世の中って、暮らしにくい。

むしろ嫌なことが多いものだ。

それにひとは老いる。

 

ぼくは家に帰ってくると、お母さんが、

失恋して焼け酒を呑み酔っていた。

ぼくはかあさんとふたりで一緒に酒を

飲みかわす。

 

ぼくと友だち

ぼくは友だちのために人事部長の職権で

役員会の決定を無視して会社を首になる。

友だちは、下請け会社に就職につけたが、

ぼくは失業の身となる。

 

まだある。友だちのためにラブレターを

代筆した。そのときぼくの大好きな彼女

に渾身の思いで書いた。その彼女が友だ

ちの現代の妻である。

 

母さんと妻

息子の妻が母さんの家にやってきたという。

母は妻と幼い頃のぼくの写真を見て大笑わ

いしたそうだ。そして最後に「もう一度や

りなおしてもらえないか」というと大粒の

涙を出し家を出て行ったという。「あのひ

とには好きな男のひとがいる」という。

 

印を押すのは(会社で)慣れている。

妻が好きな男ができたとわかり、ぼくは離

婚届に印を押した。

こうして会社を辞めたぼくは肩の荷が下り

た感じがし、部下の女性もぼくらしくなっ

たと言っていた。

 

母さんと親父

無口な親父は学生のとき2階の部屋で桑田

佳祐の曲のカセットテープを聴いていたら

、仕事の邪魔になったのか、そのデッキを

投げつけた。これがきっかけで、ぼくはこ

の家を飛び出した。

 

友だちは、学生の頃にいつも美しいといっ

ていた母さんに「どうしてあの親父と結婚

したのか」と訊いてみた。

親に成人式のとき着物や帯を買ってもらっ

たが、足袋を買うのをわすれていた。

そのとき、素足になった(母の)足首から

指先まで丁寧に測ってくれ、快い気持ちに

なっていった。これがお父さんのプロポー

ズだったという。

 

母さんと牧師

母さんの家は福祉活動の事務局になって

母さんは忙しかった。よく隅田川のほとり

でテント暮らしをする人におにぎりなど夜

食を配り、懇意になった牧師さんを好きに

なっていた。

 

ぼくは牧師に会った。

牧師は「この世は、出来るだけ肩の力

を抜いて、ほがらかに生きた方がいい、

母さんのようにね」という。

 

母さんと孫娘

マンションから出ていったぼくの娘は母

の家で暮らしていた。ぼくは娘から母さ

んが、牧師が愛を告げるのを待っている

と聴き、ぼくは老いた母さんががと呆れ

かえった。ところが、牧師は故郷の北海

道の教会へゆくことになる。

 

ぼくと母さん(花火)

ふたりで一緒に酒を飲む。

50代のぼくは、失業し、妻に逃げられ、

娘には相手にされず。そのぼくと失恋する

ことになった母さんとが酒を呑みかわして

いる。そのとき花火の音が聞こえ、(ビル

の隙間から)「花火が見える」と母さんが

言う。

 

 

 

忘れていた。この7月29日は、ぼくが生ま

れた日だった。あれから78年。東京は大空

襲にあい、被災者310万人、死者12万人あ

った戦後の日本。

この間に母はぼくを生んでくれた。

この日、このときに母は世界中のひとに祝福

されているように思えたそうだ。

ぼくは、いろいろあったが、(生まれた)2

階から花火を見ていた。

限りがある今ある命、「こんにちは、母さん」。

 

 

映画「こんにちは、母さん」

原作:永井愛

監督:山田洋二

脚本:山田洋二、朝原雄三

音楽:千住明

 

母・神崎福江  :吉永小百合

ぼく・神崎昭夫 :大泉洋

娘・神崎舞   :永野芽郁郁

 

友だち(木部) :宮藤官九郎

牧師      :寺尾聡

福祉仲間    :YOU、枝元萌

 

 

 

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