結晶構造の話題です。
ダイヤモンドは、地球上に存在する物質のなかで最も硬い(モース硬度10)とされます。
そのため、私はこれまで、ダイヤモンドの結晶構造は最密充填構造(さいみつじゅうてんこうぞう)だと思い込んでいました。
一番硬いんだから、一番詰まっているに違いない・・・
最密充填構造といっても面心立方格子構造と六方最密充填構造の2種類がありますが、そのどちらに分類されるかも考えていませんでした。
最近「水の話」を書くために水の氷Ⅰの結晶構造を調べるついでに、同じようなものだろうと思ってダイヤモンドの結晶構造も調べてみたところ、大きな誤解をしていることに気付きました。
ダイヤモンドの結晶構造については、とりあえず次の図を眺めてください。
Diamonds gitter - 結晶構造 - Wikipedia
14個の原子が、単位立方体のなかにはめ込まれています。
内訳は、立方体の頂点に位置するものが4個、面心に位置するものが6個、内部に位置するものが4個です。
初見だと空間配置が分かりづらいですが、大きい球が手前、小さい球が奥です。
なお、原子間の距離が 0.15 nm という記載がありますが、今回は幾何学的考察に留まるため、これは無視してください。
誤解がないように注意が必要なのは、小さい黒丸です。
ここにも原子があるのですが、問題としている立方体の他の原子との結び付きがないため、表示を略しているだけです。
この後の考察では、これらも勘定に入れます。
そうすると、立方体の頂点に位置するのは8個です。
英語の名称が “diamond cubic crystal structure” なので、日本語の正式名称も「ダイヤモンド立方結晶構造」となるはずですが、長いので「ダイヤモンド構造」でよいと思います。
図示されている立方体を単位格子とします。
単位格子とは、結晶構造を構成する単位です。
単位格子は前後左右上下(立方体の場合)のどの面についても全く同じ単位格子と接していて、それらが無数に連なっています。
化学や鉱物学の結晶の場合も、原子の大きさと比べて我々人間が扱う結晶の大きさは何桁も大きいので、無数に連なっていると考えて差し支えありません。
数学的に理想化すれば、どの方向にも無限に続いていると考えればよいわけです。
ただし、英文wiki によると、ダイヤモンド構造自体をダイヤモンド格子 diamond lattice と呼ぶのは、数学的に格子には該当しないので誤りとのこと。
以下、単位格子となる立方体の稜の長さを1とします。
すると、ダイヤモンド構造の最も近い原子どうしの距離は1よりもだいぶ小さくなります。
「最も近い原子」を隣接点と呼び、隣接点どうしの距離を隣接点距離と呼ぶことにします。
ダイヤモンド構造の特徴は、1つの原子に対してその隣接点が4つあり、それらを結ぶと正4面体になることです。
例外となる原子はありません。
左下の5つの原子に着目すると、これらは正4面体とその体心になっています。
隣接点距離は正4面体の頂点と体心の距離なので、これから隣接点距離を計算すると、
√3/4 ≒ 0.433
となります。
(正4面体の参考数値は次をご覧ください。
正多面体と基本単体3 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp) )
隣接点距離を他の結晶構造と比較した表を載せておきます。
ダイヤモンド構造以外は、次の記事の一番上の表の数値をとっています。
最密充填構造について3 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
結晶構造 単位格子の稜の長さ 隣接点距離 .
