哲学者 前河内一浩のブログ

「哲学勉強会」（第21回） レジュメ

【哲学勉強会】（2024年5月25日(土)）《存在論と認識論について》　哲学には伝統的に、「存在論」と「認識論」という2つの大きな分野がある。　一般に、「存在論」的な見方の方が古い歴史をもっており、プラトンとアリストテレスでは、「存在そのもの」を考察するという、一般人の感覚では理解できないような深い議論がなされている。　このような考え方は、「神以外の存在者（物）は、どのように存在するのか」という、キリスト教に代表される神学にも通ずるものである。　4世紀後半の国教化を経て、5世紀初頭に活躍した神学者アウグスティヌス（354 - 430）によって、キリスト教の初期教義が完成したが、この過程では、3世紀に活躍した新プラトン主義者プロティノス（205? - 270）の頃より、古代ギリシア哲学を融合する形で議論等が進められたという歴史もある。　17世紀のデカルト（1596 – 1650）が現れるまで、西洋哲学は、暗黙裡に「存在論」オンリーで進んできたと言える。（「倫理学」、論証に必要な「論理学」「心理学」等は除く）　デカルトより始まった『近代哲学』は、これまでの「神」視点から「人間」視点に大転換される流れであった。　「人間はどのように認識するのか」のいうテーマが主題となり、「存在論」的な考察は、自ずと後退することとなった。　この流れは、約1世紀後のカント（1724 - 1804）により、『純粋理性批判』（1781年刊）の中で定式化されることとなる。　「存在論」と「認識論」をまとめると、①存在論・・・「神」視点より、存在者（物）を捉え、どのように存在しているのかを考察する②認識論・・・「人間」視点より、人間はどのように認識するのかを考察する気付かれるかもしれないが、「存在論」と「認識論」の違いはほんの僅かである。　「神」視点と「人間」視点の違いだけであり、それぞれの視点で、「最も根底的な疑問と考察」を議論する学問（分野）であると言える。　科学万能主義と資本主義社会の成長も相俟って、19世紀以降、神学と哲学の「存在論」は大きく後退した。　再び、「存在論」が脚光を浴びる時代が来る。20世紀最大の哲学者とも言われるハイデガー（1889 - 1976）の出現である。　ハイデガーは、西洋哲学の黎明期のプラトンとアリストテレスの時代に遡り、アリストテレスとデカルト、カントにおける「存在論」を＜時間性＞から捉えなおすという独創的なアプローチを行った。　「神以外の存在者（物）は、どのように存在するのか」という問いに対して、新たな「存在論」を構築しようとした。　残念ながら、その構想は完結することなく、構想の3分の1に相当する部分が『存在と時間』（1927年刊）という書物として、刊行された。　『存在と時間』は、20世紀最大の哲学書とも言われている。＜まとめ＞　短い考察ではあったが、西洋哲学史上の「存在論」と「認識論」について、「神」視点か「人間」視点の違いに着目することで、21世紀哲学のアクチュアリティーを探ろうとした。　入口以前の段階であるが、伝統的な西洋哲学の2大分野である「存在論」と「認識論」の交差点をより深く考察することで、個人的な目標である『新哲学』の構想・構築を成し遂げていきたいと思っている。≪参考文献≫・I.カント 『純粋理性批判』（岩波文庫）・M.ハイデガー 『存在と時間』（岩波文庫）・M.ガブリエル 『超越論的存在論』（人文書院）

「哲学勉強会」（第20回） レジュメ

【哲学勉強会】（2024年4月29日(祝)）《キェルケゴールの哲学》（ハイデガー哲学への影響の考察を含む）　代表的な著書『死に至る病』は、200年近く前に書かれた「世界の名著」の一冊であるが、本当の凄みを知っておられる方は少ない様に思われる。私の年齢が還暦近くに達したからなのか、彼のいう＜絶望＞のリアリティがより身近に感じられ、20世紀前半に流行を極めた≪実存主義≫の源流となった思索力・洞察力に、改めて感服している。　20歳代でこの著書を読んだ時には気付かなかったが、＜絶望＞からの真の救済は存在せず、「救済は死によって完済される」という序文の最後の一文にはドキッとさせられた。　詳しい解説は専門書等に譲るが、人間は誰もが＜絶望＞状態にあり、それに気付いているかどうかは問題ではなく、「最終的には＜神＞による救済に頼る他はないという次元にまで至る事が、唯一にして真の救済である」という内容、ストーリーである。　齢を重ねていく上で、その分だけ苦労や挫折を体験し、優しさや人生の深みも増していくと思われるが、キェルケゴールのいう＜絶望＞からの救済とは、次元を異にする話である。　人間は、地球上に約700万年前に生まれ、身体面の進化・成長と共に知性・精神面も大いに飛躍してきたが、少なくとも人間としての「悟り」の次元には到達しておらず、これから数十年、数百年の問題として解決されていくものと、個人的に考えている。　それ故、『死に至る病』は元来、神学上の教義書的な書物で、数百年のスパンを要する内容であり、第一次世界大戦後のドイツにおける社会情勢と重ね合わせ、必要以上にキェルケゴールの影響を受け過ぎた事により、ハイデガーの『存在と時間』（1927年刊）は、基礎的な「実存分析」だけに終始し、本題であった「存在を時間性において捉える」段階にまで到達し得なかったとも言われている。　『存在と時間』の「下巻」こそが、哲学書として呈を成す所であったが、それ以前の段階で中断、未完成のまま存在し、それでも20世紀最大の哲学書と言われている。　ハイデガー自身も「私は実存主義者ではない」と公言していたが、実存分析ではなく、あくまで「存在を時間性において捉える」ことが、彼の哲学上の主題であった事を物語っているのかもしれない。　ハイデガーは、カント以来の「認識論」優位の西洋哲学の流れを、プラトンとアリストテレスにまで遡る事により、新たに「存在論」に光を当てようとしたが志半ば、その他諸々の理由により哲学史上の本脈から逃れる事となった。［まとめ］　『西洋哲学』は、ソクラテスに始まり、数百年単位で偉大な哲学者と思想運動が現れ、「人類の叡智」として連綿と続いている。教義等があり、答えが定まっている『神学』とは違い、『哲学』はその都度、時代に必要とされた思考を行い、論理的な整合性と客観性を満たす「学問」として、現代まで支持され、曲がりなりにも、人類に貢献してきた様に思う。　ヘーゲルにより、約200年前に哲学(史)的にも一定の成果が得られた。　「ポスト・ヘーゲル」の2人の代表者であるマルクスとキェルケゴールにしても、それぞれが＜哲学＞ではなく、「経済学」と非体系的な「教義・思想」の範疇で考察し、再び哲学(史)の土壌で大きな進歩の兆しが現れたのは、約1世紀近く経たベルグソン、ハイデッガー、ウィトゲンシュタインであった様に思われる。　純粋に「ポスト・カント哲学」を考えるのであれば、厳密には『哲学』の範疇より外れるキェルケゴールの「教義」とニーチェの「思想」に必要以上に引きずられない様、十分に気を付ける必要があると考えられる。《参考文献》・S.キェルケゴール著『死に至る病』（岩波文庫）・M.ハイデガー著 『存在と時間』（岩波文庫）・木田元著 『反哲学入門』（新潮文庫）

