皆さん、こんばんは!
kazuです。
表題でピンときた方もおられるかと思いますが、東京の健康食品販売会社の社長ら4人が、「がん細胞が自滅する」などと効能を宣伝し、がん患者に「フコイダン」と呼ばれる海藻の抽出成分が入った健康食品を高額で販売していたとして逮捕された事件についてです。
(1箱約3000円の商品を約5万2000円で販売。2016年からの3年間で約28億円を売り上げていました)
昨日各新聞社で報道されたので多くの方はご存知だと思いますが、ニュースを知らない方のために産経新聞の記事をアップしておきます。
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がん治療に効能効果があるとうたい、健康食品を販売していたとして、社長ら幹部4人が大阪府警に逮捕された健康食品販売会社「シンゲンメディカル」。
同社は約6年前から7回にもわたり、医薬品にしか認められていないような広告を改めるよう行政指導を受けていた。
だが、健康食品の安全性などを公表するサイトでも、健康被害の恐れがある場合などしか情報は掲載されていない。
近年は「健康志向」の高まりとともに健康食品やグッズが次々登場しており、国などは注意を呼びかけている。
厚生労働省などによると、医薬品と健康食品は厳密に区別されており、「病気が治る」「疲労回復」など、体の機能に影響する表示は同省の検定を合格した医薬品でなければ原則として認められていない。
消費者庁の許可を受けた「特定保健用食品」(トクホ)であっても、「おなかの調子を整える」「コレステロールの吸収を抑える」などと表示することはできるが、特定の病気に対する効能などは表示できない。
シ社はホームページで、同社の商品「フコイダンエキス」に含まれる成分が、がん細胞を自滅させたとするマウス実験の結果をグラフや図解を用いて解説。「体調が改善した」「科学的な裏付けは信用できる」といった使用者のアンケートも紹介していた。「がんが治る」などの明確な文言はないものの、府警は「がんへの効能があるかのように装っているのは明らか」と摘発に踏み切った。
さらに、シ社は平成25年10月~30年8月までの間、大阪市からほかの商品も含め、7回にわたって広告を改善するよう指導を受けていた。
ある捜査関係者は「わらにもすがりたい患者の切実な思いを利用し、原価の安い健康食品を高額で販売していた悪質性は重い」と話す。
さまざまな種類の健康食品が相次いで販売される中、問題のある広告は少なくないが、関係者は「全ての商品を取り締まるには人手が足りないのが現状だ」と明かす。厚労省はパンフレットで「健康食品で病気が治ったことを明確に示した研究結果は現時点ではない」と警鐘を鳴らす。
厚労省は「健康食品は病気の人に向けたものではない。『これを食べると病気が治ります』とうたっている製品は明らかに法律違反」と指摘。治療薬と相互に作用することなどで健康被害を招くおそれもあるとして、慎重な利用を呼びかけている。
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実はこの記事をアップするのにちょっと躊躇しました。
理由は、このブログを読んでいる方で、もしかしたら被害に遭われた方がいるかも知れないということ。
購入した方々は藁をもすがる気持ちで購入したと思うので、その方々の心情を察すると心苦しいのですが、一方で今回の犯罪は、もしかしたら一般の方には分かり難い点があるんじゃないかと思いました。
そして今後、癌患者がこの様な犯罪被害に遭わない様にするためにも(製薬業の)専門家の立場から分かり易く説明することで、きちんと声を上げた方が良いと思い、ブログに書くことにしました。
まず今回の犯罪は、簡単にいうとやっていることは
「オレオレ詐欺」
と全く同じことです!
(つまり、絶対に許せない行為!!)
私も(製薬企業という職業柄)健康食品も扱ったことがありますが、医薬品と健康食品は法律で厳密に区別されており、効果が謳えるものは厚生労働省が認可した医薬品しか認められていません!
よく、健康食品やダイエット関連の商品のテレビのCMで、
※個人の感想であり効果・効能を示すものではありません。
という表現が出てきますが、これは「医薬品医療機器法」や「景品表示法」といった法律に抵触しないための措置。
あくまでも個人の感想であって「この商品は○○の効果があります」と証明するものでは無いですよ、
という(法律に抵触する)効果効能を謳わないための注記・予防線のためです。
そして今回犯罪を起こした連中は、当然こういった法律のことは熟知していること。
(なぜなら、約6年前から7回にもわたり、医薬品にしか認められていないような広告を改めるよう大阪市から行政指導を受けていたこと)
また、(今は削除された)ホームページの内容を見てみると、間違いなく私の様に科学的な知識を有した専門家であるということ。
つまり、今回の詐欺行為は、自らの知識を詐欺行為に悪用した確信犯であるということ!
そして何よりも腹が立つのが、その様な専門知識を利用して、藁にもすがりたい患者の切実な思いを利用し、あたかも癌に効果が有る様に見せかけて、自らの金儲けを目的として原価の安い健康食品を高額で販売していた詐欺行為を働いていたこと!
