たまらなく孤独で、熱い街 -366ページ目

『鳥の歌、今は絶え』 (12)

「大羽さんは病室を出るときに、その女性の氏名をメモしました。もちろん3日前に戻ったのでメモは消えていますが、氏名は覚えていました。氏名が分かれば、どこのどなたか調べるのは簡単です。我々はあちこちに顔が効くので」
「そうですか・・・・・・」
「色々調べてみると彼女がネット将棋をしている事がわかった。それで、本人に気づかれないように巧妙にTH団に誘い込み、エイダという強い女性がなんとなく“怪しい”とその女性に吹き込んだ。で、頃合をみて、いよいよ作戦を決行したわけです」
桂木はため息をつくと、天井を見た。


「その女性の“能力”とは何なんですか?」
「タイムリープ(時間跳躍)か、単に思考が過去へ戻るのか・・・」
「大羽さんまで戻ったのは?」
「たぶん病室で思考を読んだ時に“共鳴”現象が起きたのでしょう。起きたのはその時だけのようです」
私も天井を見上げて、大きくため息をついた。


「茜さん、あなたが“能力”に気がついたのはいつからですか?」
そうか、この部屋はなにかの機械のせいで、いつも頭の中を鳥が鳴いているような感覚が消えているのか。
私はボンヤリとそんなことを考えていた。
いっそのこと、このまま一生消えてなくなればいいのに。


「茜さん?」
「すみません、別のことを考えていました」
「コーヒー飲みますか?」
「結構です。そうですね、最初はたぶん中学生の時、10年くらい前でしょうか。父が大事にしていた壺を割ってしまい、どうしようどうしようと思いました。昨日か一昨日に戻れればいいのにと思いました。そんな事は後悔したときには誰でも思いますが、突然頭の中に鳥の鳴き声が聞こえ、目の前が揺らぎ、私は学校にいました。訳がわからず、回りの友人にずいぶんトンチンカンなことを聞いたそうです。学校が終わって、慌てて家に帰ると壺は元通りになっていましたが、その夜は高熱が出て寝込みました」

『鳥の歌、今は絶え』 (13)-完-

「10年前ですか・・・。茜さん、壺と高熱以外に変わったことはありませんでしたか?」
「さあ、気がつきませんでしたが、それ以来頭の中で鳥の鳴き声がするようになりました」
「それからも、たびたび使ったのですね?」
「ええ。しかし、使うと必ず翌朝には頭がガンガンするので、最近では将棋以外に使いません。将棋で使ったのはエイダさんと対局するためでした。ああ、半年前に交通事故でも使いましたが」


「あなたは聡明な女性だ。周りの変化もご存じだと思う。我々は変化したあとの世界しか知らないが、あなたは変化の前後の世界を知っている筈だ」
「私は自分の些細な事でしか使っていないし、株や馬券で金儲けをしようなどとも考えていません」
「10年前にバブルが崩壊し、日本経済は瀕死の状態だ。銀行や大手企業が次々に倒産し、デフレスパイラルが続き、失業率は30%以上。極右政党が誕生し、徴兵制度が復活し、新興国を叩き潰さねば日本はダメになるという世論が圧倒的だ。茜さん、あなたご存じでしょ?」
「私の“能力”がそれらを引き起こしていると?」
「それは分かりません。ただ、大羽さんがあなたに“共鳴”して3日前に戻った時、大羽さんは大きな変化を指摘しました。それ以前は“国防省”などなかったと」
「・・・・」
「ゆうべも使いましたね。今朝はついに隣国に宣戦布告ですよ、ご存じですか?」




また頭の中で鳥の鳴き声が聞こえ出した。
やめて。
何がいけなかったの?
私の存在が疎いの?
私の“能力”を目覚めさせたのは誰?
耐え切れない頭痛で気が遠くなる・・・。
誰かの話す声がかすかに聞こえる・・・。




『また実験は失敗か』
『こいつもダメだったな』
『人類を超える存在を作ろうとすると、必ず人類は自滅に向かう』
『淘汰されまいとする人類全体の“意思”か?』
『だがこのままでは遅かれ早かれ人類は滅ぶ』
『それが定めか・・・』
『とりあえず、元に戻そう』



あなたたちは誰?
神?
何を話しているの?
私たちに干渉しないで。
私たちをほっといて。

 

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「パパ~。あのね、パパの大事な壺を割っちゃった。えへ」
「な、な、な、なんてことを」
「ごめんなさい~~」
「向こう1年、小遣いなしだ」
「それだけは許して~~、パパ~~」

 

(完)

『風よ、お前も泣いてくれるのか』 (1)

やっとここまで来たか。

正木はパソコンの前で感慨深げにつぶやいた。

 

優勝賞金500万円の倶楽部無限主催「ネット将棋アマ日本一決定戦」の、今日はAブロック決勝戦だ。

思い起こせば10年前、憑物が落ちたかのように突然将棋が「見える」ようになった。

それは桂木と冗談で始めたデスマッチ10番勝負の6局目だった。

それまではどうしても桂木に歯が立たなかったが、6局目からは桂木が何を指すのかが「見える」ようになり、負けることはなくなった。

そのあとは誰と指してもほとんど勝つ。勝つからまた指す。

そうなると将棋が面白くてたまらなくなり、細々と続けていた掲示板やブログへの書き込みもやめ、時間さえあればネットで将棋を指している。

その前はいくつかのネット将棋のサークルに加入していて勝ったり負けたりであったが、「見える」ようになってからは一方的に勝ってばかりでサークル員から煙たがられ、顔を出すのもはばかられるようになった。

そういえば桂木はあれからネット将棋を指していないようだ。

デスマッチの後半5連敗がよほどショックだったのか。


決勝の相手は知らない名前なので、もしかしたらプロ棋士が偽名で参加しているのかもしれないなどど考えていたら、定刻の5分前にその対戦相手が現れた。

「正木さん、ひさしぶりやね」

いきなり相手からチャットがはいった。

「え?あなたは・・・・・・」

『風よ、お前も泣いてくれるのか』 (2)

「ええ、HN(ハンドルネーム)は変えてますが桂木やねん」
「おーーー」
「あの頃、私はあなたを見下してましたがな。序盤が多少不利になってもなんとか指せると高を括っていました」
「・・・・・・」
「それがデスマッチの後半は5連敗。しかも完膚なきまでに敗れて、私は寝込んでしまいましたねん」
「・・・・・・」
「私は復讐の鬼と化した。あなたに勝つために、悪魔にさえも・・・・・・」


と、一瞬ディスプレイが揺らぎ、別のメッセージがあらわれた。
「正木さん」
「おお。真季さんですか」
「違います。私は『愛』です」
「愛さん?」
「いえ。あなたへの『愛』です」
「はあ?」
「あなたの将棋が上達して欲しいと願う人たち、特に真季さんのあなたへの『想い』、いうなれば無償の『愛』が私を目覚めさせたのです」
「・・・・・」
「あの日、桂木さんに勝ちたい、将棋が強くなりたいと願うあなたの純粋さが、悲痛な心の叫びが、私を呼び寄せたのです」
「おお」
「でも桂木さんにはそれがありません。桂木さんにはあなたをいたぶりたいという邪な思いしかありません」
「・・・・・・」

時間が止まったかのようだ。
桂木のメッセージも中途で切れている。

『風よ、お前も泣いてくれるのか』 (3)

「しかし、私は大きな間違いを犯したようです。将棋が強くなれば、より素晴らしい世界が正木さんの目の前に広がるのではないかと単純に考えていました」
「その通りになりました」
「いえ。それは将棋についてだけです。それまでは仕事と家庭と趣味の将棋がバランスを保っていましたが、あなたの意識が将棋にばかり向いてしまったため、仕事や家庭は崩壊寸前ではありませんか?」
「でも今は将棋がすべてなんです。将棋があってこその私なんです」
「後悔はありませんか?」
「ないとは言えませんが・・・」
「これは私があなたにかけた魔法です。いえ、夢です。現実ですが幻実でもあります」
「幻実・・・」
「このまま進むこともできます。リセットして、あの時にもどることもできます」
「すべてを白紙にしてあの頃に、桂木に馬鹿にされていたあの頃に戻れと言うのですか」
「それはあなた次第です。このまま進めばアマチュア最高峰として君臨し、名声を手にする事もできます。あの頃に戻り奥様と仲睦まじく暮らして、趣味のひとつとして将棋を続けることもできます。ただし両方を手にすることは無理なことです」
「無理・・・ですか」
「ええ。もし戻りたいなら合言葉をおっしゃってください。掲示板に書き込んでください」
「何と書くのですか?」
「『土曜日の実験室』です」
「それって・・・?」
「そう書けば全てがリセットされます。ただし、今夜の12時までに」
「12時までにですね」
「はい」

 

『愛』は去ったようだ。
正木はPCを離れて部屋を見回した。
汚れ放題、散らかり放題の部屋。
この部屋ばかりではない、家中すべてがそうだ。
妻は今夜も酔いつぶれて寝ているようだ。
いつから酒でも飲まずにはいられなくなったのか。
もう何年もまともな会話を交わしていない気がする。
部屋の隅には勤務先からの「解雇通知」が投げてある。
正木はため息をついた。
あと一息だ。
あと一歩でアマチュアの最高位に届くのだ。
そうすれば、名声もお金も手にする事ができる。
そうなれば、きっと妻も・・・・・・。
それからやり直すこともできるのではないだろうか。
無理だろうか。

