世の中にこれほど悪い奴がいたか。
「復讐するは我にあり」は実際に
起こった事件をもとにつくった映
画である。
男はキリスト教徒で、長崎出身。
敬虔なクリスチャンの父の後ろ姿
を見て育った。
忘れない出来事があった。
村人が総出のなか、網元が軍人の
命に「天皇陛下（神）の御ために」
と復唱し、船を拠出する父の屈辱
的姿を見みかねた少年は、背後か
ら軍人を棒で叩きつけた。
この後、謝る父を背に何度も砂を
蹴っていた。
やがて男は嫁をとり、嫁の加津子も
入信する。
巌は犯罪を繰り返し、刑務所に服役
する。この留守の間、地元の駅長と
嫁の彼女が逢瀬を重ね、娑婆（しゃ
ば）に戻ってきた男は駅長から金
をゆすっていた。
この間、巌の母は、床に居ても息子
の嫁に「私も女じゃけん、おとうさ
んを加津子に渡しとうなか」と言い
続ける。
男は、親父と嫁を前に、息子の嫁の
尻を嗅ぎ、「お前は獣か」と罵倒し
た。
父は胸に十字架をきっていた。
東京に出てきた彼。
弁護士を殺して、男は弁護士にな
りすまし、女が男を先生といい、
子を産みたいまでいわせる、女心
を巧みに利用。
女と寝て、すこしでも感ずかれば、
平気で殺す。この殺人事件は、世
間を震え騒がせた。
嫁と父。
巌の嫁は、愛媛の温泉宿で独り、働
きながら暮らしていた。
舅が加津子を連れ戻しにやって来る。
宿から離れた露天風呂につかってい
ると嫁が背中を流しに入ってきた。
そのとき、大雨が降りだした。その
一瞬、女は背にした男の両手を乳房
にもってきた。そして鎮雄の手は解
かれ、加津子は湯から立ち去った。
時が過ぎ去り、巌が逮捕された後。
父は死刑を前にした息子に面会。
「お前は破門になった。自分も破
門し、墓には入らぬ」と告げる。
これに巌は、「おやじ、加津子を
抱いてやれ、人殺しをするなら、
あんたを殺すべきだった」と言う。
父は巌の顔に「罪のない者を殺し
よって」と、唾をかけた。
本音を丸出しに生きた巌。
5年後に処刑された。
別府の丘にゆく途中、加津子は鎮
雄に「巌は言っていた。親父はず
るいと。」と言い、「そんなお父
さんが好きだ」と云ふ。
別府湾を望む丘の頂に着き、父は
息子の骨片を空に投げていた。
映画「復讐するは我にあり」（感想）
この映画は不思議なドラマだ。
信じる者は救われるという聖書や聖
典があるが。
聖書でいう我は神で、ひとを知る神
が復讐・裁くということになるが、
これがドラマのテーマになるかとは
言い難い。
映画では人がもっている業、性分が
描かれている。
罪深く生きた巌には死に迷いが無く、
一方父はカトリック教徒だが、生身
の人間として葛藤しながら生きる。
再び、温泉宿のときに話をもどすが。
加津子「わたしは巌（夫）のために
家に戻るのでない、おとうさんのた
めに帰る」という。山奥での雨が一
瞬あった。
敬虔なカトリック教徒の鎮雄と「わ
たしが一番罪なひと」という加津子。
あのわずかな時間だが、ドラマが凝
縮されているところである。
映画「復讐する我にあり」の我は神
でもなく、我（巌、巌の妻、父）で
あり、自分（ぼく）のように思える。
映画の感想は人の数だけ違いがある
ようにも思え、映画っていいですね。
映画「復讐する我にあり」
1971（昭和46）年上映。
昭和38年に5人を殺害した西口彰事
件を題材にし直木賞を受賞した佐木
隆三の小説で、西口彰は九州で集金
係と運転手2人を殺害し、78日間逃
亡する。この間の出来事を絡ませた
今村昌平監督の作品である。
原作：佐木隆三（講談社 刊）
監督：今村昌平
榎津巌：緒方挙
妻・加津子：倍賞美津子
父・榎津鎮雄：三国連太郎
母：ミヤコ蝶々
浅野ハル：小川真由美
浅野ひさ乃：清川虹子
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