「哲学勉強会」（第19回） レジュメ

【京橋勉強会】（2024年3月16日(土)）≪西洋哲学史≫（俗説と偏見にまみれた仮説）（１）哲学はプラトンから始まる①師ソクラテスの「無知の知」に基づく、一切の常識・基礎を疑う。②イデア説に基づく性善説。（２）近代哲学はデカルトを祖とする①プラトンの師ソクラテスの様に、懐疑主義を貫いた。②但し、近代らしく、物質の優位性が表面化してきた様に思われる。（単なる観念論ではなく、「物心二元論」で世界を解釈しようと努める）（３）カントにより、哲学は科学の太鼓持ちとなる①人間の認識において、「神・魂・無限」等の認識不可能性を主張し、結果的に哲学の中にも、認識的には科学(者)と同じ枠組みで見る事を強要する下地を作った。②目に見える範囲で、すべての物事を解釈する［＝有限性］という態度で、哲学の一般化と共に、「(カント)哲学」の限界も内包している。（４）ヘーゲルは近代哲学の完成者である①カント後のフィヒテとシェリングは、〈自我〉や〈直観〉を援用する形で、カント哲学の（準）科学性［＝有限性］を乗り越えようとした。（科学的価値観に留まらない哲学を構築しようとした）②ヘーゲルは自分の時代（約200年前）に「歴史の終わり」を意識、再び〈神〉や〈直観〉等を意識しない範囲で、弁証法的な進展により人間精神［意識］の（無限）成長［＝絶対知］を予感する。（哲学の本流・本脈をヘーゲルなりに発見し、解釈する）（５）ハイデガーの後、哲学は衰退の道を歩み始める①ハイデガーは20世紀最大の哲学者と称されるが、一時的にせよナチスに賛同・加担したため、中後期のハイデガーは哲学者としての道を絶たれ、西洋哲学の中興を果たした「ドイツ観念論」からの流れも絶える事となった。②「プラトン（＋アリストテレス）⇒近代哲学［デカルト→カント→ヘーゲル］」の＜西洋哲学(史)＞を20世紀において、唯一引き継げる知性を持っていたと思われるが、ナチス加担の事実と神学者としての資質を持ち合わせていた事により、ハイデガー自身では、哲学の本脈を哲学的に継承・構築できなかった様に思われる。③少なくとも、ハイデガー［前期］を継げる哲学者は、約100年近く現れていないと思われる。（６）現代フランス思想の興隆①哲学の本流を継いでいたドイツ哲学が頓挫、文学的なセンスを持つ現代フランス思想が戦後、哲学の主流となる。②フーコー、ドゥルーズ等に才能のキラメキを感じるが、少なくとも「･･･→ヘーゲル→ハイデガー」の哲学の本流・本脈には近付きつつも、まだ道半ばである。③2006年のＱ.メイヤスー著『有限性の後で』により、様々な仮説を援用して、カント哲学に風穴を開け始めた。（７）現在（2024年）上記の流れを引き継ぐ段階・ステージとして、現在（2024年）の哲学的状況があるものと考えられる。≪プラトンとアリストテレスの視点の違いについて≫（推論を含む）　16世紀イタリア・ルネッサンス時代の巨匠ラファエロの名作『アテナイの学堂』には、右手人差し指を天に突き刺したプラトンと、同じく右手を前方真っ直ぐに突き出したアリストテレスが描かれている。これは天上界の「イデア」を指向するプラトンと、あくまで現実的な視点・視座より自然界・人間界を捉えようとするアリストテレスとの認識の視点の違いを、端的に表現した絵画としても有名である。　視点・指向性が「天上界」と「現実界」であることの相違、その結果、2人の結論がどれほど大きく異なっているか、驚きを隠せない。　それぞれの特徴をまとめてみたい。（１）プラトン哲学の特徴 個人的な推測の域を出ない話となるが、プラトンは「現実界」の実在性は認めるが、それ以前に「天上界」（イデア界）を措定し、「現実界」における指向性・流れの様なものが存在するとすれば、それは完全性を備えた形象とその形象に基いて現象に向かう力、つまり、＜イデア＞に向かう力と指向性が潜在していると考えた。そこには、＜イデア＞の完全性に向かう動的な力が存在している。（２）アリストテレス哲学の特徴 プラトンの視点に対して、アリストテレスはあくまで「現実界」に着目、静的・空間的に現実を観察し、驚くべき知性をもって、およそ考え得る分類と考察を行い、後世、「万学の祖」と称される程の道を開いた。現代で言うところの徹底した「経験論(者)」ではなく、各個物に師プラトンの＜イデア＞に相当する＜形相＞（エイドス）を、鍵となる概念として考察していた。しかし、「現実界」から離脱する様な「天上界」は否定した。（３）まとめ ＜西洋哲学＞はソクラテスを祖とし、2人の偉大な弟子（プラトンとアリストテレス）により、その原型・雛形は完成したものとなった。先ず、プラトンが半ば宗教的とも言える＜イデア＞（界）の存在を認め、我々人間は、より完成された人間と社会を形成する存在者として定義された。アリストテレスは＜形相＞という概念こそ中心概念の一つとして重要視するが、原則的に師プラトンとは正反対に、「現実界」の考察のみに終始し、その限りで最高度の抽象化を行った。ターレスに始まったとも言われる古代ギリシャ哲学であるが、ソクラテスの後、プラトンとアリストテレスの2人それぞれの特性を併せて、＜西洋哲学＞が始まったと考えられる。≪参考文献≫・R.デカルト 『省察』（ちくま学芸文庫）・I.カント 『純粋理性批判』（岩波文庫）・G.W.ヘーゲル 『精神現象学』（ちくま学芸文庫）・G.W.ヘーゲル 『哲学史序説』（岩波文庫）・Q.メイヤスー 『有限性の後で』（人文書院）

