万葉の恋歌Ⅱ(奈良大 上野教授新訳)と今日の歌 一月十八日(水)
万葉恋歌新訳抄 Ⅱ
③ ほんとはいやみなんて言わないほうがいいんだけど、つい。
雨つつみ 常する君は ひさかたの 昨夜の雨に 懲りにけるかも (大伴女郎 巻四の五一九)
(昨夜=きぞよ)
雨が降ると出不精になる彼氏
いつものことなんだけど・・・
夕べの雨に懲りて
今日もご無沙汰なんでしょうねーーー
今日は来てくれないでしょうねーーー
「しょうがないわね、あなたという人は・・・」
という声が聞こえてきそうな歌。つまり、女は男の出不精を知り尽くしているのである。長く連れ添った夫のことを、妻が「あの人は、そういう人ですから」と半ばあきらめつついう一見客感的口調か。雨が降ったら来ないでは、いやみの一つをいわれてもしょうがない。
④ 雨が降ればいいのに
ひさかたの 雨も降らぬか 雨つつみ 君にたぐひて この日暮らさむ (作者不詳 巻四の六○九)
だったら
雨でも降らないかなぁー
そうすりゃ 出不精の彼氏と・・・
その日はいっしょにお楽しみ!
題詞によれば、前の歌に同情した人物が、答えて読んだ歌。雨が嫌いな彼氏なら、雨の日に家で捕まえときゃ、デートできるんじゃない、というもの。つまり、彼氏が女の家に着いたあとから、雨が降り出せばしめたもの・・・という意味である。「なぐさめ」とも「ちゃかし」ともつかぬ歌である。
(奈良大学教授 上野 誠氏)
ー続くー
今日の歌
去り行く雁
*遠ざかる夕陽へ向かひ飛ぶ雁のいとしもよそのひたすらの群れ
*落雁と言ふを知りたり薄紅の空虚を剪りて一羽舞ひ墜つ
(空虚=うつろ)
*遅れたる季節にぞあらめ風花のなか一群れの飛ぶ雁の見ゆ
(季節=とき)
*かりそめの浮世は捨てついさぎよき飛翔違はず北へ向く雁
*冬がれの沼を離りて雲の辺に影うすめつつ去りゆくや 雁
(離り=さかり) (辺=べ)
万葉の恋歌Ⅰ (奈良大学 上野 誠教授の新訳) 一月十七日(火)
万葉恋歌新訳抄
①恋ってむなしさを知ることでもあるのよね
君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし 秋の風吹く (額田王 巻四の四八八)
わたしはあなたを待つ
恋い慕いながら待つ
---あっ、簾が動いた
---でも、それは秋風だった
額田王の名歌の一つ。よく、美女といわれるが、それを示す史料はない。題詞によれば、天智天皇を慕って作った歌という。うまさは感じられないが、不思議に魅力のある歌である(それこそ、ほんとうにうまいのかもしれないが・・・)。それは、待つ女の切なる願いが凝縮された歌だかうらであろう。やはり、風だったのかと、いうところに思いの深さがある。
②何いってんのよ
風をだに 恋ふるはともし 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ (鏡王女 巻四の四八九)
風だけでも恋しがっているあなたがうらやましいわ・・・
風だけでも
来ると待っているのなら
何を嘆く必要があるのかしら・・・
待つ人がいないわたしはもっとつらいわ
額田王の歌に答えた鏡王女の歌。王女は額田王の姉であるとも考えられている人物で、歌からはその新密度がうかがえる。「何いってんのよ」は鏡王女の気持ちを代弁したつもりである。待つ苦しみ、待つ人がいない苦しみ、それをめぐる女どうしの飾らない会話が、千三百年の時を経て、蘇る。
(奈良大学教授 上野 誠氏)
ー続くー
リレー短歌から 今日の歌 一月十六日(月)
3038 | 瞬きの間に走り去る影のありスローライフは夢のまた夢 | 圭之介 | URL | 2006/01/06 08:00 | ||
新年おめでとうございます。 今年もよろしく。 七十余年生きてきてつくづく思うのは、「時」の流れが年毎に速くあることです。あっと言う間に日々が飛んでゆきます。戻るべくもない過去を懐かしむ新年の述懐でした。 |
まず今年最初のリレー短歌から。今年は出だしが悪く、この歌の後に今日まで誰も続いてくれません。
今日の歌
”前衛”よいづこに
*過去といふ重き空虚を掌に諍ふものを持たぬ悲しさ
(空虚=うつろ)(掌=てのひら)(諍ふ=あらがふ)
*言を挙げその楽しげな笑みの底目見の鋭き 岡井隆よ
(目見=まみ)
*迎合を許しつつ塚本を読む夜に森森と遠鳴るは 闇
*いさぎ佳き反逆の歌いかにせし御用歌人の今日は魅せざり