『風よ、お前も泣いてくれるのか』 (4)-完-

「正木さん、詰んじゃいましたよ、がっはっは」
正木は画面に意識を戻した。一時違う意識が頭の中に入ってきたように感じたが、気のせいだったか。
「え?」
「正木さんの玉はあと5手で詰む運命です、がっはっは」
「また負けですか・・・・・・」
「投了しますか?」
「はい、参りました。ちょっと休憩にしましょう」


デスマッチ10番勝負はいきなり6連敗だ。
正木は窓を開けて外を見た。
台風が接近しているせいか、風がかなり強い。


あれは何だったんだろう。
記憶には残っていないが、違う未来が垣間見えた気がした。
おいらがアマチュアの最高峰?
無理無理。
宝くじみたいなもので、可能性が全くのゼロとは思わんが、急に将棋が強くなっても他にシワ寄せが来るに違いない。


今のままでいいじゃないか。
最愛の妻もいる。
将棋もだんだん面白くなってきたし、将棋サークルでたくさんの友人もできた。
桂木だけは性格が読めなくて苦手だが。


いいじゃないかと思い込むことにした。

いいじゃないか、このままで。

これ以上なにを望むというのだ。
だが意味もなく泣けてしまうのは何故だろう。
未練か。
安堵か。
それとも違う何かか。


雨交じりの風に変わった。
風よ、お前も泣いてくれるのか。


「よーし。やるぞー」
何が「よーし」かわからないが、正木は自分を鼓舞して、またPCに向かった。


(完)

『ワースト・コンタクト』

その地は焦土と化していた。
もはや生命すら存在しないようだ。
「隊長、ここにもかつては文明が栄えたようですが、はるか昔に滅んでしまったようです」
「うむ。おそらく戦争があったのだろう。しかも、何度も繰り返して」
「隊長には感じられますか?」
「かすかにだが、生命の残留思念が感じとれる・・・」
「・・・・・・」
「“オウ”や“ヒシャ”と呼ばれた生命体がいたようだ」
「・・・・・・」
「残留思念を少し再現してみよう」


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「王様に申し上げます。交渉は遺憾ながら決裂したようです」
「そうか。残念だが致し方ない・・・・・・今度の相手とだけは戦いたくはなかったがな」
「それほど厳しい戦いとなりますか?」
「おそらく・・・・・・勝っても地獄、負けても地獄」
「・・・・・」
「将校をすぐに呼べ。戦うと決まった以上、早急に作戦を指示する」
「はっ」


「よいか、今回は今までにない激しい戦いとなる。適格に戦況を判断して、相手陣に侵入するのだ」
「はっ」
「まず、飛車よ。お前は“シケン”に振れ。両金と右銀は“ミノ”に囲え。左辺の角銀桂香は歩兵を使って、飛車の敵陣突破を助けるのだ」
「はっ」
「だが慌てることはない。相手もじっくり組むだろうから、陣形が整うまで落着いて行動せよ」
「はっ」
「よし、行け」
「はっ」


「王様、敵は奇襲で来ました。左辺は破られそうですーー」
「むむむ、よし“ミノ”はいらん。左金は救援に行け」
「間に合いませんーー」
「まさか、あやつが奇襲で来るとは」


「ふふふ。お前さんが大将かい」
「いかにも!敵に後ろは見せん!」
「強がっても所詮は守りがなければ、犬の遠吠えにしか聞こえんわ」
「無念」
「よーし。大将を召し取れい」


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「パパあ、パパの将棋盤に小さな虫みたいなのが二匹いるよお」
「ティッシュで潰しなさい」
「はーい」


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「隊長!空から巨大な物体が~~~~」
「ぐえ~っ」







※こうして、将棋盤の上に舞い降りた極小の異星人は、人類とのファーストコンタクトをすることなく亡くなった(合掌&苦笑)。

『センチメンタルは似合わない』

今日はTH(チーム・ホークス)団の順位戦の最終日だ。


ヤッホーでネット将棋を指している団体を集めた対抗戦「ヤッホー・1」が大成功を収め、運営を務めてなおかつ優勝したTH団には入団希望者が殺到し、当然のことながら腕に覚えのある強豪も増え、順位戦は年々厳しさを増している。

人数が増えたため、順位戦はA級からE級の5クラスに分け、新入団員は予選トーナメントから出場して勝ち上がらないと順位戦に参加できない。
俺は第1回からの参加のためA級からスタートしたが、年々クラスを落としついにE級にまで陥落してしまった。
E級から陥落すれば予選から出なければいけないが、新入団の強豪がひしめき、プロの奨励会員が冷やかしで参加したけど、予選を突破できなかったという噂がまことしやかに流れるほど厳しい。
E級に陥落したばかりで順位は上のほうなので、最終戦に勝てば残れそうだ。
しかし、勝った対局も相手の時間切れ負けや見落としなどで、まともに勝てた将棋はひとつもない。
なんであんな弱いおっさんが順位戦に参加できるんだという声も当然聞こえてくるが、無視している。


さびしいのは、THの集会で昔の仲間と会えないこと。
22歳以下で構成したU-22のメンバーは脱退して別の団体を作ったし、集会はクラス別になったため、E級のメンバーとしか練習ができず、当然のことながら順位戦で対局する相手とまともに練習するはずもなく、週3回の参加を義務付けられているが、顔をだしてすぐ別のラウンジへ行くメンバーも多い。


なんで俺はそれでもTH団に残っているんだ、といつも思う。
他のヤッホーの団体や倶楽部無限へ行けば、そこそこの指し手として迎えてくれて、楽しいチャットや対局ができるのに。
誰かに義理立てしている訳でもなく、いまさら名人になりたいわけでもない。
当時のメンバーで残っているのは数えるほどで、チャットで馬鹿こいた昔が懐かしい。

E級は20名。上位5名が昇級、下位5名が陥落。
最終戦の相手はよりによって次期名人の最有力候補といわれている若手の猛者だ。
今回初参加で予選を軽くクリアし、E級になったばかり。

相手も最終戦に勝てば昇級が決定するとあって、気合が入っていることだろう。


決心した。
今日は精一杯戦おう。
勝っても負けてもTH団から離れよう。
つき合っている彼女と結婚しよう。


そう考えたらなんだか気が楽になってきた。
心の重しが取れたみたいだ。
久しぶりにいい将棋が指せそうだ。


俺が先手か。
まずは▲7六歩。


「ケイちゃん、頑張ってー」
後ろで彼女の声がした。

『ハラキリ・プラネット』

2010-10-14 (Thu) 22:24:50 [投稿者名:je ]

 

成層圏パトロールのヒズシ・ハゴモゴは、その名の通り日本人である。

ヒズシは500メートル先のインベーダーの乗るUFOがレーザー光線を放ったのを、すばやく感知。

光速で迫る攻撃を0.5秒の差、間一髪で回避した。このような超人的な反応ができるのも、脳と機体をコードでつないでいるからである!

「インベーダーめ、さぞかしたまげているに違いない」

ヒズシの攻撃で最後のUFOが爆発して大気圏に沈んだ。

「さあ、帰ってスシでも食おう」




 

2010-10-15 (Fri) 20:44:48 [投稿者名:kei ]

 

コランは崖の上から、穏やかな海を眺めていた。

はるか遠くに豪華客船が。

「アデラド・・・」呟きが洩れる。

別れた妻か恋人の名前だろうか。

 

後ろから彼を呼ぶ声がする。

コランは絶望的に振り返った・・・。




 

2010-10-15 (Fri) 21:35:23 [投稿者名:je ]

 

コランはゆっくり振り返った。荒れた土地に浮かぶ薄紅のエプロンがミスマッチだ。

家政婦ロボットのジェシーである。

「コラン様、お風邪を召します」

風邪などひけっこないロボットに言われたことがおかしくなってコランは鼻で笑った。

「またアデラド様を悼まれてましたか」

コランの目がきらりと光った。「アデラドは死んだわけじゃない!」

「探索機がスーパーノヴァに飲まれては・・」

「ええい! 黙れ」

コランはスシでも食べに行くことにした。




 

2010-10-16 (Sat) 00:07:01 [投稿者名:kei ]

 

ヒズシ・ハゴモゴは家に帰って着替えると、ハナコ・ヒノマルを呼び出してスシ屋「ジャポネーズ」へ繰り出した。

ここは店主が悪態をつきながら握ってくれる、いまどき珍しいスシ屋だ。

カウンターの奥では冴えない中年男が、眼が覚めるような美人と陰気にスシを食っている。

もちろん、今の世に美人もブスもいない。

あの「XXの悲劇」以来女はいなくなり、いるのは男とおカマとニュー・ハーフとゲイばかり。

ハナコも女ではない。

「さあ、どんどん食ってくれ」とヒズシは陽気に言う。

店主は険悪な顔で「べらんめえ」と言う。

ハナコが笑う。






 

2010-10-16 (Sat) 11:24:40 [投稿者名:je ]

 

