#413 【役所萌え】 ~トロンと惚れます~ 春日部市役所 | 関東土木保安協会

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先日、春日部市役所に行ってきました。
地図上で見た際になんだか庁舎が湾曲しているなと思っていましたが、実際見てビックリです!湾曲しています!(当たり前です)
しかも超かっこいいです!展望台のようなものもついてますし!
というわけでそのときの写真を感動と共に載せましょう。




春日部市役所は鉄筋コンクリート、5階建ての建物です。
1970年4月に完成しました。
先日の戸田市役所といい、また1970年ですよ。
この年の役所トレンドはこんなイメージなのでしょうか。花の70年組などと特集したくなります。

庁舎はこの通り、コンサートホールのように湾曲し、美しいカーブを描いています。
エントランスには、これまた飛翔するかのような大きな庇と、大きな「春日部市役所」の文字。
もうかっこよさ、たまりません。

▲春日部市役所外観

カーブする建造物なんて最近見ましたっけ。
いやぁ、よく見るところでもアーチダムとかになっちゃうんですよ。
ダム以外で湾曲したものを見て興奮する事あるんだ、と自分にも驚きです。

▲横から見ると美しいアーチ型がよくわかる

なんてったって、戸田市役所を思い起こさせるスロープも高ポイントですよ。
センターの階段、並ぶ掲揚旗、そして両サイドの緩やかなスロープ、これはどこからみてもお役所感満点です!

各フロアには、建物正面側のガラス面側に廊下が設けられており、斬新かつ採光と眺望も頂ける機能的なデザインです。
この現代でも通用するかっこよさです。

▲正面には「春日部市役所」の文字が毅然と並ぶ

ところで、この形状をどっかで見たことあるなーと思っていましたが、カナダのトロント市庁舎っぽくないでしょうか?
トロント市庁舎は1965年に竣工したので、春日部市役所はそのオマージュでは??と勘ぐってしまいます。→文末リンク参照

もう、この惚れ具合に私の瞳はとろんとして……トロントだけに……句っ句っ句…(逃走)


さて、戻ってきましたよ。
側面をよーく見てみると、なんと反っています。
この建物はアーチ型にして、両側面も内側へ反り込んだデザインなんですね。
タイルも当時感あるものですが、剥がれたりせず、きれいに残っています。
何色あるかわからない、玉虫色のようなタイル達が不思議と似合う、そんな落ち着きと風格を感じます。

▲側面の反りもますます魅力だ

さらに横に回り込むと、また凝った意匠が。
なんですかこれ、円形にくりぬかれたようなデザインです。
とにかく凝っています。どこが設計したのでしょう。

▲上写真の下部にはさらに凝った意匠がされていた

ここまでくれば、と裏手を覗いてみると、期待を裏切らない、またまた凝った意匠です。
このデザインは、戸田市役所にも通じるものがありますね。
ひょっとして同じ設計事務所なのでしょうか。

▲裏手も凝った意匠でまとめられていた

初見で真っ先に目が行き気になっていたのですが、庁舎に展望台のような部分があります。
ここ、何なのでしょう。

▲建物正面上部の展望台らしきスペース

ここ最近何ヵ所か似たような展望台を見るうちに、この頃活発に市役所や役場へ展望台や展望エリアを設ける手法が行われていたというトレンドを理解し初めたのですが、ここは果たして。
建物は5階建て、エレベーターでは5階の直上が屋上階であることから、ここはペントハウスのような扱いで展望台エリアを設けたのでしょうか。
埋め込みの時計と相まって、かなーりいい雰囲気ですよぉー。
なお、市役所の方に伺ったところ、展望台に立ち入ることはできないそうです。非常に残念。

▲定礎

ここで、浮かれている私に大きなゲンコツがっ。
なんと、この市役所は耐震性の問題を初めとする老朽化から、移転・解体が決定しています。
市の発表では、庁舎は東日本大震災において被災し、応急補強工事を行っているものの、現状では災害拠点としての耐震性能は不十分とされています。
このため、市は現在の位置から若干東側に位置する旧市立病院を新庁舎予定地として現在計画を進めています。
残念ながら、安全とサービスとの引き換えにこの市庁舎は姿を消す予定です。

▲建物はもうボロボロ、随所に経年を感じさせる

このような、当時の時代背景を明確に表す地方自治体の施設を守ろうとしても、それに見合う価値など現在ではないに等しいでしょう。
例えば100年前の庁舎です、などといえば、煉瓦造りで、貴重で、など保存する意見が出てくるでしょう。近代、それも昭和の建造物などは、どんなに優れたものでも、デザインばかりが表面に出てきてしまい、中身の貴重さで保存の主張を促すものが少ないからでしょうか。

真正面に向き合うだけで、スーツ姿のサラリーマンや、子供を従えた主婦、そして老若男女の当時の面々が目の前に浮かんでくる、このようなビルを見届けられるのは、我々が最後の世代かもしれません。




春日部市役所。
彼は今、時代遅れながら往年の重厚な空気を纏い、最期の輝きを放ちながら余命を全うしているのでした。



〈参考〉
・春日部市公式 : 本庁舎整備事業

・春日部市庁舎 : 収蔵庫・壱號館

・土木学会附属土木図書館 デジタルアーカイブス : トロント市庁舎