ダイヤモンド構造 1 √3/4 ≒ 0.433
単純立方格子構造 1 1
体心立方格子構造 1 √3/2 ≒ 0.866
面心立方格子構造 1 √2/2 ≒ 0.707
六方最密充填構造 1 1
(注) 単位格子の稜の長さは、六方最密充填構造では正6角形の辺の長さ。
それでは、ダイヤモンド構造の各原子の位置を、単位格子を使って座標表示してみましょう。
単位格子の頂点のうち1つは原点 (0, 0, 0) にあり、他は各軸の正方向にとることとします。
また、単位格子である立方体の稜の長さを1とします。
・ダイヤモンド構造 18個
(立方体の頂点8個)
(0, 0, 0),(0, 0, 1),(0, 1, 0),(0, 1, 1),(1, 0, 0),(1, 0, 1),(1, 1, 0),(1, 1, 1)
(立方体の面心6個)
(1/2, 1/2, 0),(1/2, 0, 1/2),(0, 1/2, 1/2),(1, 1/2, 1/2),(1/2, 1, 1/2),(1/2, 1/2, 1)
(立方体の内部4個)
(1/4, 1/4, 1/4),(3/4, 3/4, 1/4),
(3/4, 1/4, 3/4),(1/4, 3/4, 3/4)
結晶構造は単位格子の繰り返しなので、他の単位格子との重複があります。
18個の原子のうち重複しないのは、
(0, 0, 0),(1/2, 1/2, 0),(1/2, 0, 1/2),(0, 1/2, 1/2),
(1/4, 1/4, 1/4),(3/4, 3/4, 1/4),
(3/4, 1/4, 3/4),(1/4, 3/4, 3/4)
の8個です。
たとえば、最初の4つは正4面体の頂点を構成し、次の (1/4, 1/4, 1/4) がその体心となっています。
なお、8個の原子は、たまたま単位格子=立方体の取り方によってその頂点、面心、内部となっていますが、数学的には全く同等です。
単位格子に含まれる原子の数と重複を除いた数を他の結晶構造と比較すると、次のようになります。
原子の数 重複を除いた数
ダイヤモンド構造 18 8
単純立方格子構造 8 1
体心立方格子構造 9 2
面心立方格子構造 14 4
六方最密充填構造 17 6
1つの原子の隣接点の数は次のようになります。
結晶構造 隣接点数 それらが作る立体
ダイヤモンド構造 4 正4面体
単純立方格子構造 6 正8面体
体心立方格子構造 8 立方体
面心立方格子構造 12 立方8面体
六方最密充填構造 12 同相双3角台塔
単なる数字より立体として見る方が理解が深まるように感じます。
感じがするだけかな(^_^;
最後に、空間充填率を見ておきます。
空間を同じ大きさの球で充填したときの平均密度を空間充填率といいます。
充填(じゅうてん)とは要するに「詰め込む」ことで、球どうしは1点で接しています。
もちろん、球の形が変わったり体積が圧縮されたりすることはないとします。
ダイヤモンド構造の空間充填率を計算します。
単位格子となる立方体に対して、球が頂点に 8/8=1個、面心に 6/2=3個、立方体内に 4個位置するので、計8個あります。
球の半径rは隣接点距離の1/2なので、
√3/8 ≒ 0.217
であり、球の体積は (4/3)πr^3 、その球が8個あるので、
(4/3)π×(√3/8) ^3×8 = √3π×4/64
= √3π/16 ≒ 0.34.
空間充填率の比較
結晶構造 空間充填率 隣接点数
ダイヤモンド構造 √3π/16 ≒ 0.34 4
単純立方格子構造 π/6 ≒ 0.52 6
体心立方格子構造 π√3/8 ≒ 0.68 8
面心立方格子構造 π/√18 ≒ 0.74 12
六方最密充填構造 π/√18 ≒ 0.74 12
面心立方格子構造と六方最密充填構造はどちらも最密充填なので、π/√18 ≒ 0.74 が空間充填率の最大となります。
それと比べると、ダイヤモンド構造の空間充填率は半分にも達しません。
スカスカですね。
また、隣接点数と空間充填率の大きさが相関していることも分かります。
今回の話題のうち、ダイヤモンド構造以外については次の連載を参考にしてください。
最密充填構造について1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
最密充填構造について2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
最密充填構造について3 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
★ 今日の日中は、藤井聡太叡王失冠を悲しむかのようにずっと雨が降り続きました。
というわけではなく、たまたま関東の梅雨入りが重なっただけですね(^_^
ここは伊藤匠新叡王の誕生を祝うべきでしょう。これまでの将棋界は藤井八冠が他を引き離して単独で突っ走っていましたが、そこに同年齢の新叡王がようやく追い付いたと見るのが適当だと思います。勝手な予測になりますが、今後も30代以上の棋士が七冠や新叡王からタイトルを奪取するのは難しいと考えます。新叡王、藤本渚五段、さらに現在まだ奨励会三段の十代にタイトル争奪を期待します。