ハナコは上品な女性(?)なので、笑うときにはハンケチーフで口元を覆う。

そのとき、ハナコはハンケチーフにジョリっとヒゲがあたるのを感じた。

「あらやだ、私ちょっとメイクを直して来ますわ」

ハナコは形の良い尻を8の字に振りながらトイレットに向かった。

店内の男たちは賞賛と羨望の眼差しでハナコを見つめた。それをヒズシは誇らしく思い、愛に溢れた目でハナコの尻を見つめた。

その時、波動関数自動ドアが開いて新たな客が入って来た。




 

2010-10-16 (Sat) 19:52:35 [投稿者名:kei ]

 

男はサングラス越しに店内を見回したが、ヒゴシに気がつくと近づいて行った。

「やあ、ヒゴシ」

「やあ」

「またUFOが暴れているようだよ」

「あらら。スシも食わしてくれないのか」

「まあ、軽く頼むよ」

「オーケー、オーケー。ちゃんとハナコを帰してやってくれよ」

「ラジャー」

ヒゴシは再び戦いに赴いた。






 

2010-10-16 (Sat) 20:42:51 [投稿者名:je ]

 

ヒゴシはUFOと戦いに行くために、スシ屋を出てヘルメットをかぶった。そして光線銃を腰に下げ、マントを羽織った。

「見て、地球ガード隊よ!」

ヒゴシを見た人々がざわめいた。

ヒゴシは腕時計の通信ボタンを押して命令を放った。

「来い!」

腕時計は無線機でもあるのだ。

「ワカリマシタ、ザヒョウX1203Y989・・」

人工知能搭載の戦闘機、ゴーゴーサンダー号がパイロット無しでやって来た。




 

2010-10-16 (Sat) 21:23:01 [投稿者名:kei ]

 

ヒズシがゴーゴーサンダー号にひらりと乗り込むと歓声があがった。

「キャー、がんばってーー」

「すてきー」

「インベーダーなんか、やっつけちゃってー」

ヒズシはコードに繋がれた。

発進の一瞬前、ヒズシはふと思う。

インベーダーは一体どこから次から次へと湧いてくるのだろう。

まるで、出来の悪いTVゲームみたいじゃないか・・・。

ヒズシは頭を振ってゴーゴーサンダー号に告げた。

発進せよ。

はるか彼方にUFOのが見える。

逃さへんでー。

ヒズシの頭は戦闘モードに切り替わっている。




 

2010-10-17 (Sun) 16:53:53 [投稿者名:je ]

 

説明が遅れたがヒゴシとはヒズシの幼名である。

ではヒズシをヒゴシと呼んだあのサングラスの男とは、何者なのだろうか。

それはさておきゴーゴーサンダー号は離陸するなりたちまちマッハを超えた。

レーダーに7つの輝点が現れた。もちろん邪悪なUFOである。

「やったるでえ」

戦闘モードのヒズシは関西弁になるのだ。UFOが肉眼で見えてきた。アダムスキー型だ。

ヒズシはUFOに照準をあわせ、右手レバーのビームボタンを押した。




 

2010-10-17 (Sun) 18:47:29 [投稿者名:kei ]

 

(;^_^A

 

ヒズシはアダムスキー型UFOを撃ち落とすとレバーを倒して急降下した。

なにか、とてつもない違和感を感じたのだ。

海面すれすれで反転すると、上空には超巨大なUFOが浮かんでいた。

「な、なんだこりゃ」

 

逃げるか、近づくか、一瞬の躊躇の隙をつくかのように超巨大UFOから打ち出された投網に捕らえられ、ヒズシはゴーゴーサンダー号と共に超巨大UFOの中へと引き上げられてしまった。




 

2010-10-17 (Sun) 23:00:06 [投稿者名:je ]

 

そのとき、ジャポネーズの波動関数自動ドアと、のれんをくぐって新たな客が現れた。

ハナコとスシを食べていたサングラスの男は腰を浮かせた。

「コラン!」

「おっと、腐れ縁だぜ」コランは肩をすくめた。

「べらんめぇ! スシ屋で腐るなんて縁起でもねえこと言うんじゃねえ」スシ職人が怒鳴った。縁起は大事なのだ。

「こ、これは」サングラス男が慌てた。サングラスに仕掛けがあるらしく、サングラスに表示された文字に驚いていた。

「ヒズシが! ゴーゴーサンダー号の反応が消えた!」




 

2010-10-18 (Mon) 19:25:04 [投稿者名:kei ]

 

店内に衝撃が走った。

それほど、サングラス男の声は大きかった。

「それって、ヒズシがUFOにやられたってことか?」コランが叫ぶ。

サングラス男は首を振る。

「いや、ゴーゴーサンダー号は機体全部がセンサーになってるんだ。だから、撃墜されたとしても何らかの信号は送ってくる」

「つまり・・・」

「ヒズシとゴーゴーサンダー号は消えたということさ」

「でも、場所によっては信号が届かないこともあるんでは?」

「もしかして、UFOにとっつかまったのかもな」

「それにしても、随分と落ち着いてますわね」初めてハナコが口を開いた。

「いやいや、私は単なるヒズシウォッチャーですから。今頃は地球ガード隊本部にも情報は伝わっているでしょう」

 

四人(コラン、ハナコ、サングラス男、店主)はそれぞれの思いを胸に顔を見合わせた。

ヒズシはどこへ行ってしまったのだ・・・。




 

2010-10-18 (Mon) 22:41:00 [投稿者名:je ]

 

ゴーゴーサンダー号の風防が静かに開いた。

ヒズシは両手をあげて、コクピットから降りた。人類が初めて踏むUFOの床である。

光線銃をかまえるグレイ型の宇宙人たちがヒズシを取り囲んでいた。天上の蛍光灯の照明がやや黄色味がかっているせいか、宇宙人たちはメタリックな黄色という肌合いである。

ヒズシは20体を超える宇宙人たちに囲まれていた。

彼らの身長は130cm程度。大きな目と小さな口。大きな頭と小さな体。総じて無表情だ。

「クソ! 宇宙人どもめ、何とかいいやがれ」ヒズシは言った。




 

2010-10-19 (Tue) 19:48:17 [投稿者名:kei ]

 

宇宙人の一人が一歩前へ進み、首を軽く右へ振った。

ついて来い、との合図のようだ。

ヒズシは少し考えていたが、左腕を曲げ手のひらを相手に見せる。

どうやら「ちょっと待った」のつもりらしい。

 

ヒズシはゴーゴーサンダー号に戻ると、操縦桿横に挿してあるキーを抜いてポケットに入れた。

これでゴーゴーサンダー号は操縦不能になった。

さらにヒズシはポケットから南京錠を取り出すと風防に取り付けた。

操縦席に入れないようにしたらしい。

さらにヒズシは違うポケットからチェーンを取り出すと、車輪と近くのポールにくくり付けた。

動かせないようにしたらしい。

最後にベルトのバックルに触れて電磁ロックをかけた。

ゴーゴーサンダー号のすべての機能が停止した。

 

やっと安心したかのように、ヒズシは振り向いた。

宇宙人たちは相変わらず無表情だ。



 

2010-10-19 (Tue) 21:09:33 [投稿者名:je ]

 

歩き出したヒズシの背後で、ビービー! と警告音が鳴った。

振り向くと宇宙人の一人がゴーゴーサンダー号に触ったらしい。最新式の防犯アラームが反応したのだ。

「宇宙人にも反応するんだな」

ヒズシは2300円の出費がムダじゃなかったと内心喜んだ。

やがてヒズシたちは、丸く、直径13メートルほどの広間に通された。

音もなく新たな宇宙人が歩いてきた。他のよりやや大きく威圧的だ。ボス格らしい。

ボスがついに喋った。

「ワレワレハ ウチュウジンデアル」



 

2010-10-19 (Tue) 21:57:32 [投稿者名:kei ]


 

ヒズシは返答のしようもなく「はあ・・・」と答えた。

ボスは喋りかけたが、手に持っている小箱のような機械のダイヤルを右や左に回した。

「これでよし。今度はちゃんと聞こえるかな」

ボスの声はさっきより滑らかだ。

手に持っているのは万能翻訳機らしい。

「はあ・・・」

「ヒズシ君、はあしか言えないのかね」

「はあ・・・」

「なぜ、私がどこかの星人でなく宇宙人と言ったのか教えてやろう。ビッグバン以来、全宇宙は我々のものなのだよ。無論地球もそうだったが、いつからかがん細胞に冒されてな」

「がん細胞・・・」

「ヒズシ君、もしがんが見つかったらどうするね」

「治療しますが」

「そうだろう、そうだろう。転移しないように徹底的に根絶するわな」

「はい」

「だから我々も地球人というがん細胞に冒された地球を治療にきたんだよ」

「地球人はがん細胞ですか?」

「うむ。かなり末期だが、まだ間に合うだろう」

地球人ががん細胞、地球人ががん細胞、地球人ががん細胞・・・

ヒズシの頭の中はグルグル回っていた。




 

2010-10-20 (Wed) 00:18:40 [投稿者名:je ]

 

