第二章「親の態度で子どもも変わる」
共働きはマイナス影響ではないーその(2)
「あの子、保育園出身じゃない?」と呟いた小学校の教員がいる。あたかも保育園育ちは「よくない子」というニュアンスを含んだ物言いである。「深夜徘徊を繰り返す生徒がいます。共働きの保護者にどう対応しますか?」これは教員採用試験の面接練習で、元中学校校長が受験者に発した質問である。深夜徘徊などの非行は、専業主婦と言われる家庭にだってあるではないか。「保護者にどう対応しますか?」だけで充分なはずだ。
先生がそんな認識では、それはもう時代遅れを超えて「差別」と言えよう。人間を差別してはいけないと偉そうに説く教員が、自から差別の目で家庭を見ているという皮肉な現象があるわけだ。現代では、いわゆる一流企業と言われる会社でも、子育てをしながら仕事にも打ち込み、管理職など重要ポストで奮闘している女性も多くなってきているのである。
もちろん専業主婦の家庭では、ゆとりを持った子育てができるし、PTA活動や地域活動などにも参加しやすい。従って共働きにも、マイナス事項は多々ある。経験で言えば、風邪など子どもが病気になった時どうするかという問題がある。近くにおじいちゃん・おばあちゃんが住んでいる場合はいいけれども、幼児を一人で寝かせておくわけにはいかない。小中学生だって病気の子どもを家に一人だけにしてはおけないだろう。
親が休暇をとるしかないことが多い。親側からすると、共働きは、少なからず自分の仕事への影響はある。子育てに理解のない勤め先だったら、それはとても厳しいことになる。賢い若者の中には就職活動の際に、「子育てに理解のある会社かどうか」従ってそれに関連して「女性管理職が多いかどうか」などを会社選びの基準の一つにしている者もいる。
共働きの家庭では、病気でなくとも子どもを家に一人でおいておくことが多い。子どもにとっての寂しさをどう補うか、ということも大事である。小学校高学年になるまで「指しゃぶり」の癖が治まらない女の子も見てきている。
夫が公務員、妻が教員という家庭で、中学1年の息子たちによる「集団タバコ事件」がおきてしまった。期末テストの直前で部活動も無く(定期テスト1週間前は部活禁止!という制度が、本当に正しいのかと疑問に思いつつ私は教員を務めてきたが)なんとなく仲間が5人集まり、喫煙に及んだという経過である。初めからタバコをおいしいと感じて吸う少年少女はいない。好奇心でありカッコつけであり、何らかの欲求不満解消のための行動である。
共働き家庭の家は、昼間は留守なので大人の目は届かない。そのことを中1のこどもたちは、充分に知っていての行動だった。昼間は留守、大人の目が届かない。これを防ぐ方法はないだろう。愛情をいっぱいに降り注ぎつつ、一人で過ごす時間の大切さと世の中の倫理観を、言葉だけでなく日々伝えていかなければなるまい。
共働きの親子は、いっしょにいる時間が少ない、という声も聞く。これも否定できない。しかし、子育て・教育はいっしょにいる時間だけたっぷりあればいいというものではない。読み書きができるようになったら、冷蔵庫に「伝言板」をつるしている家庭もある。親子による「連絡帳」を長い間続けているところもある。ほんのちょっとした一言が、親子や(場合によっては夫婦の)絆を深めることもある。副産物として、たとえメモであっても文を書くことに慣れ、達意の文章を書く基礎が養えたという人もいる。
親もまた成長する。共働き家庭では、男親が何らかの形で育児に関わらざるを得ない。自身を振り返れば、「イクメン」とまではいかないが、毎日5年以上、雨の日も風の日も(雪の日も)保育園に娘を連れていった朝の登園は、親子で人生を語り合った実に貴重な時間であったとつくづく思う。欧米諸国と比べれば、男の育児参加もまだまだ充分とは言えない。しかし日本もこれから先には、女性がもっと働く時代、働かざるを得ない時代に進むに違いない。共働きは、決してマイナスではないのである。
近ごろ街中で、まだ歩けない小さな赤ちゃんを抱っこして歩く若い男性を見かける。育児を母親任せにしない姿がそこにあり、ほほえましく思う。首も座らない乳児をゆり籠のような容器に入れて大事そうに抱えている父親と、電車の中で出会ったこともある。その場に母親はいない。思わず声をかけ「すぐに大きくなるからね」と励ましてしまった。「はい!」と若い父親の嬉しそうな笑みが返ってくる。共働きを自然なこととして受け止め、男が育児に参加してそれを楽しんでいる若者たちも多いのである。
だが、「何をのんきなこと言ってんだ」という非難も届きそうである。長引く経済不安定の昨今では、「妻が働きに出なけりゃ、食っていけない!」「働き口さえ見つからないんだ!」「子どもを育てるなんてとてもとても・・・」という声が聞こえてくる。
それでもがんばれと言いたい。子育てが、親を元気にさせてくれることがあるのだ。誤解のないように付け加えておけば、専業主婦がいいのか共働きがいいのか、どちらを選ぶべきかということではない。
近ごろではシングルマザーも増えている。それぞれのライフスタイルを自ら卑下する必要は決してないし、他人がそれぞれの家庭を差別的に見下してはならないということである。

