散ってしまった桜。

といっても桜にはいろいろあり、

これから咲く桜もある。

 

昨晩の雨混じりの風で、春嵐で

すっかり花びらを落とした桜は、

緑の葉の部分がめだつようにな

った。

 

 

花の命は短く、つい花の精かと

人の生涯と重ね、朝方まで夢を

み、眠れぬ夜がつづくことが多く

なった。

 

人の生涯は、紆余曲折あり、今

を生きている。桜は、年があけ

ると、また咲きこれを繰り返し

ている。

 

 

 

ソメイヨシノだけが桜でない。

桜には色々な種類があり、

メイヨシノのかわり、八重桜が

咲いていた。

 

八重桜は牡丹桜ともいうが、

の呼び名が苦手で、怪談の牡丹

灯籠を想像し、さらに刺青(い

れずみ)を連想し、今も、この

刺青を払拭できないでいる。

 

 

 

 

 

入社式で一緒だった彼女。

3年後だった。同期の者らと夜桜を

みにゆき、仲間と離れて、ラブホテ

ルにはいった。

口づけをかわし、たがいに上着を脱

ぎ、脱がしてベッドに伏せた。

ぼくは、唇を徐々に下にずらしてゆ

く、スタンドの明かりに灯る真っ白

い肌がゆれ、二股にわかれるところ

で動くものが、一瞬、蛇だ。震えあ

がり、酔いがさめ、恐怖でちじかん

でしまった。

このあと、「(ひるまないで)わた

しを好きなようにし」と言われ、よ

けいに委縮してしまった。

 

 

 

それから20年経った。

この間、コロナ禍があり、ウクライ

ナ侵攻があるなどあり、精神疾患に

なったぼく。

花木は咲いてみて、この樹は八重桜

だったと知ることが多い。

八重桜の木の周りには、クスノキ、

ケヤキ、シラカシがあった。

 

 

現在、桜はソメイヨシノが主流だが、

江戸時代は八重桜で、吉原遊郭が、

賑わいを興すために、その一策で畔

に八重桜を植えていた。

平安の頃の源氏物語や百人一首の歌

に詠まれている桜は、すべてが八重

桜で、江戸時代の枕絵の詞書きにも

ある。

 

公家

くげのうた手まらといふけれど

手よりまらより ぼぼのことじゃ

それじゃによって ぼぼ宮びとの

まい 長うたをもうたったものじ

女房

こちゃ まらのミやこの八重桜

が よいわな サアさ よやさ

のサ

 

 

喜多川月麿画(半紙本・文化期・1804-1817)

 

 

23年ぶりに同期の会を、八重桜の下

でもった。

彼女は「元気?」と意味ありげに微

笑んで、いってくれた。

あのとき以後、みんなに「好きなく

せに、あかんたれよ」と言っておい

たから、という。

何が怖いといっても、これほど怖い

ものはなかった。

 

 

 

 

 

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八重桜という