続・あの時、純烈の前から去らなかったすべての人々へ――『白と黒とハッピー~純烈物語』書籍化 | KEN筆.txt

KEN筆.txt

鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

BGM:Ricky Martin『Livin' La Vida Loca』

 

ムード歌謡グループとして紅白歌合戦2年連続出場を決めた純烈のノンフィクションを描いた『白と黒とハッピー~純烈物語』(扶桑社。価格1500円+税)を上梓、12月20日より発売されます。私自身としては、昨年発刊された『プロレス きょうは何の日?』(河出書房新社)に次ぐ2冊目の著書となります。

 

『白と黒とハッピー~純烈物語』CONTENTS
★3番目の選択肢を描いた純烈マニュアル――まえがきに代えて
☆序章 黒から白を求めて――スキャンダル後の純烈
★第1章 純烈を成功させた酒井一圭の戦略と縁(えにし)
☆第2章 リアルを超えたリアリティー
★第3章 メンバーを選んだ決め手は“声"と“年上"と“運"
☆第4章 白川、小田井、後上から見た酒井一圭という人間
★第5章 黒を乗り越えてのハッピーをみんなで
☆解説 「酒井一圭episode0」息抜きがてらのドライブ(スーパー・ササダンゴ・マシン)
★“はじめのはじまり”に関するあとがき(鈴木健.txt)

 

7月よりスタートしたウェブ『日刊SPA!』の連載に加筆・改稿をしたもので、カラーグラビア16ページを含めた全304ページの中に純烈の現在と過去が詰まっています。デビュー10年にして宿願だった紅白歌合戦への初出場を果たしたのも束の間、メンバーのスキャンダルによって天国から地獄へ突き落されながらもそこから這い上がり、2度目の紅白出場を決めるまでの闘いをメンバーたちによる証言をもとに描いた物語であると同時に、4人のルーツを探ることによって復活できた理由も追い求めました。

 

ムード歌謡の“ム”の字も知らないおじさんたちによって始められたことが、紅白出場という一つの成功につながる過程はエンターテインメントに携わる者にとってのビジネス書にもなると思われます。ステージ上の姿や、毎日のように流れてくる芸能ニュースとは違う世界と、そこで生き抜くための方法論はある意味生々しさに満ちていますが、そこまで包み隠すことなく4人のメンバーには語っていただきました。

 

連載中に今年の紅白出場が決まり、本書の製作が佳境に入ったタイミングで酒井一圭リーダーを緊急取材。つまりこの書は、嵐のはじまりから白と黒を超えてのハッピーまでの激動だった純烈の2019年が一冊にまとめられたものでもあります。おそらく今年は、これから純烈が歴史を重ねていく中でずっと語り継がれていくはず。そんな濃密すぎる一年のドラマを自分なりの視点で書いてみました。

 

そもそもプロレスに本籍を置くライターが純烈について書くこととなったのは「マッスル」に上がっていた頃の一圭さんとの関係なくしてあり得ませんでした。だから、連載もそれに関する話が随所に出てくる。もちろん、そのすべてが現在の純烈につながっているゆえ触れるわけですが、果たして純子と烈男(純烈ファンの総称)の皆さん、マダム層や年配の方々に伝わるかという葛藤は今も持ち続けています。

 

でも、同じエンターテインメントとして地続きなのだから、一圭さんの姿勢はジャンルを超えて伝わるはずとの思いでやってきました。連載のテキストをそのまま再掲載するのではなく、相当表現の仕方やそれこそ漢字・かなの使い分けも変えています。ウェブで毎週閲覧していただいているのはやはり若い世代が主であり、年配層にとってはスマホやパソコンで欠かさず見るのは習慣性や視力の面で一つのハードルとなります。

 

そういう皆様は、今でも紙媒体の方がとっつきやすい。なので、書籍化するにあたりどちらかというと年配層向けの作りにシフトチェンジする必要があると思いました。難しかったり、あるいは画数が多いことで見づらかったりする漢字は極力避けて、ひらがな表記に。本文の文字も一般的なフォントより少し大きくしてあります。純烈の魅力をどんなに熱く語ったところで、読みづらかったら伝わらない。300ページという、当初の想定を大幅に超え製作途中で増ページしたのもそこにこだわったためでした。

