世界最低の合計特殊出生率0.72と、深刻な少子化に悩む韓国で、官民挙げての出産奨励策を競っている。


すでに70人が1億ウォンを手に​

​ 中でも破天荒なのは、「韓国籍の子を産めば無条件で祝い金を出す」ことにした企業だ。韓国建設大手の富栄(プヨン)グループが2月に、全社員向けに異例の表明をした。その祝い金が半端でない。祝い金は、なんと1億ウォン、日本円換算で1100万円だ。しかもこれから生まれる子だけでなく、2021年に生まれた子の親の社員にも、さかのぼって支給された。すでに社員70人が恩典を受けたという。
 さらに子ども3人を出産した社員には、永久賃貸住宅が提供される。事実上、ただで家がもらえるのだ(写真=グループ本社で社員に1億ウォンを手渡す李重根会長)。​

 

 

 ちなみに住宅費、教育費がやたら高い韓国では、大学進学までにかかる塾代などの私教育の費用は約1億ウォンかかるという。富栄グループの祝い金なら、これをすべてまかなえるという。


住宅費高くて結婚を諦める若者たちも​

 逆を言えば、公教育費を除いた私教育だけで韓国では子ども1人に1億ウォンもかかるというわけだ。これなら若いカップルが、子どもを産もうという意欲も萎えるだろう。

 韓国では住宅費も高い。ソウルのマンション購入費は東京の倍ともいわれる。新居を用意できなくて、結婚を諦める若者たちも多い、とされる。

 つまり韓国の低出生率は、構造的なものだ。

 富栄グループは、建設業が主体だけに、人口減は自社の事業継続性に大きな影響を与える。1私企業だけで、どれだけ効果があるか分からないが、それでも危機感は強いということだ。


職位を昇格させる企業も​

 追随する動きはある。中堅の農機具メーカーTYMも3月、第3子が生まれた社員に1億ウォンを支給すると発表した。第3子からと渋いが、韓国では子だくさん家庭は多くはない。どれだけ効果があるか、こちらは怪しい。

 祝い金は出さないが、実質的に給与を増やす措置をとる企業も現れている。富栄グループと同じ建設業のハンミグローバル社は、社員に第3子が生まれると、即、職位を1段階昇格させる制度を設けた。


15歳未満が将来は半分に​

 富栄グループの巨額祝い金に刺激されて、政権も動いた。

 3月に企業が職員に与える出産支援金は、子どもが2歳になるまで全額非課税とする法案をまとめた。また出産支援金を出す企業側の法人税負担も、減税した。

 低出生率は、日本も同じだ。6月5日に厚労省の発表で、2023年の日本の合計特殊出生率は1.2で、これまた過去最低だ。

 しかし韓国の1を大きく割り込む低出生率は、産業界だけでなく、国防にも暗い影を落とす。韓国は徴兵制だが、このまま行くと、徴兵できる若者も少なくなる。推計によると、15歳未満の人口は20年の632万人から40年には318万人と半分になると予測されるのだ。北朝鮮に攻められたら、危うい。

​ それだけ官民とも人口減の危機感は強いのだ(写真=子どもの日のソウル近郊のショッピングモールで)。​

 


昨年の今日の日記:「赤褐色の砂漠の中の「化石化した木」の森の公園、ペトリファイド・フォレストの思い出」