第一部 青銅の神々
第二章 目ひとつの神の凋落


■ 天目一箇神が統合する片目と金属のイメージ

前回の記事では柳田国男氏の「定本 柳田国男全集」から、「一眼一足」と金属の関連ある伝承を抜き出されました。こちらでは柳田国男氏の著書以外から探し出された事例が挙げられます。



◎河内国高安郡高安村の恩智神社の眼を傷つけた神

恩智神社のご祭神は、五月五日の端午の粽(ちまき)で目を突いたとあり、その地方では端午の節句にも粽を作らぬという例が、「日本民俗学辞典」中山太郎編に報告されているとのこと。

なお近隣2ヶ所から銅鐸が出土。


[河内国高安郡] 恩智神社



◎大和国平群郡額田部の片目の鰻

奈良県大和郡山市の旧「平端村大字額田部」にある「業平山」は、昔業平が河内へ通う道。業平がここで冠を取って休んでいると、柏木の池から鰻が出てきて冠に近付いたので、杖で突いて片目を潰した。以降、この地に他の魚類は満足であっても、鰻だけは片目。他から両眼のあるのを入れても、間もなく片目になるという。

当地は額田部氏が拠点とした地。額田部氏は天目一箇神を奉斎して、金属の鋳造を専業とした技術者の氏族とみられるとしています。



◎播磨国佐用郡 長尾字木谷の片目魚

兵庫県佐用郡佐用町長尾字木谷に鎮座する神羽神社(本書では「神場神社」とするが誤りと思われる)。この社に対しての記事が「佐用郡誌」に記されています。

━━本社は神羽様と称し鞴(ふいご)の神として崇敬せられたり。太古大撫山を鹿庭山(かにわやま)と称し、十二谷あり。谷ごとに鉄を生ぜしこと播磨風土記に見ゆ、其当時本神社祭天目一箇を祀き祭れるものならん。然して棟札於ても神羽大明神として古く天平延暦年間頃(729~806年)奉斎されし事明らかなり、鍛冶屋の神と称せられ来れる天目一神を祀れる此谷は、古来谷川に住む魚類悉く片目なりしとの伝説あり。大撫山に鍛冶屋敷と称する土地名あり、其一帯到る処カナクソ散在せり。こは以て往古鉄を出し又鋳鉄に従いし事ありしを知るに足る━━



◎播磨国宍粟郡岩野辺の片目鰻

兵庫県宍粟郡千種町のたたらがあったという「岩野辺」は、「鉄山秘書」や「金屋子神祭文 雲州非田の傳」などに記される「岩鍋」の伝承地。つまり金屋子神社のご祭神が先に降った地。

この西方1kmほどに片目の鰻の伝承があると、「播磨国風土記」には記されます。また「千種山」の流域には片目の鮠(ハエ、コイ科の淡水魚、現地では「ゴトクソ」と呼ぶ)の住む場所があるとのこと。



◎陸奥国宮城郡大沢村の片目魚

仙台市青葉区(旧 宮城郡宮城村)付近に片目魚の伝承があったとのこと。また鉄を生産した証跡があるようです。



◎陸奥国刈田郡のヤマメとイワナ

宮城県白石市(宮城県南端)の「大太郎川(だいたろうがわ)」の川すじから砂鉄が採れ、「深谷」集落ではあちこちから「金かす」が掘り出されるとのこと。またホドと呼ばれる炉跡もあるとか。

この「大太郎川」にはヤマメだけがいてイワナは棲まない。反対に近くを流れる「児捨川」の上流にはヤマメはいなくてイワナのみが棲むようです。イワナは泥水でも平気であるが、ヤマメは澄んだ水を好むとのこと。また或いは鉄分を含む水質を好む好まないの性質があるのかもしれないと、「大刈田山麓随想」片倉信光氏という書にあるようです。

━━片目魚の伝説が生まれたのも、魚が鉄分を嫌うというところにその原因が求められるかも知れない。「大太郎川(だいたろうがわ)」はタタラ川であろう━━と谷川健一氏はみています。



◎長門国美禰郡別府村の天目一箇神

現在の山口県美祢市秋吉町別府の鍛冶職人の話が載せられる、「鑪と鍛冶」石塚尊俊氏から引用されています。

━━むかし天目一箇神がおちぶれて来られた。目の一つしかない、人相の悪い姿だったので犬がほえかかった。しかし神は蜜柑の木に登って助かった。それで今でも鞴祭のときには蜜柑を供える━━

この地から美祢市「於福」とは4kmほどの隔たり。「於福」はかつての「伊福」であり、伊福部氏が住んでいたとされます。また鉱山も集中する地であるとのこと。



◎越後国一ノ宮 彌彦神社の片目の祭神

越後国蒲原郡(現在の「新潟県西蒲原郡彌彦村」)に鎮座する彌彦神社のご祭神は片目神であるという、異なる2つの伝承を挙げています。

一つは「彌彦山」から連なる山地の北側、新潟市西蒲区「間瀬(まぜ)」。今一つは「彌彦山」の西方(日本海側)の長岡市寺泊「野積」。
いずれもご祭神が「彌彦山」に登る際にウドで目を突き片目になったとあり、以後ウドは生えないというもの。彌彦神社の公式のご祭神は天香山命。

当地では古来より銅が産出され戦後まで続いていたとのこと。


越後国一ノ宮 彌彦神社




今回はここまで。

個人的趣味として民話などが好きということもあり、いつまでも続けていたいところですが…

次へと話を進めていきます。


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