将棋界と囲碁界の比較2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 将棋界と囲碁界の比較1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

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  5.将棋・囲碁の段級位

 棋士のなりやすさなどを比べる前に、将棋・囲碁における段級位の違いを見ておきます。

 

 段は、初段から始まり、二段、三段、・・・、九段まであります。(漢数字表記)

 (囲碁の(将棋でも昔あった)「十段」はタイトル名であり、段位ではありません。)

 数字の大きい方が上です。

 級は、逆に少ない方が上で、1級が一番上となります。(アラビア数字表記)

 1級の上が初段です。

 また、段級位は、プロとアマチュアとで(将棋ではさらに女流棋士でも)別の制度(枠組)となっています。

 (将棋では、アマチュアの三~五段が奨励会の6級程度とされているようです。)

 ここまでは、将棋と囲碁で共通しています。

 

 大きく異なるのは、

 ・将棋棋士は四段以上

 なのに対し、

 ・囲碁棋士は初段以上

 という点です。

 したがって、将棋棋士の段位は四段~九段、囲碁棋士の段位は初段~九段となります。

 

 もう一つの大きな違いは、「囲碁棋士は九段が多い」ということです。

 ホームページ上の名簿をもとに段位別棋士数をカウントすると、次のようになります。

   将棋・囲碁の段位別棋士数・分布

    初段 二段 三段 四段 五段 六段 七段 八段 九段 タ保 合計 

 将棋  -  -   -   14  23  24  49   27  26  8  171

  %  -  -  -  8.2 13.5 14.0 28.7 15.8 15.2 4.7 100.0

 囲碁  47  38  44  43  34  47  54   53  111  4   475

  %  9.9  8.0  9.3  9.1  7.2  9.9 11.4 11.2 23.4 0.8 100.0

 

 囲碁は、日本棋院と関西棋院の合計です。

 表中の「タ保」は「タイトル保持者」の略。

 実は、将棋では永世資格保持者も含め、囲碁では将棋でいう一般棋戦優勝も含めているなどタイトル保持者の定義が異なるのですが、いずれにしろ少ないため全体に大きな影響を与えることはありません。

 

 段位別の分布をみると、最も多いのは、

 ・将棋では真ん中の七段で、28.7%

 ・囲碁では九段で、23.4%

 と大きく異なっています。

 九段が最も多いのでは、九段になっても有難みは少ないでしょう。

 これは、囲碁棋士の昇段基準が緩かったためであり、その反省に立って日本棋院では2003年、関西棋院では2005年により厳しい制度に移行しています。

 でも、一度九段まで上がった棋士を引きずり下ろすことはできないため、現在でも上のような分布になっているのです。

 

 

  6.将棋・囲碁の新棋士誕生制度

 才能ある若者が将棋・囲碁の棋士になりたいと思ったら、どうすればよいのでしょうか?

 (以下の記述は基本的には現在の制度に関するものであり、時代の変遷とともに変わっていることにご注意ください。また、主な制度だけを取り上げています。)

 

 将棋では棋士の養成制度として「奨励会」があります。

 奨励会に級位で入って、昇級・昇段していき、三段になると半年ごとに「三段リーグ」というリーグ戦を戦い、原則上位2名が四段のプロ棋士となります。

 半年に2名なので、1年に4名です。

 他に次点制度というのもあるのですが、それにより2名の枠が3名に増えるのはほぼ8期に1期の割合という実績です。

 合計4年で17名という計算です。

 

 囲碁の日本棋院では、「棋士採用試験」別名 「入段試験」に合格した人が「正棋士」になれます。

 正棋士の採用枠は、各年度5名です。

 ただ、正棋士とは別に、「特別採用棋士」という枠があり、女流・女流推薦・外国籍・英才推薦という名目で、2019年8名、2020年7名、2021年3名が採用されています。

 (史上最年少10歳0か月でプロ入りした仲邑菫(なかむら・すみれ)さんは英才推薦枠第1号です。決して可愛いから認められたわけではありません(^^)

 ただ、2018年度以前は特別採用棋士はほとんどの年が女流枠の1名だけだったようなので、その時代は正棋士・特別採用棋士合わせて6名となります。

 

 関西棋院には、将棋の奨励会と類似した「院生」という制度があるということですが、毎年院生から何人棋士になっているかなどは不明です。

 

 日本棋院だけを考えても、囲碁の新棋士は毎年、将棋の新棋士の1.5倍以上、年によってはその数倍いると考えて間違いありません。

 

