今回は正しい遺言の形式の1つ「公正証書遺言」について解説します。
「公正証書遺言」は「自筆証書遺言」と違い、被相続人(自分が亡くなった時に財産を譲る人)本人が「遺言書」を作成するのではなく、「公証役場」で「公証人」に作成してもらう遺言書です。自分自身で書く訳ではなく、公的な方法で作成するので、遺言書のルールに違反し無効になる恐れがないというメリットがある一方、自筆証書遺言に比べ費用と手間がかかるというデメリットがあります。
「公正証書遺言」は基本的には「公証役場」に行って作成を行いますが、遺言作成者が外出できない等の理由がある場合には出張も行って貰えます。「公証役場」は全国約300カ所にある法務省管轄の機関です。「公証人」とは、裁判官や検察官の経験者で、公募の中から法務大臣が任命する準国家公務員です。ちなみに定年は70歳となっています。
「公正証書遺言」を作成する流れは以下のとおりとなります。
①相続内容を考えメモ等にまとめる。必要書類を準備する。
自分で遺言書を書かないとは言っても、当然その内容や根拠は自分で考えなくてはいけません。遺言書を作成する際には「公証人」に自分がどのような相続をしたいのかを伝えなくてはいけませんので、その考えを書面にしておかなければいけません。もちろんこの書面自体が「遺言書」そのものになる訳ではありませんので、特に書式にはこだわらずメモのような形で良いと思います
。実際に作成を行う際には、どれくらいの財産があるのか?法定相続人は何人いるのか?等も考慮しなくてはいけないので、その資料も準備する必要があります。その人の状況によって必要書類は変わってきますが、代表的なものは以下のとおりです。
・発行から3か月以内の印鑑登録証明書……市区町村役場の窓口(印鑑登録をしていない場合は運転免許証やパスポート)
・遺言者の戸籍謄本……市区町村役場の窓口
・遺言者と財産を譲る相続人の続柄が分かる戸籍謄本……市区町村役場の窓口
・財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票、手紙、ハガキその他住所の記載のあるもの。法人の場合には、その法人の登記事項証明書または代表者事項証明書(登記簿謄本)。……市区町村役場の窓口、法務局
・不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)……法務局
・固定資産税納税通知書(または固定資産評価証明書)……毎年、春に市区町村役場から郵送(評価証明書の入手は市区町村役場の窓口。東京都の場合は都税事務所)
・預貯金の通帳のコピー
・証人を知人に依頼する際には、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ
・遺言執行者を指定する場合は、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ
②公証人への遺言の相談や遺言書作成の依頼
遺言作成者やその親族等が、公証役場に電話やメールをして予約を取ります。その後準備した資料を持参して公証役場に行きます(出張も可)。このように直接本人が動く場合もありますし、弁護士や司法書士や行政書士または銀行等に依頼して作成や準備を手伝ってもらう場合もあります。当然士業の方や銀行に依頼した場合には別途費用がかかってしまいますが、資料漏れや準備段階の不備等は発生しにくいでしょう。
③証人を準備する
「公正証書遺言」の特徴の1つとして、証人2名の前で遺言の内容を口頭で読み上げた上で正式に確定させるというものがあります。証人が必要な理由は、遺言者本人が遺言を遺すという事、誰かに脅され書かされているわけではない事、認知症などを患っておらず正常な判断能力が備わっている事などを確認するためです。証人に身の回りでお願いできそうな方は、友人や知人ですが、民法では、未成年者や相続人、財産をもらう知人は証人にはなれません。
士業の方に依頼をした上での作成であればその士業の方が証人になってくれますが、その人とは別にもう1人証人になってくれる人が必要となります。心当たりがない場合は、公証役場に相談すれば紹介してもらえますが、証人1人に対し、1万円前後の謝礼が必要です。
③「遺言公正証書(案)」の作成と修正
「公証役場」では「公証人」が、①で準備したメモや必要資料に基づき、「遺言公正証書(案)」を作成し、メール等により、それを遺言作成者等に提示します。遺言作成者がそれを見て、修正したい箇所を伝え、公証人が、それに従って「遺言公正証書(案)」を修正する事で遺言書の内容が確定します。
④「遺言公正証書」の作成日時の確定