「哲学勉強会」（第17回） レジュメ

【哲学勉強会】（2024 年 1 月 21 日(日)）≪哲学の意義≫現在、日本で最も影響力があり、実績も豊富な哲学者といえば柄谷行人氏になると思う。氏の著書に『哲学の起源』（岩波書店 2012 年刊）があり、当時のギリシアにおける哲学の変遷を事細かに論ぜられているが、古代ギリシアを「哲学発祥の地」とする事には、特に異論はないように思われる。また「民主主義」も、古代ギリシアが発祥の地とされている。古代ギリシアにおける哲学の変遷を辿っていくと、ソクラテス以前と以後では大きく哲学の意味（意義）が異なり、それまでの哲学者は単純に「始源」を求めたりするが、一定のレベル以上に、物事を突き詰めて探求するという事には及ばなかったように思う。（パルメニデスだけは、後代のアリストテレスによって大成する「形式論理(学)」に通じる思考を展開していた。）ソクラテスは有名な「無知の知」を軸として、一般市民をも巻き込みながら、我々の因って立つ常識や知識の根拠の無さを「問答法」により暴き出した。ドゥルーズによると、強固な常識（ドクサ）を打ち壊すために、このような方法（思考）を行うことが『哲学』の発生、または潮流を生む下地であり、主に中産階級が社会の主導権を握っているという時代・地域にしか発生しなかったと考察している。古代ギリシア、中世・近代以降のイギリス・ドイツ・フランスに独自の哲学が生まれ、イタリアやスペインには独自の哲学の潮流が生まれなかった原因としている。常識（良識も含む）は、結果的に妥協の産物であり、それだけでは「思考」（真剣に考える）を深め得る事ができず、ある種の社会停滞を生む。停滞を打破するためには、新たな「基礎付け」が必要とされる。非合理的で、オカルト的な発想となるが、ソクラテスの弟子プラトンが『イデア説』を打ち出したのも、師ソクラテスが市民と問答する場面を繰り返し目の当たりにすることにより、常識（ドクサ）はあてにする事ができず、それらを超えた考察、新たな「基礎付け」を行うための根拠・次元として、｢イデア｣は考案されたものと考える事もできる。これは一種の「性善説」と取れるかもしれない。話は横道に外れるが、世界最古の宗教ともいわれる「ゾロアスター教」は善悪二元論に立っているが、最終的には「善」が勝ち、世界は治まると説かれている。キリスト教や仏教にもその影響が及んでいると言われているが、哲学においても、「西洋哲学はプラトンの解釈にすぎない」とも言われているプラトンに、直接の影響は度外視しても、同じ世界観（｢性善説｣）が見て取れる。誰しも自分・家族・国家・世界が、これからも成長し、存続する事を強く願うならば、それまでの常識が失われた時、あるいは疑わなければならない時、最も健全に新たな「基礎付け」を行う選択をする場合は、おのずと『イデア説』（性善説）に因って立つ事が必要になるのかもしれない。おそらく、このような見地からも、時代を越えて『哲学』という学問は、潜在的にも必要とされ、これこそが唯一にして最大の哲学の存在意義であるのかもしれない。≪「新哲学」について≫ （2024 年 1 月現在）「カント哲学」の書き換えとまでは行かなくとも、現代版にアップデート（更新）することについて、少なくとも、新実在論者マルクス・ガブリエルや思弁的唯物論者クァンタン・メイヤスーにより唱えられている。むしろ、コロナ禍の終焉により、世界の行き詰まり感がより実感され、全世界・全世代にまでこの閉塞感の打破が希求されているように感じられ、一部、哲学・思想界にまで及んでいるのかもしれない。あくまで哲学側からではあるが、「現代の常識・枠組み」をカントにより定義付けられた哲学上の「認識(論)」と重ね合わせて、双方の相応性と違いを検証・考察し、上述の≪哲学の意義≫で書かれた方法等により、「新たな認識(論)」(場合によっては、存在論まで併せた「新たな基礎付け」)を構築する事が、現代社会の世界的な閉塞感を打破する一助となるのかもしれないと個人的には考えており、実現できれば、これに勝る喜びはない。「カント哲学」の乗り越えは、（１）思想的には、カントの直前・直後の哲学(者)、一部のスコラ哲学・神秘主義思想、ヴィーコ等の非合理主義的な哲学(者)を学びつつ、（２）論証・論理展開は、フレーゲから始まりラッセル・ウィトゲンシュタインを経由して発展した分析哲学を援用する形で進んで行くのかもしれない。「新哲学」を論証していく方法・論理(学)は、①三段論法を軸とした「形式論理(学)」）②カントによる｢超越論的論理(学)｣、③フレーゲ以降に発展した述語論理をはじめとする様々な「現代論理(学)」を援用しなければならないと思う。また、レトリック的になるかもしれないが、④｢弁証(法)｣的な形式で進めて行く事も可能・必要かもしれない。また、人類の永続的な成長と繁栄のために、上述したプラトンの『イデア説』を源流とする性善説的な動機付けと方向性が、「新哲学」構築の根底にあることが望ましいと思われる。＜参考文献＞・柄谷行人 『哲学の起源』（岩波書店）・ジル・ドゥルーズ 『基礎づけるとは何か』［1956-57 講義］（ちくま学芸文庫）

