まだ海のものとも山のものとも思えない金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)が、二酸化炭素の回収など、様々分野で応用できる新たな素材として、日本内外の研究者、企業が注目している。
 

たった1グラムでサッカーコート大の表面積​

​ MOFとは、炭素を含む有機分子と亜鉛や銅などの金属原子が、格子状や蜂の巣状のような構造つながった物質で、多孔性配位高分子(PCP: Porous Coordination Polymer)とも呼ばれる。有機分子と金属を混ぜるだけで分子が自然に集まる「自己組織化」という現象を使って作る()。​

 

 

 イメージしやすいのは、脱臭用に冷蔵庫などに入れたり、水質浄化用に使ったりする活性炭だ(写真)。炭は多孔質で、内部に開いたたくさんの穴の表面に匂い物質を吸着する。工業用に使われているゼオライトも、同じようなもので、内部の穴の表面に有害物質を吸着させる。

 

 ところがMOFは、これらより飛び抜けて内部の表面積が大きい。たった1グラムで、サッカーコート1面分にも相当する7000平方メートルもの表面積を持つMOFもある。
 

一部で既に実用化が始まっているが​

 一部では、欧州のスタートアップ企業が果物の鮮度を維持する製品として実用化されている。果物は、エチレンを放出して自らの熟成を促す。そのまま放置すると、熟成が進み、腐って食べられなくなる。それを防ぐエチレン吸着剤として実用化された。

​ 別のスタートアップ企業は、半導体製造に不可欠な有毒のヒ素化合物ガスやリン化合物ガスを常圧で容器に大量に保管・運搬するための素材として販売している(写真=製品の一例)。​

 

 

 しかしこの程度では、需要は知れている。
 

二酸化炭素を回収する最高の素材​

 MOF用途の大本命として想定されているのは、安価な二酸化炭素の回収材だ。80℃くらいに高熱にすると、二酸化炭素を吸収できる。それを別な場所に集めて放出させ、例えば地下に閉じ込めたり、二酸化炭素を原料にした化合物を作ることも可能だ。

 今のところ、まだコスト高で、もっと安価で高効率のMOFを作り出せれば、火力発電所などで廃ガスから二酸化炭素を回収できる。

​ 金属と有機化合物を混ぜ合わせて適当な条件下に置くと、自己組織化でMOFが出来るのは、東大の藤田誠・卓越教授(写真)が世界で初めて見つけた。京大の北川進特別教授は、MOFの応用を発展させた研究で知られる。​

 

 

 両者は、間もなく発表されるノーベル化学賞の候補者である。


昨年の今日の日記:「死の悪疫=天然痘と闘った幕末の先覚者(3の後編):日本に初めて種痘苗を持ち帰ったシベリア帰還の漂流民、久蔵の不遇」​