「いいものを見せてあげよう」

そう言ってボス宇宙人が指を鳴らした。

「はい、大将!」子分宇宙人が駆けていった。間もなくリアカーに大型モニターを乗せて戻ってきた。

子分はそれをコンセントに挿して、スイッチをひねった。

真空管がブーンと音をたてて温まり、カラーのモニターが写りだした。地球なら21インチという大型サイズだ。

そこに映し出されたのは、銀河系に住む宇宙人たちの平和な映像だった。トランプをしたりフットボールを楽しむ宇宙人たち。

やがてTHE ENDの文字。砂嵐。

「見たかヒズシ。地球だけなのだよ、宇宙で未だに戦争をしているのは。やがて地球人は核を持って宇宙に進出するだろう。それだけは食い止めねばならん。」




 

2010-10-20 (Wed) 21:19:28 [投稿者名:kei ]

 

「そ、そんなもの、いくらだって作れますよ。証拠にもなんにもなりません」

ヒズシは憤慨して言う。

「ならば、これはどうかな」

ボス宇宙人が指パッチンをすると、4人の子分宇宙人が駕籠をかついでやってきた。

駕籠を下ろすと、4人は去る。

駕籠から現れたのは、地球人と思われる若い女性だった。

「地球へ向かう途中で、スーパーノヴァに飲まれそうな船があったので助けたのだよ」

「嘘よ」女性は怒りを抑えるように静かな口調で言う。

「こいつは私の探索機に小型UFOをぶつけて操縦不能にすると、私を捕まえて探索機をスーパーノヴァに投げ込んだのよ」

「え?君、喋ることができるの?喋れないって言ってたじゃないか」ボス宇宙人は驚いている。

「それに」女性は無視して続ける。

「こいつは海賊よ。文明がそこそこ発展した星を見つけるとUFOを送り込んで偵察し、組み易しと見るとUFOの大群を送り込んで制圧し、最後にこの大型UFOが乗り込んでいって目ぼしい資源や金目のものを奪っていくのよ」

「喋れないって言ったってことは、喋れるってことだよね」ボス宇宙人は一人で納得している。




 

2010-10-20 (Wed) 23:16:56 [投稿者名:je ]

 

取り返しのつかない事態になったことを悟ったボス宇宙人は声を張り上げた。

「出会え、出会えー!」

子分宇宙人がワラワラとやってきて、ヒズシたちを投網で捕らえ、天井に吊るしてしまった。

「おのれ、出せー」ヒズシはくやしがった。

ボス宇宙人は笑った。「ヒズシというエース無き地球ガード隊などもう怖くない。そこで地球が侵略される様をみるがいい」

いつの間にかUFOはアメリカの農場に来ていた。UFOは地上に強烈なビームを放った! そして牛を吸収した。

宇宙人たちは牛の内臓でモツ鍋パーテイーを開き、内臓を抜いた牛を農場にポイ捨てした。

「地球がピンチだ!」ヒズシは悔しがった。




 

2010-10-21 (Thu) 20:32:53 [投稿者名:kei ]

 

「フォッフォッフォ」

ボス宇宙人は喜色満面だ。

「さっき、わしが言ったことはあながち嘘でもないんじゃよ。好戦的な種族でないと文明は発達しないのじゃ。そして、そういう種族は例外なく宇宙(そら)に出ようとする。そこでも結局は同じ種族か他の星の種族と争いが始まるのじゃ」

ボス宇宙人はため息をついた。

「だからわしは宇宙へ出る前に痛い目に遭わすのじゃ。自分の星の上だけなら、何をしてもかまわんのでな」

ヒズシは反論する。

「それでは、その星の種族の可能性の芽を摘んでいるのか」

「可能性などはない。わしは100以上の似たような星を見てきたが、どいつもこいつもやることは同じじゃ。侵略と搾取ばかりじゃ」

「だが、地球は違う。地球人はそこまで愚かではない!」

「UFOと見るや撃ち落しまくったヒズシ君は、まさしく地球人そのものではないかな」




 

2010-10-21 (Thu) 23:53:04 [投稿者名:je ]

 

ニュージャージー州。

「たったひとつの大切な惑星(ほし)」と書かれた腕章をした男がレーダーを呆然と眺めていた。

「ヒズシは・・我が地球ガード隊のエースパイロットはどこへ消えたのだ!」

男の名は、リチャード・ウィン。地球ガード隊のリーダーだ。

「万能機!」ウィンは大きな機械に話しかけた。「ヒズシはどこに行ったか予想してくれ」

万能機はウィンの発言を理解し、機内に仕組まれた無数にあるパンチ穴が答えを導き出した。

そして紙テープに答えを書いて吐き出した。ウィンはそれをちぎって読んだ。

「UFOノナカニ トアミデ トラワレタ」

「なんと言うことだ!」ウィンは頭を抱えた。




 

2010-10-22 (Fri) 20:48:58 [投稿者名:kei ]

 

一方、スシ屋ジャポネーズでは、コラン、ハナコ、サングラス男の3人が店主が握るスシにぱくついていた。

プロボウラーのリツコ・ナカヤマのパーフェクトゲームが話題になっているようだ。

 

すると、入り口の戸が開いて若い男が入ってきた。

銀色のコスチューム、胸に赤いVの字、唐草模様のマント、まさしく地球ガード隊員だ。

「ドクター、地球ガード隊のウィン隊長の要請によりお迎えにあがりました」

3人はスシを口いっぱいに頬ばったまま立ち上がった。

思わず顔を見合わせる3人。

「えーと、みなさんドクターでしょうか?」驚いて聞く隊員。

「おー」「うむ」「はい」答える3人。

「まあ、いいや。さあ行きましょう。

3人を荷台に乗せて軽トラは走り出した。




 

2010-10-23 (Sat) 14:55:45 [投稿者名:je ]

 

ウィンが爆発した。

「けしからーん!」

地球ガード隊員は正座してシクシク泣いていた。

「わたしはベクターを、NO2のパイロットのベクターを連れて来いといったはずだ! それが・・」

ウィンは3人をジロリと見た。

「役立たずのドクターを連れて来てどうするか!」

ハナコ、コラン、サングラス男はムッとした。

「役立たずだって?」

コランはスペースジャックと言われる宇宙最高の名医だ。サングラス男はカリフォーニア大学の博士だし、ハナコは甲子園の決勝戦で27奪三振を獲得したドクターKだ。




 

2010-10-23 (Sat) 19:37:16 [投稿者名:kei ]

 

コランは折り詰めにしてもらったスシを食べながら、ウィンに言う。

「まあ、地球ガード隊の№2がどれほどの腕があるのか知りませんが、うちのジェシーに比べたら月とスッポンでしょうなあ」

「ジェシー?ジェシーとは何者ですか?」ウィンが聞く。

「うちの家政婦ロボットですが」

「か、家政婦ロボット?そんなものが宇宙人に通用すると思っているのですか」

コランは人差し指を立てて左右に振る。

「チッチッ。まあご覧なさいな」

コランが口笛を吹くと、メイド服を着たジェシーが走ってきた。

「ご主人様、お呼びでしょうか」

「ジェシー、上空の巨大UFOに友人のヒズシが捕らわれているらしいんだ。様子を見てきてヒズシや他に地球人がいるようなら助け出してくれないか」

「わかりました、ご主人様」

飛び出そうとするジェシーにウィンがあわてて言う。

「ど、どうやってUFOに行くんだい?」

「ジェシーは10万馬力の超高性能ロボットですから、空でも海でも宇宙でもどこへでも行けますよ」

「そ、そんなバカな。そんな高性能ロボットが簡単に作れるわけがない」

「まあ、百聞は一見にしかずですな、ジェシー、行け」

「はい、ご主人様」

ジェシーはジャンプすると、そのまま超巨大UFO目指して飛んでいった。






 

2010-10-23 (Sat) 23:33:45 [投稿者名:je ]

 

「フォーフォッフォ」

巨大UFOはテキサスの農場にミステリーサークルを落書きしていた。

「やめろー! 侵略反対!」

ヒズシは叫んだ。

その時だ。UFOに衝撃が走った。

「なんだ!」ボスがあわてた。

「大将! 萌えキャラが空を飛びながらパンチをして来ました」

ボスがスイッチをひねるとモニターにメイド服の女性が映った。

「おお、我がUFOがへこんでいる」宇宙人が自機を未確認飛行物体呼ばわりするのもどうか。

ボスは拳を握った。「またUFOコンビニ倶楽部でへこみを直さねば!」

「大将! ガソリンが無くなりそうです!」




 

2010-10-24 (Sun) 09:06:15 [投稿者名:kei ]

 

「むおおお、図体ばかりでかいとアメ車みたいにガソリンを食ってかなわんな。今度のUFO検ではハイブリッドUFOに替えよう」

ボス宇宙人はブツブツつぶやく。

その間もジェシーはUFOの鋼鉄のボディをガンガン叩いている。

「むー、修理代もかさむし、金の1トンや2トンを奪っても割りに合わんぞ。よし、一旦ベースキャンプに戻るぞ」

超巨大UFOは小型UFOを引き連れて東南へヨタヨタ進み、海上で突然消えた。

 

