Poco a poco -難病と生きる-

Poco a poco -難病と生きる-

スペイン語の「poco a poco」は、日本語では「少しずつ」「ゆっくりゆっくり」という意味です。遺伝性による神経難病、脊髄小脳変性症を患っていると診断された2015年7月(当時34歳)以降、少しずつ身体が動かなくなる恐怖と闘いながら、今日を生きる僕の日記です。恐縮です。

2026年(下半期)の行動目標
・日次3,000歩のリハビリを継続する
・読書or映画鑑賞を月2本以上
・ブログの投稿を月20回以上
・みんチャレ参加5チームの活動を継続する
・体型を維持する(50kg以上)
・月に2回は友人と外で会う

交際相手ではないよ。でも、デートの相手。戸田さん(仮称)。まだ杖を必要としていなかった頃に出会って、逢瀬を重ねた。頻度は月に1度だったのが、一か月半周期になり、2ヵ月に1度になり、3ヶ月に1度になった。前回会ったのが4月中旬。いよいよ4か月周期になったぞ。

 

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悲観することはない。その前は5ヶ月ぶりだった。このままでは半年置き、否、一年周期になるかもね。え。会てくれるだけまだいいじゃんって。そうだな。本当に、出来ないことが増えた。例えばトイレ。一人で行ける距離じゃない。彼女が甲斐甲斐しい。掌が触れる。ドキッ。

 

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…としない。いつからだろう。以前の初心な僕なら、彼女の身体に触れる度に、舞い上がっていた。2時間半のカラオケを終えて、次の店へと急ぐ。人気の居酒屋。車椅子を外付けして、店内にアクセスする。彼女の肩を借りる。脚が震える。店内は大混雑。トイレは駅まで我慢。

 

地元の美容院が苦しんでいる。客が来ない。美容師を遊ばせるわけにもいかない。行きつけの美容室は、今日も店長の男性と、エースの女性の出勤が寂しい。2ヵ月に一度の贅沢。通常のメニューの他、ヘッドスパや眉毛カットをお願いしている。相場はどれぐらいだろうか。

 

 

行動範囲を伸ばす度に、発見する地場の美容院や理髪店。外看板に書かれた料金表を見て、戦慄する。地元より2,000円安い。こっちは半額だわ。おまけにバリアフリーと来た。後ろ髪を引かれるが、ちょっと待って欲しい。担当美容師との関係性を忘れたか。一朝一夕じゃねーぞ。

 

 
出発してすぐ、ゲリラ豪雨。バケツをひっくり返したような雨粒。この世の終わり。慌てて折り畳み傘を広げる。踵を返すことも検討。でも電話は苦手。どうせ通り雨の類だ。すぐ止むはず。予想は的中。傘を格納して、定刻に美容室へ。濡れちゃいましたねと担当美容師。
 

 

発声が難儀なことを伝えている。会話は必要最低限。LINEのアカウントを交換した。飲みに行くためではない。今日のような、急を要する場面で連絡して欲しいと。有り難い。入口には、僕の為のスロープまで用意されている。もう、浮気なんかできない。はい。お会計ね。高ぇ。

僕の部屋から居間までは、廊下を隔てた先にある。普段鳴る、インターホンの音さえ聞き逃す距離にあるにも関わらず。何故だろう。おチビちゃん達が発する素っ頓狂な叫び声は、距離なんて関係ない。アスファルト製の厚い壁をも簡単に貫通する。いつからここは動物園になった。

 

 

それにしても。君たちは、寝ても覚めても僕の部屋だったじゃないか。分かっている。子供心に、彼らだって成長するのだ。特に顕著なのが、次弟の長女。付け爪に関心を見せる、お年頃。僕がまだ元気だった頃は、チンチクリンだったのにね。もう中学生だもんね。烏兎怱怱。

 

 

普段の夕飯シーンを鑑みて、準備の段階から大変そうな親父と伯母と。彼らがボケない為にも、弟家族たちには、定期的に来て欲しい。自家用車で30分圏内にある鮮魚が豊富なスーパーで、片っ端から刺身を揃える。大食いの次弟がいなくて良かったな。殆ど残っていないもの。

 

