜ」の場を計画中。大人になると、子どもの頃のように夢中になって自由に何かに取り組む機会がなかなか得られない。そうした中で知らなかった者同士が一つの作品を生み出すのは、意義深い。次回はぜひ、アカペラに参加させていただきたいと思う。

 

▲「ハモりやろうぜ」に参加した皆さんと杉田さん(左)

 

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