サッカーボールとフラーレン | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

対オランダ戦は残念ながら0-1で負けましたが、サッカーにちなんだ話題です。

サッカーボールはほぼ球形ですが、その表面は5角形と6角形を貼り合わせたものとなっています。
最近、幾何学のテーマを扱っているので、サッカーボールの形状を取り上げることにしました。

サッカーボールの形を正5角形と正6角形からなる凸多面体と考えるとき、「切頂20面体」といいます。
正20面体の頂点の部分を切り取ってできた立体という意味です。
もう少し説明すると、正20面体は正3角形の面20枚からできていますが、各頂点から適当な大きさの正5角錐を切り取って正3角形が正6角形になるようにすると、この立体ができます。
wikiでその姿をご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%8A%E6%AD%A3%E5%A4%9A%E9%9D%A2%E4%BD%93
上から5番目の立体です。

切頂20面体の諸量は次のとおり。

  面の数        辺の数 頂点の数 一頂点に集
 合計 正5角形 正6角形          まる多角形
 32   12   20   90   60    5, 6, 6

  二面角            辺の長さを1としたときの
 正6角形と正5角形 正6角形同士 外接球の半径 表面積  体積
  約142.6°     約138.2°   2.48   72.6   55.3

さて、切頂20面体は 「アルキメデスの立体」 「半正多面体」 と呼ばれる立体の一種です。
アルキメデスの立体とは、各面がすべて正多角形(複数種類)からなり、かつ各頂点周りの多角錐がすべて合同である立体のことです。
半正多面体とは、アルキメデスの立体のうち正多角柱と正多角反柱以外のものです。
正多角柱と正多角反柱はいずれも無限系列をなしますが、半正多面体は13種類しかありません。(右手系と左手系があるものは別物として数え、かつミラーの多面体を含めると、16種類になります。)

半正多面体を表すための記号としては、拡張シュレーフリ記号というのもある(wiki参照)のですが、むしろ一頂点に集まる多角形の辺の数を並べる方が便利です。
たとえば、切頂20面体であれば各頂点は正5角形1個と正6角形2個からなるので、[5, 6, 6] となります。
この記号で正多面体や正多角柱、正多角反柱も表すことができます。
立方体の頂点は正方形3個からなるので [4, 4, 4]、正3角柱は正3角形1個と正方形2個からなるので [3, 4, 4]、正5角反柱は正5角形1個と正3角形3個からなるので [3, 3, 3, 5] となります。

以上は、一松信 『正多面体を解く』 (東海大学出版会)を参考にしました。
ただ、名称はむしろ wiki に従っています。


切頂20面体は、有機化学ではフラーレンの形として知られています。
炭素の同素体(同じ元素から構成されるが結晶構造(原子配列)・結合様式が異なる単体)としては昔から石墨(グラファイト)とダイヤモンドの2種類が知られていましたが、近年 「フラーレン」(fullerene) と呼ばれる第3の同素体が発見されました。(その後さらに第4の同素体としてカーボンナノチューブが発見されました。)
フラーレンは化学式では C60 と表されます。
すなわち切頂20面体の各頂点に炭素原子が一つずつ位置し、内部は空洞になっているわけです。

フラーレンという名称は、この形を愛した建築家の バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller, 1895~1983) の名前に基づいています。
同じくバッキー・ボールという別名もあります。
少なくとも私はこんな形をした家に住みたいとは思わないけど(^^;

ただ、フラーレンはその後 C60 以外により原子量の大きいものがいくつも見つかりました。
70、C76、C78、C82、C84 などです。
60 はサッカーボール型ですが、C70 はラグビーボール型をしています。
他はもっと細長くなります。
また、C60 は凸多面体ですが、それ以外のフラーレンは凸多面体ではありません。
これらはいずれも5角形と6角形のみからなる多面体構造をとっています。
有機化学では5員環、6員環というようです。

「5角形と6角形のみから構成される多面体については、凸多面体であってもなくても、5角形の面の数は常に12個となり他の面はすべて6角形となる」ことが数学的に証明されており、もちろん実際のフラーレンもそういう構造となっています。
これはオイラーの定理を前提とすれば中学生でも理解できる証明なので、ご希望があれば掲載します。

といったんは書いたのですが、その後すぐ証明に関する次の記事を書きました。

フラーレンの5角形の面は必ず12枚 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)


なお、フラーレンについて実験的に確認されたところでは、5角形同士は隣り合わないということです。

 

多面体の連載など一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12598605490.html