ニュージャージーでジェシーから送られてくる映像を白黒テレビで見ていたコランたちは驚いた。

「UFOが消えた!」

「あの海はどこだ?」

「あそこはきっとバミューダトライアングルです」

「なんと!魔の三角地帯か」

「UFOはあそこから出入りしてたのか」

「とりあえずジェシーを呼び戻そう」




 

2010-10-24 (Sun) 14:22:51 [投稿者名:je ]

 

巨大UFOは火星にひそかに建造された中継ステーションに転送された。

「いらっしゃいませー!」

宇宙(コスモ)石油と書かれたキャップをかぶった宇宙人が駆け寄って来たのを見て、ボスは子分を小突いた。

「贅沢するんじゃない。セルフに行け!」

セルフスタンドでボスは鼻歌をうたいながら100ガロンのガソリンを入れた。

UFOに戻ってみるとヒズシたちがいないではないか。

「お前ら。ヒズシと女はどうした」

「はい、トイレに行くと行って出て行きました。あっ、そうだ。地球人はトイレ1回につき10日かかるんだそうです」

「10日も待てんな。よし置いていこう」

巨大UFOは石屋の武器店に向かった。

「さーて、あのメイドロボをどんな武器で倒そうか。フォッフォッフォ」




 

2010-10-24 (Sun) 19:47:54 [投稿者名:kei ]

 

ニュージャージーでは戻ってきたジェシーを囲んで作戦が練られていた。

「どうだ、巨大UFOに弱点はあったか?」

「はい、ご主人様。屋根に立っている煙突はガス欠のときに石炭を使うときの排気口のようです。ブリキで作ってあるので壊すのは簡単かと思われます」

「ほお。ほかには?」

「はい、ご主人様。エアロックは最近損傷したようでベニヤ板が貼ってありました。ここも壊すのは簡単かと」

「思ったよりも安普請のようだな」

「はい、ご主人様。あとは・・・・」

「他になにかあるのか?」

「はい、ご主人様。機内の生体反応を調べましたところ、地球人らしき方がヒズシ様ともう御一方おられますが、なんとなく・・・」

「なんとなく?」

「はい、ご主人様。もう御一方はアデラド様に思われますが・・・」

「なに!アデラドが!」

「はい、ご主人様」

ウィンがちらっとコランを見ると、うれしさのあまりコランの顔は崩壊していた。




 

2010-10-24 (Sun) 21:55:26 [投稿者名:je ]

 

コランは興奮して叫んだ。

「よーし、ジェシー! アデラドとヒズシを・・いや、アデラドだけでも救出するんだ!」

「で、ですが、UFOがどこに消えたか・・」

そこで一同、静まる。

「ピコピコピコ」

万能機だ。みんなの言葉を理解し、UFOの行き先を予想した。

ウィンが吐き出された紙テープをちぎって読んだ。

「91%ノ カクリツデ カセイノヒミツキチ」

「ぬぬぅ! 火星に基地があったとは・・!」ウィンは怒った。

「よーしジェシー、行け! 火星にひとっ飛びだ」

「ですが、どうやって宇宙空間を連れて帰れば良いか・・」

またも一同静まった。万能機も紙テープで「ハアー」とため息をついた。




 

2010-10-24 (Sun) 22:37:51 [投稿者名:kei ]

 

少し離れたところでやり取りを聞くともなく聞いていたらしいサングラス男がウィンに近づいてきた。

「やれやれ。世界最高頭脳と言われている万能機がその程度とはねえ」

ウィンが振り向いた。

「あなたはドクター」

「ええ。通りすがりの役立たずのドクターですが」

さっき「役立たず」といわれたことを根にもっているらしい。

「まあまあ、言葉が過ぎたことはお詫びいたしますが、なにかお考えが?」

「先ほどのジェシーの報告にヒントが隠されているではありませんか」

「ヒント?」

「はい」

「もったいぶらずに言っちゃいなよ、ドクター」ハナコが蓮っ葉な口調で言う。

「わかりました。先ほどジェシーはUFOのエアロックの補修にベニヤ板を使っていると言ってましたね」

「はい、ドクター様」

「いくらUFOが安普請でも、それで宇宙へ出てったらすぐに空気が抜けてしまうでしょう」

「はあ・・・」とコラン。

「つまり、UFOは当面は空気があるところを移動するだけだから、とりあえず簡易な風除けにベニヤを貼ったんですよ」

万能機がピコピコしだした。万能機にもわかったようだ。

「おそらくバミューダと火星には転移ゲートかなにかがあるのでしょう。そして火星はテラフォーミングされて空気があるに違いない」

「おおー」全員から感嘆の声が。




 

2010-10-24 (Sun) 22:47:34 [投稿者名:je ]

 

ピコピコと万能機が騒ぎ出した。

「おいっ、どうした万能機」ウィンがあせった。メインCPUから、冷却扇風機でも押さえきれないほどケムリがあがっているではないか。

突然万能機は機械を吐き出した。コランがそれを拾った。

「これは電子地図か!」

どうやら火星の地図だ。

「火ーナビと名づけよう」

「くだらんわ」

ハナコが割り込んだ。「ちょ、ちょっと待って! だからそうじゃなくって、火星から地球に連れてくる手段はどうするの?」

またもやシーン。地球の唯一の宇宙船はスーパーノヴァに飲まれたのをみんな忘れていたのだった。




 

2010-10-25 (Mon) 20:41:58 [投稿者名:kei ]

 

「とりあえずジェシーに偵察に行ってもらおうかね」ウィンが言う。

「なに!」突然コランが怒り出した。

「ジェシーに何かあったら、私の、私の・・・」

「ジェシーが大事なんですね」

「私のメシは誰が作るんだーー」

一同、ずっこける。

 

バニューダと言っても広いですから、まずは転移ゲートを探さなくては」ウィンが気を取り直して言う。

「そうしよう、そうしよう」

「その前に万能機に範囲を絞ってもらおう。万能機よ転移ゲートはどこだ?」

ピコピコ・・・

吐き出した紙をウィンが読む。

「カクリツ 90パーセントデ バミューダノ ジョウクウデス」

「海に潜れば浸水してしまうから、上空なんだろねえ」






 

2010-10-25 (Mon) 21:28:12 [投稿者名:je ]

 

その時、ガード隊司令部の大型モニターが突然オンになった。全員ハッとしてモニターを見つめた。

映っていたのは火星人だった。地球人そっくりだが、頭に蝶の触覚のようなものが生えているからすぐわかる。

「おお、火星大統領のハ・マ・シャカ殿」ウィンが叫んだ。大統領は頭にたんこぶ、目の周りに丸い青あざが出来ていた。

「ウィン君、火星はインベーダーに侵略された。私もずっと監禁されていたのだ。スキをついてやっと連絡が取れた」

もし地球が侵略されたら我らが大統領もたんこぶが出来るほど殴られるのだ。ウィンは身震いした。

「地球のみなさん、おそらく火星、地球を繋ぐ転移ゲートがあるはずです。見つけ方を教えます・・うわっ、見つかった! いいですか・・ゲートの見つけ方は・・」




 

2010-10-26 (Tue) 20:06:06 [投稿者名:kei ]

 

「火星に大統領?だいたい、なんでここのモニターをオンにできるわけ?」ハナコが不思議そうに言う。

「あれはヒズシだよ。地球ガード隊の暗号みたいなものさ」ウィンが言う。

「もう少しで転移ゲートの場所が分かったのにな」

「ああ、アデラドは無事だろうか」とコラン。

「とりあえずバミューダ海域にははいらないようにして、その周りを哨戒機がレーダーで探索してますから」

「ああ、アデラド」

 

そのころ、火星では・・・。


 

2010-10-26 (Tue) 23:16:10 [投稿者名:je ]

 

「もう、ヒズシのやつ何処へ行ったのよ」

アデラドは倉庫で見つけたピッチング・マシンを引きずっていた。それを転移ゲートの前に設置し、ボールをセットした。

マシンは10秒に一回、規則正しくボールを吐き出した。

それがゲートを潜り、地球に転送された。

「これで地球からなんらかのリアクションがあるでしょう」

そして地球。ビービーとビープ音がガード隊に流れた。

「おおっ、オペレーターから緊急無線だ」

ツー・トン・ツーツー・トン

「む!」ウィンの表情が険しくなった。「バミューダ上空に飛行物体」

「UFOか?」

「いや、野球のボールらしい・・ばかな?」

「ぬわにぃー野球だと!」

”野球”に反応して元高校球児のハナコの声質が変わった。目が燃えている。




 

2010-10-27 (Wed) 20:43:13 [投稿者名:kei ]

 

ハナコの脳裏に甲子園決勝での栄光と挫折が蘇った。

相手はLP学園。

プロ球団が高校野球に紛れ込んでいる、とも揶揄されたチームだ。

なにしろ、その年のドラフトでは控え投手三人を含め、ドラフトの1位指名をLP学園の選手が独占したというから、そのケタ違いの凄さは想像を絶する。

そんなチーム相手にハナコは孤軍奮闘し次々と三振の山を築く。

そして0対0で迎えた9回裏、27個目の三振のボールをキャッチャーが後逸してしまう。

さらにエラーが重なりバッターランナーはホームイン。

あまりにも劇的で、あまりにもむごい結末だった。

マウンドで下を向いたままのハナコ、静まり返る球場。

おずおずと駆け寄るキャッチャーにハナコのアッパーカットが炸裂した。

キャッチャーは1メートルも浮き上がってからグランドに倒れたという。

どよめく観衆をあとに球場を去ったハナコは、二度とグランドにも学校にも姿を現すことはなかった。

「ふっ。私も若かったな」

ハナコは苦笑する。


 

