奈良市の財政問題を考える(環境政策編)

議会への報告・説明もなく1.5億円もの多額の予算を流用で財源処置し、進められる「奈良市本庁舎『ZEB化』改修事業」について、その2では、市役所庁舎の移転建替か?耐震化?の議論を振り返り、当時の市の説明資料を提示しながら問題を明確にしていきます。


1.耐震化か?移転建替か?

市役所本庁舎は昭和52年に完成した3棟に耐震性の問題があり、うち2棟は震度6強の地震で倒壊する危険性が高いとの診断結果が出されていました。市は、平成30年3月奈良市本庁舎耐震化基本構想をまとめ、現庁舎に鉄骨製の外付けフレームを設置する総事業費32億6千万円の耐震改修計画を策定しますが、耐震診断から構想決定までの間の議論が、「耐震化ありき」での意思決定であった実態が疑われる事態となり、この意思決定を争点に議会での議論が紛糾していました。


2.奈良県知事による移転建替案の提案

議会での議論が紛糾する中、荒井奈良県正知事は、市が積水化学工業奈良事業所跡地(同市三条大路)への移転を検討するのであれば、県土地開発公社が土地を購入し、市に低利で貸し出すプランを示されました。

日経新聞デジタル版


3.奈良県知事案を真っ向から否定した奈良市

奈良県知事による移転建替案が示されたことで、奈良市議会でも移転建替か?耐震化か?の議論が再加熱しました。耐震化に執着する奈良市は「本庁舎耐震化に係る奈良県知事に対する市の考え方」との資料を作成し、議会への説明が行われたました。知事案は、移転建替によって、新築費用が耐震化を大きく上回っても、新築すれば70年の耐用年数であるのに対し、耐震化ならば移転建替より費用は削減出来るが30年後の建替完了が必要となり、長期目線で考えると移転建替の方が財政負担が縮減できる!との分析を示されていました。しかし市はこの知事案を全否定し、市の分析による「耐震改修の方が50億有利」との見解を示し、議会への説明も行われました。




※奈良市作成の知事案との比較資料(抜粋)


4.県との関係悪化を危惧する声もあったが...

しかし、最終的には70年程度先までの試算を出し合った末、市長は「耐震化案を財政面で覆すようなインパクトはない」などとして、知事案を退けました。市議会では県市の関係悪化を懸念する声もありましたが、議会も耐震化事業予算を認め市は耐震化工事に着手しています。

日経新聞デジタル版


5.問題の根本

市庁舎のZEB化は、現庁舎を省エネ施設を備えた建築物に改修でき、事業へは地域脱炭素移行・再エネ推進交付金が交付されます。十分なメリットはある事業です。ではなぜ奈良市ではZEB化事業を問題視する声が多いのでしょう。理由のひとつは、ZEB化事業計画で、市が示すスケジュール案ではZEB化事業完了は令和9年度ですが、 「3.奈良県知事案を真っ向から否定した奈良市」で説明した「本庁舎耐震化に係る奈良県知事に対する市の考え方」による説明では、耐震改修事業完了後の「25年後の現地建替」、「30年後の移転建替」の2案を示し耐震化事業の優位性をはっきり説明してあり、25年後の現地建替ならば、令和23年に現地建替工事着手30年後の移転建替でも、令和28年を建設移転工事着手。としています。※上記添付の説明資料で確認できます。さらに市長は報道取材でも、耐震化後の現庁舎使用は30年としています。



※令和3年2月27日 奈良新聞掲載


20億円投資してZEB化しても20年以内に建替を要することになり費用対効果に大きな疑問が発生します。さらにZEB化事業での市費負担分の回収には30年要するとの試算を、市はすでに説明しています。この問題をわかりやすく、ご家庭の住宅購入の例にたとえると、「新築住宅を建設し住宅ローン返済をしながら、以前住んでいた住宅のローンを10年間も二重に払わなくてはならない」と言うことです。


ふたつ目の理由は、ZEB化事業の説明会に提出された資料に、突然「単純更新事業費 975,663千円」が、今後必要となる更新工事費であると明記されていたことです。※下記資料二枚目の黄色囲み

先の本庁舎耐震化に係る奈良県知事に対する市の考え方」の市作成資料には、耐震化後に必要となる更新工事として、同様の内容について記載はなく、これにより議会への説明資料には約10億の必要更新費用を盛り込んでいなかったことも疑われます。これは大きな問題と考えます。


※令和6年7月17日開催 本庁舎のZEB化説明資料


6.まとめ

ここまで資料をそえながら問題の根本を説明してきました。今月6日に開会する奈良市議会9月議会で、私は会派を代表して質問をおこないますので、これら問題点については質疑にて問うてまいります。