*熟れすぎし歳月のごと夜半過ぎて厨に薫る去年の甘柑
(夜半=よは)(甘柑=あまかん)(去年=こぞ)
『さくらばなちる』は→こちら
今日の歌 うたかたの夢 一月十五日(日)
今日の歌
うたかたの夢
*いだくべき夢うしなひて沈む陽に彷彿と見ゆくろき豊髪
(抱く=いだく) (豊髪=ほうはつ)
*夕雲は心の外に翳曳きてなつかしき眸に映ゆるごと照る
(眸=め)
*冬に居てそぞろ恋しき香のあればひとり彷徨ふ昼のビル街
*汝の夢に陥ちてゆかむと願へども夜は既にして白みつつあり
*汝と媾はずなりて幾とせ事ごとに湧くは無情の焔のごとき 念
(媾ふ=あふ) (焔=ひ) (念=おもひ)
先週の訪問者
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | |
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
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訪問者数 | 17人 | 21人 | 17人 | 17人 | 14人 | 18人 | 22人 |
今日の歌 夢 遊 境 一月十四日(土)
今日の歌
夢 遊 境
*冴え冴えと冷ゆる風 その鋭きに身削がるるままひとり佇つ丘
(佇つ=たつ)
*くれなゐの鮮たりいまし散り果つる冬の薔薇のそのいさぎよさ
(薔薇=しゃうび)
*汗淋漓たりし過去の夜いま夢にしみじみとそのししむらを恋ふ
汗淋漓たる汝に酔ひし夜もありきしみじみとその肉叢を恋ふ(推敲後)
汗淋漓たる汝に酔ひし夜もありき如何にいますや十年経しいま(再推敲)
(十年=ととせ)
*花に寄り花を手繰れば胸ぬちに浮かぶ過去世の朧なる 影
薔薇に寄り花を手繰れば胸ぬちに湧く朧なる汝が薫る肌(推敲後)
*かの杳き顔貌を恋ひ散る雪のなかはつかなる香に酔ひて居り
(顔貌=かんばせ)
しばらく離れていた”旧かな”に戻してゆきます。付帯する記事は”新かな”で、純粋に”歌”のみを。
文語歌はやっぱり旧かなのほうが似合います。ただ、此処十年以上新かなに馴れていましたので、多少の間違いをしでかすかも知れません。お気づきの時はどうかコメントして正して下さい。
吉備路の会 第37回歌会歌評 一月十三日(金)
どうも気分が優れず歌作が出来ません。
吉備路の会 第38回歌会
拙作二首に対する歌評
帰り得ぬ遠き昔のあれこれを脳漿(なずき)に秘めて秋の陽を浴ぶ
●初句は " 還り得ぬ" がよいかも? 三、四、九、十、十五等、偶然にも似た歌があるが秋は老といえども物思いに耽るだ。ボケ防止にも、つながるかも。過去の「あれこれ」は事柄か観念か判らない。只、秋の陽を浴びている状態の中にキラリと光る物がない。
●もう既に私の愛唱歌です。作者の方にお礼を申さねばと思います。
まどろみの中降り来るはちりぢりの過去の破片の混じる林檎酒
●自分の歌に酔ってしまっているような歌の評はむつかしい、五句の林檎酒は、いきなり何故出たのか。
●秋は何となく愁い心の起きる季なのか、過去を想い己の内にあるもろもろの感傷を訴えたくなります。林檎酒のほのかな酔いに生まれた歌でしょう。「まどろみ」と「酒」の位置が離れているので歌意も錯覚されそうです。*林檎酒にまどろむ夢はちりぢりの過去の破片も混じりてめぐる
再び「さくらばなちる」より 一月十日(火)
(初春=はる)
いちばん言いたいのは結句の「はなやぎに満つ」だと思うのですが、三句までで犇めきと香りがもうすでに充満していることが表現されているのでどこにポイントが置かれているのかがちょっと分かりにくいと思いました。
もし犇めきと香りを使いたいのだったら、結句は「はなやぎに満つ」ではないほうがいいと思うし、このままの結句にしたかったら三句まではこうではないほうがいいと思います。
歌に矛盾を感じます
犇めきと 蒸ち篭むる、役者さんの怪しい香りと観劇者のひと息とをかけてあるのでしょうけど
怪しい香りは、華やがないと思いますが
雰囲気は解るけれど、なんか変です
i磯さん、これは、役者のことは歌っていないと思います。
ひしめいているのは観客席。そして、妖しき香りは着飾ったおばさまたちの化粧や香水の匂いではないでしょうか。
そのおばさまたちの着飾った着物やドレスが劇場を華やぎに満たしているのではないでしょうか。