『構造言語学』（Ｆ.ソシュール）について①

久しぶりの投稿となります。 前回まで、間接的に【構造主義】についてお話をさせて頂きましたが、その源流となりましたスイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール（1857 - 1913）について、簡単に述べさせて頂きます。 それまでの言語学は、文字の変遷や音の響き、文法構造等の研究・分析において、各言語圏の歴史的な進化と変遷［⇒通時性］を対象にしておりましたが、ソシュールは言語の特徴を「分節性」として捉え直し、同時代・同一言語内の【構造】［⇒共時性］に注目致しました。 具体的には、言葉を記号（シーニュ）として捉え、それを意味表記（シニファン）と意味内容（シニフィエ）の合成物と考え、シニファンは各言語が任意に分節された後、必然性のない名称を与えられたもので、同じ＜猫＞を見ても日本語では「ねこ」、英語では「ＣＡＴ」と表記されております。 各言語の分節されたシーニュ（シニファン／シーニュ）を使って、私たち人間は会話し、思考していると考えました。その様な人間の言語化能力を「ランガージュ」と名付け、それにより構造化された言語体系を「ラング」と名付けました。そして、ラングに基づいて話される言葉を「パロール」（発語）と名付け、このように言語を構造的に、システムとして捉える言語学として、《構造言語学》を提唱されました。（つづく）

精神分析家ジャック・ラカンについて①

久しぶりの投稿となります。今回は、20世紀後半に哲学的主流となりました《構造主義》の「四天王」の1人、ジャック・ラカン（1901 - 81）について述べさせていただきます。「フロイトに帰れ」をスローガンに、その他のフロイト学派から距離を取りつつ、精神分析学上の臨床経験と独自の解釈を積み重ね、哲学の分野に多大な影響を与えました。同じく《構造主義》の「四天王」に数えられておりますマルクス主義哲学者ルイ・アルチュセールが、マルクスを構造主義的な解釈を通して新たな可能性を切り開かれたように、ラカンも他の追従を許さない独自の解釈で、フロイトの新たな可能性を追求されました。超難解で有名なラカン理論の中で、特に重要とされ、また私個人の考え方にも参考となっております〈想像界〉〈象徴界〉〈現実界〉の「3つの領域」について、お話させていただきます。（少し、自分の解釈も含まれております）【ラカンの「3つの領域」】①〈想像界〉「言葉」を獲得するまでの段階で、主にイメージ（想像）される領域。「言葉」を習得したあとでも「妄想（的）」と称される世界。「現実」を常識的に理解しているわけでもなく、「言葉」ともリンクしていない幻想的な領域。②〈象徴界〉「言葉」を習得後、ありのままの外部世界を「言葉」と結びつけて理解している領域。成人して社会経験を積み重ねる中で、その比重は下がっていくように思われる。（前期ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』的な世界）③〈現実界〉引き算的に、①〈想像界〉と②〈象徴界〉以外の領域・世界。年令を重ねるうちに比重を増していくように思われる。物事を考えるには「言葉」（象徴界）が必要であり、「現実」と「言葉」が結びつかない領域・世界は、事後的に①〈想像界〉ヘ送り返されるものと思われる。この「3つの領域」の分類で考えますと、若きウィトゲンシュタイン（1889 - 1951）は『論理哲学論考』（1921年刊）でもって哲学の問題は解決されたと考えましたが、後年、『哲学探究』（1953年編刊）において日常言語を考察し、「言語ゲーム」という形で継承発展されましたのは、前著において〈象徴界〉を精緻に考察し得た後、日常生活を積み重ねることにより「現実」の比重が高まり、〈現実界〉における「言葉」の役割を考察されたと考えることもできると思われます。私は個人的に、「宗教」「哲学」「政治」の分野に関心を持っておりますが、それぞれが〈想像界〉〈象徴界〉〈現実界〉に重なっているように感じており、これからもこの「3つの領域」を軸とした考察を、バランスよく深めて参りたいと思っております。

構造主義とマルクス主義

久しぶりの投稿となります。今回は1950年代後半に、新しい哲学の潮流として主役となりました《構造主義》が【マルクス主義】に与えた影響を、超簡単ではありますが述べさせていただきたいと思います。Ｋ.マルクス（1818 - 1883）とＦ.エンゲルス（1820 - 1895）は、19世紀中頃より一連の「経済学批判」関連の書物を著され、それは最終的に『資本論［第一巻］』（1867年刊）（全三巻）として、結実いたしました。初期の哲学的な学位論文等は、当時も知られておりましたが、その頃の〈人間主義的〉とも評される草稿群は、20世紀の初頭まで公的に知られることはありませんでした。マルクスの死後、草稿群の編集が進み、初期の代表作『経済学・哲学草稿』（1844年草稿）、『ドイツ・イデオロギー』（1845 - 46年草稿）等が1930年代を中心に出版され、その後、近現代社会［＝資本主義社会］における「人間疎外」が、社会問題のキーワードとなるなど、マルクスの思想は〈人間主義的〉に読み込まれることにより、1960年代後半の世界的な学生運動の時代にも大きな影響を及ぼしました。また、1950年代後半頃より新しい哲学的な潮流として、《構造主義》が《実存主義》に代わる形で流行し始め、社会や人間が織り成す様々な現象を「個人」の主体的な意志の結果としてのみ捉えるのではなく、各「個人」は「構造」の単なる担い手に過ぎないものとして捉え直し、現象を「構造」や「関係」の視点より考察する方法が主流となりました。フランスの哲学者Ｌ.アルチュセール（1918 - 1990）は、『資本論』等をこれまで通り〈人間主義的〉に読み込むのではなく、新たに〈構造主義的（＝反人間主義的）〉な視点から読み込むことにより、硬直しかけていた【マルクス（主義）】に新しい可能性を切り開きました。［＝構造主義的マルクス主義］東西冷戦の終結と共に【マルクス（主義）】の研究と評価も下火となり、アルチュセールの成果も、いまだに評価できる段階には及んでいないと思われます。　《構造主義》の出現以降、構造（主義）的に捉える方法を無視して考察することはできないと思われますので、個人的には【マルクス（主義）】も構造（主義）的に捉えることにより、「近代（哲学）の乗り越え」を探求させていただきたいと思っております。

