目次
1.藤井聡太竜王と順位戦B級1組の現況
2.佐藤康光会長の功績
3.佐々木大地五段、竜王ランキング戦5組に
将棋の話題です。
1.藤井聡太竜王と順位戦B級1組の現況
順位戦は、名人という頂点を目指して巨大な山を登っていく細くて長い道のりです。
将棋界には、名人と竜王という2大タイトルがあります。
竜王戦は、アマチュアでも女流でもとにかくその時点で将棋が強ければ参加資格があり、トーナメント戦を勝ち進めばその期(年)に竜王に挑戦することができます。
そして竜王の優勝賞金は、将棋界最高の 4,400 万円です。
誰でも挑戦でき賞金が最高という意味で、竜王戦ドリームと呼ばれます。
藤井聡太竜王は、すでに本年11月13日に竜王位を奪取しています。
一方の名人は、江戸時代初期から400年の伝統を誇るタイトルです。
C級2組からA級までの5クラスに分かれて1年間のリーグ戦を争い、その結果で昇級・降級が決まります。
名人に挑戦できるのはA級最上位の一人だけなので、新人棋士はいくら強くても名人に挑戦するまでに最低5年の歳月を要します。
(順位戦の詳細については次の記事をご覧ください。
藤井二冠のB1順位戦の展望 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp) )
たとえて言うならば、竜王戦は瞬発力で一気に駆け上がることができる世界であるのに対し、順位戦・名人戦は長い道を一歩一歩踏みしめながら少しずつ登っていく登山の世界であり、両者は対極にあります。
昨日12月2日(木)、第80期順位戦B級1組9回戦が行われ、藤井聡太竜王は近藤誠也七段に114手で勝利しました。
順位戦は持時間6時間という、タイトル戦を除き最も長時間の棋戦であり、かつB級1組以上はストップウォッチのため、朝の10時に対局開始でも終局はしばしば日をまたぐことになります。
(ストップウォッチ方式だと1分未満の考慮時間は計算上切捨てとなるため、チェスクロック方式と比べて、順位戦で終局が1時間程度伸びると言われます。)
昨日も、実際に終わったのは今日に入ってからでした。
もちろん各40分の昼食休憩、夕食休憩があって、今は外出ができないため昼食も夕食も出前を注文することになります。(いわゆる将棋飯)
昨日の対局は、コンピュータソフトの評価も解説の棋士の判断も、中盤に入ってからは近藤七段が優勢としていました。
逆転したのは、73手目のあたりです。
やや劣勢でもそれ以上悪くせず相手のミスを誘った藤井竜王の差し回しが見事でした。
B級1組からA級への昇級者は2名、B級2組への降級者は3名です。
藤井竜王は、前回8回戦終了時点での成績は7勝1敗であり、7戦全勝の佐々木勇気七段に次いで2位でした。
3位は、6勝2敗の千田翔太七段です。
昨年6月に藤井聡太七段(当時)のライバルとして、私が名前を挙げた有望な若手棋士7人の中には、現在ともにB級1組で戦っている近藤七段と千田七段が含まれています。
藤井聡太七段のライバル | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
勇気七段はそのときはギリギリ若手の条件に合うにもかかわらず含めなかったのですが、藤井竜王のデビューからの連勝記録を30戦目で初めて止めた相手でもあり、その後入れておけばよかったとずっと後悔しています。
昨日の9回戦一斉対局では、勇気七段が屋敷伸之九段に負けて7勝1敗となり、千田七段も三浦弘行九段に負けて6勝3敗となりました。
いずれも、勢いのある若手がポスト羽生世代のベテランに敗れています。
この結果、9回戦終了時点で8勝1敗の藤井竜王が成績1位となりました。
B級1組は13名の総当たりなので13戦あり、毎回1人が抜け番となります。
次回の10回戦は12月23日に予定されていますが、藤井竜王は抜け番なので、今年の順位戦は昨日が最後となります。
残りは来年1~3月の対局となり、対戦相手は千田七段(1/13)、阿久津八段(2/3)、勇気七段(3/9)の3人です。