2010-10-27 (Wed) 23:22:27 [投稿者名:je ]

 

ピコピコと万能機が紙テープを出した。

「ザヒョウX19829 Y8819・・おお、転移ゲートの位置か」

ウィンが叫んだ。

「さあ、みんなで転移ゲートに行きましょう」ウィンが拳をにぎった。

「え、はあ」サングラス男はコランとハナコのせいでペースを乱され、調子が出ない。

透明なチューブの中にあるベルトに乗っていると自動的にたどり着く最先端の装置で、5人は格納庫に向かった。

「これです!」中型の高速ジェット機が用意されていた。「レッツゴー・ハッピー号です」

「ネーミングセンスどうにかならんかね」サングラス男が呟いた。




 

2010-10-28 (Thu) 21:16:04 [投稿者名:kei ]

 

万能機を背負ったウィンは、レッツゴー・ハッピー号の操縦席に座り目標の座標を電卓みたいな装置に入力する。

「これで自動運転で転移ゲートまで行けますよ」

「アデラドは無事だろうか」とコラン。

「最後の球は落ちすぎたんだよな」とハナコ。

二人とも自分の世界に浸っているようだ。

サングラス男はやれやれとため息をついた。

ジェシーはじっとしている。

 

「いよいよ突入しますよ」

レッツゴー・ハッピー号はひたすら飛行する。

すると目の前に巨大な輪が!

「これが転移ゲートかあ」とサングラス男。

 

衝撃もなく転移ゲートを潜り抜けたレッツゴー・ハッピー号。

だが、そこは・・・。




 

2010-10-28 (Thu) 23:20:25 [投稿者名:je ]

 

「こ、これが火星か?」

レッツゴー・ハッピー号(以下LH号)は、お祭り騒ぎのど真ん中に登場である。

「全然火星っぽくないんだけど」とハナコ。

木がたっぷり生えているし、宇宙人もナマコ型だ。

ナマコが1体寄ってきた。

「ワレワレハ、ベガ座星人デアル」

サングラス男は肩をすくめ「どうやら間違ったようだ」と嘆いた。

「万能機によると、ゲートをくぐる入射角度が悪いとのことだ」

LH号はまたゲートを潜った。

「ワレワレハ、カミノケ座星人デアル」

便器型宇宙人に囲まれ、5人はため息をついた。

「いつ火星に着けるやら」




 

2010-10-28 (Thu) 23:43:45 [投稿者名:kei ]

 

「火星に着けないくらいならマシだよ」

サングラス男はスルメをかじりながらつぶやく。

48番目のここは海の惑星、シー・ワールド(どこかで聞いたような気も・・・)。

海型星人が静かに眠っている(のだろう)。

「と言うと?」ウィンが聞き返す。

「我々はもしかして宇宙の放浪者になったかも」

「え?」

「君はどうやって地球に帰るつもりだい?」

サングラス男はウィンを睨みつける。

「あ!」

「はあ」

5人はため息をつく。

 

ピコピコピコ・・・

万能機が何か吐き出したようだ。




 

2010-10-29 (Fri) 20:34:50 [投稿者名:je ]

 

万能機を背負っているせいですっかり肩こりのウィンが紙テープをちぎった。

「なになに?」

スルメハ キケン

「なんのこっちゃ?」ウィンはスルメをかじるサングラス男を見た。

そのときだ。海が盛り上がり始めた。

「何じゃー!?」

「ウミノサチヲタベルオマエハ ナニモノダ」

海が喋った。やはり海型宇宙人だったのだ。スルメのカタキをうつべく攻撃を仕掛けてきた。

「おたすけー」

ウィンは泣きながらゲートを潜った。

次に付いたのは、赤い地面、そして暗い空。

「おおっ、火ーナビが反応したぞ」とサングラス男。どうやらあまりにデタラメにも火星に着いたようである。




 

2010-10-29 (Fri) 23:52:51 [投稿者名:kei ]

 

と、そこへ何かが飛んできてサングラス男に当たった。

バッタリ倒れるサングラス男。

「みんな、伏せろーー」ハナコが叫ぶ。

地面に伏せる3人、すでに気絶して伏せている1人。

またまた何かが飛んできた。

野球のボールだ。

ハナコはなぜか手に持っていたバットを一閃!

見事なピッチャー返しでピッチング・マシンを直撃。

壊れたピッチング・マシン。

その後ろに倒れている女性。

コランが駆け寄る。

「アデラド!アデラドじゃないか!」

助け起こすコラン。

気がつくアデラド。

「コラン様」

「アデラド」

運命の再会であった。




 

2010-10-31 (Sun) 01:01:27 [投稿者名:je ]

 

コランとアデラドは、火星ではありえない巨大な夕焼けをバックに見つめあった。

気絶したサングラス男は機体から落ち、ジェシーは乾電池が切れたので新しい電池をチャージ中だ。

ウィンは肩こりが悪化してのた打ち回っている。

6人は宇宙人が徐々に包囲していることに気づかなかった。

唯一まともなハナコが気づいた時にはたくさんの宇宙人が取り囲んでいた。

「イマノ バッチングハ ナイスダッタ」

火星に暖かい拍手が響いた。

「オマエヲ ウチューリーグにスカウトシタイ」




 

2010-10-31 (Sun) 11:23:49 [投稿者名:kei ]

 

「オデハ ヤキウハ 10ネンマエニ・・・・」

思わず宇宙人口調になったハナコはハッと気付いた。

「宇宙にも野球があるのか?」

「モチロン アルサ」

「で、でもどうやっていろんな体型の宇宙人がいっしょに野球をやるんだ」

そこへボス宇宙人が翻訳機を持ってやってきた。

「知的生命の最終形態はヒト型なのだよ。そして、ヒト型の知的生命体は必ず野球を始めるのだ。これは宇宙の七不思議のひとつでもあるのだが、おそらく宇宙のDNAに刷り込まれているのじゃろ」

「で、でもさっき見たのは・・・」

「お前、本当にナマコ型や便器型の宇宙人がいると思ったのか?しかも地球から遠く離れているのにベガ座星人とかカミノケ座星人とか言うと思っているのか」

「・・・」

「あれはお前たちの反応を見るために我々の仲間が仮装していたのじゃ、フォッフォッフォ」




 

2010-10-31 (Sun) 15:39:43 [投稿者名:je ]

 

「みんなー、元気でねー」大型UFOの窓ガラスを開けてハナコが叫んだ。

「ウチューリーグ最高のピッチャーになって、地球に錦をかざるから」

「これ、地球人、窓を閉めないと」

UFOは去っていった。

ウィンは呟いた。「ドクターが世界を救ったようだ」

「それと、野球だ」と、サングラス男。

「TV局に働きかけて、野球をもっと放送するようにしなければ」

ウィンとサングラス男は頷きあった。

「さあ、帰ろう! 母なる地球へ」

コランとアデラドをポイっとLH号に乗せ、ゲートに機首を向けた。

「ま、待ってー!」

ヒズシが叫びながらLH号を追いかけていた。

 

こうして野球が地球を救ったのだ。

だが平和は長く続かなかった。1年後。「サングラス男の三つの聖痕」事件が起きるまでは。

 

『サングラス男の三つの聖痕』

2010-10-31 (Sun) 19:22:10 [投稿者名:je ]

 

『ハラキリ・プラネット』が日本でも好評をもって迎えられたことは、翻訳者としても望外の喜びであった。

これは全世界で1700万部を売りあげる大ヒットとなり、6カ国で同時に映画化された。

そして間髪いれずに発表されたのが『ハラキリ・プラネット』正当続編『サングラス男の三つの聖痕』だ。

そして『ハラキリ・プラネット』前日譚、「XXの悲劇」を書いた『逆まわるの世界』と3作が発表済みだ。

では続いてローカル賞を受賞した『サングラス男の三つの聖痕』をお読みいただきたい。




 

2010-10-31 (Sun) 20:56:55 [投稿者名:kei ]

 

『サングラス男の三つの聖痕』

 

サングラスをかけた男がサイタマ・シチィの裏通りを歩いていた。

腕時計を見てうなずくと、あたりを窺うようにして古めかしいビルに入り、707号室に着くとノックをする。

トン、トトン、トン。

中からかすかな声がする。

「合言葉を言え」

「生むみ生もめ生たまも」

ガチャッと音がしてドアが開く。

素早く中に入った男はやっと安心したのか額の汗をぬぐった。

「遅かったな」奥から声がする。

「申し訳ありません」

「まあよい」

サングラス男は奥へ進んだ。




 

2010-11-01 (Mon) 00:30:57 [投稿者名:je ]

 

