公共交通問題の続編で、今回は奈良市の新年度(令和6年度)予算における公共交通問題について福祉政策の視点から考えていきます。


【ななまるカード】

奈良市では市内に3ヶ月以上居住する70歳以上の方に対し(要住民登録)、長年にわたり社会の発展に寄与されてきた高齢者に対する市民の敬愛のしるしとして「ななまるカード」が取得できます。ななまるカードは、提示することによりさまざまな優遇措置を受けることができます。


ななまるカード優遇措置事業の前身は、昭和45年に始まった同市の旧「老春手帳」制度でした。当初の制度では市内の85歳以上の高齢者が対象で、市内循環バスを無料乗車できるほか、映画館や公衆浴場、神社仏閣の拝観なども無料でした。その後数回にわたる制度見直しにより対象者が拡大され、昭和49年からは現行の70歳以上の高齢者を対象とする制度となり、高齢者福祉の中心的施策として実施されています。

通称「赤手帳」とも呼ばれており、優れた奈良市の福祉政策として多くの高齢者に歓迎されてきた事業であり、昭和45年に制度化を実現された、当時の鍵田忠三郎市長の功績として現在もなお語り継がれています。


【現在の「ななまるカード」】

現在(令和5年度)のななまるカード優遇処置では奈良交通路線バスの市内停留所間が、1乗車100円で利用が可能です。乗り換えた場合は、その都度100円が必要で、市内停留所で乗車または降車された場合、市外にまたがっても1乗車100円で利用できます。(高速バス、リムジンバス、定期観光バス、深夜急行バスを除く。)


【制度継続の課題】

課題は財政負担です。同事業に要する経費は奈良市とバス事業者(奈良交通)の折半です。乗り合いのバス事業は一定の公共性を持つことから、地方自治体がバス事業者に制度実施においてこのようなに施策協力を要請することは無理のないところと考えられますし、バス事業者が一定の負担をすることは社会的に容認されるものと考えられますが、いかに公共的役割を持つとはいえ、営利企業である以上、負担には一定の限度があります。ここ数年の経費はおおむね3億円程度で推移しています。奈良県より「重症警報」が出されるほど奈良市の財政状況は厳しく、これまで幾度かの制度見直しがあったように、今後何らかの制度変更は避けては通れないと思います。

これまで制度変更は、藤原市長の時代に「映画券廃止」、仲川市長が一年目で行った「事業仕分け」の結果により「公衆浴場の廃止判定」を受けて縮小されました。「福祉の奈良市」の誇りは、時の市長によって衰退を強いられてきました。


【経費折半】

平成27年1月発行分から「老春手帳」が「ななまるカード」にかわり、必要経費は奈良市と奈良交通の折半で負担していたのですが、令和4年度から負担割合が変更され、市が55%、奈良交通が45%となっています。(令和4年3月15日開催 予算決算委員会厚生消防分科会議事録)

以降、令和4年、令和5年と「市55%、奈良交通45%」の負担割合で経費負担しています。


【制度としての課題】

質疑された議員は、「同制度におけるバス利用者が、70歳以上の高齢者の半数程度にとどまっている」と、福祉政策としての制度上の問題点を指摘しています。(令和4年3月15日開催 予算決算委員会厚生消防分科会議事録)

黄色の囲みで70歳以上人口が、8万人強に増加傾向であることが確認できます。(令和4・5年度歳出予算説明調書)


ななまるカード交付者に対する利用者は60%台と年々減少傾向にあることが確認できます。(ななまるカード利用状況 [PDFファイル/46KB])

https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/122394.pdf

上記PDFデータは市のホームページに掲載されているのですが、最新データは令和元年です。なぜ元年止まりかは不明です...

議員指摘の通り、実際の利用者は半数程度にとどまり福祉政策としての問題は残ります。


【懸念事項】

新年度予算が提案される3月定例会を前に、ひとつの懸念事項があります。奈良交通が今年2月1日から運賃を値上げしたことです。

燃料価格の上昇など物価高騰や、利用者の減少などが今回の運賃値上げの理由です。

先ほどのべたのですが、ななまるカードによる市内奈良交通バス優待乗車に要する経費は奈良市と奈良交通の折半です。令和4年度に見直され「市55%、奈良交通45%」の負担割合で経費負担しています。たとえば、「今回のバス運賃の値上げ分を奈良市に負担して欲しい...」このような協議がすでに行われており、市の負担が増えた新年度予算になっているようなことは、あってはならないと思います。あくまで推察です。


今回の運賃値上げによる影響で考えられるのはつぎの三つです。

①運賃値上げ分を奈良市が負担する

②運賃値上げ分を利用者が負担する

③運賃値上げ後も同事業の負担割合に関する見直しは行わない


①の場合は、令和4年から見直された「市55%、奈良交通45%」の負担割合から、さらに奈良市の負担が増え、たとえば「市60%、奈良交通40%」などの負担割合が考えられます。あくまで仮の話しです。

②の場合は、1乗車100円での利用が、たとえば1乗車110円とか120円のように利用者負担が増えることです。同じくあくまで仮の話しです。

③の場合は、運賃値上げはバス事業者の問題であることから、奈良市としては負担割合の見直しはしない。

このような状況が想定されます。奈良市とすれば③が妥当な判断であるはずです。②は絶対にあってはならないことです!ただ現時点(3月定例会直前)で、利用者負担の増加等の協議が行われてる話は聞きませんし、議会への報告もないので、まずないものと考えてよいと思います。で!問題は①です!同事業に係る予算は、上記に添付の令和4・5年度歳出予算説明調書に赤線でアンダーラインした「バス優待乗車委託」で確認いただけますが、約3億円です。予算審査で議案書として市から提出される資料では負担割合は確認できません。我々議員は予算を審査過程で質疑を行い答弁でこのあたりを明らかにしています。言い換えれば、少しの数字あれば深く追求していないと、詳細にたどりつけないわけです。


【まとめ】

冒頭でものべましたが、同事業は優れた奈良市の福祉政策として多くの高齢者に歓迎されてきた事業であり、昭和45年に制度化を実現された、当時の鍵田忠三郎市長の功績は現在もなお語り継がれているということ。その後、幾度かの制度見直しはあったが、奈良市の福祉政策として多くの方が制度利用されているということ。課題としては福祉政策として実際の利用者数が半数程度にとどまるのではなく、全体の福祉政策としてより充実した内容が求められること。これらについてはあらためて私の考えを明らかにしておきます。

これらの私の考えをのべたうえで、運賃値上げ分を奈良市が負担するような予算になっていないかを審査する考えでいます。財源の原資は税金です。一事業者の都合で公費が投入されるような事態に陥らないよう、長寿福祉課より予算提案される「バス優待乗車委託予算」に注目しています。