友人から仕入れた話ですが、昨日その友人から電話が来た。
「おれの話を随分翻案しているじゃないか。おれの名前を入れてないから勘弁しておくが」
というものだった。ご免なさい。…今回は、更に翻案部分が上昇するかも・・・
親はびっくりして、
「河童だと? それも手水に入り込んで、おしっこをしている娘の大事なところを・・・」
娘は急いで、
「いいえ、大事なところは無事でございます。触られたのはお尻…尻っぺたです」
と抗議をしたとかしないとか。
怒り心頭に達した両親は、早速菩提寺の和尚に相談しました。
「ふむふむ…」
眼をつむり、…時々は薄目をあけ、うつむいている娘の横顔をチラチラ見ながら聞いていた和尚、
「嫁入り前の娘だ。尻を撫でられたくらいで、まだよかった」
そして、長い顎髭をなでながら身を乗り出し、
「腕を切り取られた河童は直ぐ見つかる。第一泳ぎに困っているはずだからな」
早速荒川に行き、顔見知りの河童に問うてみようと言います。
付き合いの広い和尚は河童にも知り合いがいたのでした。
娘を連れ立って、風呂敷に包んだ河童の腕を小脇に抱えた和尚と、
親達は荒川の岸辺に立ちました。
和尚は大きな声で、
「屁の河童ッ!」と叫びました。
すると、岸辺の葦がザワザワとしたかと思うと、
皿を頭にのせ、濃い緑色をした河童が、ニュ~ッと顔をのぞかせました。
和尚は、
「やあ、川の民よ、元気でござったか」
と声をかけました。
そしておもむろに懐から胡瓜を出して、
「朝摘み胡瓜じゃ。もう年だから、ゆっくり噛んで食ってくれ」
といい、
「実は、かくかく然々でな、この娘が健気にも切り取った腕を持って来た」
風呂敷をひろげて、それを見せると、河童は直ぐ合点が行った様子で、
「上甲河童の腕だ」
と言い、頭の皿に溜まった水を指先につけ、
パチンッ(例の亡きPマキ氏の“指パッチン”に近い)と指をはじくと、
水面を何かが走り、程なく、担架に横たわる河童を連れてきたのです。
「あッ、この顔・・・」
娘が言いました。
「わたしが切りつけた時、一瞬ですが見えた顔がこの人です…いいえ、この河童ですわ」
そう言うと、
「あなた、痛かったでしょう? ここに腕を持ってきましたが、くっつけるのに今でも間に合いますか?」
何という優しい娘さんではありませんか。
「あなたのお尻の撫でかたは素晴らしいわ。いつの間にやら、撫でられるのが待ち遠しくなっていたのよ」
和尚も親も慌てました。
「これ娘、何を言う!」
口を塞ごうとしましたが、娘はそれを振り切って話し続けます。
「でもね、あなたは河童、わたしは人の子よ。このまま先に進んでも、恋人にも夫婦にもなれない」
娘の目には涙が浮かんでいました。
「この世に生きとし生けるもの、全ての命はひとつです。それを人間だ、カッパだと分け隔て、
愛しいと思っても、恋をすることも、夫婦にもなれない。これはとっても悲しいことです。
でも神様が、そのようにお決めになったのでしたら、それに従うほかはございませんわ。
上甲河童さん、あなたにお尻を撫でられて、わたしきは幸せでしたわ。でもね、あのように
して撫でられたい河童の女は沢山いるはずよ。だから、あなたのあのテクニックを河童の
女性に使うべきだわ。でも、それも一人きり!…いいこと? これをお約束して下さらない?」
これには上甲河童も感動したのでしょう。
「お嬢様・・・こんなに嬉しいお許しのお言葉を頂けるとは。思いもよりませんでした。
これからは心を入れ変え、河童の男として、しっかりしたアイデンティティ確立につとめます。
またこのご恩は生涯忘れるものではございません」
と、担架から起き上がり、
片手をついて、深々とお辞儀をするのでした。
「じゃァ、バイバイ!」
娘は何事もなかったかのように帰って行きます。
「はい、ありがとうございました!」
後姿を眺めながら、手水の中から手を伸ばし触った、白桃のようなお尻が浮かんでくるのを
必至に堪えながら、水中に顔を沈めるのでした。
ブクブク、ブクブク・・・・
さて、
その日の夜、
娘は何事もなかったかのように、
「お父さま、お母さま、おやすみ・・・」
の挨拶をして手水に入り、
相も変らぬ元気な音を立てて、
「シャ~ッ!」
と、お小用を済ませるのでした。
ある日のことでございます。
習い事に行った娘は、友人との話に花が咲き、
ついつい遅くなったために、
友達の家の使用人に送ってもらうことになりました。
「お嬢様、お気をつけてくださいまし」
足元を提灯で照らしてもらい、そろりそろりと歩いておりますと、
突然、使用人の男が抱きついてきたのです。
「これ、なにをする!」
出そうとした声は、男の手で口をふさがれて、うめき声にしかなりません。
力任せに押し倒され、裾を掻き分けた男は、無理やり押し挿ろうとします。
もがきにもがいて抵抗しますが、非力な娘の力ではどうにもなりません。
…と、その時、
「うッ!」とひと唸りしたかと思うと、男はのけぞるように後に倒れました。
「いまだ!」
娘は必至で、家へ走り帰りました。
「お父さま、お母さま・・・」
今さっき、かくかく然々で・・・と話す娘の顔を見ている親が、
「鏡を見てご覧」
…といいます。
出された鏡を見た娘は驚きました。
夢中で走ってきたので、痛さも感じなかったのですが、
顔には大きな傷がついていて、血が滴り落ちていたのです。
「うわ~ッ!」
…そうです。口元から耳にかけて、大きな傷が走り、殴られたような痕もついています。
なんとも言いようのない、凄まじい形相でした。
数日が経ちました。
包帯にグルグルまきにされた顔ですが、治療の限りを尽くして、
今日が包帯を取る日なのです。
「痛くはございませんか?」
お医者がやってきて、おもむろに外していきます。
取り終わって、鏡をみた娘は、絶望の悲鳴を上げました。
「うわ~ッ!」
その声は、十里四方に響きわったったと言われています。
無残なものでした。
口の端は引きつり、眼は半ば塞がり、閉じようにも閉まらない口からは、
よだれが垂れていました。
明るくて朗らかで、鈴を転がしたような声もきかれなくなりました。
娘は、表に出ることもなく、部屋からも滅多に出てきません。
庄屋の家には、毎日重苦しいものが漂っていました。
そのような、或る日のことでございます・・・
≪続く≫