 

  7.将棋・囲碁の引退制度

 将棋界には、強制引退の制度があります。

 順位戦の成績で不振が続けば次第にクラスが落ちていき、C級2組からフリークラスに落ちると、順位戦に参加できなくなります。

 フリークラスになっても、その後の他棋戦の成績が良ければ順位戦C2に復帰できます。(でも、極めて困難です。)

 しかし、10年以内にC2に復帰できないと引退となります。

 また、10年経過しなくても60歳の定年で引退となります。(逆に、順位戦に参加し続けている限り、定年はありません。)

 自らの宣言によるフリークラス棋士の場合は、定年は65歳となります。

 順位戦について|名人戦|棋戦|日本将棋連盟 (shogi.or.jp) 下の方にフリークラス規定が掲載されている

 

 今のところ、成績不振によるフリークラス棋士の最年少引退記録は次の熊坂五段です。

  最年少引退の記録 : 2015年5月、当時の熊坂学五段が37歳で引退

 棋士の現役期間、棋士の退職金、熊坂五段の引退などのコメント: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き (cocolog-nifty.com)

 熊坂五段の棋歴については、wikiに詳しく載っています。

 引退後の熊坂五段は出身地の仙台で「杜の熊さん将棋教室」を開き、普及活動に尽力されています。

 

 なお、引退とはプロとして対局することがなくなったということであって、日本将棋連盟棋士である点には変わりはありません。

 日本将棋連盟の「棋士データベース」には「引退棋士」として、中原誠十六世名人、いまや有名人となった加藤一二三九段、今回ブログを引用させていただいた田丸昇九段、珍しくご自分の意思で今年4月にB級2組在籍のまま引退した橋本崇載八段、株主優待を活用する投資家で有名な桐谷広人七段、すぐ上でご紹介した熊坂学五段らのお名前が掲載されています。

 

 一方、囲碁界には、強制引退の制度はありません。

 本人が引退を決断しない限り引退することはないので、九段が増える一因ともなっています。

 

 せっかく棋士になれたのに、強制的に引退させるのはかわいそうだという意見はあろうかと思います。

 一方、仮にもプロとして活動しているのだから、それなりの成績を挙げられないのであれば、引退すべきだという意見もあろうかと思います。

 

 それにしても、囲碁界が将棋界と比べて、これほど棋士になりやすく棋士をやめにくいのはなぜなのでしょうか?

 

 

  8.将棋棋士と囲碁棋士の待遇面の違い

 以上で概観した将棋界と囲碁界の違いの背景には、待遇面の違いがあります。

 次の田丸昇九段(将棋棋士、2016年10月引退)のブログに基づき見ていきましょう。

 将棋界の引退制度に関するコメント、囲碁界との比較、引退後の収入: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き (cocolog-nifty.com)

 

 将棋棋士も囲碁棋士もサラリーマンではないので、本来、月給に当たるものはないはずです。

 しかし、田丸九段によると、将棋の現役棋士には順位戦のクラスなどに応じてサラリーマンの基本給に当たる「参稼報償金」という手当が毎月支給されます。

 (私はずっと誤解していて「フリークラス棋士には支給されない」と以前書きましたが、額は少ないものの支給されるとのことです。)

 一方、順位戦以外の棋戦の賞金・対局料は、出来高に応じた歩合給に相当します。

 

 これに対し、囲碁棋士にも同様の基本手当があるものの、将棋棋士の水準よりもかなり少ないようだとのことです。

 

 田丸九段の結論は次の通りです。

 >連盟は現役棋士に対して、待遇面で一定の保障をする代わりに、引退制度を設けています。囲碁棋士の待遇面は全体的に希薄ですが、引退制度はありません。棋士の待遇と寿命が「太いが有期」か「細いが無期」の違いでもあります。

 

 将棋界は賞金・対局料で将棋棋士を養うことを考えているので、数があまり増えると困るが、囲碁界は囲碁棋士を養うことはあまり考えず、むしろ数が多い方が普及に役立つと考えているのでしょう。

 囲碁棋士は、成績上位の一部を除き、普及活動やそれ以外の副業による収入が多いのだろうと思います。(事情をよく知らない私の憶測です。誤りであればご教示ください。)

 

