山形県米沢市の白布を源にして、
人面県を蛇行して流れる川が最上川である。
“五月雨を 集めてはやし 最上川”
その流域に、僕のふるさと、天童市がある。
子どもの頃に母の話の中に、
最上川の河童の話を聞いたことがある。
あまりにも小さい頃なので、“猫えんざら
(いなければ)よがんべ(よかんべ)”
という話と攪拌されてしまった部分があるのだが、
少し整理してみた。
最上川のほどりの村さ、庄屋さんがえだど。
⇒最上川のほとりの村に庄屋さんがあった。
ほのうづさ、うづぐすい 娘がえだど。
⇒その家に、きれいな娘がいたそうだ。
あるどぎがら、なしてだが
⇒ある時から、どうしてか、
顔えろ青ぐなてよ ままもかねす
⇒顔色は青くなり ご飯も食べないし、
がんしょなくてよ 朝も おぎらねんだど
⇒元気が無くて 朝も おきられないのだって。
なして こだいなだ…て聞いてみだど
⇒どうして こんななの…と聞いてみたって。
すっど ただ かぶりふるだげだってなだ
⇒すると ただ 首を横に振るだけでした。
「すかだねェ祈祷ス頼むがな」はて、
⇒「仕方ないから 祈祷たもうか」と、
なったてんだな
⇒なったというのです。
ほすて、巫女の話スによるど、
⇒そうして巫女の話によると、
偉いボサマばがら 呪文となえでもらえ
⇒偉い和尚さんを頼んで呪文を唱えてもらえ
<疲れたので普通に>
というこだった。
早速お寺に行き、「かぐかぐ すかずか」と話したそうだ。
「河童が人さまの娘を欲しがるとは身の程知らず!」
カンカンに怒った和尚と、親父が河童の住むという川に向かった。
すると・・・
「Oh!」
娘が若い男と川べりに座って、親しげに語りあっているではないか!
『こら~ッ 河童奴、こともあろうに、人間の女に惚れるとは!』
『…懲らすめてけるッ!」
と、親父は持っていた鎌を思い切り振りかざした。
和やかに、しっとりした話をしていた河童は驚いたのなんの、
慌てて川に飛び込んだ。
ドボ~ン!
偉い和尚さんは、「こりゃ河童、お前は所詮河童だ。
河童は河童の女子が一番だ。
人間の女子に惚れるとはもってのほか!
すぐに娘にかけた術(じゅつ)ば解けッ!」
と言うなり、
『おん あぼきゃべ ろしゃの まかぼだら・・・」
ありがたいお経を唱え始めた。
そしておもむろに、
『さもなくば、明日のうちに、この川の水みんな堰き止めて、
お前等の皿ば干上がらせるぞッ」と、大きな声で言ったど。
そして翌日、親父と和尚が川に行ってみると、
『Oh!』
改めてビックリ。
丁寧な字で、
『庄屋様、和尚様、申すわあげありません。
二度と再び人様にご迷惑をかけません』
と書かれた、詫び証文が置いてあったということです。
河童が人を騙す話は少ないようです。
山形のこの話は、珍しいように、
大抵は河童のほうが“お人よし”ですし、
人に非難されると、素直に、すぐ謝りを入れ、
お詫びに銭を持ってきたりします。
そして義理堅く、何年でも、
命の続く限り贈り物や恩返しを絶やしません。
愛すべき性格を持ち、
静かに生きようとしていながら、
ついつい人間社会の喧騒や、
殺伐とした争いに巻き込まれ、
犠牲になった河童も多くいたのです。
それに、河童には驚くべき秘密が隠されていました。
コレは大発見です。
<続く>