2023/04/27

お花見日帰り旅行（赤穂市 2023年春）

昨日、高校時代の友人と4人でお花見🌸を兼ねまして、兵庫県の赤穂市方面ヘ日帰り旅行をさせていただきました😆ほとんどが葉桜でしたが、一部の桜はきれいな満開の花を咲かしておりました😍お昼ごはんは「道の駅 みつ」にて、海鮮丼をいただきました😋また、恋人たち👩‍❤️‍👨の聖地にもなっております「幸せの鳴る鐘」にも寄らせていただきました🥰その後、赤穂浪士で有名な赤穂城跡🏯にも行ってまいりました。お土産は、相生市にあります「海の駅 あいおい白龍城」にてお世話になりました🌊秋の紅葉🍁狩りと共に、来年のお花見🌸も楽しみにしております🙇

ヘーゲル哲学について①

今回は、「ドイツ観念論」の大成者Ｇ.Ｗ.Ｆ.ヘーゲル（1770 - 1831）について、簡単ではございますが述べさせていただきます。ヘーゲル哲学は難しいとよく言われますが、少しでも理解しやすくなりましたらと思っております。【ヘーゲルの生前の刊行書物】（4冊）①『精神現象学』（1807年刊）②『（大）論理学』（1816年刊）③『エンチクロペディー』（初版1817年刊）④『法哲学』（1821年刊）①の『精神現象学』は、人間と人類の意識の成長過程を事細かく物語風に、網羅的に解読されており、哲学史においても、記念碑的な書物とされております。『精神現象学』の概要は、③の『エンチクロペディー』（全三部構成）の頃には第三部の「精神哲学」にまとめられ、《哲学》の全体性の中の一部として、その役割は変わりました。生前最後の刊行書物『法哲学』も、「個物は全体との関係性で、思弁的、弁証法的に理解される」とのヘーゲル哲学の本質により、単なる「法哲学」の書物として捉えると、網羅的過ぎて理解が難しくなるのかもしれません。前回のブログにも述べさせていただきましたが、科学技術の発展と産業革命の成功により国民生活が豊かになり、「近代」の成立と国民国家、市民社会の永続性も直観されたともいわれております。それ故、彼は永続性の高い「近代」を最初に生きる哲学者として、《哲学》の「百科全書」を目指さす目的で『エンチクロペディー』（第三版は没年の1830年刊）を作成されたように思います。晩年期のヘーゲルは、全学問の基礎づけとも見なしうる《哲学》の「百科全書」を作ろうとされ、生前中も『エンチクロペディー』の改版を重ねましたが、急逝ということもありまして、それは未完成の書物となっております。「百科全書」のように永遠の未完の書物として、後世の哲学者に、加筆と更新を託す思いもあったのかもしれません。個人的には『エンチクロペディー』こそ、ヘーゲル（哲学）の第一主著の立場にあるようにも感じております。今回も一部、推量のお話となりましたが、様々な可能性も含めまして、【新哲学】（ポスト・カント哲学）を求めて参りたいと思っております。

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ドイツ観念論について①

今回は、〈近代哲学〉の基軸となります「ドイツ観念論」について、述べさせていただきます。2011年に発刊されました『哲学の25年』（Ｅ.フェルスター著）によりますと、19世紀初頭の哲学者ヘーゲルは1806年春の講義の中で、「これをもって、この哲学の歴史は完結した。」「それゆえ最後の哲学は先行するものを含み、すべての諸段階をそれ自身のうちに包括していて、すべての先行するものの産物であり、結果である。」と話され、カントの『純粋理性批判』（初版1881年刊）より25年間で、これまでの全哲学が完結したものと宣言されたそうです。その真偽は別といたしまして、17世紀のデカルトから本格的にはじまりました〈近代哲学〉が、「ドイツ観念論」のカントからヘーゲル本人を通して完結したことを、確信されたとものと思われます。「ドイツ観念論」のカントからヘーゲルの時代は、「古代ギリシア哲学」のソクラテスからプラトン、アリストテレスの時代にも匹敵する、哲学における黄金時代ともいわれておりますが、確かに哲学史上の大きな節であるように思われます。ヘーゲルは、アメリカの独立とフランス革命、科学技術の進展による産業革命の成功等を目の当たりにされ、《近代》における国民国家、市民社会の成立と永続性を確信されまして、完結を宣言されたともいわれております。しかし、ヨーロッパではクリミア戦争後の平和な50年を過ぎた後、20世紀に入りまして2度に渡る世界大戦が勃発し、その後も環境問題を中心に《近代》の行き詰まりと限界が問題となっております。理論面、学問的なアプローチかもしれませんが、思想史、哲学の流れを通じて、これからも《近代》の乗り越えを模索させていただきたいと思っております。