 

翌朝。朝食を食べ終えたら行動を開始する。お盆と言えば。そうだね。お墓参りだよね。母親やチャコらが眠る、近所の墓園までやって来た。え。膝に乗るのは、末弟の愛犬だ。じゃなくて。乗っているのは、手押しの車椅子だ。介護保険では借りられないからね。買ったやつ。

 

 

制度のことまでは深く理解していないのだが、介護サービスにおいて、移動手段に用いる歩行器や車椅子などを保険の恩恵を利用しようとする。手始めに、部屋用に歩行器。屋外用に電動の車椅子。次いで、屋外用(リハビリの為)に歩行器をレンタル。ここまでは出来た。

 

 

話を出発シーンに戻す。部屋で椅子から手押しの車椅子に乗り換える。弟の手を借りる。すると、まだ幼い彼の長男から、ねえパパと質問が飛ぶ。「けいちゃん、何で足を怪我しているの――」。そうだよな。車椅子なんて、普段は馴染みなんてないもんな。畜生。病気が憎いぜ。

日本の夏。お盆の恒例行事と言えば。そうね。里帰りだね。実家が根城の僕には関係ない。でも。次弟と末弟が揃う貴重な機会だ。彼らはまだ病気の心配はない。妻子にも恵まれている。結婚の時期は、次弟が早かった。だから、長女はもう中学生。甥っ子の成長も著しい。

 

 

まだ幼い末っ子は、仕事に忙しい両親と共に地元名古屋でお留守番。なもんで、今回の家族団欒において、次弟と義妹、おチビちゃんの参戦は見送られた。新幹線で上京してきた二名を迎え入れて、翌朝から東京観光に出る家族。え。僕は留守番さ。だって、動けないんだもん。

 

 

夕刻。彼らが忙しなく戻って来る。程なく、末弟が妻子と愛犬を引き連れてやって来た。こちらは、小学校低学年の兄と、幼稚園生の妹がいる。子供の成長は早い。背丈の問題では無い。できることが、加速度的に増えていく。僕の人生はダウンサイズしているって言うのに。

 

社会に出て忙しいサラリーマンが、束の間の休日を味わえる日本の夏。お盆。ご多聞に漏れず、僕らも実家に帰省する。あ。交際相手は向こうの実家だよ。僕らっていうのは、三兄弟って意味ね。それぞれが義妹を連れて来てさ。あ。末弟はまだ当時は独身だから、恋人だね。

 

 

ところで、実家にあって、独り暮らし環境に無い物って何だろうか。そうだね、広いキッチンだね。当時の経堂の部屋では、兎角狭いキッチンと闘っていた。シンクは狭いし、まな板を置くスペースなんて無いし、コンロは1口だし。次の部屋(代田橋)では、劇的に改善した。

 

 

 

 

とは言え、1口から2口になったってだけの話。実家では、3口もあるんだから。凄いよね。調理道具や食器の数も多い。加えて、普段は使わない高価な食材まで手を出してしまう。有頭海老。未処理のまま、火にくべる。何を作っているのかって。愚問だな。僕と言えば。そう。

 

 

スペイン料理さ。手前から、パエリア(有頭海老は何処へ)、スペイン風オムレツのトルティージャ、奥がアヒージョ。付け合わせにフランスパンと、サラダも用意したで。お酒もある。ビールに白ワイン、レモンサワー。さあ食えや、腹ペコ達よ。その虎視眈々と狙う目つき。

 

 

義妹連中が驚嘆する。続けて弟たちが唸り声をあげる。旨いよ、兄ちゃん。旨い旨い。パクパクもぐもぐ。一人で消費するなら、一週間は見繕うぐらいの量を、短時間で食い尽くす勢い。もっと味わって食えよな。そう言いながらもにやけ顔。料理って楽しいな。病気が憎いぜ。

 

 

 

 
苦労して作った料理が、間髪を入れずに空いていく醍醐味。そんなに慌てて食べるなって。孫悟空かよ(いいぞ。いいぞ。もっと食え)。女性陣から質問される。「普段から、作っているんですか」って。自炊は日常茶飯事。アヒージョやスペイン風オムレツは簡易版をね。