第三章「学校に関わりを」
不登校はなくなるかーその(2)
ところで、不登校に果たす父親の役割は、極めて大きい。ケースによっては、父親の姿が見え難く、存在感が感じられないことがある。中学2年で不登校に陥ったある男子生徒の父親の言葉が忘れられない。
「息子がこんな風になるまで、隣近所のつき合いの大切さなんて一度も考えたことがありませんでした。学校のことも母親に任せっぱなしでした。」と振り返る。近所の人にあいさつさえしたことがないと言う。大手自動車会社に勤めるサラリーマンで、仕事上の人との付き合いは重ねてきたが、息子の生活に関わる人的関係は、まったく眼中になかったのである。そんな中で育った子どもは、他人とのコミュニケーションを深める術を知らないままだ。
しかしこの父親は、人との付き合いの大切さを、自ら反省して振り返ってくれたから、まだいい。別の不登校生徒への家庭訪問では、私にあいさつさえしてくれなかった例がある。一階が仕事場の職人さんだったと思う。2階の居間に行くには仕事場の脇を通らなければ上がっていけないので、「こんにちは。おじゃまします」と声をかける。ところが、こちらに顔を向けることもしてくれないのである。
母親は、なんとか子どもを学校に行かせようとして体も心も疲れている。が、父親は無関心なのか無責任なのか、子どもに向き合おうとせず、学校からの働きかけにも乗って来ない。この例はいささか極端に見えるが、これに近い父親が多いのは確かである。
「それ分かります!」と言ってくれたPTA役員がいる。自分の娘も、不登校になりそうなことがあったからである。その人は、子ども自身の「自己決定」の経験が大事だと言う。中学校に上がる時に、父親と母親は私立中学に行かせたい意向はあったが、二人で相談した結果、私立中学に進むか公立中学に進むかは、本人に決めさせることにした。だから不登校になりそうになったとき「進学先を決めたのはあなたでしょ?」と子どもに迫ることができた、それは大きい、と言う。しかも父親は、「学校が楽しくない?人生そういうこともあるさ。」と優しく力強く後押ししてくれたそうだ。おかげで子どもは、悩みを抱えながらも登校することができた。自己決定力の醸成と父親の関わりは、実に大事である。
「問行調査」と呼ばれるデータがある。妙な略称の呼び名だが、文部科学省による「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」というのが正式名称である。そこには、国公私立を含む年間の不登校児童生徒の数が載っているほか、「不登校となったきっかけと考えられる状況」の欄がある。
「いじめ」がきっかけなのか、「家庭内の不和」がきっかけなのか等々、15項目にわたってこと細かに分類され、複数回答によるパーセンテージが示されている。調査に回答する教師もずいぶん悩まされるが、「不登校のきっかけ」として最も多い回答は「その他本人に関わる問題」であり、国公私立合わせて43%という数値となっている。これをどう解釈するか?
一面では「結局原因らしきものを見つけにくい。」ということを表しているし、もう一面では、「不登校って、結局本人の問題なんじゃないか。」と多くの教師が考えているという頼りない兆候も示している。後者の解釈でいけば、学校が改善されなければならないという発想が、学校側から生まれてくることに、期待はできなくなる。
複雑な現代社会では、生きることそのものにストレスを背負う子どもたちの心中もまた、複雑である。根は絡まり合っている。近年の学校では「業績評価」が導入され、個々人の教師の目標設定だけでなく、校長も数値化目標を掲げる時代となり、「不登校ゼロを目指す」などとするところも見受けられるが、現実性はあるのだろうか。不登校を「減らす」ことはできても、「ゼロ」にすることはできないだろう。学校は、それくらいの大らかさを持っていていいのではないか。まさに、学校と家庭との連携が試されている。
「不登校となったきっかけと考えられる状況」
(文部科学省「問題行動調査」全国の小学校中学校・国立公立私立すべての集計)
・いじめ 2.6%
・いじめを除く友人関係をめぐる問題 17.7%
・教職員との関係をめぐる問題 1.9%
・学業の不振 10.3%
・クラブ活動・部活動等への不適応 2.1%
・学校のきまり等をめぐる問題 4.1%
・入学・転編入学、進級時の不適応 3.7%
・家庭の生活環境の急激な変化 6.2%
・家庭内の不和 4.8%
・病気による欠席 7.0%
・その他本人に関わる問題 43.2%
・その他 6.2%
・不明 3.7%

