◆浅井姫伝承(近江国風土記より)
琵琶湖の竹生島(ちくぶじま)を中心として、
浅井姫にまつわる伝承が残されています。
「近江国風土記」や「竹生島縁起」に詳しく記されていますが、内容は少々異なります。
ここでは「近江国風土記」を元に触れていきます。
霜速比古命(シモハヤヒコノミコト)に三柱の神がありました。
・多々美比古命(タタミヒコノミコト)…夷服丘神(イフクオカノカミ)と呼ばれる。
・比佐志比女命(ヒサシヒメノミコト)…夷服丘神の姉で久恵峯にいる。
・浅井比咩命(アサイヒメノミコト)…夷服丘神の姪で浅井岡にいる。
「夷服丘」とは「伊吹山」のこと。
ある時、「夷服丘」と「浅井岡」が背比べ(どちらの山が高いか)をして競いました。
すると「浅井岡」の方が一夜にして高さを増したので、夷服丘神(タタミヒコノミコト)は怒って剣を抜き、浅井比咩命を斬ってしまいました。
比咩の頭は江(琵琶湖)に落ちて「江島」となりました。
「竹生島」と呼ばれる島はその頭なのでしょうか。
以上のように記されています(意訳)。
一方、「竹生島縁起」では、タタミヒコノミコトは気吹雄命(キブキオノミコト)として登場します。
またシモハヤヒコノミコトの御子神として三柱が登場しています。
また三神はそれぞれ以下の社に鎮まります。
多々美比古命 → 伊夫貴神社
比佐志比女命 → 上坂神社
浅井比咩命 → 都久夫須麻神社
※上坂神社の現在の祭神は素戔嗚尊
この説話をどう取るかですが、
部族間の争いがあったと考えるのが自然でしょうか。
また夷服丘神(イフクオカノカミ)や気吹雄神は、製鉄鍛治氏族である伊福部氏との関連を想起させられます。
天日矛神、天之御影神、それらの血を引く息長氏と金属鍛冶神が多く祀られます。
浅井姫も岐阜県(滋賀県境)の「金糞岳」が「浅井岡」ではないかと考えられています。
「伊吹山」標高1337m
「金糞岳」標高1317m
背比べをしたというのも頷けます。
ただし西浅井町岩熊の矢合神社には、当地まで追い込まれて防矢を射たという伝承もあり、鉄製武器を持たない部族だった可能性も。
なお近江国浅井郡は伊香郡を挟み、なぜか東西両方に別れています。
東の方の浅井郡にも矢合神社が鎮座し、境内社として浅井姫を祀る神社が鎮座しています。
西浅井町岩熊の矢合神社