厳密な法解釈でいうと、オレオレ詐欺は「詐欺罪」で、今回のフコイダンの販売は「医薬品医療機器法違反」(未承認医薬品の販売など)なので対象となる罪状は異なります。
しかし、何れの犯罪も人の不安に付け込んで老後の資金や癌治療に充てるべき大切なお金を騙し取るという、人として許すことが出来ない悪逆非道な行いです!
話はちょっと脱線しますが、元々私が医薬品開発をライフワークとしていこうと決意したきっかけは(企業秘密に関わるので詳細は書けませんが)とある研究機関に出向いていたときのこと。
私が研究開発に関わっていた開発品を病気の旦那の治療に使いたいと患者の奥さんから涙ながらに訴えてきた電話を横で聞いたことがあり(当時は未承認薬なので、当然ですが患者への投与はNG)、自分が携わっている研究が花開いて医薬品として待ち望んでいる患者がいることを痛感しました。
そして、当時は全然医薬品の形になっておらず(結局、その研究は失敗に終わっています)、涙ながらに訴えてきた患者の役に立てなかった歯がゆさと無力感。
それを埋めるために、20年以上に渡り血反吐を吐く思いで医薬品の研究開発を行ってきたこと。
その思いはただ一つ
「新しい薬を待っている患者のために!!」
という思いで!!
そして私だけでなく、世界中の医薬品開発を行っている研究者は(多少は名誉やお金という側面はあるものの)、
根本的には私と同じく「患者に新しい医薬品を届けること」を使命として苦しい研究活動を死に物狂いで続けているはずです。
そういう中で(極々一部では有るものの)同じ科学の研究を志した立場だった人間が人の道を踏み外し、癌患者の藁をもすがる思いを利用して(つまり、癌患者の心を弄んで)、騙して金儲けをする輩が存在すること自体が反吐を吐くほどムカつくし、本当に許せない!!
そして、以前からブログで啓蒙活動をしていますが、癌患者の皆さんは本当にこの様なインチキ・詐欺行為に引っかからないでいて欲しいということです!
【参考】インチキに引っかからないための過去ブログです:
・なぜオプジーボの開発が、ノーベル医学・生理学賞に選ばれたのか理解出来ていますか?
注)誤解される方がいると困るので付け加えておきますが、私はサプリメントや健康食品の類を全否定している訳ではありません。
例えば、ヨーグルトや納豆、或いはサプリメントなどの適切な摂取は体に良いということは全く否定しません。
今回の「フコイダン」にしても、健康食品として適切に販売していれば何の問題も有りません。
今回の問題は、簡単に言うと、
「私の作ったヨーグルトを食べるとがん細胞が自滅することが研究で明らかになった。だから3万円で売りましょう」
という嘘を言って癌患者を騙して販売していることが問題なのです。
健康に良いといって適正価格でヨーグルトを売る分には何ら問題は有りません。
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さて、インチキに引っかからないでとは言ったものの、以前ブログで紹介した様に、ネットで(無作為に抽出した)がん関連の情報の約6割が嘘であり、この様な嘘の中に今回のフコイダンを販売した会社も含まれます。
一般の方は、(専門家ではないので)何が正しくて何が嘘かは直ぐに判断できないと思います。
そういった場合は、厚生労働省や国立がんセンターなどの公的な機関からの情報を信用して下さい。
決して怪しげな民間サイトには引っかからないで下さい!
(詳しくは、日本医科大学 勝俣先生のスライド「癌治療の真実~知って欲しいがんの正しい知識~」に書かれているので参照して下さい)
例えば、国立がん研究センターが運営しているがん情報サービスでは、がんの心配事や知りたい情報を電話で相談することが出来ます。
(クリックでリンクに飛びます。以下、サイトからの一部抜粋です)
0570-02-3410 | ![]() |
03-6706-7797 |
受付時間:平日10時~15時(土日祝日、年末年始を除く)
(相談は無料ですが、通話料金はご利用される方のご負担となります。海外発信の電話は受けられません。)
お近くのがん相談支援センターにも電話でご相談いただけます。
お電話の回線が込み合う時間帯がございます。ご了承いただきますようお願いいたします。
1)相談できる内容
- 治療や療養に関するご相談についてお話しをうかがい、がん情報のご案内をしたり、ご心配なこと、お困りのことを解決するお手伝いをいたします。
ただし、「このような病状の場合はどうか」「この治療は適切か」といった医学的判断を要する病状や個別の治療などについてのご質問、医師の見解を求められるご質問にはお応えできません。 - 全国のがん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターのご案内やご利用方法を紹介します。
- がん対策情報センターで発行している書籍や冊子の入手方法をご案内します。
- がん情報サービスで提供しているがん情報の探し方、利用の仕方をご説明します。
- 院内がん登録のデータに基づき、全国のがん診療連携拠点病院、都道府県推薦がん診療病院など、院内がん登録データを国立がん研究センターに提出した施設の症例数をご案内します。
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最後に・・・
今回の事件を一つの教訓として、癌に対する正しい知識が皆さんに広がっていくこと、
また、それが癌治療について正しく理解する手助けとなることを願っています。