実家に帰る | Poco a poco -難病と生きる-

Poco a poco -難病と生きる-

スペイン語の「poco a poco」は、日本語では「少しずつ」「ゆっくりゆっくり」という意味です。遺伝性による難病、脊髄小脳変性症を患っていると診断された2015年7月(当時34歳)以降、少しずつ身体が動かなくなる恐怖と闘いながら、今日を生きる僕の日記です。恐縮です。

今年のお盆はコロナ禍の自粛要請に則って、家族団らんはできずに終わった。テレビ電話で甥っ子同士が会話したのだと、嬉しそうに話す伯母から、帰ってこいと促される。親父からも同様に歓迎される。新年以降の帰省だ。体調面の報告をしなければならない。随分と進行した。
 
本日は大塚の事務所にて、患者会の理事会が開催される。日中は拘束されるので、夕方以降の帰省になる。見越して、早朝のウォーキングに励む。小一時間で汗が凄い。シャワーを浴びて、いざ出発。理事会は毎度の如く議案が多い。一時間ほど延長して、いざ実家へと向かう。
 
歩数を確認。目標まで、まだ若干足りない。最寄り駅より更に1駅手前で降車し、実家へと歩き出す。この選択を激しく後悔。急こう配の下り坂で膝軟骨がぶっ壊れ、長く続く上り坂で脚が前に出ない。思い出す、下山時の「白馬岳」や「甲斐駒ヶ岳」で見舞われた、あの絶望感――。
 
 
あの時は友人が肩を貸してくれた。だが今は僕一人だ。実家までの距離なんて、健常者なら10分もあれば着くような現在地だが、まるでどこか緑の深い藪の中にでも迷い込んでしまったかのようだ。伯母に連絡する。「あと30分」。「ごめん更に15分」。「あと5分」。「ごめんあと5分」。
 
 
汗びっしょり、脚を引きずって玄関を開ける僕を見て、風呂へと促される。愛犬が、嬉しそうに僕の足元から離れずにいる。食卓には、僕の日常とはまるで異なる品数が並ぶ。やはり実家は落ち着く。もし経済的な理由や体調面の不安に襲われても、セーフティーネットがある安心感。