藤井竜王と勇気七段が1敗、他は3敗以上なので、3人のうち2人に勝てればA級昇級は確定します。
年内の藤井竜王の対局は、未放映のテレビ対局を除き、昨日ですべて終了とのことです。
これまでタイトル戦が連続して毎週のように週2回の対局が続くという多忙な状況でしたが、年末は少しは休めるかもしれません。
逆に、私のようなファンにとっては、聡太ロスの日々となります。
でも、年明けからはまた王将戦七番勝負が始まるので、それを楽しみに待つこととしましょう。
2.佐藤康光会長の功績
実は、藤井聡太ブームが来る前の将棋界は、プロ棋士がコンピュータソフトに敗北したこと、またソフト不正疑惑の問題などから存亡の危機に立っていました。
しかし、2016年末からの藤井聡太現竜王の活躍がそうした暗い影をすべて吹き飛ばしたのは皆さんご承知の通りです。
(加えて、当時は羽生善治名誉七冠の国民栄誉賞受賞と引退した加藤一二三九段のタレントとしての活躍もプラス面の話題となりました。)
ただ、そうした明るい話題を一過性のものに終わらせず、将棋界のために実質的に役立てるには、裏方の努力が必要です。
日本将棋連盟は公益社団法人、つまり将棋棋士が構成する団体であり、棋士の代表が会長として運営を担っています。
(囲碁界の日本棋院、関西棋院との違いは、次の記事でまとめました。
将棋界と囲碁界の比較2 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp) 最後の方です。)
日本将棋連盟の現会長が佐藤康光九段です。
佐藤康光九段は1969年10月生まれなので、現在52歳。
平成の将棋界に燦然と輝いた羽生世代を代表する一人です。
タイトル獲得は合計13期、うち竜王1期、名人2期。 棋聖6期により永世棋聖の資格をもちます(就位は原則引退後)。
愛称は「モテ」。若い頃、ルックスが良いため女性にモテたので、先崎学九段に「もてみつ君」と呼ばれたことから。
2017年4月に紫綬褒章を受けています。
康光会長は、もともと2011年4月から棋士会の会長を務めていました。
そして、2017年2月、ソフト不正疑惑問題による混乱の責任をとって連盟会長を辞任した谷川浩司九段(十七世名人)の後を受け、日本将棋連盟会長に就任しました。(棋士会の後任は中村修九段)
それからの活躍は次にみるように目覚ましいものがあります。
17年 叡王戦をタイトル戦化(主催ドワンゴ)
18年 棋聖戦にヒューリックが特別協賛(ヒューリック杯)
ABEMAトーナメント新設
王将戦に大阪王将協賛(第69期、大阪王将杯)
19年 女流新棋戦清麗戦創設(主催ヒューリック)
順位戦昇級・降級枠の拡大
20年 女流新棋戦白玲戦創設(主催ヒューリック)。清麗戦は主催大成建設に
叡王戦を不二家主催に
ABEMAトーナメントの団体戦・準公式戦化
リコーの自動記録システム導入
21年 SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦実施(準公式戦)
王位戦に伊藤園が特別協賛(第62,63期、お~いお茶杯)
王将戦にALSOKが特別協賛(ALSOK杯)
王座戦に東海東京証券が特別協賛
叡王戦に中部電力が協賛
J:COMが奨励会への支援とJ:COM賞(新四段に贈呈)を創設
さらに、東西将棋会館の移転計画も進展しつつあります。
・東京・将棋会館は、ヒューリック所有の千駄ヶ谷センタービルに移転
・関西将棋会館は、現在の大阪市福島区から高槻市(JR高槻駅前)に移転
両会館移転のためにクラウドファンディングを行っています。
また、日本将棋連盟常務理事の外部枠を創設し、元銀行マン(三菱銀行出身で東京スター銀行会長などを歴任した佐竹康峰氏)を招いています。
このように、東西将棋会館移転、女流を含めた新棋戦創設、新スポンサー多数獲得、順位戦改革、外部理事招聘など長年の懸案事項を一気に解決の方向に進めているのです。
営業力、問題解決能力、組織統率力が抜群だからこそできることでしょう。
