最も美しい数式の漢詩 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 裁錦會詩草 第304回(2023年7月開催)から。

 旧七帝大の卒業生を会員とする学士会の「學士會会報」第963回 2023-Ⅵ p.112に掲載されたものです。

 今回取り上げるのは、女性数学者による数式の美しさを讃えた詩です。

 

 > 玉理 竹中 淑子

  數式此眞且美者  数式 此の真にして且つ美なる者

 觀感興起學問先  観感興起 学問に先んず

 森羅萬象自在身  森羅万象 自ら身に在り

 沈思默考學研務  沈思黙考 学研の務

 結論途上思索巡  結論途上 思索は巡る

 更慮其果表現則  更に(おもんぱか)る 其の果の表現の則

 正確簡明萬人的  正確 簡明 万人的

 辿着形式是數式  辿り着く形式 (これ)数式

 若問學者美之意  ()し学者に美の意識を問わば

 答言眞理探求路  答えて言わん 真理探究の路と

 獲得結論美極値  獲得の結論 美の極値

 譬如歐勒等式功  譬如(ひじょ) 歐勒(オイラー)等式の功

 一行數式含味豊  一行の数式 含味豊か

 奇含虚數超越數  奇しくも含む 虚数 超越数

 結合表示興無窮  結合の表示 興窮まり無し

 人類英知随處看  人類の英知 随所に看る

 眞理表現具美觀  真理表現 美観を具す

 我曹能得接餘歡  我曹能く余歓に接するを得たり

 (註) ○歐勒等式…オイラーの等式。自然界で最も美しい数式とも言われる。

 「e^iπ+1=0」 ○超越数…代数方程式の解にならない数、e、π (k:ギリシア文字の小文字のパイ)。

 ◇eは自然対数の底、ネピアの数。

 

 何度数え直しても十七行なので、近体詩ではなく古体詩だと思います。

 (それにしても奇数行の漢詩は初めて見たような)

 韻は、身巡が上平声十一眞、則式が入声十三職、意値が去声四寘、功豊窮が上平声一東、觀歡が上平声十四寒。

 

 竹中淑子さんについては、次の記事の下の方にご経歴をまとめてあります。

 漢詩「黎明観天空珍事」 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 使われている言葉の意味ですが、

 2行目はよく理解できませんでした。

 極値は数学用語で、極大値、極小値を意味しますが、ここでは極致と同義かと。

 譬は例と同義だと思います。

 曹は、この場合は「なかま、ともがら」かと。

 余歓は、「尽きぬよろこび」。出典は漢籍です。

 

 次は訳ですが、あまり自信はありません。適当です(^^;

 

 > 数式、この真にしてかつ美なるもの

 観て感じ興が起こるのは、学問に先んじている

 森羅万象は、わが身のことである

 沈思黙考は、学問を研究する者の務め

 結論に至る途上で、思索は巡る

 さらに思いをめぐらすのは、(思索の)果ての表現規則

 万人にとって、正確で簡明でなければならない

 そうして辿り着く形式は、数式だ

 もし学者に美の意識を問えば

 答えて言うだろう、真理探究の路と

 獲得した結論は、美の極致だ

 (最も適切な)例示は、オイラーの等式

 ただ一行の数式だが、その意味合いは深い

 奇しくも虚数と超越数を含んでいる

 それらを結び合わせた表示は、興が極まりない

 (わずか一行の数式の中にも)人類の英知は随所にみられる

 真理の表現は、美しい見た目をもつ

 私や仲間(の数学者たち)は尽きぬよろこびに接することができる

 <

 

 

 この漢詩については以上ですが、この機会に「オイラーの等式」について解説しておきます。

 レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler, 1707~1783)は、18世紀の数学者・天文学者。

 19世紀のガウスと並び、数学史上で一世紀に一人というレベルの偉大な天才です。

 何しろ彼の業績は膨大すぎて、100年以上かけてもまだ全集が完結していないということです。

 スイスのバーゼル生まれで、大学教育まではスイスで受けています。

 数学者として活躍した国は、ロシアとプロイセン(現在のドイツ)です。

 