 

著者としての意図をもう一つ言わせていただけるとしたら、この書は2009年に週刊プロレスを離れフリーとなってまでしてやりたかった「プロレスを外に広める」が実現したものでもあります。それには自分自身が媒体力を高める必要があったわけですが、世間にまで届くということはそんな生やさしいものではありません。この10年で、何度となくそのカベに跳ね返され自身の無力さから砂を噛むような思いをしてきました。

 

そんな中、同じくプロレスに愛を持ちマッスルを「自分の実家」といってはばからない一圭さんが手を差し伸べてくれました。もちろんそれは私自身の力ではなく、純烈というとてつもない世間レベルのコンテンツ力によるものですが、その力を借りることによってそれまでプロレスを見ていなかった層にも純烈と通じる物語性や人間ドラマならではのあたたかさ、価値を届けられる場を得ることができたのです。

 

本章の中ではこだわりとして一人称は一度も使っておりませんが、まえがきとあとがきに関してはどうしても一圭さんと著者のパーソナルな関係を理解していただく必要があるため、内容的にプロレス色が強いものとなっています。それを含めると、全体として3割近くはマッスルやDDTだけでなく棚橋弘至選手や中邑真輔選手、元NWA世界ヘビー級王者リック・フレアーの名前までが出てくるようなシロモノです(Amazonのカテゴリーでプロレスにも入れてほしい。ネットプロレス大賞の「最優秀プロレスを伝えたで賞」にもノミネートされたい)。

 

受け取り方によっては「あいつはプロレスの人間だから純烈を利用してプロレスについて書きたかっただけだろ」となるかもしれません。でも、おそらくそうしたテイストを誰よりも望んでいたのが一圭さんだったのではないかとも思います。その理由は、本書を読んでいただければ理解していただけるはずです。

 

そこにある物語をしっかりとていねいに、根気よく愛を持って書けばジャンルの枠を超えて人間の心を揺さぶるものになる。この信念のもとにおいては純烈もプロレスもありません。それがどこまで世間に届くのか、私にとってはこれが初めての挑戦の場となります。でも、純烈の4人の皆さんが力を貸してくれているので、この物語は深く、濃く届くと信じています。

 

また、マッスル時代の一圭さんの盟友であるスーパー・ササダンゴ・マシン選手にも“解説”として寄稿いただきました。あの頃の二人の関係性を描くには第三者的視点だけでなく、当事者が語る情景も必要だと思ったからです。純烈を知らないプロレスファン、特にマッスルへ夢中となった皆さんにはぜひ読んでいただきたい名文です。

 

ササダンゴ選手には帯の推薦文も書いていただきました。一圭さんと私だけでなく、マッスルへ携わった者が集って一つの形として世に出されるのは、筆舌に尽くしがたい感慨があります。

 

この本は連載を始める時に書いた「あの時、純烈の前から去らなかったすべての人々へ――」の続編です。最初は『週刊SPA!』の「エッジな人々」における一圭さんのインタビューがイントロダクションとなり連載が始まりました。やがてそれは書籍化され、2年連続紅白出場後も継続されます。

 

純烈がこの一年間頑張ってこられたのは、何よりも自分たちの前から去らなかった人々への強い思いにほかなりません。だから私は、これからも続くであろうその“お返し”をテキストによって形にしていきたい。年明けからの連載は、2度目の紅白以後の純烈を追うことになります。

 

まずは本書を手に取ってみてください。そしてプロレスを知らない純烈ファンの皆様、純烈を聴いていないプロレスファンの皆様の声を聞かせてください。本書のツイッター専用アカウントに飛ばしていただけたら、すべて目を通します。なお、年明けに電子書籍(Kindle版)も販売されますので、そちらもご利用ください。

 

1月24日(金)には発売記念トーク&サイン会イベントも決定。参加を希望される方は三省堂書店池袋本店さんへGO!

 

そして最後に――最終章となる第5章の締めでリーダーが言ったことはこの1年間、純烈を応援し続けてきた皆様にもっとも伝えたい言葉です。