「藤井聡太が将棋界の表の救世主なら、裏の救世主は佐藤康光」という評価は決して大げさではありません。
さらに素晴らしいのは、会長としてこれだけ激務をこなしているにもかかわらず、棋士の本業である対局においてもそれなりの成績を上げている点です。
佐藤会長は、現在、順位戦はA級、竜王戦は2組所属。
今年度成績は、17勝8敗で勝率0.680となっています。
とても50過ぎで会長職に就いている人の成績とは思えません。
棋風は、若い頃は「緻密流」「1秒間に1億と3手読む」と称賛されました。
しかし近年は一変して、本人にしかできない独自の戦法で剛腕により相手を叩き潰すところから「丸太をぶん回す」「変態将棋」「怪鳥」と称されています。
これは、あまりの激務で将棋研究の時間が全くとれないために、独自の戦法にならざるを得ないからだというのですが、それで勝ってしまうのですから大したものです。
3.佐々木大地五段、竜王ランキング戦5組に
私が以前、藤井聡太竜王のライバルの一人として注目していた佐々木大地五段が、11月19日、第34期竜王戦6組昇級者決定戦決勝で佐藤秀司八段に勝って5組への昇級を決めました。
おめでとうございます!
佐々木大地(だいち)五段は1995年5月生まれなので、今26歳。
(佐々木姓の棋士は他に佐々木勇気七段らがいるので、以下、大地五段とお呼びします。)
現在藤井聡太竜王に勝ち越している棋士は3人しかいません。 大地五段は、その3人のうちの1人です。(他は、深浦康市九段と大橋貴洸(たかひろ)六段)
長崎県対馬市出身。 師匠は同じ長崎県出身の深浦康市九段。
師弟ともに藤井竜王に勝ち越しているのは、凄いことです。
大地五段は、2015年度後期の三段リーグで2回目の次点をとったため、フリークラス編入資格を得て行使し、2016年4月にプロ入り(四段昇段)。
2017年2月、条件を満たして順位戦C級2組に昇級。
2019年2月に通算100勝に達したので、勝数規定により五段に昇段。
将棋大賞の受賞歴は、
・第46回(2018年度) 最多勝利賞
・第47回(2019年度) 最多対局賞
大地五段のレーティングをみると、2019年に入って以降はずっと1700以上、10位台が続いています。
ときどきは1800を超え、また9位になることもあります。
それだけの実力がありながら、長らく順位戦はC級2組、竜王戦は6組とどちらも最低ランク、ピラミッドの底辺に在籍し続けていました。
将棋界7不思議の一つだったのですが、ようやく昇級できたのです。
私は、藤井竜王に勝ったことのある棋士、特に勝ち越しているほどの棋士にはぜひ大活躍していただきたいと常々願っています。
本当におめでとうございました!
★ 今日のロジバン 停止 co’u
.ua co’u lo nu viska je tirna mi kei le klaku cifnu cu klaku
「ワ ショフ ロ゚ ヌ ヴィㇲカ ジェ ティㇽナ ミ ケイ レ゚ ㇰラ゚ク シㇷヌ シュ ㇰラ゚ク」
私の姿を見、私の声を聞くと、泣く児が泣くことをやめる!(山頭火『行乞記(二)』)
.ua : 発見。新しく知った/見つけた/気づいた気持。心態詞(純粋感情)UI1類
je : ~と~(論理積and)。接続詞(論理・後置・tanru)JA類。-jev-, -jve-
co’u : 停止。「するのをやめる」。相制詞ZAhO類
「…すると、~するのをやめる」という意味の相制句 { co’u … } を使ったロジバンらしい構文です。
先に、心態詞 .ua と相制句 { co’u lo nu viska je tirna mi kei } があります。
主述語は { cu klaku } 「泣く」、そのx1が { le klaku cifnu } 「泣く児」です。
相制句内の { viska je tirna mi } が「私の姿を見、私の声を聞く」です。
ちなみに、これは『行乞記(二)』の地の文で、俳句ではありません。
出典は、