1.藤井聡太叡王失冠!
本日6月20日(木)、歴史的ともいえる叡王戦五番勝負が決着しました。
藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦する第9期叡王戦五番勝負は、4月7日(日)に今年度最初のタイトル戦として開幕しました。
昨年度、匠七段は竜王戦、棋王戦と相次いで藤井八冠のタイトルに挑戦してきました。
結果は、竜王戦は藤井八冠の4連勝で防衛、棋王戦は第1局こそ持将棋となりましたが、その後は八冠の3連勝で防衛となりました。
他棋戦も含め、昨年度まで匠七段は藤井八冠に1勝もできていなかったのです。
しかし、今回3度目の挑戦ではいささか様子が違いました。
4月20日の第2局と5月2日の第3局は、匠七段の勝利。
藤井八冠がタイトル戦で連敗するというのは初めてのことです。
また、五番勝負なので、八冠は先にカド番まで追い込まれました。これも初めてです。
その後、5月18日の名人戦第4局でも、八冠は豊島将之九段に敗北し、藤井八冠の不調が囁かれるようになりました。
不調の原因もいろいろ取り沙汰されましたが、私には歯の矯正というのがありそうに思えました。
八冠の牙城を最初に崩すのは匠七段かと思われましたが、しかし、5月31日の第4局では一転して八冠が完勝し、復調を感じさせました。
私は藤井聡太ファンですが、ライバルの匠七段にもいずれはタイトルを取ってほしいという思いはあります。(そうでなければ本当のライバルとは言えないでしょう。)
ただ今回は、もう少しだけ八冠の時代を続けてほしいという気持ちの方が勝っていました。
いずれにしろ、全国に多数いる聡太ファンのうちの一人の勝手な思いにすぎませんが。
というわけで、本日いよいよ運命の第5局を迎えたわけです。
場所は、タイトル戦会場の常連である山梨県甲府市「常盤(ときわ)ホテル」。
タイトル戦では、第1局が始まる前に振り駒を行って、先手後手を決めます。
その後、対局ごとに先後を入れ替えますが、最終局まで行ったときは再度振り駒を行います。
最終局とは、七番勝負では第7局、叡王戦のような五番勝負では第5局です。
振り駒の結果、藤井八冠の先手となり、戦型は角換わりとなりました。
後手の右玉に対して、先手は9九玉と穴熊を採用しました。
その後、後手は58手目に角を4九に打ち込みました。
ここまで、9時の対局開始からまだ1時間も経っておらず、両対局者とも研究範囲と感じさせました。
途中から藤井八冠が徐々に優位を拡大していき、いつもの藤井曲線で勝利するのかと思わせる展開となりました。
しかし、後手の104手目7六歩に対して、先手が6六銀とかわしたのが疑問手で、106手目8六歩に対し長考に沈みました。
最終的に156手で匠七段が勝利し、五番勝負を3勝2敗で制して叡王を奪取しました。
伊藤匠新叡王、おめでとうございます!
藤井聡太七冠はお疲れさまでした。
お二人は2002年生まれの同学年であり、今後もタイトル戦など将棋界のトップを争っていくことが期待されます。
今期叡王戦を表の形で振り返っておきます。
第9期叡王戦五番勝負(2024年4月~6月)
叡王 藤井聡太八冠 vs. 挑戦者 伊藤匠七段
1日制・持時間4時間・チェスクロック
主催 不二家 特別協賛:ひふみ
通算 王位戦 日にち 先後 戦 型 手数 勝敗 .
437 第1局 24/4/7日 先手 角換わり腰掛銀 107 ○
439 第2局 24/4/20土 後手 角換わり 87 72
441 第3局 24/5/2木 先手 角換わり腰掛銀 146 73
445 第4局 24/5/31金 後手 角換わり腰掛銀 132 ○
448 第5局 24/6/20木 先手 角換わり 156 75
(注) 先後と勝敗は藤井八冠から見て。勝敗の数字は藤井八冠の敗北で通算何敗目かを示す。
叡王戦 場所 .
第1局 名古屋市「か茂免」
第2局 石川県加賀市「アパリゾート佳水郷」
第3局 名古屋市「名古屋東急ホテル」
第4局 千葉県柏市「柏の葉カンファレンスセンター」
第5局 山梨県甲府市「常磐ホテル」
対局の時間割
09:00 対局開始
10:00 午前のおやつ
12:00 昼食休憩
13:00 対局再開
15:00 午後のおやつ
2.藤井聡太七冠のタイトル戦の軌跡
今回の叡王失冠で、藤井七冠のタイトル獲得数は22期でストップです。
藤井七冠のタイトル戦の軌跡について、簡単にまとめておきます。
藤井七冠のタイトル戦の軌跡
年度 叡王 名人 棋聖 王位 王座 竜王 王将 棋王 タイトル数 同累計
2020 奪取 奪取 2 2
2021 奪取 防衛 防衛 奪取 奪取 5 7
2022 防衛 防衛 防衛 防衛 防衛 奪取 6 13
2023 防衛 奪取 防衛 防衛 奪取 防衛 防衛 防衛 8 21
2024 失冠 防衛 1 22
(注) 叡王から棋王までの順序は、タイトル戦開始の年間スケジュール順によるため、決着の順序とは必ずしも一致しない。ただ、2021年度の叡王戦は、コロナ禍のため3か月遅れ。
藤井聡太八冠だった期間は、王座奪取の2023年10月11日から昨日2024年6月19日までの253日間です。
(マスコミ各社は254日と書いているのですが、私の計算でもエクセルの引き算でも253日となり1日合いません。なお、次の羽生九段の七冠期間は同じ計算方法で合っています。)
羽生善治九段が七冠だった期間は167日間なので、比べれば十分に長いと判断できるでしょう。
これで藤井七冠はタイトルを1つ失い、将棋界の絶対王者ではなくなりました。
しかし、それでも竜王・名人を含む7つのタイトルを保持しています。
将棋界の藤井時代は、今後も少なくとも数年は続いていくと思います。
次は、歴代タイトルホルダーとの獲得数比較です。
将棋界の歴代タイトルホルダー獲得数比較表
順位 棋士 獲得数 生年 没年 プロ入り 初獲得
1 羽生 善治 99 1970 ― 1985 1989
2 大山 康晴 80 1923 1992 1940 1950
3 中原 誠 64 1947 (2009) 1965 1968
4 渡辺 明 31 1984 ― 2000 2004
5 谷川 浩司 27 1962 ― 1976 1983
6 藤井 聡太 22 2002 ― 2016 2020
7 米長 邦雄 19 1943 2012 1963 1973
8 佐藤 康光 13 1969 ― 1987 1993
9 森内 俊之 12 1970 ― 1987 2002
10 加藤 一二三 8 1940 (2017) 1954 1968
10 木村 義雄 8 1905 1986 1920 1937
(注) 没年欄の ( ) 内は引退年。没年の記載がないのは存命中の棋士。
本来なら山崎隆之八段との棋聖戦五番勝負、渡辺明九段との王位戦七番勝負についても触れるべきでしょうが、藤井聡太叡王失冠の衝撃が大きすぎて気持ちに余裕がないため、来月に回します。