 これはどちらが良い悪いの問題ではありません。

 将棋界・囲碁界それぞれの長年の歴史の中で生み出されたものであり、伝統と呼ぶべきものです。

 そこに問題が生じたとしても、外部の基準で判断するのではなく、それぞれの内部で処理・改善すべき事柄だと思います。

 

 

  9.将棋界と囲碁界の組織

 将棋界と囲碁界で対比すべき事項としては、他に女性棋士や国際性の問題があります。

 これらも重要だし興味深いのですが、くたびれてきたので(^^;今回は省略します。

 

 最後に、将棋界と囲碁界の“業界団体”について見ておきます。

 将棋棋士も囲碁棋士も雇用労働者ではなく、個人事業主です。

(対局について労働基準法の適用はありません。)

 将棋棋士は「日本将棋連盟」を組織しています。

 囲碁界には、「日本棋院」と「関西棋院」という2つの組織があります。

 関西の棋士がすべて関西棋院に所属するわけではなく、日本棋院には関西総本部もあります。両者が分立している事情は省略します。

 

 これら3者は、法人格の種類が異なります。

 ・日本将棋連盟は公益社団法人

 ・日本棋院は公益財団法人

 ・関西棋院は一般財団法人

 簡単にいうと、社団法人は一定の目的をもつ「人の集まり」、財団法人は一定の目的のもとに拠出された「財産の集まり」です。

 この場合の一定の目的とは、サクッといえば将棋・囲碁の普及発展です。

 また、「一般」は登記手続きのみで設立できますが、「公益」は国・都道府県の公益認定を受ける必要があるという違いがあります。

 

 日本将棋連盟の人事や重要事項の決定は、棋士と上位の女流棋士からなる正会員が構成する総会で決定されます。

 理事長は佐藤康光九段、専務理事・常務理事8名のうち7名は棋士・女流棋士です。

 棋士・女流棋士でない常務理事(1名)や非常勤理事については、ホームページ上での顔写真の掲載も肩書の紹介もありません。

 

 日本棋院は財団法人なので、人事や重要事項の決定は評議員会が行います。

 評議員12名のうち囲碁棋士は5名で、あとは元官僚、元経営者、スポーツ指導者、元政治家、俳優、元外交官などです。

 理事長(小林覚九段)と6名の常務理事は囲碁棋士です。

 それ以外の10名の理事のうち棋士は1名だけで、あとは現役の経営者などです。

 棋士以外の方々は肩書が明記されていて、それが重要であることが分かります。

 また、「役員等一覧」のトップには総裁として今井敬 日本製鉄(株)名誉会長のお名前があります。(日本将棋連盟であれば考えられないと思います。)

 

 関西棋院は、理事長(正岡徹氏)が医師で、副理事長は現役の経営者です。

 歴代の理事長のお名前を拝見すると、昔の有名経営者がずらりと並んでいます。

 

 以上から、日本将棋連盟は将棋棋士が自ら組織し運営する団体であるのに対して、日本棋院・関西棋院は囲碁棋士以外の“応援団”の役割がそれなりに大きいことが分かります。

 

 

 今回の比較は以上で終わります。

 

 

 ★ 今日のロジバン 機能語のrafsi

   ro da vrici ke kampre mutce 「ロ ダ ヴシ ケ ㇺプレ チェ」

  みんなとり/″\に人間味たつぷりだ」(山頭火『行乞記(二)』

 vrici : 種々雑多/様々/色とりどりだ,x1(集合/群/個)は x2(性質)の点で

 ke : tanruグループ開始。境界詞KE類。-kem-

 kampre : 人間的だ。<- kam+pre, kam<- ka, pre<- prenu

 ka : 性質抽象。抽象詞NU類。-kam-

 mutce : 凄い,x1は x2(性質)に関して x3(極性)に対して;x1はとてもx2だ。

       x3はプラス/マイナスなど。-tce-

 

 「数学のロジバン2」で紹介した文ですが、あらためて解説します。

 tanruの構文ですが、{ vrici kampre mutce } はそのままだと (( vrici kampre ) mutce ) と解析されるので、ke を挿入しています。

 mutce のx1が { ro da } で、x2が kampre です。

 { ro da } は正確には全称量化詞ですが、多くの場合、「すべて」「全員」と訳して問題ありません。

 kampre は、「人間であるという性質をもつ」なので、「人間味ある」となります。

 ka や ke のように2文字からなる機能語(cmavo)でも rafsi(lujvoを作るための語基)をもつものがありますが、rafsiは常に3文字なので短縮形にはならずかえって長くなります。