 オイラーは数学の各分野で業績を残しているため、彼の名を冠した定理、数式などは数多いのですが、ここで登場する「e^iπ +1 = 0」という式は、最も美しい数式として有名です。

 (記号^は、べき乗・指数を上添字にすると小さくなりすぎるため、その代わりに用いています。よく見るのは「eiπ+1=0」という形です。)

 (これに対して、最も有名な数式は、アインシュタインの特殊相対論に登場する「E=mc2」です。)

 

 「オイラーの等式」には、0,1,π,e,i という最も重要な5つの数値が出てきます。

 0は加法の単位元、1は乗法の単位元で、どちらも自然数の代表であり、小学校以来誰もが知っていますね。

 それに対して、π と e は超越数,i は虚数単位です。

 超越数についての「代数方程式の解にならない数」という解説は正確ですが、もう少しかみ砕いていうと、自然数から有限回の加減乗除(四則演算)とn乗根により作り出すことができるのが代数的数、それができないのが超越数です。

 実数は、代数的数と超越数に2分されます。

 一方、虚数単位iは 2乗すると -1 になる数のうちの一方。-1 の平方根は ±i です。

 i は当然、実数ではありません。

 

 円周率 π (パイ)も、小学校では 3.14 という値で学んでいますが、π=3.1415926535… と続いていきます。

 一番馴染みのない e の具体的な値は、e=2.718281828… となっています。

 もちろん、π も e もその後無限に続いていきます。

 e については、複利の極限というのが分かりやすい意味付けです。

   e = lim n→∞ (1+1/n)^n.

 ・1年で2倍に → 半年で5割増し → 4か月で1/3増加 → 3か月で1/4増加 → …

 (1+1)^1=2 (1+1/2)^2=2.25 (1+1/3)^3=2.3704 (1+1/4)^4=2.4414

 指数関数 e^x は、xで微分しても元のままです。

   de^x = e^x.

    dx

 

 

 ★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス115

   .i .abu troci lo nu se xanri lo du’u lo lakyga’a fagri ma kau simsa ba lo nu lo lakyga’a cu se gusydicra

  そしてアリスは、ロウソクをふき消したあとで、ロウソクの炎がどんなようすかを想像してみようとしました。

 troci : 達成/獲得しようと努める/努力する,x1は x2(事/状態/性質)を x3(手段/方法)で;x1はx2をやってみる。-toc-, -toi-

 xanri : 想像だ,x1は x2(者)による;架空/想像上のもの/非現実だ,x1は

 lakyga’a : ロウソクだ <- lak+ga’a, lak<- lakse蝋/パラフィン, ga’a<- grana 杖/さお

 fagri : 火/炎だ,x1は x2(燃料)・x3(酸化剤)による。-fag-

 simsa : 似ている/相似的だ,x1は x2に x3(性質)の点で;x1はx2のようだ。-smi-

 gusydicra : 消す,d1は g1(光)を g2を g3 <- gus+dicra, gus<- gusni

 gusni : 光だ,x1(エネルギー)は x2(対象)を x3(光源)に基づいて;x3は x2を x1で照らす。

     -gus-, -gu’i- x3は「ランプ」「太陽」など

 dicra : 阻止/中断/妨害する,x1(事)は x2(物/事)を x3(阻害性質)によって

 

 全体の主述語は troci ですが、その後に抽象節が二重になっており、{ troci lo nu se xanri lo du’u } で「想像しようと努める」となります。

 { lo du’u } 以降の主述語は、simsa で、そのx1が { lo lakyga’a fagri } 「ロウソクの炎」、x2が { ma kau } です。

 その後の間制節 { ba lo nu lo lakyga’a cu se gusydicra } 「ロウソクが消された後で」も simsa に掛かります。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)