サングラス男は奥まで進み、ハッとなった。

見たものが一瞬信じられなかった。

ワゴンの上に生首が乗っているではないか。しかもそれがニヤリと笑った。

「ふっふっふ」生首が笑った。「久しぶりだな、K」

サングラス男は絶句した。

「昔の名前ですぜ、団長」

「驚いたかね? 病魔に蝕まれたボディを捨てて楽になった私を見て。哀れかね? 銀河最高の頭脳しかなくなった私を見て」

「いや、どうやって移動するのかなと思って・・、で何の用です?」




 

2010-11-01 (Mon) 21:08:41 [投稿者名:kei ]

 

「移動用のボディはちゃんとあるさ」

団長は後ろを指差した。

そこには首のない男のマネキンみたいなものが立っていた。

「これに首をのっけるのさ。それよりも・・・」

団長は身を乗り出すようにして声をひそめた。

もっとも、身を乗り出すことはできないが。

「コランという男を知っているな?」

「知っているというか、1年前のインベーダー騒ぎの時に少し行動を共にしただけですが」

「コランが行方不明となった」

「は?」

「探し出して連れて来い」

「生死は?」

「もちろん、デッド・オア・アライブだ」






 

2010-11-01 (Mon) 23:11:52 [投稿者名:je ]

 

「デッド・オア・アライブ」

「そうだ」

団長はクイっと首を動か・・なかったので、舌を出して横を指し示した。

「おお、パソコンだ」

サングラス男、いやKの顔が輝いた。このカリフォーニア大学教授はパソコンオタクなのだ。

「ククク、このパソコンはメモリが64メガバイト、CPUは浮動演算処理エンジン搭載128ビット、ハードディスクは256メガバイトだ」

ブラウン管をさすっていたKの動きが止まった。

「まぁたまたー、ペンタゴンのスーパーコンピューターの50倍の能力じゃないですかぁ」

指でおでこをツンツンされて団長は落ちそうになった。

「や、ヤメレー。ウソじゃないんだからねっ! ところでK、電脳空間をご存知かな?」

「で、電脳? 聞いたこともないが」

「そこにコランがいる。謎のヴァーチャル空間にジャック・インして連れて来い」




 

2010-11-02 (Tue) 21:25:49 [投稿者名:kei ]

 

「ハイ」

と言ったがKは動かない。

「ん?どうした?」

「電脳だかヴァーチャンだかは、どうやって行くのでしょうか」

「やれやれ、パソコンオタクのくせに、そんなことも知らんのか」

団長はおもむろに黒電話から電話線につながれたカプラを抜くとパソコンにつないだ。

そして、ダイヤルアップを起動させてプロバイダにつないだ。

「えーと、次はと・・・」




 

2010-11-02 (Tue) 22:12:43 [投稿者名:je ]

 

「あとはモニターにひたいをくっつければヴァーチャル空間にダイヴできる」

シーン。

「またまた」

「いいからやってみたまえ」

Kは疑いの眼差しでブツブツ言いながら、ひたいをモニターにくっつけた。その瞬間Kの意識は混濁した。

・・。

Kはジリジリとわめく目覚まし時計の音に跳ね起きた。

「こ、ここは・・ナガノ・シチィの安ホテル、『ガニメデ』じゃないか。全部夢だったのか? まさかここがヴァーチャルだったりしないよな?!」




 

2010-11-03 (Wed) 20:28:40 [投稿者名:kei ]

 

Kは外にでてみた。

たしかに記憶にあるような町並みではあるが、どことなく薄っぺらというか遠近感が乏しいというか、書割みたいだというか。

「やっぱりヴァーチャンの世界なんだろうか・・・」

 

どうしたものか、と考えていたところへ女性が近づいてきた。

「あの・・・」

「はい?」

「なぜエヴァンスに頼まなかったのですか?」

「はい?」

「あら?人違いみたいね。ごめんあそあせ」

「はい?」

女性は消えた。Kは残った。

「うーむ」




 

2010-11-03 (Wed) 21:33:54 [投稿者名:je ]

 

しかしKが一番悩んでいたのは、団長に会った日付である。

4月1日なのだ。

裏社会のドンである団長。IQ1300の団長。

「彼ならば、冗談で町一個買い占めることも可能だからなあ」

風景が薄っぺらなのも、何かの薬物の影響かも知れない。

「まずはここが現実か、本当の虚構なのか調べねば。だがどうすれば・・」

そのときだ。

「居たぞ! プレイヤーだ」

「よし、プレイヤー・キルだ」

Kのほうに向かって警官が拳銃を構えて駆けつけてくるではないか。そして拳銃がパンパンと発砲された。

「う、うわー」Kは走った。




 

2010-11-03 (Wed) 22:16:14 [投稿者名:kei ]

 

Kは走って走って息も絶え絶えになり、もうダメだと振り返った。

弾がゆっくりと向かってきている。

「え?」

警官は止まっているようだ。

いや、よく見ると少しずつ動いている。

カリフォーニア大学教授は原因は分からないにしても、一瞬で状況は理解できた。

「スローモーションになってる」

Kはなぜか手に持っていたハエたたきで弾を叩き落とすと、警官に近づいた。

「これは一体どうなっているんだ?プレイヤーとは何のことだ?」

だが警官には加速したKの姿は見えないようだ。

むしろ一瞬で視界からKが消えたことに驚いたようで、口が大きく開きつつある。

 

そこへ、さっきの女性が現れた。

「危ないところだったわね」

「はい?」

「私がスロー・ガンを撃たなければ、あなたは死んでいたわよ、いえ、消えていたわよ」

「はい?」

「あなた、はい、しか言えないの?」

「はい?」

「まあ、いいわ。いらっしゃい」








 

2010-11-04 (Thu) 00:23:49 [投稿者名:je ]

 

女に連れられて、Kは喫茶店「殴られてもブルーっす」にやって来た。

レンガ作りのシンプルな店構えで、レコードが静かにショパンを流していた。

「何を飲む?」

「コーシー」

女は1秒でコーヒーを淹れたようだ。目の前にいい香りのコーヒーが置かれた。

「やっと、はい、以外を言ったわね」

「はあ、どうも。ところでここは虚構なんですか?」

「もちろんよ、さっき私がスローガンで警官を撃って証明されたでしょう」

どうだろうか。あの弾丸もピアノ線で吊っていたかもしれない。警官も演技かも知れない。

「コーヒーが冷めるわよ」

「まだ熱々だ・・」Kが見るとコーヒーはシャーベット状だった。

「ね、ここでは各小道具のステータスの操作もマスターの私には自由自在」

どうだろうか。きっと手品だ。Kはアイスコーヒーを飲み干した。

下痢をした。




 

2010-11-04 (Thu) 20:38:07 [投稿者名:kei ]

 

トイレで便器に腰掛けていると、なにやら店の中が騒がしくなった。

ガラスが割れる音やら椅子を壊す音が聞こえてくる。

「奴はどこへ行った」野太い声がする。

Kはまだお腹が痛かったが、トイレの窓からそっと外へ出た。

 

虚構にせよ夢の中にせよ、なんて騒がしい街なんだろう。

Kは呆れて、さてどうしようかと煙草をくわえたら、いかにもロボットそのものという姿をしたロボットが目の前に現れた。

「ココハ タバコハ キンシデス」

「まだ吸ってないけど」

「タバコヲ ショジシテイルモノハ ジュウサツデス」

ロボットは光線銃らしきものを取り出した。

「あ、あれは何だ!」

Kは空を見上げる。

ロボットもつられて空を見た隙に逃げ出した。






 

2010-11-04 (Thu) 23:09:30 [投稿者名:je ]

 

Kは100メートルほど走るとたちまち息が切れた。

「虚構世界なんだから体力も虚構にしてくれよ」

どうやら虚構世界だと認め始めたらしい。

「虚構かぁ・・ってことは・・パンツをおろして歩いても恥ずかしくないってことだよな」

「それはよせ」

後ろから団長の声がした。ふりむくと誰もいない。

「こっちこっち、K、後ろ」

キョロキョロするK。「かくれんぼですかい!?」

「お前からは見えんよ。モニターの外からマイクを使って話しかけているんだ。しかし何だ、マイクを握っていたらカラオケをしたくなったな。コモエスタ・青ミドロでも歌うか」

「結構です! それよりパンツをおろして何が悪い」

さっそくKはパンツを下ろした。

「あわわ、マナーとルールを愛する虚構船団がお前を襲うぞ!」




 

2010-11-07 (Sun) 10:02:24 [投稿者名:kei ]

 

ウ~ウ~ウ~

サイレンが鳴り出した。

「あーあー、本日は晴天なり。警告、警告、この地区はR-18に指定されました。対象者は至急ログアウトしてください。5分後に強制デリートされます」

「あらら、素早い対応だな」団長がつぶやく。

Kが見ていると、通行人や車や家が次々と消えてゆく。

空を見ると、飛行機が数機こちらに向かってくるようだ。

「あわわ、あれは虚構船団だ」団長があわてる。

「逃げろ」

「逃げろと言われても・・・」

「どっかのマンホールにもぐりこめ」

Kは辺りを見回す。

そして、マンホールを見つけて持ち上げてその中へ入る。

「臭いよー。虚構でも臭いのか?」

「贅沢を言っちゃいかん」




 

2010-11-07 (Sun) 22:39:39 [投稿者名:je ]

 