うさぎ占いやってみた

本年もよろしくお願い申し上げます

新年、最初のブログとなります。本年も、よろしくお願い申し上げます。昨年最後のブログにて、人生前半の40歳過ぎ頃まで、最も影響を受けた思想家マイスター・エックハルトのお話をさせていただきました。意図せずに、私自身の原点に触れたこともありまして、安心感からか、1ヶ月近くのブランクができてしまいました。話は変わりますが、同じく20歳代に哲学好きの若者の絶対的スター、Ｆ.Ｗ.ニーチェ（1844 - 1900）にも、例に洩れることなく、心粋しておりました。Ａ.ヒトラー（1889 - 1945）もそうだったとのことですが、プライドが高く、何らかの強いコンプレックスを持った人間、若者たちを惹きつける魅力が、ニーチェにはあるようです。代表作は、『ツァラトゥストラはかく語りき』（1885年刊）となるのかもしれませんが、その他にも、初期の『ギリシア悲劇の誕生』（1872年刊）や、後年の『善悪の彼岸』（1886年刊）、『道徳の系譜』（1887年刊）、『権力への意志』（1901年編刊）等、書名だけでも聞いたことがある著作が数多くあります。彼の思索力は、晩年に発狂する1890年頃まで、衰えることはありませんでした。ニーチェは、「西洋哲学は、プラトン哲学の解釈に過ぎない」とも話され、その観念性・イデア性を批判し、ソクラテス以降の《西洋哲学》を再吟味されました。ある意味、個人的には、西洋哲学史上における「ソクラテスの再来」という感覚もあります。とりとめのないお話となりましたが、これからも【哲学】の歴史に大きな影響を与えました思想家・哲学者を、深堀りさせていただきたいと思っております。本年も、よろしくお願い申し上げます。前河内 一浩

キリスト教神秘主義 〜 マイスター・エックハルトの教説より

　今回は、「キリスト教神秘主義」の源泉ともいわれております、14世紀初めに活躍されましたドイツの神学者マイスター・エックハルト（1260頃 - 1328年?）について、解説させていただきたいと思います。　珍しいと思いますが、20代から30代にかけまして約20年間、個人的に最も心の支えとなっておりました思想、思想家は、これよりご紹介させていただきますキリスト教神秘主義者のマイスター・エックハルトでした。　ある解説書の中で、エックハルトは、「トマス・アクィナスと同じ地位にまで登り詰めたが、死後、その思想は異端とされた。しかし、彼の思想の純粋さとラディカルさは、後世に引き継がれ、近代哲学の曙期（15世紀）の神学者ニコラウス・クザーヌスや、19世紀末の哲学者ニーチェにも大きな影響を与えた。」と評されており、20代初め頃に自分自身を見失いかけていたとき、エックハルトの自信に満ちた教説と表現に惹かれ、励まされました。［１］マイスター・エックハルトの思想　いくつかの特徴的なキーワードがあります。（1）「離脱」（『離脱について』より）　「離脱」とは「一切の被造物から脱却している」ことであり、そのためには、「人間が神の内に在った時に自らがそれであった像、即ち神が被造物を創造した時よりも以前に、その内で人間と神との間にいかなる差異もなかったその像」に回帰していく必要があると、説かれております。　〈神〉という意識があれば、それをも「突破」し、「離脱」しなければならないと説かれました。　そして、このような「離脱」状態にこそ《根源的自由》がある、ということがエックハルトの自由観であります。（2）「神」と「神性」（『ファイファー56』より）　「さらに進んで言おう。内なる人と外なる人は、天と地ほどに遠く隔たっていると。そうならば、〈神〉と〈神性〉の隔たりはそれ以上、何千マイルにもなることであろう」　「〈神〉は働き、〈神性〉は働くことはない。・・・〈神〉と〈神性〉とは、働くことと、働かないことで区別されるのである」　比喩表現が多いので、少しわかりにくいかもしれませんが、エックハルトにおいては、〈神性〉の方が〈神〉より価値が高いとされております。　〈神性〉は「無」であり、全ての源流でもありますが、〈神〉はそれより流出されたものであり、働きであるとされ、《根源的自由》ではないと説かれております。（3）「心の貧しさ」（『説教52』より）　「心の貧しい人たちは、幸いである、天国はその人たちのものである」［マタイによる福音書］に対する教説で、エックハルトは①何も意思することのない人②何も知ることのない人③何も持たない人を「3つの内なる貧しさ」として、まずは称賛されました。　そして、究極の「貧しさ」を「人は、〈神〉が働くことのできる場でもなく、またそのようなどんな場をも持たないほど貧しくなければならない」と説かれ、このような極限的な「貧しさ」においてこそ、「人は、彼がかつてあったし、今もあり、そしてこれからも永遠にそうあり続けるような、永遠なる有を再び取り戻すのである」という究極の境地に達するものと、説かれました。［２］まとめ　マイスター・エックハルトは、約50年前にトマス・アクィナス（1225 - 1274）が著した『神学大全』の後、教義的・教条的になりかけていた当時のキリスト教神学界において、「離脱」というキーワードを通して、《根源的自由》の大切さを説かれました。　彼は死後、「異端宣告」を受けて、一度、歴史の表舞台からは消えましたが、教条主義には収まらない「ラディカルな純粋さ」より生まれました思想と精神は、ニコラウス・クザーヌス（1401 - 1446）やマルティン・ルター（1483 - 1546）、ニーチェ（1844 - 1900）等、革新的な神学者、哲学者に受け継がれました。　エックハルトの思想は、直接、私が希求する【新哲学】に寄与するものではないのかもしれません。　しかし、彼が思想において貫かれました「ラディカルな純粋さ」は、受け継いで参りたいと思っております。

