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戸惑う子どもたち


子どもが背負う重荷―その1



 中学校の教員をしていたころのことである。中間テストや期末テストの採点結果は「即日開票」を目指して、テスト直後の次の授業で返却するよう貫いてきた。テスト時間割が3日目の3時間目、つまり最終日の最終時間ともなると、翌日の返却までに4クラス160人分をひと晩で採点しなければならない。言い訳めくが、そうすると、ちょっとしたところでミスが生じやすい。



元校長先生のブログ-子どもが背負う重荷―その1



「先生、計算ミスじゃありませんか?」と生徒は申告してくる。生徒にとっては、たとえ1点でも真剣な問題だ。ひどい時は、教卓の前に3~4人並んでしまうような、なんとも珍妙な恥ずかしい光景もあった。冷や汗ものだが、険悪な雰囲気にならなかったのが救われる。


「間違った答えなのに、マルがついてますよ。」と申し出る生徒もいた。そんな正直者に出会うと、「子どもは、やっぱり信じるべき存在だ!」と抱きしめてあげたくなる。

 

 ところが、年5回の定期テストのうち2回も「採点ミスじゃありませんか」と届け出た生徒がいる。確かに正解なのに、バツがしてある。同じ子に2度も重なるなんてあるだろうか。さすがに疑った。生徒会の役員を地道に務めている2年生の女子生徒である。


「まさかこの子が不正申告なんて……」という思いもあったが、念のため一計を案じ、次のテストの際、彼女の採点済みの答案用紙を、コピーしておくことにした。全員の分も、ミスの無いよう、徹夜覚悟で念入りにチェックした。


テスト返却は何事もなく無事に終わりそうだったが、はたして例の生徒会役員の彼女が、答案用紙を手にして進み出た。驚きは顔に出すまいと、その場は平静を装って何点かプラスすることにした。実は彼女は、返却後に答案用紙の答えを秘かに書き換えていたのである。


これはもう、学級担任に知らせなければならない。証拠はある。案の定、担任の先生は「まさか!」と言う。しかし放課後、その女子生徒と話し合うことを承諾し、学級担任として立ち会ってくれることになった。


幸い、「証拠物件」を生徒の前に突きつける必要は生じなかった。彼女は、なぜ自分がその場に来なければならなかったかを、知っていたからである。不正行為を認め、涙を流した。


「あなた、いつもいい成績なのにどうして……。」担任の先生も、半ば涙声で尋ねる。


「90点以上とらないと、父や母に叱られるんです。」


「お父さんお母さん」と言わずに「「父や母」と表現するところに、この子のしっかりした側面を感じさせるし、親の「しつけ」も行きとどいていることを感じさせる。


 だが、親のこの叱責は何なのだ。よく聞いてみると、どうやら生徒会の役員も、親の意志に沿って立候補したようだ。親の思いがこの子の背中にのしかかってしまっている。学級担任と私は、この生徒に同情すら覚え、親と話をする必要性を感じた。


 一部始終を両親に伝えることにした。今の時代だったらどうだろう。「うちの子を犯罪者扱いするとは何ごとか!」と逆ギレされてしまうかもしれない。現についこの間、現職教員から受けた相談の中には、授業中に居眠りしていた生徒を注意したら、「疲れているウチの子を起こすとはとんでもない!」と母親が抗議してきた、という信じられないような話がある。先生たち、負けないでほしい!と言いたい。


しかし、この「不正申告」をした女子生徒のご両親は、なかなか立派だったと言える。


「あの子に重荷を背負わせてしまったのは、私たちです。」と答えたのである。この潔さに私は、ある種の感動めいた気持ちさえ湧いた。家に帰ってどんな話し合いがなされたのか、それは分からない。長い間、親も子もつらい気持ちを抱えたにちがいないが、親のこの潔さは、子どもを変えることができる。ひょっとしたらこの生徒の行為は「先生!この私のプレッシャーに早く気付いてよ」というメッセージだったのかもしれない。彼女は中学校卒業のころには笑顔が増え、今では大手企業のキャリアウーマンとして働いていると聞いている。

 

 現代でも、親が子どもの背中に荷を負わせているケースはいろいろある。私が講師として教えている大学の学生でさえそんな例がある。S・A・B、Cのうち、どうしてもSがほしいとしきりにこだわる女子学生がいた。もちろん誰だっていい成績がほしいのは当たり前なのだが、「Sを取らないと、お父さんに叱られてしまうんです。」と言う。大学生になっても、である。


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