「遺言公正証書(案)」の内容が確定した後は、公証人と遺言作成者等との間で打合せを行った上で、遺言作成者が「公正証書遺言」をする日時を確定します(事案によっては、公正証書遺言をする日が最初に設定されることもあります)。この作成日時の確定も「公証役場」に訪問するか、「公証人」に出張してもらって行います。
⑤遺言の当日の手続
遺言当日には、遺言作成者本人から「公証人」に対し、証人2名の前で遺言の内容を改めて口頭で告げます。「公証人」はそれが判断能力を有する遺言作成者の真意であることを確認した上で、③で確定した「遺言公正証書(案)」に基づき、あらかじめ準備した「遺言公正証書」の原本を遺言作成者および証人2名に読み聞かせ、または閲覧させて、遺言の内容に間違いがないことを確認します(内容に誤りがあれば、その場で修正。)。
遺言の内容に間違いがない場合には、遺言者および証人2名が、「遺言公正証書」の原本に署名し、押印をすることになります。
「公証人」も「遺言公正証書」の原本に署名し、職印を押捺する事で「遺言公正証書」が完成します。なお、この場では遺言作成者が自らの真意を任意に述べる事ができるように、利害関係人は同席する事ができません。
冒頭でも解説しましたが「公正証書遺言」にはメリットもデメリットもありますのでまとめてみましょう。
【メリット】
・公的な資料となるので、「自筆証書遺言」と比べると、実際に相続が発生した後に相続人からの不満も出にくいし、仮に不服を申し立てられて裁判になったとしても、その内容を覆す事は難しい。
・「公証人」のアドバイスを 受けながら、遺言作成者の真意を正確にまとめて相談しながら作成する事ができす。
・「公証人」は裁判官や検事を経験した法律のプロなので、遺言書が無効になる可能性が限りなく低い。
・「発見されない」「改ざんされる」「隠ぺいされる」等の恐れがない。
・2人の証人が立ち会うことで内容の信用性が高まるほか、遺言を遺す人は、実印の印鑑登録証明書を提出するか、または運転免許証などを見せるため、本人確認も厳格。
・「自筆証書遺言」は法務局に遺言書を預けておかなければ家庭裁判所での検認という手続きが必要だが、「公正証書遺言」の場合はそもそもこの検認手続きが不要。
・「自筆証書遺言」は必ず遺言作成者が手書きしなければいけないが、「公正証書遺言」の場合は、「公証人」がパソコンを使用して「遺言書」を作成してくれるので、仮に手や目が不自由だとしても「遺言書」を遺すことができる。「公証人」に事前に申し出ておけば、「公証人」が代わりに署名・押印をする事も可能。
【デメリット】
・確実な資料を準備する必要がある為、時間がかかってしまう場合がある。
・「自筆証書遺言」のように手軽に1人で作成できない。
・作成自体に費用(公証役場の手数料)が掛かる。
・そもそも作成自体に費用がかかる。
・弁護士や行政書士の先生に依頼すると、報酬を支払う必要がある。
・証人を自分で準備できなければその分も費用がかかる。
公証役場の手数料は2024年6月2日時点で以下のとおりです。
100万円以下…5000円
100万円を超え200万円以下…7000円
200万円を超え500万円以下…11,000円
500万円を超え1000万円以下…17,000円
1000万円を超え3000万円以下…23,000円
5000万円を超え1億円以下…43,000円
1億円を超え3億円以下…43,000円に超過額5000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下…95,000円に超過額5000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合…249,000円に超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額
財産が多いとかなりの金額になりますね。
「自筆証書遺言」も「公正証書遺言」も、それぞれメリットとデメリットがありますので、よく考えて運用したいですね。
基本的にはこのどちらかを選択する方が多いようですが、遺言書にはもう一つ「秘密証書遺言」という方法があります。次回はこの「秘密証書遺言」について解説していきます。
と、いう事で今回は以上です。
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※今回の記事は2024年6月2日時点での情報です。御覧になるタイミングによっては最新の情報ではありませんので注意して下
さい。 |
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