二つの「インド大乗仏教」

　今回は、インドの2つの《大乗仏教》について、お話させていただきたいと思います。　お釈迦様を始祖とします【仏教】（原始仏教）は、紀元前6世紀頃［諸説あり］より、「自分自身の悟り」を主眼としました《小乗仏教》として始まりました。　数百年の時を経て、紀元前後より、出家者に限らず在家者を含めた「一切衆生の救済」を掲げる《大乗仏教》が、新たに誕生いたしました。　「インド大乗仏教」として、中国、朝鮮半島、そして日本に大きな影響を与えました、『中観派』と『唯識派』の2つの《大乗仏教》について、考えて参りたいと思います。（1）『中観派』について　『中観派』は、紀元2〜3世紀に活躍されました龍樹（ナーガールジュナ、150 - 250年頃）により確立されました。　大乗仏教の基盤となる『般若経』で強調される「空」の概念を説明され、それ以降の《大乗仏教》の諸宗派に影響を与えました。　【古代ギリシア哲学】の哲学者アリストテレスが主張された〈中庸〉や、【儒教】の書物にもある〈中庸〉と同じように、「縁起」と「空」の思想を説きながら極端な見方に偏らず、〈中〉もしくは〈中道〉の立場を重んじることが、『中観派』の本義とされております。　「空」の思想は、その観点と論理が独特で、他の思想とは一線を画す重要な考えと思われますので、今後、考察を深めて参りたいと思います。（2）『唯識派』について　さらに、4世紀に入ると、瞑想（ヨーガ）を通じて心の本質を見る、『唯識派』が登場し、『中観派』とともに「インド大乗仏教」の二大流派を形成いたしました。　『唯識派』は弥勒を始祖として、無著と世親が教学を大成いたしました。　あらゆる諸存在が個人的に構想された「識」（「五感」と無意識を含む「意識」）でしかないのならば、それら諸存在は主観的な存在であり客観的な存在ではなく、それら諸存在は無常であり、時には生滅を繰り返して最終的に過去に消えてしまうであろうと考えました。　つまり、諸存在は「空」であり、実体のないものである（「諸法空相」）という、《大乗仏教》のキーワード、「空」の思想がその元となっております。　『唯識派』は、『中観派』の「空 」の思想を受けつぎながらも、とりあえず心の作用は仮に存在するとして、その心のあり方を瑜伽行（ヨーガの行・実践）でコントロールし、また変化させて悟りを得ようとしました。（3）まとめ　《大乗仏教》は、それ以前の《小乗仏教》に、紀元前期の東西文明の交流により、西側からアリストテレスの「論理(学)」が流入することで、世界の〈二大論理学〉といわれます「インド論理学」と「ギリシア論理学」が、熟成されていく形で生まれてきたのかもしれません。　また、「空」の思想につきましては、これからも十分に考察させていただく必要があると思われます。

《四書》について

　　　　　　　 　 【朱子（朱熹）】　今回は、中国の【儒教】で、特に重視されている書物「四書五経」の中の《四書》について、簡単ではありますが、解説させていただきたいと思います。（1）《四書》の概要　《四書》は、12世紀に活躍されました大儒・朱熹（1130 - 1200）が、「孔孟の教え」と言われますように、『論語』と『孟子』、さらに朱熹の学脈上、重要視されてきた『大学』と『中庸』を新たに加えて成立しました。　《四書》は、【儒教】の経典ともいえる《五経》（『易経』『詩経』『書経』『春秋』『礼記』）の前段階の「教学(書)」でありましたが、時代が下るにつれて個人の「教養・修養」の域を越えて、【儒教】の「中心教書」となっていったようです。　《四書》の学ぶ順序としましては、一般に①『大学』②『論語』③『孟子』④『中庸』といわれております。　『論語』と『孟子』は、それぞれ孔子と孟子の語録、書物ということで、その大切さはもちろんのことですが、その入口とまとめの役割を担っているのが、『大学』と『中庸』になっているようです。（2）『大学』について　導入部分より、人の上に立つ人間（為政者等）が、心得ておかなければならない道理を説明されております。　「修身」「斉家」「治国」「平天下」という言葉で、①修身・・・己の身を修める②斉家・・・家を斉（ととの）える③治国・・・国を治める④平天下・・・天下を平らにするの順に、まずは「己の身を修める」ことから、最後の「天下を平らにする」という平和な社会の創造まで、為政者としての心得が説明されております。（3）『中庸』について　有名な言葉の一つに、「中庸はそれ至れるかな。 民よくする鮮（すくな）きこと久し」［現代訳］《中庸は、それで至極だな。しかし、民が充分にすることが少なくなって長い》があり、バランス良く考えて生きていくという『中庸』の難しさが表現されております。　また、「天下国家も均（ひと）しくすべきなり。 爵・禄も辞すべきなり。 白刃も踏むべきなり。 中庸はよくすべからざるなり」［現代訳］《天下国家も均等にすることができる。爵位・俸禄も辞退することができる。刃を抜いて踏むほどの危険をおかすこともできる。しかし、中庸は、充分にできないことだ》とも表現され、「『中庸』の【徳】」を全うすることが「稀」であることを強調されております。（4）まとめ　『大学』より、「人の上に立つ道理」を知り、『論語』『孟子』より、「孔子と孟子の教え」に触れ、最後に『中庸』より、「【徳】を全うする厳しさと大切さ」を学ぶ。　《四書》を順序よく学ぶことにより、【儒教】の真髄が学べるようになっているようです。　「【徳】の涵養」と「己の修養」という意味でも、【儒教】の教えを理解し、少しづつでも学び続けて参りたいと思います。

