超準解析入門の入門1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12538313977.html
超準解析入門の入門7:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12541376946.html
---------------------------------
7 自然数の超準モデルとその順序構造
この後の節では、自然数集合ω(=N)上の自由超フィルターUを1つ固定します。
構造A の超ベキ Aω/U を *A で表すことにします。
Aから *A への自然な埋込が存在します。第1節でみた(2)がそれです。
n = [(n, n, n, ・・・, n, ・・・)] ・・・ (2)
N=(N, +, ・, 0, 1, <) や R=(R, +, ・, 0, 1, <) など我々が数学的な経験の中で自然に理解している構造を標準モデル(standard model)といい、*N や *R などをそれらの超準モデル(nonstandard model)といいます。
まず、この定義による超準自然数では第4節でみた問題がどのように解決されるのかをみておきましょう。
自然数集合 ω(=N) 上の自由超フィルターUは、偶数全体の集合か奇数全体の集合のいずれか一方を必ず含むので、問題は解決されます。
ただし、どちらを含むUも存在し得るので、Uを具体的に指定しないとどちらを含むのかは分かりません。
超準モデルはω上の自由超フィルターの数だけ、つまり無数に存在するわけです。
振り返ってみれば、第4節でみた問題は、自由超フィルターではなくフレシェ・フィルターによる約積を使っていたために生じたのでした。
(ここから後の記述は、文体を変えた以外は『数学基礎論序説』にかなり忠実です。)
さて、 I Σ0 の超準モデルは、可算であっても再帰的に定義できないこと(テンネンバウムの定理)が知られており、その構造を完璧に記述することは不可能です。
しかし、順序構造だけを取り出すと、比較的単純で分かりやすい形になっています。
I Σ0 の超準モデルA は PA- モデルにもなっているので、 < はA 上の離散的な全順序です。
また、A は標準構造N を部分構造として含んでいると考えられます。
しかも、¬∃x(n<x<n+1) が成り立つので、標準自然数n以外の元 a をA が含めば、それはN のどの元よりも大きいことが分かります。
このような元 a を超準元(nonstandard element)とか無限大元(infinite element)といいます。
超準元を含む算術のモデルが超準モデルです。
(ネタ本の『数学基礎論序説』p.156は、ここだけnon-standardとハイフンが入っていますが、他に合わせてハイフン抜きで統一します。)
A の2つの元 a,b に対して、 |a-b|∈N のとき、 a~b として、同値関係~を定めます。
超準元aの同値類 [a]~ は、a±n(n∈N)で表される元の集合になるので、その中の順序型は整数集合Zの順序と同型です。
以上から、A 全体の順序型は、次のような形になります。
N,・・・,Z,・・・,Z,・・・
つまり、ηをある全順序として、
N+Z・η
で表されます。
(順序型・順序数では、乗法“・”は非可換であることに注意!)
ここで、ηは、 (A-N)/~ の順序型です。
ηが最大元をもたないことは、 [a]~<[a+a]~ より明らかです。
定理 :
PA- の超準モデルの順序型は N+Z・η であり、ηは最大元をもたない全順序である。
I Σ0 の超準モデルの順序型は N+Z・η であり、ηは最大元・最小元をもたない稠密な全順序である。
特に、 I Σ0 の可算超準モデルの順序型は、 N+Z・Q である。
・ Z[X] を、Xを変数とする整数係数の多項式全体の集合とすると、その上には自然に+,・,0,1 が定義されて環になる。 p∈Z[X] に対し、その最高次の係数が正のとき p>0 と定め、さらに p>q ⇔ p-q>0 によって2つの多項式p,qの間に順序を定める。そして、
Z[X]+ = {p∈Z[X]|p≧0}
とおくと、 Z[X]+ は、 PA- の超準モデルとなる。
Z[X]+ において、Xより小さな超準元は X-n と書けるものしかないので、Xを含む同値類と標準部分Nの間に元はない。つまり、 Z[X]+ は I Σ0 のモデルにならない。
・ N+Z・R の順序型をもつ I Σ0 の超準モデルは存在しない。
・ N+Z・R の順序型をもつ PA- の超準モデルも存在しない。
------------ 続 く -----------
超準解析入門の入門9:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12542307289.html
★ この章と次の章のために、超フィルターとか超ベキだとかのやたら抽象的な道具立ての紹介にお付き合いさせてきたわけですが、いかがでしょうか?
少なくとも、超準モデルにおける無限大の順序構造はお分かりいただけたかと思います。
次回はいよいよラストで、無限小が登場します。乞うご期待!