Keiさん、読みが間違っていなければそう言うことだと思うのですが、妖しき香りと言ってしまったのでイメージが違う方向に行ってしまったのではないでしょうか。
上句と下句のイメージを分けて2首にしても良かったのではないでしょうか。
下句の言いたいことを補足する上句であればよかったのだと思います。
美里さんの仰る通り役者のことは言っていないつもりでした。でも、そう採られるのなら、と改作してみました。はっきり役者も入れました。
ゴタゴタするかな、改悪かな、とおそるおそる提出します。
(私のブログを見ていて下さるひとは、ああ自己作からの盗用だなとすぐ判りますが・・・)
*犇めきと妖しき香り蒸ち篭むる初春の劇場映ゆる俳優
・初春=はる ・俳優=わざおぎ
初春の劇場
①=はるのげきじょう
②=はつはるのこや
keiさん、おはようございます。
やはり漢字が多いのと、言葉が詰まりすぎているような気がします。
ここは無理に劇場を持ってこずに、観劇者たちのことをもっと丁寧に詠み込んでみてはいかがでしょうか。
自作からの盗作、私もよくやります(笑
makoさん、ご指摘確かにそうですね。漢字の羅列が、ただでさへ重い歌をひどくしています。この改作もどうかと思いますがこんな所で妥協して置きます。
*俳優(わざおぎ)の巧みに酔ひぬ犇めきと華やぎに満つはつはるの劇場(こや)
*俳優(わざおぎ)の巧みに酔いぬ犇めきと華やぎの満つ初春(はる)の劇場
私は下の方のルビが好きです。
『さくらばなちる』は→こちら
「さくらばなちる」より引用 一月八日(日)
街(kei)
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先週のランキング
日付 | 1月2日 | 1月3日 | 1月4日 | 1月5日 | 1月6日 | 1月7日 | 1月8日 |
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総合 ランキング |
15885位 | 16893位 | 14394位 | 14547位 | 12785位 | 12007位 | 11824位 |
ジャンル ランキング |
5153位 | 5523位 | 4331位 | 4323位 | 3560位 | 3246位 | 3175位 |
訪問者数 | 10人 | 8人 | 18人 | 13人 | 24人 | 21人 | 17人 |
今日の歌 初春偶感 一月七日(土)
今日の歌
初 春 偶 感
*あらたまの年な来経にそ吾身すでに消えゆかむもの 雪にさも似て
*あらたまの年な来経にそ吾身には雪の驕りを避く術(すべ)も無く(推敲後)
*うす紅に染むゆうぐもを遠くして春や近づく風を微温まし
(微温まし=ぬるまし)
*古き佳き歌の集へる書ひとつ呆けつつ読めり 岡井隆を
(書=ふみ)
*頬染めて読み耽りたる啄木の歌集の紙魚のあともなつかし
(紙魚=しみ)
*散乱とせる部屋なかに佇みて越し年月のわが様を見る
(年月=としつき)
*いく夜さをわが恋ひぬればひさかたの朝の光りのかくも眩しき
*音も無く灯に衝り居り褐色の羽震ひつつ冬の迷ひ蛾
(衝り=あたり) (褐色=かちいろ) (羽=はね)
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今日の短歌リレー及び 氷原一月号掲載歌 一月六日(金)
今日のインスピレーション短歌リレー
3038 | 瞬きの間に走り去る影のありスローライフは夢のまた夢 | 圭之介 | URL | 2006/01/06 08:00 | ||
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新年おめでとうございます。 |
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氷原一月号掲載歌 丹治久恵氏撰
*朝目覚め夜寝ぬるまで一言も無くて淋しくまたひと日過ぐ
*死に近き日の夜になれば頭葉を揺らす朱色の風ありて 秋
*絶唱と言うべきは無し秋薔薇の天を刺す棘われに来向かう
*死とはただ優しき海か鬱積を溶かし秋陽をちりばめて呼ぶ
(秋陽=あきひ)
*藍の襯衣肉充たさざり透析に身涸れ細まりてゆく肉叢
(襯衣=シャツ) (肉叢=ししむら)
*みずからを殺めたき身を抑えつつ仰ぐ星空はや九月盡
(殺め=あやめ)