カント哲学の特徴③ 〜 〈認識の形式〉の考察より

　今回は、「近代哲学」における最大の革命ともいえます、Ｉ.カント（1724 - 1804）による新しい《認識の形式》を考察して参りたいと思います。　私自身も、この問題に何度も立ち返ることにより、【新哲学】の構想と構築に邁進させていただけましたらと思っております。　カントは、私たちが普通に認識している「現象界」と、そもそも人間の認識力では理解できない「現象界」の元にある「《物自体》の世界」とを、分けて考察しました。●「現象界」の認識の道筋●　カントは、人間は2段階で〈認識〉すると構想しました。①『感性』による「時間」と「空間」を通しての理解②『悟性』による「12のカテゴリー」を通しての理解　①と②を合わせた〈認識〉の道筋を【超越論的認識】といい、そこでは「神」や「真理」や「魂」といった、それまでの哲学（＝「スコラ哲学」等）で盛んに議論されていた問題は、等閑に付されることとなります。　余談になりますが、この〈認識〉の変化を、カントより少し後の詩人ハイネ（1797 - 1856）は、「神様の首を切り落とした」と表現しました。●「《物自体》の世界」について●　「《物自体》の世界」に対しては、私たちの認識能力は全く無力ではありますが、「現象界」におきましては、日常の世界とほぼ変わることがありません。　それ故、「科学的認識」に基づいた一般的な価値観が、現代まで引き継がれていると思われます。　人間の認識が及ばない「《物自体》の世界」、つまり「因果関係」とは無縁の世界におきましては、【道徳法則】に基づいた「自由（意志）」を昇華していく問題が生まれます。　これは、〈認識〉の次元とは異なる問題となり、第二批判書の『実践理性批判』において論証されておりますので、別の機会に考察を深めて参りたいと思います。●結び●　これまでの「カント哲学」の説明の繰り返しの部分が多かったかもしれませんが、私自身も何度も立返らなければならない地点と思われますので、ご寛容のほど、よろしくお願い申し上げます。

『死に至る病』（Ｓ.キェルケゴール著）について

　今回は、学生時代に倫理や歴史で習いました、デンマークの憂愁の詩人・哲学者セーレン・キェルケゴール（1813 - 1855）の代表作『死に至る病』（1849年刊）を、入口レベルではございますが読み解いて参りたいと思います。　本書は、「死に至る病とは《絶望》のことである」との意味内容より始まり、全ての人間が無反省の状態で過ごしておりますと、必然的に陥る《絶望》について考察しております。　キェルケゴールは、敬虔なキリスト教信徒として熟慮を重ね、宗教的な確信と救済しか、最終的に《絶望》を克服することはできないと、本書において論証されております。　以前のブログで、「西洋（哲学）」における〈存在〉の意義の大きさを述べさせていただきましたが、少なくとも厳格な性格を持っているキェルケゴールにおかれましては、〈存在〉を脅かす概念である《絶望》について、本書で、その発生理由と克服の方法を懇切に論証されております。　欧米、西洋の方々におかれましては、「キリスト（教）」が根底にありますので、キェルケゴールの論証、教説がそのまま私たち日本人に当てはまるとは限りませんが、本質的な次元では、全ての時代と人間が直面せざるを得ない問題の考察にも思われます。　まだ一部の先進国だけかもしれませんが、産業革命期以降、人間は物質的な問題から開放されつつありますので、精神的にも「満足」する形式を世界的に共有していかなければならない時代に入っているとも考えられます。　キェルケゴールは、マルクスと同時代の人間で、近代哲学の大成者ヘーゲルの批判より、「キリスト者」として自らの思想を厳しく考察、構築され、19世紀末のニーチェや20世紀最大の哲学者の一人であるハイデガー等、彼以降の哲学者、思想家に多大な影響を与えました。　ソクラテス、プラトンより始まる「西洋哲学」に、最初に大きな疑問を投げかけるきっかけを与えた哲学者としても、またＫ.マルクスと共に、「近代哲学」の完成者ヘーゲルを批判する思想・哲学としても、【新哲学】においても大いに研究が必要であると思われます。

アリストテレスとカントの「西洋哲学(史)」上の意義 〜 〈論理学〉の視点より

　今回も、3年以上前に「Yahoo！ブログ」に投稿させていただきましたブログを、再掲させていただきます。　こちらのブログは、「西洋哲学史」にお詳しい方は当然であったのかもしれませんが、半年前にアリストテレスとカントの書物を繙くタイミングで、こちらのお二方が「西洋哲学(史)」の大きな嶺であることを直感した驚きと喜びを、表現させていただいたブログであったと記憶しております。　今月2日のブログ、「《新しい論理》 〜 三木清氏の『新しき知性』を読んで」の中で、「《新しい論理》の発見と創造により、人間の「知性」は進化する」と表現させていただきましたが、（1）アリストテレスの「形式論理学」(紀元前4世紀)（2）カントの「超越論的論理学」（18世紀）という、「西洋哲学(史)」上に、2つの新しい〈論理学〉の創出があり、それぞれが「西洋哲学」（の知性）を大きく前進させたのだと思われるということです。　改めまして、【新哲学】の構想と構築に、精進、邁進させていただけましたらと思っております。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○《西洋哲学(史)の学び、把握の入口【私感】》2019/2/16(土) 午後 10:47書庫日記 20世紀最大の哲学者と称される、ドイツの実存主義者ハイデガーと、10年近く前にブームとなりました「ハーバード白熱教室」の政治哲学者サンデルは、テーマこそ違いますが、アリストテレスとカントの2人を主題として取り上げられていることがございました。 個人的に20代のときに、意味も深く分からずに親しみました哲学(書)の記憶と、昨年秋より少しずつではございますが哲学書の再読を始めさせて頂きまして、その結果の1つといたしましては、「古代ギリシャ哲学」の集大成者のアリストテレスと、17世紀のデカルトより始まる「近代哲学」の結実者のカントの2名を、西洋哲学(史)の《2つの嶺》と捉えさせて頂いても宜しいのではないのか、と感じさせて頂きました。　つまり、西洋哲学(史)を学ぶにあたりましては、アリストテレスとカントの2人を「キーパーソン」として捉えさせて頂きながら学んでいくことが、大枠を外すことなく学ばせて頂くのではないのかと、現在は考えさせて頂いております。　アリストテレスをより正確に理解させて頂くには、ソクラテスとプラトンを、カントを理解させて頂くにはデカルトより始まる「大陸合理論」と、ベーコンより始まる「イギリス経験論」の2つの大きな流れを、把握させて頂く必要はあるのかもしれませんが、西洋哲学(史)全体を学ぶにあたりましては、先ずは概略程度でも構わないと思いますので、この2人の哲学者を軸に入られましたらと、現在は思っております。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○