Kの耳に「カチャカチャ」と音が聞こえてきた。

「何の音だ?」

「ああ」と団長。「いま慌ててプログラムしてるんだ。なんせまさか下水道にもぐるプレイヤーが出るとはおもわなんだ、そこらへんのプログラミングは雑なんだよ」

「ふーん、じゃまず臭いのをなくしてください」

「うるさいやつめ、では悪臭パラメーターを0に」

「おお、臭くなくなった。では次はスシをください」

「スシね」

下水に盆が流れてきた。スシが乗っている。

「いくら臭くなくても下水に乗ったスシはなあ」

「やかましいやつめ!」

なんと下水が入浴剤いっぱいのお湯に変わった。

「あと日本酒ね! ハービバノンノ」Kはスシをほおばりながらリクエストした。

「ビバノンノじゃねー!」団長が怒った。

「コランをつかまえるんだ!」

「その理由を聞きたかったんですよ。何でですかい?」

「実はな・・」




 

2010-11-07 (Sun) 23:08:10 [投稿者名:kei ]

 

「コランがスペースジャックと言われる宇宙最高の名医だ、というのは知っているな?」

「ええ。そうらしいですね」

「らしいじゃないんだよ。実際そうなんだよ」

「宇宙にはもっとすごい名医もいるんじゃないですか?」

「いるかも知れんが、私が知る限りではコランが一番だ」

「へえー」

Kはコランがアデラドと再会した時の、コランのやに下がった顔を思い浮かべながら答えた。

「それで私はコランに手術してもらったのだ」

「じゃあ、もう用はないじゃないですか」

「ところがだな」

「はい」

「私には昔から左の脇腹を掻くクセがあって、それがとても気持ちいいのだ」

「はあ・・・」

「それをもう一度だけでも味わいたいんだよ」

「つまり?」

「要は元の体に戻りたいのだ」

「ええー?あのガンだらけの疥癬だらけの体にですか?」

「ああ、あの左の脇腹を掻きむしる快感を味わえるなら、死んでもいいのだ」

「でも、デッド・オア・アライブと言ってましたが」

「コランの欠片でもいいのだ。欠片があればクローン再生できる」

「はあ・・・」

「K、頼むよ、K」

「はあ・・・」

Kはスシを頬張りながら、人生って奴はままならないものだなと思った。

「ところで、なんでコランは電脳空間に逃げたのですか?」

「うん。実はな・・・」




 

2010-11-09 (Tue) 00:38:26 [投稿者名:je ]

 

「う、うわ、ノックくらい」

とつぜん団長の悲鳴が聞こえてきた。

「よ、よせ、ここにはコランは・・」

「キーッ! どこよ、どこに隠したのよ! あんたが隠したのよ! あおのろくでなしのコランを!」

固く絞ったタオルを頭の上に乗せ、Kは首をすくめた。

「なんだ? 現実世界では何が起きているんだ?」

「はやく出しなさい! あの浮気モノのバカコランを!」

「よ、よしてくれアデラド君・・、そ、そんなだからコランは電脳空間に逃げちゃうんだ」

「電脳? ほう、ここね! 何これ? 下水道にお風呂とスシオプション? くだらない。下水は汚水でしょ」

「わー、汚水って書いちゃだめだー」

Kに向かって大量の汚水が流れてきた。

「ぎゃーーー!」




 

2010-11-09 (Tue) 21:21:18 [投稿者名:kei ]

 

Kは濁流に飲まれ、底へ沈んだり水面へ浮いたりした。

「もうダメだ。最後にジェシーの“ソフトクリームたっぷりラーメン四川風”を食べたかったな・・・」

Kは意識を失った。

 

気がつくとKは海岸にいた。

「やっぱりここもご都合主義の世界なんだな。やだやだ」

後ろから声がする。

振り向くと男と女が長椅子に座っている。

しかも、海に背を向けて。

「ご都合主義がSFやミステリをダメにしたんだよな。やだやだ」

「でも愛は必要ですわ」

「たいていのミステリでは美女が出てくるんだぜ。しかも絶世の。これだって立派なご都合主義じゃないのかい、やだやだ」

「でも愛は必要ですわ」

「美女と子供と動物をだして、ちょっと泣かせる話を書けば売れるんだろ、やだやだ」

「でも愛は必要ですわ」

会話になってないようだ。

「あの・・・」Kは恐る恐る尋ねる。






 

2010-11-09 (Tue) 22:45:08 [投稿者名:je ]

 

「あなたたちは?」

Kは恐る恐る聞いた。すると男女はすばやく立ち上がり、膝を曲げ、両腕を横に伸ばすシンメトリックなポーズをとった。

「私たちは活字防衛隊!」

「は、はあ」

Kは絶句した。

「私たち、ご都合主義の小説が許せなくってよ」

「あなたも僕たちと活字を護りましょう」

「い、いやぁ・・」

Kはポリポリと頭を掻いた。活字防衛隊の背後に、奇妙な人影がいるのが目にはいった。

砂浜で足音などしないのに、抜き足差し足だ。かえって目立ってしまっている。

「あ! あの後姿は!?」

怪しい男が振り向いた。コランだった。

「見つけた!」

するとブルー○ーカーの広告漫画の絵のようにさわやかだった活字防衛隊の形相が変わった。悪鬼羅刹とはこの顔面のことだ。

「ご都合主義ぞ!」

「死刑ぞ!」

コランは走ってイカ釣り漁船に乗り込んだ。

「やばい逃げられる!」とK。

「逃がさんわ!」と活字防衛隊。




 

2010-11-09 (Tue) 23:18:48 [投稿者名:kei ]

 

「ジェシー、助けてくれーー」

Kは叫んだ。

魂の叫びとはこのことであろう。

「お呼びですか、ご主人様」

なんとそこへ、右手で団長の頭を、左手でアデラドを抱えたジェシーが立っていた。

「こ、こでほどのご都合主義な話しは見たことも聞いたこともないばい」

活字防衛隊の男女は白目をむいて卒倒した。

 

イカ釣り漁船はいつの間にか消えている。

夕焼けで真っ赤な海をバックにアデラドが泣いている。

「あいつら(注:『ハラキリ・プラネット』を参照のこと)に捕まったとき、私の体はボロボロにされてたのよ。宇宙船を大破されレイガンでやたらと撃たれ」

1人と1体と1頭は静かに聞いている。

「そこへ流しの医者がやってきて治してくれたのよ。でも首から下は手の施しようがないので機械の体なのよ」

「・・・・」

「それなのに、それなのに、コランは・・・・」






 

2010-11-10 (Wed) 23:27:38 [投稿者名:je ]

 

やがて夕日が沈んだ。Kは沖を見て思わず吹いてしまった。

イカ釣り漁船が輝いていたのだ。

「うわー、釣れて釣れてしかたない!」コランが叫んだ。

そこにジェシーが全員を連れて登場だ。アデラドが叫んだ。

「この前はネコにうつつを抜かして、今度はイカに浮気なのね!」

「げ、アデラド! イカにまで嫉妬されたらかなわん」

コランは半泣きである。その時Kがアデラドの肩を叩いた。「君もイカを釣りなさい」

「また釣れたわ!」

いつの間にかアデラドもイカに夢中である。

「私、間違ってたわ」アデラドの目からウロコがバラバラ落ちた。「輪郭の無いものにヤキモチを焼いてもダメなんだわ。これからはもう嫉妬しません」

アデラドとコランは抱きあった。団長も現実に戻れると大喜びだ。

「さあ帰ろう」Kは言った。「次回で最終話だ。どんなオチが待っているやら」




 

2010-11-12 (Fri) 17:44:21 [投稿者名:kei ]

 

5人は団長のパソコンから無事に戻ることができた。

団長は電話代がかさんだことにブツブツ言っていたが、コランに手術をしてもらい毎日脇腹を掻いてのた打ち回っているらしい。

コランはアデラドと仲睦まじく暮らしているようだが、浮気の虫がムズムズしていそう。

Kはコランから引き取ったジェシーにおいしい料理を毎日作ってもらい10キロは太ったそうな。

ヒズシとウィンとハナコと宇宙人は今回出番がなかったので、次こそはと期待している。



 

だが水面下では活字防衛隊が絡んだ事件が進行中のようだ・・・。

いや、これはまた別の話し。

語るべき時が来たら、ミスター・Jがつぶやくだろう。




 

2010-11-12 (Fri) 21:31:33 [投稿者名:je ]

 

読者から感動のお便りが続々と。

 

「感動して大泣きしました」45歳女

 

「設定に破綻が無いところがすごい!」28歳男

 

「まさにSF。いやド級のSFだ」9歳男

 

「膨大な分量なのに4回も読んでしまいました」38歳女

 

「はやくXXの悲劇の詳細を知りたいです。もちろん考えてますよね?」31歳男




 

2010-11-12 (Fri) 22:47:41 [投稿者名:kei ]

 

さらにお便りが続々と。

 

「どこが大事件なんですか」年齢不詳・女

 

「作者がパソコンやネットに疎いのがよーく分かりました」20歳・女

 

「電脳世界は勝手が違ったようで」46歳・男

 

「『逆まわるの世界』はあまりの不評で絶版ってほんと?」19歳・男

 

「毎日書かんかい、ボケ」3歳・幼児